All you need is love. 後書き
All you need is love. 後書き
はじめまして、はらぺこ02です。
「All you need is love.」をお読みいただきまして、ありがとうございました。
今回、初めて二次小説というものを書かせていただきました。
半年ほど前にドラマの再放送を見てからハマりまして、なんでつくしは類を選ばないんだ!とネットを漁り、初めて読んだ花男の二次小説は類つくでした。そこから総つく、あきつくと読んで最後につかつくに辿り着き。
分岐考えるの楽しいです。
ハマりすぎて、花男コミックス全巻買いました。ないと話の辻褄が合わなくなりそうなのもありますけれど、純粋に面白くて大好きです。
「All you need is love.」のテーマは、「つくしちゃんは道明寺が大好き」でした。愛こそは全てです。
つくしちゃんが頑張って弁護士になり、コネ無しで道明寺財閥に就職という。
インハウスローヤーという言葉を使いたいがための設定でした。はらぺこ02の知識が浅い為に、ほとんど活かされることのなかった設定でもあります。
実際には多分、新卒では就職出来なさそうです。大体の会社は即戦力になる人材をということで経験者を希望するそうなので。
でも、そこは道明寺財閥。新人から教育してもらいました。
5年も音信不通とか一般的には自然消滅の域ですが、そこは司の愛があってこそのつくしであり、愛されている自信があったはずなのに、一人で考え過ぎて勘違いして落ち込んだり泣いたり。
そして、つくしがいるからこその司は、過去の経験から自分でつくしを守る為に、守られるだけは嫌というつくしを見守りつつ、一人NYで頑張るっていう。
あと、つくしちゃんには10分の9を埋めてもらいました。昔の道明寺は9を足すとか言ってましたね。
要は、密に連絡を取り合って話をしていれば一発解決話です。
だけど、テレビで道明寺を見て自分の失態に気が付いて、実物を見て生声を聞いて涙が止まらなくなり、抱きしめられて素直になる。っていう過程が書きたかったんです。
他にも色々とツッコミどころはあるとは思いますし、もう王道パターンで何番煎じなのくらいな話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
後になって、こことここは纏めて1話分にすれば良かったとか、たくさん反省してました。
お話がダラダラと長くなってしまって、すみません。次のお話では気を付けます。
それと、楓さんも道明寺のお父さんも、基本はらぺこ02の世界ではそこそこ優しいです。そこまで意地悪しません。
シリアスなのも読むのは好きなんですけど、そこまで文才なぞないので書けなさそうです。
そして次もつかつくの予定です。
それではまた。
はらぺこ02
All you need is love. 17(完)
All You need is love. 17(完)
「それにしてもなぁ、5年間も会わず話さずだったのに、再開して3日?で婚姻届提出って。お前ら相変わらず意味分かんねぇな。」首を傾げながら西門さんが言う。
「いや、あの日か、遅くても次の日には役所に提出したと思ってたぞ俺は。」と美作さん。
類に至っては、あの天使のような微笑みで「牧野が幸せで笑っていてくれるなら、何でも良いよ。」なんて言ってくれるから、頬もほんのり赤く染まってしまう。
「おい!類!人の女房を誘惑すんな!」してもいないことで理不尽に類を怒鳴る道明寺。
相変わらずのやり取りに、クスリと笑いが漏れる。
婚姻届を出して初めての週末。
F3が新居に遊びに来てくれていた。
5年間、全く連絡しないで一切の交流がなかったあたしと道明寺。
特に道明寺はその反動がすごくて、無駄に騒がれたくないと会社では他人のフリをさせられていることもあってか、家の中では常にあたしにべったりくっついている。今も無駄に広いリビングの、無駄に大きいソファの上で道明寺に後ろから抱え込まれて座りながら話している状態。
道明寺が話す時以外は、ずっとあたしの首筋に顔を埋めている。みんなの前では恥ずかしいから止めて欲しいんだけど。
「そもそもにだな!類が牧野の家に入り浸ってたのも気に食わねぇ!
テレビ電話する度に、後ろでチョロチョロしやがって!話すことも類のことばっかりで!」
「え〜、俺は関係なくない?
司が勝手に嫉妬しただけだし、お前らがケンカしないでちゃんと話せてれば、ここまで拗れなかった。それだけでしょ?
それに俺は牧野の家族がいる時しか、家には入ってなかったよ。それこそ牧野の家じゃなくて、外で会うなら良かったの?」
ど正論過ぎる。
とにかくあたしは遠距離とか時差とか忙しさを仕方ないと言い訳していたし、道明寺はすぐに怒って電話を切っていた。
類は道明寺に誤解されないようにしてくれていたのに。
「類は一番勉強を教えてくれたもんね。ありがとう、類。」と言えば、
「牧野のありがとうは聞き飽きたよ」なんてニッコリ微笑みながら言ってくれる。
また道明寺が青筋を浮かばせて怒鳴り散らしそうな様子に気が付いた美作さんが、話題を変えてくれた。
「牧野、仕事はどうしたんだ?続けてるのか?」
「うん。仕事はそのまま続けてるよ。いつか一緒に道明寺と仕事をするのが、今のあたしの夢なの。」
あたしの仕事は相変わらず法務部で、牧野姓のまま。
これも道明寺と一悶着あった。
結婚したんだから道明寺を使えと言われたけれど、いくら一緒に働くのが夢でも、今はまだそんなの仕事がやり辛くなるだけ。
せっかく下っ端からコツコツと努力しているのに、急に道明寺姓になったりしたら支社長就任の時に道明寺に声を掛けられ、知り合いかと聞かれた時の様子を思い出して、少し気持ちがどんよりする。きっとあの時以上に根掘り葉掘り色々聞かれて騒がれて、尾ひれに背びれまで付いた噂が横行しそう。
みんな社会人とはいえ、どこにでも女子特有の陰湿なイジメはあるものだ。せっかく他人のふりをしているのに、意味がなくなってしまう。
英徳時代のイジメを思い出し、慣れているつもりでもあんな思いは二度と嫌だと身震いする。
まだまだ仕事も覚え始めたばかりだし、今は静かにお仕事したい。
婚姻届を出してすぐに連れて行かれたのは、某有名宝飾店。
あたしの好きそうな、仕事中でも付けられるシンプルなデザインの指輪を買ってくれた。
以前は石が大きければ良いだろ!みたいな感じだったのに、こうやってあたしの好みを聞いてくれるようになった。
道明寺って実はとても優しい人だ。
そして次に向った先は、一緒に住むために道明寺が買ったマンションのペントハウス。(いつの間に!)
住むのはお邸でも良かったけれど、仕事へ行くのに近くて便利なのはマンションだった。
それに、婚姻届が無事に受理されたと道明寺のお母さんに報告したところ、
次の日には道明寺HDの広報部から正式に「道明寺日本支社長、一般女性と結婚」のニュースがリリースされ、お邸に報道陣が詰め掛けたこともあり、落ち着くまではしばらくマンションで暮らすように指示された。
道明寺はあたしと二人きりになりたいから、報道が落ち着いてもお邸には住まないって言ってるけど。
指輪も付けていけと散々言われたけれど、左ではなく右の薬指に付けることで落ち着いた。
本当はネックレスにして付けたかったけど、あたしだって道明寺とケンカがしたいわけじゃないから。
「そうだ。来週の金曜日だけど、同期の高橋さんと飲み会行ってくるね。」
昨日、高橋さんから「牧野さん、ごめんね〜!今度の合コンだけど、ただの飲み会になったの!」と言われた。
婚姻届を出して引っ越してと忙しくて、すっかり忘れていた合コンの約束。
昨日言われて思い出したけど、さすがに既婚者が合コンに参加するわけにいかない。
それに誰ととは言えなくても、結婚しましたと報告するのも気まずい。だって彼氏がいないと思われてたから合コン誘われたんだし。でも合コンじゃないなら、道明寺にも後ろめたいことは何もない。
せっかく誘ってくれて、あんなに喜んでくれた高橋さんに断りを入れることもしなくて済んだ。
当然、道明寺は「高橋?!男か!」から始まり、
「その飲み会、まさか男がいるんじゃねぇだろうな?!」と凄まれるけど、
「高橋さんは女性の同期だよ〜。それに女子会みたいなものって言われたから、大丈夫だよ。なるべく早く帰ってくるし、だから行っても良いでしょ…?」
あたしに抱きつく道明寺を上目遣いで見て言えば、顔を赤くして「早く帰って来いよ!」と言ってくれた。
「まーきの。そうやって素直にしてる牧野が一番可愛いよ。」類は道明寺が怒るのを分かってて、こういうことを言う。
あたしも、あの5年間は良い教訓になったのだ。
なんでも言えば良いってものでもないけど、自分の気持ちは素直に道明寺に伝えるようにしている。
5年間で言えなかった、寂しいや会いたい、道明寺が好きで好きで大好きなんだってことを。
伝えなかった後悔は二度としたくない。
それを類は見抜いている。聞き飽きたって言われるだろうけど、それでも。
「ありがとう、類。」
仕事帰りに連れ出され婚姻届を提出した翌日は、会社を休むしかなかった。
結婚初夜(!)だと言って、マンションに着いてから一晩中ベッドら出ることができなかったからだ。
あたしは5年ぶりなんだから手加減してよね!って言ったのに、3日ぶりだから心配すんなって言われ。
覚えてないっちゅーの!
結局、足腰立たなくて動けず、体調不良ということで休んだ。
休みを取った翌日、あたしが出社したら、やはり先輩たちに囲まれた。
道明寺があたしを連れ去ったことに関しては、やはり忘れ物があって、それを渡したかったが、どうしても本人確認が必要で連絡先も分からなかった為だったと、かなり無理矢理な説明をした。(事実、忘れ物の下着は本人確認を取って返してもらった!)
さらに、女子会みたいな飲み会に男性がいることが発覚。これはあたしも行くまで知らなかったから、どうしようもない。
あたしには結婚してから密かにBGが付けられていたらしく、そこから道明寺に報告されていた。
急遽NY出張になって迎えに行けない道明寺はF3に電話をしまくり、唯一電話が繋がった類によって、あたしは強制帰宅となった。
道明寺が迎えに来ても困るけど、類もこういう時だけウキウキしながら来るんだから!
「まーきの。お迎え来たよ。早くおうち帰ってご飯食べさせて?」
なんて言ってくれちゃったもんだから、また週明け月曜日のお昼休みに高橋さんと先輩たちに囲まれることになり、なぜF4の花沢類が迎えに来るのかから始まり、そこから芋づる式に話を引き出され。
道明寺の結婚相手があたしだとバレるまで、そう時間はかからなかった。
fin.
All you need is love. 16
All You need is love. 16
「咄嗟にあいつら呼んだんだ。俺が無理矢理書かせたんじゃないって証人になってもらおうと思ってな。それでも酔ってることに変わりはないから、
役所には出してないし、ほら、判子も押してねぇよ。」
本当だ。判子押してないから、このまま出しても受理されない。
そんなことに気が付かないなんて、慌て過ぎでしょあたし。
「ここまで言われたら許すしかないだろ。5年間連絡がなかったことなんて、もうどうでもいい。
このあとは、あいつらを部屋から追い出して、ベッドルームで久しぶりにおまえと、」
「わーーー!!!わかった!わかったから!!」
顔から火が出る。むしろ出てるでしょコレぇ!まさか、こんな姿をみんなに見られてたとは!
「なのに、朝起きたらおまえがいねぇ。起きたらすぐに判子押させて一緒に役所へ出しに行こうと思ってたのにな。
残ってたのはパンツ一枚だ。やっと掴まえたと思ったから油断したぜ。」
もう本当に。
パンツは忘れてよ。てか返して。
「週末の金曜日の夜に無理矢理予定を空けさせたからな、土日は決済書類片付けて、NYとの引継ぎも残ってたりで忙しくてな。
早く役所行って提出してぇのに、おまえに連絡も出来なかった。
月曜日に会社行って挨拶する時も、目が合ったと思ったら、おまえは俯いたっきり全然!俺の顔すら見ようとしねぇし、連絡するっつったのに返事はねぇしで!」
もう出せる言葉は「ごめんね。」しかなくて。
「おい!もうおまえのごめんねは聞き飽きたからいらねぇ!
早く判子押せ!役所行くぞ!」
「いま?!行くの?!判子持ってないよ!」そう言うと道明寺が渡してきたのは牧野の判子。
うわぁ。どこから出てきたの、この判子。
なんなのコイツ。
パンツだのハンコだの、なんでもかんでもポケットにでも入れてるわけ?
用意周到過ぎて、笑うしかない。
「それにしても、よく道明寺のお父さんとお母さんが許してくれたよね?」
「ババァもずっとおまえを調べさせてたんだろ。5年も俺と連絡も取らずに、しかも自力で道明寺HDの法務部に就職決めたんだ。
新卒でインハウスローヤーなんて、かなり厳しい道だ。相当努力しないと無理なのは、ババァが一番分かってるだろ。
親父は一度倒れてからは、一線引いてるからな。ババァが良いって言えば問題ねぇよ。」
もう判子を押さない理由がない。
今ある唯一の後悔は、あの夜の道明寺を覚えていないこと。
でも「道明寺と家族になりたい」と泣きながらあたしが言ったあとの、道明寺の本当に嬉しそうな柔らかな笑顔は、動画に残っている。
自分の痴態を見るのは恥ずかしいけど、あれは誰かに転送してもらおう。
無事に牧野の判子が押された婚姻届を、大事そうに畳んでスーツの内ポケットに入れた道明寺。
「よし!行くぞ!」
あたしと手を繋いだまま部屋を飛び出して、そのまま役所へ行き、無事に婚姻届は受理された。
「おめでとうございます。」と言われた時の道明寺の笑顔は、あたししか知らない。
あたしだけのもの。
All you need is love. 15
All You need is love. 15
婚姻届…。
夫の欄に道明寺の名前。保証人の欄には、道明寺のお母さんとお父さん?!
そして妻の欄には。
あたしの名前が書いてある?!
「ちょっとこれ!有印私文書偽造だよ。
結婚したくないとか今さら言わないけど、いくら道明寺でも、やって良いことと悪いことがあるよ!あたし、こんなの書いてない!」
道明寺はクスクスと笑いが止まらない様子で、いくらなんでもさすがにコレはやり過ぎだと、怒っても良いよねって思ったところで、徐ろにスマホを取り出しスイスイと操作して見せられた画面に映っていたのは、
道明寺ごめんね…とグズグズ泣きながら、婚姻届にサインしているあたしの動画だった。
「なっ、なにこれ?!」驚くあたしに、ニンマリと笑う道明寺。
「相当酔ってたからな、おまえ。
あとで覚えてないなんて言わせるつもりもなかった。すでに婚約報道のことも、5年間連絡がなかったことも話した上で、おまえも納得して自分から進んでサインしたんだぜ。だから一応記念にな、撮ってたんだ。
まさか本当に忘れられてるとは思わなかったけどな。」
「こっ、こんなの無効よ!
泥酔状態での署名は、正常な意思表示とはみなされないもの!いくらサインしている動画があったって、これはあたしの泥酔状態を証明しているから、無効の証拠になるわ!」
まさか、私生活で法律の知識が役立つ日が来るなんて。
こんな、酔って書いたことも覚えていない婚姻届なんて嫌だ!
書くならきちんと、一文字一文字気持ちを込めて書きたい。そう思って言ってるのに、それでも道明寺は笑いを止めない。
有印私文書偽造に婚姻契約の無効の話をしてるんだよ?!なんで笑ってんの?!
「まぁ落ち着けよ。まだ続きもあるし、サインする前の動画もあるぜ。」
そしてサインをしている動画の続きを見せられた。
サインをしたあとに道明寺に抱きついてワンワン泣きながら、
「道明寺好きなの。他の誰とも結婚しないで。あたしと結婚して。」って言ってる動画ともう一つ。
美作さんの声と、西門さん、類に桜子、滋さんに優紀も映っていて、
「スゲー、本当におじさんとおばさんのサインが書いてある。」
「牧野まだ酔ってないか?これで名前ちゃんと書けるか?」
「先輩、本当にサインするんですか?」
「つくし、後悔しない?」
「一度書いて出したら、取り消すの大変だよ?」
「目の前で婚姻届書いてるとこ見るの、滋ちゃん初めて!」
みんなが口々にあたしに話しかけている動画だった。
そして婚姻届をジッと見つめる、あたしの答えは。
「いいの。もう後悔はいっぱいした。これ以上後悔して泣きたくないの。
道明寺は誰にも渡さない!
あたしは道明寺と、家族になるの!その為に、ずっと頑張ってきたの!」
All you need is love. 14
All You need is love. 14
「それで、やっと帰国が決まって久しぶりに牧野にも会えるぞって、あきらたちが何のパーティーだか知らねぇが企画してた。
なんであいつらに計画されないとお前に会えないのか意味分かんないけどな。
それでも西田に無理矢理スケジュール空けさせた。 俺だって5年も連絡してなかったから、正直どんな顔して会えば良いのかと考えた。」
ごめん、道明寺。西田さんもゴメンナサイ!
「あいつら、あきらや総二郎も随分おまえには俺に連絡しろ、会いに行けって言ってたみたいだけどな?」
そうだね、会うたびに言われてた。もう頷くことしか出来ない。
便りがないのは無事な証拠とか言うけれど、いまこの時代電話もあるし、メールだっていくらでも出来るのに。
「だから俺が件の御令嬢と婚約なんてしてないのも、あいつらは知ってる。仕事の都合がほとんどだが、おまえに比べたらまだ連絡は取ってたほうだ。」
ですよね。なんせあたしからお願いして道明寺に連絡させたしね。
ん?婚約してないって知ってた?
「じゃあなんで婚約おめでとうパーティー?」
婚約してないのに、わざわざパーティーを称してまで何がしたかったの?
「あいつらは俺の幼馴染みだから。結局5年も牧野と連絡を取らずにいたことも知ってるからな。
いつまでも連絡取ろうとしないおまえに意地悪でもしたつもりだったんだろ。
まさか話す間もなく泣いて部屋を飛び出すとは思いもしなかったみたいだけどな!」
わははと笑う道明寺。
悔しいと恥ずかしいが混ざって、絶対変な顔になってる。
それにしてもアイツら!
報道が間違ってるって分かってて、そんなことするなんて。
あれであたしは打ちのめされたんだけど!と憤慨してみるけれど、あのパーティーがなければ道明寺とは会えずに、こんな風に話すこともなかったんだろうと思えば、それも瑣末なことに思えてくる。
「これも話したんだけどな。覚えてないか。あとは?他に聞きたいことあるか?」
何よりも一番、肝心なこと聞いてない。
「あんたのお母さんは…?」道明寺はニヤリと笑って、
「ババァな、驚きだぜ?4年の約束をまさかババァが覚えてるとも思わなくてな。」
ある日呼び出されて、
「あなたはいつまでもNYで何をしているんですか?彼女はしっかりと自分の力で立っているのに、約束の年になっても迎えにも行かずぼんやりと。なんの意地を張っているのか知りませんけれど、早くしないと逃げられますよ。」と言われた。
そして渡された二枚の紙。
一枚は日本支社長就任の辞令。
「牧野。おまえさ、本当にあの夜のこと何もかも覚えてないのか?」
何回聞かれても覚えてないものは覚えていない。
思い出せてたらこんなに悩まないし、泣いてない。
首を横に振ると、道明寺はスーツの上着の内ポケットから一枚の紙を出し、広げて見せられたそれは。
婚姻届。
All you need is love. 13
All You need is love. 13
「俺も話していいか?」道明寺があたしを抱きしめたまま聞いてくる。
昔は構わず自分が話したい時に話してたのに、ちゃんと聞いてくるところも5年前と変わってしまったんだと、その知ることの出来なかった変化に泣きたくなってくる。
無言で頷いたのが分かったのか、道明寺が話し始めた。
「あのな、その話はあの日5年振りに会って、突然おまえが泣いて部屋を飛び出したあとに聞いてる。」
もう何回目の、えっ?だよね。
「あたし、いつ話したの…?」
聞いてみれば、少し呆れた顔をしつつも、やはり優しい顔で道明寺は話す。
「おまえが泣いて飛び出したあと、すぐに追いかけたんだよ。ホテルを出る手前で捕まえたけど、走ったからか酔いが回ったんだろうな。顔色も良くねぇし、声をかけてもまともに返事もしないでずっと泣いててよ、」
恥ずかしい。今までお酒で失敗しないように気を付けてたのに、よりによって再開したあの日に初めての失敗。
「とりあえず落ち着かせようと、あいつらがどんちゃん騒ぎしてるのとは別の部屋に連れてったんだよ。そうしたら部屋に入るなり、ごめん、ごめんねって謝るばっかりでよ。」
思い出してるのか、クスクスと笑いながら話す道明寺。
「こっちが黙ってたら、おまえがな。あたし以外の誰とも結婚なんかしないでって言い始めてよ。最初は何のことかさっぱり分かんなかったぜ。おまえ以外の誰とも結婚も婚約すらした覚えはないんだからな。」
「でも、経済紙の一面に出てたよ。ゴシップ誌なんかじゃなくて。」
「そうだな。確かに掲載されたが、あれは誤報だ。俺の婚約者だなんて報道された御令嬢の父親が経営する会社と、契約するのに少し揉めててな。どうしてもその会社の技術がほしかったんだが、それを足元につけ込んできて条件の一つとして婚約をなんて話も出たのは本当だ。」
道明寺がいるのは、そういう婚姻関係を結ぶことが条件になるような世界なのだ。今までも、そういう話はあったんだろうけど、あたしが道明寺から直接聞かされることはなかった。
「まぁ話として出ただけで、んな契約するわけねぇ。そんなことで一々婚約してたら俺が何人いたって足んねぇよ。実際、本社でも婚約とかそんなニュースはリリースされてないしな。」
確かに支社長就任しか本社からはリリースされてなかった。
「ただ、今回それが報道として出たのは支社長就任と、それに伴う帰国とで情報が錯綜したんだろうが、契約前に嘘でも婚約の情報が漏れたことは問題だ。調査したら道明寺HDからじゃなく、相手側からリークされてた。まぁ大方、どさくさに紛れて報道でも出して既成事実でも作ろうとしたのかもしんねぇけどな。」その時のことを思い出してるのか、道明寺が苦い顔をしていた。
「契約途中だったからな、わざわざ否定コメント出して相手の機嫌を損ねて、契約破棄とまではいかないだろうが、こっちに不利な契約をする訳にはいかない。こっちも技術は欲しいが、相手も取引先の一つに道明寺財閥があるってのは一番のメリットだろ。契約前とはいえ、嘘の情報を流したってことは信用問題にも繋がる。まぁ結果的にかなりこっちに有利な契約してやったぜ。」
今の道明寺は得意顔で話す。テレビや新聞で見る道明寺は、いつもポーカーフェイスでクールなイメージだ。こんなに表情が変わる道明寺を、ずっと隣りで見ていられたら幸せだなと思う。
「この話も、あの夜にしたんだぜ。まさか始めから全部覚えてないとは思わなかったが。」
今度は真面目な顔をして話す道明寺に見惚れていると、チュッと軽くキスをされた。そしてまた続きを話してくれた。
「あの5年前の時は、おまえから連絡がくることもないし、忙しい合間を縫って久しぶりに話せたと思ったら類のことばっかりで。誰が好きな女の口から他の男の話なんか聞きたいかよ。」
確かにごもっともで。あたしだって道明寺が他の女の話ばかりしてたら嫌だ。
「大学に仕事に、誰の為にやってんだって、めちゃくちゃ腹が立った。いつも俺から連絡するばかりなのも気になってた。だから、おまえから連絡が来るまで待つことにしたんだが、まさか5年も連絡が途絶えるとは思わなかったけどな。」
もう何回ごめんなさいを言っても足りない気がしてきた。本当にどうかしてたとしか思えない。
「連絡がない間も、おまえのことは調べさせてたし、あきらたちも事細かにお前のことを知らせてくるしよ。勉強も就活も就職も頑張ってたのを知ってる。連絡こそないものの、きっと俺の為だろうって。おまえは集中すると周りが見えなくなるからな。」
道明寺は、あたしを見てくれてた。連絡がなくても、理解ってくれてた。本当にあたしはバカだ。美作さんたちも普段はふざけてあたしを揶揄ってばかりだけど、きっととても心配してくれてたんだろう。
「俺もお前に負けないようにと我武者羅にやってきた。でもここまで連絡がないと俺も意地になってきて、絶対連絡なんてしてやるかって思った。」
「約束の4年だって覚えてた。でもおまえからは何の連絡もなかった。どうして迎えに来ないんだ!って文句の一つでも言ってくれれば、すぐに会いに行くつもりだったんだけどな。」
そういうことだ。
恋愛は2人でするものなのに、あたしはいつまでも受け身でしかなかった。でも5年間連絡がなくても、こうやって会って話が出来るのは、あたしも道明寺もお互いを想う気持ちが切れなかった、ただそれだけなのだろう。
「理解ってたつもりだった。けど、あまりに連絡がないもんだから、多少は不安になった。俺の為に頑張ってるんだろうなんて、俺の主観でしかない。直接おまえから話を聞いたわけじゃないからな。日本とNYで距離も時差も、連絡なしじゃ何も埋められない。もしかしたら、俺の知らないところで他に男が出来て、いつの間にか俺の為じゃなく、そいつとの将来を見てるんじゃないかって。」
知らなかったよ。道明寺も不安になることあるんだ。
しかもそれがあたしのことでだなんて。
「まぁ、もし本当にそんな男がいたらブッ殺すけどな!」
こわっ!
All you need is love. 12
All You need is love. 12
エレベーターを降りて部屋に入るなり、また道明寺に抱きしめられて、噛み付くようなキスをされた。
道明寺とキスをするのが好きだったと思い出す。このまま流されそうになるけど、まずはきちんと話さないと。
そう思うのに、いつまでもキスが終わらなくて、角度を変える度に深くなっていく。だんだん息が苦しくなってきて堪らず道明寺の背中を叩く。
「なんだよ!もっとおまえを堪能させろ、こんなんじゃ足りねぇよ!」
「だっ、だって、話は終わってない、でしょ!」
やっと離れた唇に、ハァハァしながら訴えれば、これ以上何を話すのかみたいな顔であたしを見てくる。そして、
「牧野、おまえ5年振りに会ってすっかりきれいになったかと思ったのに、泣いた顔は相変わらずブスだな。」
は?なに?なんだって?
まさか5年振りに会った好きな男にキスをされたあと、余韻に浸るどころかブスなんて言われるとは思わないよね。
でもここは冷静に。このあと話をするんだから。昔のあたしなら言い返してた気もするけど、あたしだってもう社会人だ。いま道明寺と喧嘩がしたいわけでもない。
「…ちょっとお化粧直させて。」
バスルームに入って鏡を見れば、確かにブスだわ。
随分泣いてしまったから目も少し腫れてるし、アイメイクはほとんど落ちている。ファンデーションも落ちて鼻もテカってるし、口紅もかすれてる。確かにこれはひどい。急いで見られる程度に直して部屋に戻れば、ソファに座っている道明寺と目が会った。
どこに座ろうかと思案していると、立ち上がった道明寺に「なんか飲むか?」と聞かれてミネラルウォーターをお願いした。先日の失態を思い出すと、お酒は飲む気にはなれなかった。
ミネラルウォーターのボトルを持ち、あたしの手を取ってまたソファに戻った道明寺の隣に、繋いだ手はそのままに少し間を空けてあたしも腰を下ろす。
「それで、おまえは俺に何を聞きたい?」
そう道明寺に切り出される。
「まずは、あたしの話をしていい?」そう言うと先を促されて、あたしは話し始めた。
「5年も連絡しなくて、ごめんなさい。あたし、自分のことばかり考えてた。道明寺と一緒にいたくて、いろんなこと頑張ってたのに、いつの間にか道明寺が見えなくなってたことに気が付いてなかったの。」道明寺は返事もなく黙ってるから、そのまま話を続けた。
「5年前のあの電話の時もそう。類が理由じゃないのよね。あたしがあんたを蔑ろにしちゃってた。時差や忙しいを理由に、あたしから道明寺に連絡しようとしなかった。あんたは、あたしより忙しいだろうからなんて言い訳もして。」
道明寺はあたしを見つめたまま、静かに話を聞いてくれていた。いつだってそう。道明寺は、いつでもあたしの話は聞いてくれていたのに。あたしが道明寺に話をしなかったのだ。
「ちょっと前にテレビでね、あんたがNYで歩いてるところをインタビューされてるのを見たの。そしたらね、途中であんたに電話がかかってきたみたいで。電話で話し始めたのを見た時、気が付いたの。」
「バカだよね、本当に初めてそこで気が付いたの。あたしから道明寺に連絡したことなかったって。」
「それで?」道明寺は優しい顔のまま、あたしを見つめて話を促す。
「そのあとに帰国と婚約の報道があったの。帰国することも知らなかったし、何より4年の約束もなかったことになってたでしょ?その報道のあとに美作さんたちが支社長就任と帰国と婚約お祝いのパーティーだなんて言うし、あの人たちが噂で動くなんてありえないじゃない?だから、帰国はともかく…婚約も、道明寺本人から聞いて、本当なんだって…。」
あれだけ泣いたのに、また泣きそう。あたしの涙腺、絶対壊れてる。
「5年も連絡してこない彼女、のことなんて忘れられて、結婚したいと思える人が、道明寺に出来てしまったんだって。でも婚約したなら、無理にでも笑って、…お、おめでとうって言わないとって。だって好きな人が、幸せになろうとしてるのに、昔の女が、…泣いて嫌だなんて、言えないもん…」
泣きそうなのを堪えてたら、言葉が詰まってしまう。
もうどうしようもないくらい道明寺が好きだなんて、ここまでこないと分からない自分に一番腹が立つ。
「なのに、あんたは、会社で普通に話しかけてくるし。やっぱりあたしのことなんて、過去になったんだって、だから…、」
「バカか牧野は。相変わらず一人でグチャグチャ悩んでんのな。」そう笑いながら道明寺は、ソファに座る2人の隙間をあっという間に埋めて、またあたしを抱きしめた。
All you need is love. 11
All You need is love. 11
突然、道明寺に抱きしめられて、我慢してた涙がポロリとこぼれたのをきっかけに、やっぱり涙が止まらなくなって。
あんなに泣かない泣かないって呪文を唱えるように自分に言い聞かせて我慢してたのに。
そうだった。なんで忘れてしまっていたんだろう、この香り。
道明寺の、香りだ。
5年という歳月は、香りを忘れさせるには十分な時間だった。姿形は経済紙やテレビを見れば分かるけど、香りだけは伝わらない。
想い出したらどうしようもなくなって、道明寺の背中に腕をまわしてしがみついて、ワンワン泣いてしまった。
道明寺が好きで好きで大好きで。ずっと一緒にいたくて。
ただそれだけだったのに、いつの間にか手放したのはあたし。
なのに、好きでいることをやめられなくて、会って抱きしめられれば縋ってしまった。
なかなか泣きやまないあたしの背中を優しくトントンしてくれる道明寺に、増々涙があふれてしまう。
優しくしないで。
別れたくなかった。守られるだけじゃなく、自分の力で隣に立って。
道明寺と家族になって、あのただ広いだけのお邸の中を道明寺と一緒に笑顔でいっぱいにしたかった。
あたしが、あんたを幸せにしたかったのに。
そう未練がましく言いたくなってしまうから。
「一つ言っておくけどな、」泣きやまないあたしに道明寺が話しかける。
もう何も言わないでよ。これ以上みっともない姿を晒して、サヨナラしたくないのに。
「俺はおまえ以外の誰とも婚約してないし、5年連絡しなかったからって別れた覚えもないぞ。」
「二つ言ってる…。」思わずツッコんでしまったけど、なんだって?
誰とも婚約してない?あたしとも別れてない…?
「どういうこと…?」道明寺の顔を見てみれば、とても優しい顔をしてあたしを見ていた。
あたしの好きな、道明寺の優しい顔。
「おまえ、どんだけ俺のこと好きなの?俺ばっかりおまえのこと好きだと思ってたぜ。いつの間に10分の9が埋まってたのか気が付かなかったな。」
そんなことを言われて恥ずかしくなって、また道明寺の胸に顔を埋める。今度はちゃんと答えも合ってるし。
道明寺の着ている上質なサラサラとしたワイシャツが、あたしの涙とお化粧でグチャグチャになってる。ひとしきり泣いて少し冷静になったのか、そんなことが気になった。
いつの間にか車は停まっていて、メープルホテルの地下駐車場にいた。ここにはスウィートルーム直通のエレベーターがある。
いつまでも車に乗ってても運転手さんだって困るだろうし、とにかく落ち着いてもう一度きちんと話さなければいけない。
あたしの記憶がないところも含めて。
リムジンから降りて、道明寺に手を引かれるまま後を付いていった。
All you need is love. 10
All you need is love. 10
あの日、帰る時に見つからなかった、あたしの下着!
パンツの偉大さを、下着1枚であんなにも安心出来るものなのだと初めて知ったあの日。
誰に知られるわけでもないけれど、下着なしで歩く心許無さは未だかつて体験したことのない羞恥心を、あたしに与えた。
「かっ、返して!それ、あたしの…!」
慌てて下着を取ろうとするけど、道明寺はニヤニヤしたまま、またズボンのポケットに入れてしまった。なんでまたポケットに戻すのよ!あたしに返してよ!
「おまえ、あの夜のこと覚えてないのか。そうかそうか。どこからどこまで覚えてないのか知らねぇが、道理で会話がおかしいわけだ。」
記憶がないということの、なんと不安なことか。あたしは一体何を言って、何をした?
そもそも、何で道明寺と一夜を過ごすことになったのか。
もうあたしの下着を道明寺が持ってるってことは、あの夜の相手は道明寺で確定だ。見知らぬ誰かじゃなくてマジで安心したけど、だけど!貞操義務違反だからっ!
「これ、いつ返そうかと思ってたが、土日は忙しくて連絡出来なくてな。挨拶まわりの時に会えると思ったが、みんなの前で渡すわけにいかないだろ?だから後でって言って連絡したのに、反応ねぇしよ。」
あの挨拶のあと、みんなの前で連絡するって言われた言い訳に使った「忘れ物」が本当にあったなんて…!
「でも連絡なんて来てないわよ!」と思わず言い返したものの、お昼休みが終わってからスマホを見ていない。カバンから取り出してみれば、道明寺からの着信履歴が残っていた。
「マナーモードにしてたから気が付かなかった…。」
「全く反応がないからよ、んなことだろうと思ったぜ。しょうがねぇから、エントランスホールで待ってれば確実だろ?
なのに、おまえは俺に気付かず素通りするしよ。相変わらずおまえは俺に対して扱いが適当だよな!」
めちゃくちゃ痛いところ突いてくる。
適当にしてるつもりなんか一切ないんだけど。そう思わせてたんだね。
「…あんた、忙しいんじゃないの?今日は就任初日でしょ?いくら忘れ物を届けるからって、ただの一社員をエントランスホールで待ち伏せるなんておかしいし、西田さんに余計な仕事増やしてんじゃないわよ!」
道明寺はピクリと片眉を上げて、顔を顰めた。
「さっきから、ただの一社員だの、婚約者だのと、おまえは何を言ってるんだ?」
「何ってそのまんまだけど?あたしは道明寺HDに勤める、ただの一社員で、今はあんたとは高校時代の先輩と後輩でしょ?確かに5年間連絡しなかったのも、こないだの夜も覚えてないとはいえ、婚約者がいるあんたと関係を持っちゃったのも本当に申し訳ないとは思うけど、せめて別れようくらいは言って欲しかった…。」
「別れよう?誰と誰が?」
何言ってんのこいつ。やっぱり5年のブランクは大きい。またしても会話が成り立ってない!
「あたしと!道明寺が!別れたの!」
もう!言いたくなかったのに!いつの間にか別れていた事実に、いまだ泣きそうなのに!
「本当におまえが何を言ってるのか意味がわかんねぇ。ふざけんのも大概にしろよ?いつ俺がおまえと別れたんだ!?」
「なに言ってんのは、こっちのセリフ!なによ!5年連絡しなかったからって!別れようの一言もなく、他のおんなと…!ヒッ…、婚約したくせに…!グスッ…」
ヤバい、また泣いちゃう。あたしの涙腺どうなってんの?こんな話をしてる時に泣くような女になりたくないのに。しかも連絡しなかった自分が悪いのに、話の要領を得ない道明寺に苛ついて。これじゃあ別れたくなくて、駄々こねてるみたいでイヤだ。
「もう良いでしょ!車から降ろして!下着もそっちで勝手に処分していいから…!もう帰りたい…。」
「おい牧野!おまえ、何か勘違いしてるだろ!覚えてないって言うが、どこまで覚えてないんだ?あの夜に説明したのも覚えてないのか?!」
「なにが勘違いよ!こないだの夜のことは何にも覚えてないって言ったでしょ!」
もう本当にヤダ。なんの説明か知らないけど。
他の女と婚約した話だったらもう聞きたくないし!
「あぁぁ!めんどくせぇ!」
道明寺がそう叫ぶと、いきなりあたしを抱きしめた。
All you need is love. 9
All you need is love. 9
「あの日ってどの日?どの朝のこと…?」
そう聞いたら、道明寺は目に見て分かるほど青筋を立てて怒り始めた。
「おまえマジでふざけてんのか?あの日っつったら、久しぶりに再会したのに、おまえが酔っぱらって泣いて部屋を飛び出したあの日と、次の日の朝しかねぇだろうが!」
えーーー!!!やっぱりあの日なの?!
えっ、えっ?!隣で寝てたの、あれ道明寺だったの?!
まさか!気が付かないなんてことある?!
うそうそ!まさか!違うでしょ?!いやっ、違くても困るけど!驚き過ぎて言葉もなく、呆然としているあたしに道明寺は更に言葉を続けた。
「おい!どの日か思い出せねぇとか!まさかおまえ、連絡しなかった5年の間に酔って他の男と一夜を共にして朝を迎えるなんてことしてたのか?!この淫乱女!」
「いっ、淫乱?!バッカじゃないの?!ふざけないでよ!あたしがそんなことするわけないでしょうが!」
あたしのこと何だと思ってんのバカ男!いや、問題はそこじゃない!
「あたしのことはどうでも良いわよ!それよりも!あんただって婚約者いるのに、何あたしとヤッちゃってんのよ!」
「は?!どうでもよくねぇだろ!自分の女が他の男と寝てたら大問題だろうが!それに婚約者はおまえだろ!婚約者とセックスして何で本人に責められなきゃなんねぇんだ!」
ダメだ!話にならない。
連絡しなかったあたしが悪いけど、5年間会話もなかった人と話をするのが、こんなにも難しくなるものなのか。
それとも道明寺だから話にならないの?
それに自分の女って何?!婚約者があたし?!あんたの婚約者は、どこぞの御令嬢でしょうが!もう!連絡してない5年の間に、婚約者がいながら別の女と寝るような男になっちゃったわけ?!
あーっ!
これ普通に犯罪だよね?!婚約者のいる人と肉体関係持ったら、貞操義務違反だよ!あたしが訴えられる側じゃないの!
こんな時なのに、慰謝料の相場っていくらだっけ?とか自分の身に何か起こった時に、法律とか判例とか頭に浮かんじゃうもんなんだ、なんて実感してる場合じゃない!
頭を抱えて、うんうん唸っていたら、また道明寺が怒鳴ってくる。
「おい!聞いてんのか!どこのどいつだ!全部吐け!俺はおまえしか知らねぇのに、ふざけんなよ!おまえと寝た男、全員ぶっ殺してやる!」
ちょっと!今ここで御令嬢とは清い交際だなんて知りたくもないんですけど!まだあたししか知らないってのは嬉しいけど!
「だからそんな男いないってば!失礼ね!後にも先にもあたしだって道明寺しか知らないわよ!酔って記憶をなくしたのも、あの夜だけだもん!」
「記憶をなくしたぁ?おまえ、覚えてないのか…?!」
あれだけ怒ってたはずの道明寺は片手で顔を被って俯いた。
「そうか、覚えてないのか…。」
なんだか少し落ち込んでるように見えて、疚しいところがあるあたしは思わず「ごめん…。」と呟く。
道明寺はハァーっと大きなため息をついて、そしてあたしを見てニヤリと笑いながら徐ろにズボンのポケットから何かを出した。
「おまえ、あの朝に忘れ物しただろ。」そう言ってあたしに見せたのは…
「あーーーっ!あっ、そっそれは!あたしの!パッ、パンッ…いやぁーーーっ!」
あたしのパンツだーーー!!!