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Re: notitle 46
[No.171] 2023/05/03 (Wed) 18:00
Re: notitle 46
「……は?お前ら、いま何て言った?」
「クシマ ツキノと、会って話をした。彼女は、お前の本当のことを知っていた。そう、言ったよ」
彼女の部屋で過ごしたあの日から、ニヶ月は過ぎているのに一度も会えていない。
今まで仕事だったり体調が悪かったりで一ヶ月会えないこともあった。
でも今回は違う。
明らかに避けられているような、そんな気がする。
心当たりがないわけではない。
あの日に彼女の住む部屋で、彼女と何があったかは誰にも話していない。
しばらく挙動不審だった俺に、彼女との間に何かがあっただろうことを勘付いた友人三人は、しつこく何があったのか聞いてきたが、誰にも言いたくなかった。
あれは、彼女はどういうつもりでキスをして抱きついてきたのかを、会って聞いて、話をしなければ。
あれは、友人に対してすることではないと、思ったから。
あの日に話せば良かったのに、あのあとなんとなく気まずくなってしまって、彼女にも何事もなかったかのように振る舞われてしまったから、何も聞けなかった。
自分からまさかのアクションを起こしてしまったことに、自分で自分にびっくりしていたから、やはり動揺していたのは確かで、でも彼女も返してくれたのに平然としていたから、あのことは俺ほど重要に思っているわけでもないのかとか、ぐるぐるぐるぐると、人生で初めてのことに挙動まで不審になっていたことは確かだ。
彼女は、嫌がっていなかった。
これは、俺の願望ではないはず。
それだけが救いで、でもそれならなぜこんなに会うのを避けるようなことをされているのか、誰かを好きになどなったことのなかった俺は簡単に解決策など思い浮かぶわけもなく、ただひたすらに同じところをぐるぐるぐるぐると回って考えて、また一人悩んでいた。
それでも容赦なく仕事は舞い込んでくるし、それこそ仕事をしている間はクシマのことを考える余裕はなかった。
しかし当然ながら仕事をしていない時間は、ほぼクシマのことばかり。
西田も俺が仕事だけは完璧に熟しているから何も言わないではいるが、それ以外の時間はやはり挙動不審だったらしく、何度か何があったのか聞かれた。しかし西田になぞ聞かれたところで話す理由は微塵もないし、俺から話を聞いたとしても面白がるだけだろうから無視。
車で移動する度に、助手席から振り返ってこちらの様子を見てくるのがウザくて、一振り返り毎に五回は助手席を後ろから蹴飛ばしてやる。
何度断られても彼女にまた会いたかった。
もう、ここまでくると重症だ。
なんだこれは。
それでも時間は誰にも平等に流れるし、他に気が紛れることもなく、出張に次ぐ出張。
無駄だ。もう俺がわざわざ出張で行かなくても良いように、システムを見直し再構築をして、体制を作り直す。
ババアの作った、旧態依然のままな仕組みを変えて、トップはそれぞれに任せる。今はネット環境さえ揃えばいくらでもやり取りは出来るし、いつまでも俺一人でやっているのもリスクが高い。
俺がいなくても、それぞれで判断して実行し責任を持たせる仕組みにする。
それも、あと少し。
この時もヨーロッパへと出張に行っていて、そしてイタリアにも立ち寄ったから、そういえばクシマは前に本屋で読んでいた本に載っていたレモンチェッロが可愛いと、イタリアに行くことがあったらお土産に買ってきてやると約束したことを思い出して購入。
またこれを口実に会いたいとメールをしようと、また会えないと言われたらどうしようか、でも会いたいと思う気持ちが上回って、帰国してからも暇さえあればスマホを手に取りメールの送信画面を開いて睨んでいた、そんな時。
久しぶりに類と総二郎とあきらの三人が揃って俺の家に来て、何やら神妙な顔をしているから何事かと思えば、それを聞いた時すぐには何を言われたのか理解出来なくて、もう一度聞き返しても、やはり聞き間違えでも何でもなくて、
「なんで、」
「お前に何も言わずに、しかも日本にいない時に勝手なことをして、悪かった。お前が、彼女に会えなくて悩んでるのが分かってたから、俺たちでどうにかしてやれるなら、助けてやりたいと思ったんだ」
俺はこいつらに、クシマが大河原財閥に勤めている話もしていた。
それで滋に頼んで彼女を呼び出してもらって話を聞いたら、彼女はとんでもない勘違いをしていて、そして彼女の口から出たという「大財閥の御曹司」という言葉。
こいつらも友人として俺の為を思ってしたことだから責められない。
二ヶ月経っても彼女と会う約束を取り付けらない俺に、痺れを切らしたのだろう。
結局、彼女が何か大きな勘違いをしているようだから説明しようにも、滋に個室を追い出されて、それ以上彼女と話が出来なかった。
それがこいつらの話だった。
知っていた?
クシマは、俺のことを、知っていたというのか。
いつから、いつからだ。
あの日にはもう、知っていたのか。
こいつらの言う彼女の勘違いも、本当にとんでもない勘違いで、でも確かに傍から見たらそんな風に見えてしまっても仕方がないような、あまりに居心地の良い彼女との時間と空間に浮かされて、それほどに俺と彼女の関係は危ういものだったことに気が付かなかった。
俺は彼女の名前こそ知らなかったが、クシマのことを多少なりとも知っていた。
類の部下の姉であることや、婚活アプリをしていた理由も知っていて、勤め先も知っている。
それなのに、俺は彼女に自身のことを何も教えなかった。
聞かれなかったからと言えば、そうなのだけれど、彼女自身のことに関して、俺は知り得る状況と環境にあったことに多少なりとも罪悪感を持っていて、それなのに彼女に俺のことを教えるのを躊躇ってしまった。
彼女の前では何者でもなかったはずの俺なのに、フェアではなかった。
いつどこで俺の素性を知ったかなど、どうでもいい。
問題はそこではなくて、彼女が誤解していることを、違うんだと説明しなければならない。
俺を、何も言わない俺を信用して信頼して、俺の話に協力してくれていた彼女。きっと聞きたいこともたくさんあったはずなのに聞かないで、俺を、信じてくれていたのに。
何も言わない、何も聞かない彼女に甘えて、触れられるようになったことに喜んで、クシマを好きになって、浮かれて、
……俺は、馬鹿だ。
今まで俺は、彼女の何を見ていたと言うのか。
彼女を信用して信頼しているなら、俺のことを、俺の素性を明かして話せば良かったのに、今までのことが俺を躊躇わせた。
人は、欲深い生き物だ。
一つ与えれば、調子に乗って次から次へと要求してくる。そして、虎視眈々と隙を狙って蹴落とす算段をしている。
信用出来る人間などいない。
幼い頃からの友人たちだって、いくら気心が知れているとはいえ、仕事が関われば友人という立場を越えて足をすくわれる日が来るかもしれない。
親でさえ、俺を会社の駒の一つとしか見ていない。
誰も、何も、自分自身以外を、信用してはいけない。
俺を守る為には不用意に弱みを握られないようにしなければならない。
唯一は女嫌い。それすらも、強みにして、男色などという噂だって利用してやる。
だから、何者でもない俺は、彼女の隣にいる時だけが救いだった。
彼女の前でだけは、本当の、嘘偽りのない俺だった。
それなのに、彼女の信用と信頼を、おざなりにして、甘えて、
俺は、逃げた。
話すことから逃げた。
大事なら、大切にしたいなら、彼女と一緒に同じ時間を過ごしたいと思ったなら、話さなければいけなかったのだ。
好きになってもらおうと行動するなら、まず始めに話すべきことだった。
それが彼女に対する最大の、誠実だったのに。
彼女は、もうこんな俺とは会ってくれないだろうか。
こんなに不誠実で、隠し事ばかりの俺を、好きになんか、なってくれるわけがない、だろうけど。
それでも、好きになってくれなくても、彼女とおしまいになんかしたくない。
俺が俺である為に俺には彼女が必要で、いつの間にか俺の中で彼女がこんなに大きな存在になっていたことに気付くまでに時間はかかってしまったけど、そのことを今さら、なかったことになんて出来ない。
すぐに彼女に会わなくては。
このままこわがって躊躇っていたら遅きに失する。
俺の素性を知って、態度が変わったから何なんだ。
それは、その勘違いは、俺の持っている物や見た目に対してじゃないだろうから。
クシマと過ごした半年間。
頼まれたら断れないお人好しで、よく笑って、怒って、甘いものと飯が大好きで、ブラックコーヒーが苦手で、部屋の片隅にきれいに並べられたお土産と、ミントタブレットと、小さな手と、何物にも代え難い、あの穏やかな時間。
あれは、お互いどこの誰でも何者でもない二人だけの、あの時間の中では、日常だった。
あの空間と彼女との時間は、俺の憧れであり、夢でもある。
人と時間と責任に追われて生きてきた俺の、唯一の非日常で、二人だけの日常は、他の何をなげうってでも、
一番大切にしたい全て。
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Re: 瑛里様
はじめまして、こんにちは!
コメントありがとうございます。
最近は更新頻度が落ちてしまっているので申し訳ないですが、初期の頃からお読みいただいているようで、大変嬉しく思います。ありがとうございます!
確かに他のつかつくサイト様と比べると類つくサイト様は更新が多いですが、どのお話も面白くて楽しいですよね!でも毎日どこかの類つくか、つかつくか総つくのお話が更新されているので、私も毎日幸せです笑
花より男子展行かれたんですね!
しかもサイン会まで!強運の持ち主様のようで羨ましいです……!
私は残念ながら行くことは出来ませんでしたが、行かれた方のお話を聞けて嬉しいです。
当サイトも神尾先生ありきですので、本当に花より男子という作品に出会えたことに感謝です。
なるべく更新出来るよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします!
コメントありがとうございます。
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しかもサイン会まで!強運の持ち主様のようで羨ましいです……!
私は残念ながら行くことは出来ませんでしたが、行かれた方のお話を聞けて嬉しいです。
当サイトも神尾先生ありきですので、本当に花より男子という作品に出会えたことに感謝です。
なるべく更新出来るよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします!