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「春雷」
[No.165] 2023/04/12 (Wed) 00:15
総つくです。
少し摺れちゃったつくしちゃんと、やや重めな総二郎のお話なので、純なつくしちゃんが好きな方は読むことをお勧めしません。
「春雷」
「『月が綺麗ですね』も、『死んでもいいわ』も、今のあたしには、綺麗、すぎる……」
「……なに、突然」
「どういう恋愛したら、こういう言葉が、出てくるのかなっ、て。……この言葉たちは、愛の最中か、終わりの、どっちかな……」
「……さぁな、どっちだろうなぁ」
「西門さんはさ、いろんな女の人とオツキアイしてるけど、複数現在進行系も含めて、全部、綺麗な愛?」
……それを、お互いに裸のままで、今さっきまでセックスしてた相手にかける言葉か?
自分だってあんなに悶えてイキまくってたくせに、息も整う前にそんなことを相手の男に問いかける女もどうかと思うけど。
荒い息遣いに、情事の後の独特な熱さを帯びた空気と、上気して色付いた肌と、全てが残ったままのピロートークに選ぶ話題のような、でも語られる言葉は冷めきっていて、今までが夢か現か、状況と言葉があまりにもチグハグだった。
「……そんなこと考えながらセックスするなんて余裕じゃん、つくしちゃん?」
「愛と快感は別でしょ」
「俺は、いつでも愛を持ってセックスしてるよ」
牧野にだけは。
それに、今は牧野しかいないなんて、本人には絶対言わないけど。
「はは。例え通りすがりの相手でも、ただの皮膚接触に愛が持てるなんて、大きな愛をお持ちなのね。さすが」
皮膚接触、ね。
確かに間違っちゃいねぇけど、その言葉に愛はないな。
ついでに嫌味も言うなんて、高校生の頃のこいつを知ってる身としては何とも複雑な気持ちになる。
昔と比べたところで何かが変わるわけでもないけれど、牧野がこうなってしまった経緯も知っているから、つい、うっかり昔を思い出してしまって心の中で舌打ちする。
「ほら、身体だけのカンケイ?愛が伴わないから気楽じゃない?わたしはもう、いらないものだからさ。そのあたりは西門さんなら気楽で良いわ」
そう言いながらするりと俺の腕からすり抜けた牧野は、バスローブを羽織ると振り返りもせずバスルームへ行ってしまった。
馬鹿だなぁ。
俺なら後腐れなく、どちらかが別れを告げたらすんなり終わる関係だと思ったんだろう。
なぜ俺が、三十代の半ばを過ぎても結婚しないのか考えもせず。
あの頃のお前も、あれからのお前も、今のお前も、俺は我関せずと、ずっと遠くで見てきたから知っている。
知っているから、いつだって持て余しているのだろう熱を散らしてやれる。
司も類も、愛に素直で真っ直ぐで正直で、盲目だった。
だから、そこを周りに突かれた。
だからこそ、牧野はその愛を信じたのだろう。
結果がどんなに残酷なものだったとしても。
そして、愛が信じられなくなるほどに愛したのだろう。
俺も人のことを言えた義理はないし、今までの行いが牧野の知る愛に値しないことも分かってる。
だからこそ、だ。
全てに疲れたお前は、それでも愛を忘れられないお前は、愛がないと知っていても近くにあった温もりに縋りたくなったお前は、後戻りなど出来ないとも知らずに。
馬鹿だなぁ、牧野。
流れるシャワーの音に俺が入ってきたことに気が付いていないのか、それとも気付いているけど無視されてるか。
牧野は立ったまま頭からシャワーを浴びていた。身体を、髪の毛を洗うわけでもなく、ただ、立っていた。
何を映すわけでもない、伽藍堂で、光も灯さず、虚無すら感じる瞳。
それでいい。
そのまま、何も。
そっと後ろから近付いて、するっと太ももの内側を撫でる。
ぴくっと一瞬反応するけど、いつものことだから抵抗されることはない。
そのまま、するすると太ももの内側を指先でなぞる。薄い茂みをかき分け、双丘をなぞり、襞を擽れば、牧野の口から甘い声が漏れる。
三回ルールなんて、クソくらえだ。
何回も、何百回も、何千回も、お前に注ぎ込んでやる。
そしていつか、知ればいい。
野原に咲く、雑草。
オオバコ、ホトケノザ、カラスノエンドウ、オオイヌノフグリ、ナズナ、スギナ、
そして、つくし。
背中に春の陽射しを浴びながら、あっちこっちと野原のつくしを探して追いかけて、ふと自分の影ではない何かに手元が暗くなる。おや、と空を仰ぎ見れば、鈍色の雲が空を覆い始めていて、遠くに聴こえるは雷鳴。
でもそれは夏の夕立のような激しさはなく、静かに、遠くに鳴り響く。
「I LOVE YOU」を、「月が綺麗ですね」とか、「死んでもいいわ」と表した文豪たちがいる。
牧野の言うように、それがどんな愛の形で、いつの愛を言っているのか、本人以外は知る由はない。
文豪でもなければ、まだまだ偉大な茶人には程遠い俺は、それが本物とか偽物とか語れるほど人生を重ねてきたわけでもない。
でもそれは、人生半ばで掴みきれないそれは、ふわふわと形のないそれを言うならばそれは、静かに忍び寄り、まるで遠くに見えるけれど、存在ははっきりと示すもの。
これから嵐を予感させるようなその重く鈍色をした雲は、その見た目とは裏腹に過ぎるときに僅かな雨と、雷と、たまに雹。
そして轟々と音を立て、全てを巻き込み掻き混ぜ飛ばし運んでしまうような激しい風。
後に残るはまた暖かな陽射しと、地表から立ち上る湿った土の香りと、流れる風にほんの少し混ざった夏の薫り。
雨露の滴る草花の中から、つくしを探して、探して。
そして、愛を怖がるお前は、そこで根を張って動けなくなったお前は、野原で空を見上げるしかないお前は、あの黒い雷雲のように覆い尽くす、その想いを知ればいい。
軽い中身のない見せかけの愛しか見せていない俺の中に、これほどまでに重い愛があることは、俺しか知らない。
二度と愛なんていらないと言うお前を、俺はずっと愛してやる。
見せかけばかりの愛のない世界で生きてきた俺と、あふれる愛に包まれたあとの絶望に堕ちたお前と。
今まで上辺だけの愛を見せて、愛を信じていないと言った俺を信じている牧野。
愛を信じていない俺の、愛を信じていないと思わせているとも知らずに、戯れだけのつもりの男を、お前はこれからも信用していればいい。
そして、だから俺はお前を愛してないと、思っているだろう?
だから、俺の手を取ればいい。
そして、知ればいい。
俺の、愛の重さを。
そして、知ればいい。
俺の愛から逃げることなど出来ないことを。
「月が綺麗ですね」も「死んでもいいわ」も、慎ましくて、綺麗だ。
ましてや「愛してる」だなんて、なんと甘く美しい言葉だろうか。
それが始まりでも、最中でも、終わりでも。
それが、どんな形だとしても。
牧野。
俺は、あいつらみたいに真っ直ぐで綺麗じゃないし、愛してるなんて言葉のように甘くて美しいだろうことも言わない。
重くて、汚くて、ヘドロのように纏わりついて、雁字搦めにして抜け出せないように、甘くもなく美しさの微塵もない、お前の知る今までの愛が、綺麗なキラキラと光り零れる木漏れ日のようなものだと言うのなら、俺は、あの春の嵐だ。
木漏れ日を作る陽を覆うように、不安と、怯えと、少しの恐怖。
時偶その雷雲の隙間から見える光りに絆されて、そこで根を張ったまま、温い空気の中で、零れる光と、季節を運ぶ雨と風を受けていろ。
そして、雑草も、水と、光と、風がないと生きていけないと知ればいい。
愛なんていらないと言うのなら、愛なんてないふりをしてやる。
そして、知ればいい。
なぁ、牧野。
初総つくでした。
設定あるけど弾き飛ばして書きたいとこだけ。
立夏を過ぎる前に出したかったので。
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