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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Take a look at me now. 〜 Live,love,laugh and be happy!2 〜

Take a look at me now. 〜 Live,love,laugh and be happy!2 〜







桜子と滋さんとランチビッフェに来たはずのあたし。
なのにアイマスクをされ、服を剥ぎ取られエステをしたあと、アイマスクを付けたままで桜子と滋さんに手を引かれて歩いていた。

「ねぇ、これさ、今あたし何を着てるの?」

エステで着るようなバスローブでもないし、もちろん着てきた服でもないと思う。
なんだか動くたびにガサゴソと音がするし、歩きにくい。

「サプライズですからね、何もかも秘密なんですよ」

いつもの桜子らしからぬ、妙にウキウキしたような声で話しかけられる。

「ねぇ、ランチビッフェは?あたし本当に楽しみにしてたんだけど……」

「先輩は本当に食べ物に固執しますね」

「だって!一回は来たかったんだもん!」

「まぁまぁ、ほら着きましたわ」

桜子の声に、ランチビッフェに行く予定のレストランに着いたのかと思った。
でも周りはとても静かで、物音もほとんどしない。

「つくし、アイマスク取るから動かないでよ〜。パパさん、ママさん、あとよろしくね!」

滋さんの言葉に意味も分からず、桜子と滋さんに手を離される。
パパさん?ママさん?


そして外されたアイマスクから見えたのは、ホテルメープルの中層階にあるチャペルの、重厚で豪奢な扉。
その前にいたのは着物姿のママに、モーニングを着たパパ。

そして、あたしは、


「……なんで?どういう、こと?」

「ほら、つくし」

ママが目を潤ませながら、あたしの肩を優しく撫でる。

「きれいよ〜、つくし」

「……ママ?パパ?」

「ほら、泣かないの!お化粧が落ちちゃうわ」


……無理だよ、こんなの泣いちゃうよ。


だって、あたしウェディングドレス着てるんだよ。


どうして?
結婚式はあと一年先のはずじゃないの?


「つくし」

「パパ……」

「みんな、待ってるから」

みんな?みんなって誰?
パパがそう言うと、いつの間にかブライダル部門のスタッフさんが後ろにいて、あたしのお化粧を手早く直してから、頭にティアラとベールを付けた。
あたしの前に立ち、ベールダウンをするママも、泣いてる。

「幸せに」

ママ。


「行きます」とスタッフさんが内線で連絡を取っていて、促されるままに横に立つパパの腕に手を掛ける。
スタッフさんがドレスの裾を直している間に音楽が鳴り始めた。


全然、気持ちが追いつかない。
こんなの、突然、どうして?

戸惑っている間に扉が開いた、その先に。


道明寺。

いつから、考えていたの?
最近の様子がおかしかったのは、このせいなの?


だって、おばさまも、おじさまも、椿お姉さんもいる。
桜子と滋さんはもちろん、類に美作さん、西門さん。
タマさんと、あれはケイト?
進に、幼なじみの優紀に高校の友達まで。
どうやって連絡を取ったの?


一歩ずつ、ゆっくりパパと歩く。

「……つくし、幸せに」

パパはあたしだけに聞こえるような小さい声でそう言うと、足を止めた。

その先に待つのは、白いフロックコートを着た、優しく穏やかに、静かに微笑む道明寺。
道明寺がゆっくりあたしの元まで来ると、パパはあたしの手を腕から外して、一瞬、ギュッと強く握った。

パパ。

そのあたしの手を、道明寺へと。
震えるあたしの手を、道明寺が優しく包む。


「牧野」

「ど、みょうじ、」

「お前のやりたかった結婚式、だろ?」


やっぱり、そう、なんだ。
あのお見合いをしたあとに考えろと言われた、少人数で、身内と親しい友達だけの結婚式。
結局一週間じゃ禄に考えることも出来なくて、既存のプランと被らないように気を付けただけの、本当にあたしの希望だけを書いた素案。

ここのプランにはキリスト教式と神前式しかなかったけど、あたしは人前式が良かった。
神様ではなく、あたしたちを見守り支えてくれたみんなの前で、誓いたかったから。
だから、神父さんもいないの?


ねぇ、道明寺。


「あんまり泣くと、ブスになるぞ」

「……っ、道明寺のせい、でしょ!」

「そうか」

「そうよ、……いつの間に、こんなこと」


道明寺と一緒にいるなら、諦めないといけないこともあるのは分かってた。
今までと違う生活になることも。
だから、結婚式に友達を呼べないことも、仕方ないって思ってた。
あっちもこっちもなんて欲張りになんてなれない。
それなのに、それすらも叶えようと、してくれるの?

あの頃から変わらない、優しいあなた。


「牧野、俺も牧野がたくさんの人に愛されてるところが見たい」

「どうみょうじ、」

「牧野。俺は財閥の後継者だから、人の何倍も大変なことが起こる。きっと辛いことも悲しいことも、たくさんある。
でも、牧野となら大丈夫だって思えるんだ。
だから、嬉しいことも、楽しいことも、普段の何気ない日常も、全部牧野と分かち合いたい」

「あたしも、道明寺と、ずっと一緒に……!」

「よし、牧野!結婚するぞ」

「……ふふ。それ、プロポーズ?いま、ここで?」

「おう。ここにいる、みんなが証人だ。ほら、早く返事しろ」


「……365日24時間、覚悟しなさいよ!」

「上等!」


道明寺はあたしの答えに口元を綻ばせると、ベールをそっと上げた。
どちらともなく手を取り合って、見つめ合う。
そしてゆっくりと近付いて、穏やかな、優しいキスをした。




結婚は、ゴールでも墓場でもないし、スタートでもない。
いつも幸せってわけでもないだろうし、もちろんケンカだっていっぱいすると思う。
それでも、みんな平等に同じように毎日は続いていく。


その毎日の続きを、あなたの隣で「今」を、
ずっと、ずっと。







fin.







「Take a look at me now.」このシリーズのお話は、これにておしまいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。




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Take a look at me now. 〜 Live,love,laugh and be happy!1 〜

Take a look at me now. 〜 Live,love,laugh and be happy!1 〜






お見合いの二週間後から道明寺の秘書を始めたのと同時に、道明寺からの強い要望により一緒に暮らすことになったんだけど。
本当に意外だったのは、道明寺が思ったより身の回りのことを自分ですることだった。

ご飯はそんなに作らないようだけど、洗濯に掃除、コーヒーを淹れるくらいはする。
ずっとお邸で生活していた人だし、NYでも日本でもペントハウスにハウスキーパーさんとか入れてるんだろうと思っていた。
何で自分でやっていたのか不思議で聞いてみると「忙しいほうが牧野のことを考えなくて済んだから」と言われ、どうにも切ない気持ちになってしまった。

「邸の使用人たちは牧野のことを知ってるだろ?だから迂闊に入れて牧野の話を聞きたくなかったんだよ。それに掃除は意外と無心になれるしな」

それこそ本当に365日24時間一緒にいるようなものだから、家事は分担出来るほうがありがたい。
でも、出来るようになった理由が理由なだけに、何も言えないでいると「でも一緒に暮らすって、こういうことなんだろ?」と言う。
NYの大学やスクールで出来た友達は、みんな家族とそうやって暮らしていると聞いたらしい。

いずれ道明寺も今より役職が上がる時がくるし、そうなればもっと忙しくなる。
それに、いつか子どもが生まれたりしたら、きっとお邸で暮らすことになるような気がするし、それなら今は二人きりの生活を楽しもうと決めた。



あのお見合いから半年ほどが過ぎて、牧野家への挨拶も終わり、社内報で社長婚約のお知らせが端っこにひっそりと載ったりした。
そもそもに噂になっていたから、社員のみんなは大して驚かなかったらしい。

そんな生活にも慣れてきた頃。

なんだか道明寺の様子がおかしい。
少し前から何か隠し事をしているような、職場でも家でも、あたしのいない隙にどこかに連絡しているのか、あたしの姿が見えると慌てて電話を切るところを何回か見かけた。
よもや浮気などは疑ってはいないけど、何をしているのやら。何かを企んでいるのは間違いないから、こっちも気付いてないフリをするのも一苦労で。


そんなある日のこと。
久しぶりに桜子と滋さんと遊ぶことになった。
この二人は道明寺と離れていた間も、ずっとあたしを励まし、たくさん相談に乗ってくれて、いつも一緒にいてくれた。道明寺と再会出来たことも本当に喜んでくれていて、感謝してもしきれないほど二人にはお世話になった。
今はみんな社会人になったから、学生の頃と違ってみんなの都合が合うことは珍しく、今日は三人揃って遊べる貴重な日だった。
道明寺もそれは知っているから、二人と会う時は何も言わずに送り出してくれる。


6月になって梅雨入りが発表された途端に雨の日が少なくなってしまって、梅雨らしい感じもなく、かと言って夏のような暑さもまだないから過ごしやすい日が続いていた。
今日も晴れていて、穏やかな天気。
傘を持ち歩かなくて済むというだけで、少し気分も上がる。

いつもは駅前で待ち合わせなのに、今日は珍しくホテルメープルのラウンジで待ち合わせだった。
どうやら今回、レストランのランチビュッフェの予約が取れたらしい。
ここのランチビッフェは予約を取るのに数ヶ月かかることもあるほど人気で、あたしも一度は行ってみたいと思っていた。
道明寺に言えばいくらでも用意してくれそうなものだけど、コネで行っても楽しくないもんね。
こういうのは予約が取れるまで頑張って、取れた時の高揚感も楽しむべきものだ。

意気揚々と向かえば二人は既に来ていて、あたしを見つけると手を振って迎えてくれた。

「桜子!滋さん!久しぶり〜!」

「つくし〜!」

「先輩!相変わらずお元気そうで」

「まだ少し時間あるから、つくしも何か飲もうよ」

店員さんにコーヒーを頼んで、席に着く。
すぐにコーヒーが運ばれて来て、一口飲むと、早速二人から質問攻めに合った。
結婚式はいつなのか、籍はいつ入れるのか、結局プロポーズはされたのか、とかとか。会うのは数ヶ月振りだけど、何の情報も更新されてない。


「式は一年後くらいに決まりそうなんだけどね。やっぱり会長たちと道明寺だけの都合で決められないし、思ったより先になっちゃった。プロポーズも、どれがプロポーズだったのかって言われると分かんないんだよね。そもそもにお見合いって結婚前提じゃない?だからなんかこう、改めてっていうのがなくて」

「でも指輪はもらったんでしょ?すごく大きいダイヤのやつ!」

滋さんも桜子も目をキラキラさせながら聞いてくるけど、本当にそういうのがなかった。

「あれもクリスマスだか誕生日プレゼント?なんじゃないかな?あえて結婚しようみたいな言葉もなかったし」

「えー!司なにやってんの?!」

「だって先輩、結婚式も披露宴も自分の希望なんて言えないんでしょう?」

「うん、それは言われた。招待する方たちも会長たちが決めてるみたい。どうしても会社の都合が優先だから、個人的な友達も呼べないんだよね」

それに気が付いた時は、少しショックだった。
でも、道明寺と結婚するってそういうことだ。

「……つくし!」

少しションボリしてしまったら、急に滋さんが大きい声を出すから、びっくりして顔を上げる。

「滋さん、相変わらず賑やかすぎです」

「ごめ〜ん!でもそんなつくしにサプライズです!」

だから、サプライズって言ったらサプライズにならなくない?
あの冬のクリスマスパーティーに連れて行ってくれた時も、こんな感じだったなと思い出す。

「また?今度はなんのサプライズなの?」

おかしくてクスクス笑ってると、桜子にアイマスクを渡された。
え?ここまでする?ビュッフェは?

「なになに?ビュッフェは?食べられるの楽しみにしてたんだけど……」

「それはそれです。さ、ほら先輩!行きますよ」

後ろから滋さんに無理矢理アイマスクをされ、手を引かれるままどこかに連れて行かれる。
外に出た感じはなくて、これはたぶんエレベーターに乗ったのかな?とか、廊下に敷いてある絨毯のふわふわ加減とかでどこにいるのか考えてみるけど、途中でどこを歩いてるのか皆目検討もつかなくなってしまった。


「ねぇ、本当にどこ行くの?」

「変なことはしませんから大丈夫ですよ」

そんなことを桜子は言うけれど、もうすでに変なことになってると思うんだよね……。
すると、扉の開く音がしたあと周りの音が変わって、どこか室内に入ったんじゃないかと思ったら、桜子と滋さん以外の人の気配?

「え、ちょっとなに?他に誰かいるの?」

「先輩、ちょっとお着替えしましょうね」

桜子の声と同時に、服を脱がされそうになるのが分かって、思わず叫ぶ。

「ぎゃー!ちょっと、なになになに?!なにする気?!桜子?!滋さん?!」

「つくし、大丈夫だから!めっちゃ楽しいから大丈夫!」

あはははと滋さんが笑ってるけど、何?!
本当に、なんなの?!
こっちはいきなり脱がされてるから、楽しいよりも恐怖だけど?!

それに着替えって何よ!
あっという間に服は剥ぎとられ、たぶん下着姿のあたし。一方的に見られてるだろう姿に、恥ずかしいにも程がある!


「先輩、まずはエステを受けてもらいます」

「エステ?!なんで今エステ?!ビュッフェは!?」

「ビュッフェはエステのあとね〜。とりあえずエステ受けてね!」

そう言って横に寝かされ、全身をマッサージされていたら、アイマスクをしてして視界が遮られていたことと、どこからか漂うアロマオイルの良い香りがウトウトと眠気を誘い、日頃の疲れもあってか、いつの間にか寝てしまっていた。





「……そろそろ起こさないとじゃない?」

「よほど疲れてらっしゃるんですね。ここまでされて気が付かないなんて……」

桜子と滋さんの話し声が聞こえて目が覚めたことに気が付いたけど、まだアイマスクをしたままらしく、目の前は真っ黒だった。


「桜子!滋さん?!」

「あっ、起きた?」

「ねぇ、これ外して良い?」

二人に聞きながらアイマスクを外そうとしたら、まだサプライズが続いているらしく、外したら駄目だと言われた。

いつまで続くの、このサプライズ?!












Take a look at me now. 〜 After story within the company. 2 〜

Take a look at me now. 〜After story within the company. 2 〜







「社長、社員さんたちの前で何を言うつもりですかっ」

食堂横のエレベーターホールで待ってる間も小声で道明寺に注意を促すけど、たまにキレると手が付けられない時があるから困ったもので。
社員さんたちの前ではキレることは滅多になかったんだけどなぁ。

「うるせぇ!断ってんのに、どいつもこいつもしつこいんだよ!しかも勝手に体に触るやつがあるか!」

「あのね、大人しくしてなさいって会長に言われてるでしょ」

「んなもん知るか!俺は知ってるからな!お前だって総務の高橋とか、広報の鈴木に営業一課の橘!心当たりがないとは言わせないからな!」

「えっ」

「ふざけんなよ、マジで!俺が気付いてないと思ってたのか!この浮気女!」

「はぁ〜〜〜?!ふざけてんのはどっちよバカ男!ここでも家でも一緒なのに、どこに浮気する暇なんかあるのよ!」

「こうやって俺から離れて一人でうろちょろしてんだろうが!」

「私は仕事をしてるんです!道明寺こそ、うろちょろしてんじゃないわよ!だから隙を見られて告られるんでしょ!」

「それはお前だって同じだろ!」

「私はきちんとお断りしてます!」

「当たり前だろ浮気女!」

「……そうですか!そこまで言うなら、会長の秘書に戻らせていただきます!」

「あっ、待て!違う、今のは言いすぎた!」

「なによ!浮気女と一緒のエレベーターじゃ不愉快でしょうから!お先にどうぞ!」

いつもよりエレベーター来るの遅いな!とやっと到着したエレベーターに道明寺を先に乗せようと開いた扉を押さえて振り返れば、道明寺の後ろに大勢の社員さんたちが、いる!
やばい!今の話、聞かれてた?!
小さい声で話してたつもりだったけど、これは、

「社長、早く乗ってください!」

どっちが先とか言ってる場合ではない。
ここは早く退散したほうが良いと、先にあたしが乗って開くボタンを連打。
道明寺がエレベーターに乗ってすぐに、閉まるボタンを連打。
すると、扉が閉まる前にするりと滑り込むように一人の男性社員さんが一緒に乗ってきた。

「牧野さん!」

営業一課の橘さん?
大勢の社員さんたちが見てる中、三人を乗せて扉は閉まった。


「良かった、牧野さんに話があったんだ」

「あの、」

「社長、おつかれさまです。まだ休憩中ですよね?牧野さんとお話がしたくて」

「あ?」

「牧野さん、この間の食事の件だけど、返事聞かせてくれる?」

「それはお断りしたはずですけど……」

「好きな人がいるくらいで諦めないって言ったよ」

「おい、橘」

道明寺の顔が見れない。
今まさに、さっきの道明寺と同じ状況になってない?

「お前、誰の前で牧野を誘ってるか分かってんの?」

「社長の前ですけど、もしかして社長秘書に交際を申し込むのに社長の許可がいりますか?」

「あぁっ?!」

もう!道明寺のイメージが!
せっかく築き上げてきた親近感あるイメージが崩れそうだよ〜!

「あ、あ、あの!橘さん!ごめんなさい、本当にお食事もお付き合いも出来ないんです!」

「……もしかして、本当に社長も牧野さん狙ってるんですか?」

「ブチ殺すぞ橘!牧野は……っ!」

「道明寺!ダメだってば!」

「うるせぇ!もう俺は限界だ!ババアの言うことなんざ知るか!牧野は俺の婚約者だ!来月の社内報見とけバーカ!」

ああ、もう。この場にいるのが橘さんだけで良かったと言えば良かったのかもしれないけど、バカはないでしょ。
思わず頭に手を当てて項垂れてしまう。

「すみません、そういうことなので……」

そう言いかけた時、役員室のある階に停まったらしく、ポーンと音がしてエレベーターの扉が開いた。
いくらなんでも、この状況のまま話はおしまいというわけにもいかない。

「あの……」

「橘、社長室まで来い」

道明寺がそう言うとエレベーターを降りて先に歩いて行ってしまうから、慌てて追い掛ければ、橘さんもあたしの後ろに付いて歩き始めた。
営業課の一社員が役員室に入ることは滅多にない。橘さんは物珍しそうに周りを見ながらセキュリティを抜けて社長室に入った。


「座れ」

道明寺がぶっきらぼうに言うから、あたしが橘さんにソファセットに座るよう促す。道明寺とあたしは橘さんの向かいに並んで座った。

「あの、勝手なお願いで申し訳ないんですけど、このことは来月の社内報でお知らせするまで秘密にしていただけると助かるんですが」

「婚約者、ですか……。お付き合いしてるんじゃないかって噂はありましたけど……」

「すみません。そういうことなので、橘さんとはお付き合い出来ません」

ぺこりと頭を下げて断れば、少しションボリしたような橘さんの声。

「そっか……。社長相手じゃ、敵わないかなぁ」

「ふん!俺が相手だからって簡単に諦めるような奴が牧野に好かれるわけねぇだろ」

「あのね!人のこと言えないでしょうが!道明寺だって類とのことで……!」

「今は俺のなんだから良いだろ」

「はぁ?!私は物じゃないの!なんでそういう言い方をするわけ?!」

「おい、まさか高橋や鈴木にも同じようにしつこく誘われてんじゃねぇだろうな?」

「いつまでもネチネチしつこいのはあんたよ!」

つい、いつもの調子で隣に座る道明寺の太ももをバシッと叩いてしまったら、橘さんは驚いたような顔をした。

「社長も牧野さんも、普段と随分イメージ違いますね……。牧野さんが学生の頃からインターンシップの指導員として接してましたけど、」

「お前、大学生の頃の牧野を知ってんのか」

「はい。その頃から何でも一生懸命で真面目だし、笑顔が可愛いなぁと思ってたんですけどね。もっと早く言ってれば俺にも可能性はあったかな?」

「それはない」

道明寺が一刀両断に橘さんに告げる。

「牧野は高校生の頃から俺のこと好きだもんな」

「道明寺!やめてよ!」

「……じゃあ、俺の好きになった牧野さんは、ずっと社長のことが好きな牧野さんってことか」

「そういうことになるな。牧野は俺と結婚したくて道明寺財閥に入社したんだっけ?」

「道明寺だって私と結婚したくて社長になったんでしょ?」

「……もういいです。よく分かりました。来月の社内報が出るまでお二人のことは秘密にしておきます。でももう噂にはなってますからね。
牧野さん、社長にお弁当とか作ってるんでしょ?社長も牧野さんの側から離れないし、一番は牧野さんがいると社長が笑うところですかね。社長も牧野さんも隠したいなら、黙ってるか離れてるほうが良いですよ」

橘さんはニッコリ笑うと営業課へと戻って行った。
道明寺は橘さんが居なくなった途端に手を絡めて繋いでくる。

社長室に二人きり。もう休憩は終わったけど。


「そんなに噂になってんのか……?」

「さっきのエレベーターホールでの会話を聞かれてたら、噂じゃ済まないわよね……。社内報出るまで、あと二週間くらい?ここで急に離れるのもおかしくない?」

「そもそもに何で社内報出るまで黙ってなきゃなんねぇの?」

「そりゃ、色々とタイミングとか順番ってもんがあるでしょ。まずは社内で、その後プレスリリース、その更に後に結婚式と披露宴?」

「もう噂になってんなら社内で隠す意味ねぇじゃん。てかお前がおやつに釣られてるからじゃねぇの?俺が探しに行くの分かってて食ってんだろ?」

「……いや、本当に所用があるのは間違いないのよ。もちろん、おやつも美味しいけどさ、でも道明寺が社員のみんなと普通に話してるところ見るの好きなんだもん。こわがられてるわけでもなく、普通に……」

「なんでそんなの見てぇの?」

「……前に、言ったでしょ?たくさんの人に愛されてる道明寺が見たいって」

そう言うと、道明寺は「仕事中にそういうことを言ったお前が悪い」と、あたしにキスをした。












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Take a look at me now. 〜 After story within the company. 1 〜

Take a look at me now. 〜After story within the company. 1 〜







お見合いをした後に、一週間で引継ぎをして日本へ戻れと言われたけど、実際には二週間かかった。
会長秘書だから、生活拠点はもちろん会長と同じくNY。会長と社長のスケジュールも上手く噛み合わず、時差もあって西田さんとなかなか引継ぎ作業が出来なかった。


今まで道明寺はずっと西田さんをメインに男性秘書を連れていて、一度も女性を秘書にすることはなかったらしい。
急な辞令に、それはもう日本支社内は騒然とした。

あたしが入社して一年目から会長の秘書として付いたことも秘書課の先輩たちには反感を買ったものだけど、道明寺と入れ違いで会長とNYに行ったあたしが、入社三年目を前に今度は道明寺の秘書として戻ってきたものだから、それはそれでやりにくいものがあった。

道明寺は社長になってから各部署を回っては、いろんな形でコミュニケーションを取ってきたらしい。
大学の頃のように周りの、特に女性たちにキャーキャー言われることはあまりなく、もちろん近くに来れば話したがる女性社員は多いものの、そこまで騒がれることは、ない。
それだけ社員たちと良好な関係性を築けている証拠だろう。
要は道明寺自身が他人に対して作っていた壁が低くなったということなんだろうけど、これはNYにいた頃に通っていた学校でF4以外の友人を作ったことで得たものなんだろうなと見ていて思う。


だからもちろん、そうなるよね。
孤高の王様じゃなくて、クールだけどちょっと身近な王様なんだもん。

道明寺、めちゃくちゃ告られてる!
なんなのこれ!
想像以上に多い。頻繁に呼び止められたり、手紙や何か渡されそうになってるじゃん!
今までもこうだったのか聞いたら、どうやら西田さんがさり気なく回避していたようで。

あたしか!?
あたしなら西田さんみたいに邪魔しないだろうとか、チビで大して美人でもなく、つるペタ体型のあたしと比べたらイケると思われてるんだと気が付いた。


もちろん道明寺も断ってはいた。

「気持ちには応えられない」
これに相手は諦めない人が多かった。応えてもらえるまで頑張ります!みたいな。

「好きな人がいる」
これも大して差はなかった。私も好きになってもらえるように頑張ります!的な。

さすが道明寺財閥に勤めるだけあって、自分に自信のある女子が多い。
道明寺が彼女たちの気持ちに応えることはないし、大丈夫だとは分かっていても、そういう場面を見かけてしまうと、なんとも複雑な気分になった。


あたしが秘書になってからの道明寺は、あたしの姿が見えなくなると社内を巡回する振りをしながら「牧野は?」と聞きながら探すようになった。
確かに365日24時間とは言ったけど、仕事中は仕事に集中して欲しい!
そう思っているのに、それがあまりに頻回で、そのうち牧野のいるところに社長ありと言われ始めた。
そして数ヶ月後には、あたしが所要で各課に行くと、道明寺に会いたい社員さんたちに引き止められるようになってしまった。


今日も総務に用事があって立ち寄ったら、取引先から手土産に芋ようかんをいただいたから一緒に休憩しましょうと数人の社員さんたちに誘われて、お茶まで出される始末。
まぁ、ちょうどいつものおやつ休憩の時間だし芋ようかんなら仕方ない、少しだけならと、総務内の給湯室で雑談をしながらまったりしていると、総務の入り口がざわめいた。

腕時計を見ながら、今日は辿り着くまで10分だったな、なんて思いつつ最後の一口残しておいた芋ようかんを口に入れ、咀嚼して飲み込んだあと、お茶を啜る。

「牧野」

「なんでしょうか、社長」

「ここで何やってんの?」

「おやつ休憩の時間ですので」

「許可してねぇけど」

「社長こそ、ここで何をしてらっしゃるんです?明日までの決裁書類、何枚サインしました?今夜は会食ありますからね、それまでにサインしないと会食のあと会社に戻って残業になりますけど。あと、三日後の花沢物産さまとの合同企画の会議資料は、どこまでお読みになりましたか?」

話しながら立ち上がり、湯呑みと芋ようかんを載せていたお皿を流しで洗いながら給湯室の入り口に寄りかかって立つ道明寺をちらりと睨む。
ただ立っているだけなのに、その姿さえ様になっていて、道明寺の後ろで遠巻きに見ている女子社員たちはうっとりとした顔をしている。

「類んとこのは、まだ焦んなくて良いだろ」

「あのね、あの人が資料を読むと思います?!今回はこちらがメインの企画ですし、三日後の会議が初顔合わせです。社長が会議に出るのは初回だけですけど、社長がきちんと把握してくださらないと、どうにもならないですよ!」

「あいつだって今は専務だろ?やるときゃやるって」

「馬鹿ね!これが美作さんなら安心だけど、類よ?!あの万年寝太郎が専務になったからって、やるわけないでしょうが」

「お前、相変わらず類への扱いが酷いな」

「社長も!誰があなたの休憩を許可しました?この時間はまだ休憩じゃないはずですけど」

そう言いながら入り口に立つ道明寺の横を通って給湯室を出る。
振り返って「芋ようかん美味しかったです。ごちそうさまでした」とニッコリ笑って総務の人にお礼を言えば、「いつでもどうぞ!」と返事がきて、そんなに道明寺に会いたいのかと笑ってしまった。


「牧野、待てって」

慌てて付いてくる道明寺を横目で一睨みする。

「もう!いちいち探しに来ないでよ!」

「黙っていなくなるからだろうが!どこ行くって言えよ!」

「あのね、総務行くだけなのに、一秘書がいちいち社長に言わないでしょ!馬鹿なこと言ってないで仕事して!」

「社員たちの前で秘書が馬鹿馬鹿言うなよ!社長だぞ!」

「あらぁ、じゃあ社長らしく仕事してくださいません?残業になったら明日のお弁当ないですからね!」

「言ったな?俺様の実力を甘く見てると痛い目見るからな。残業なしにしたら明日の弁当に卵焼きとイソギンチャク入れろよ!」


イソギンチャク……?
やいやいと言い合いながら総務を出て行く社長と秘書を見ていた総務課の社員たちが「イソギンチャク」なるものに疑問を持ち、それがえのきのベーコン巻きだと判明してからしばらく、社員たちのお弁当の中に「イソギンチャク」を入れるのがブームになった。更に「お弁当」と「イソギンチャク」と言うワードに、社長に対して親近感を持った社員が増えたとか何とか。



そしてこの会話がきっかけとなり、牧野秘書といる時の社長はよく笑うこと、牧野秘書が社長にお弁当を作っているらしいこと、社長の友人ともかなり親しいだろうこと、社長がいつも牧野秘書を探して付いて回っていること、そして会長のお気に入りである牧野秘書が社長付きになった事実が決め手となったのか、道明寺社長の「好きな人がいる」という発言は、体のいい断り文句ではなく、本当に好きな人がいて、それが牧野秘書なのでは?と憶測が拡がった。


そして。

「社長、好きなんです。私とお付き合いしていただけますか」

また今日も一人。
受付嬢のとても可愛らしい人。
本当に諦めずに何度も道明寺に告白してる、健気な人。

今日はどうしても社食の数量限定メニューが食べたくて、あたし一人で食堂に来ていた。
そこに現れた道明寺に、彼女は突然告白をしたのだ。
すごい。
だって、まわりには大勢のお昼休憩中の社員さんたちが見ている中での、告白。
いつも賑やかなはずのお昼時の食堂も、シンと静まり返る。

「申し訳ないが、」

道明寺はため息をついて、毎回同じ断りの言葉を言おうとした。
今回違ったのは、そんな道明寺の言葉を遮って受付嬢が放った言葉。

「牧野さんと!お付き合いされてるって本当ですか?」

いきなりあたしの名前が出てきて、思わず口に含んだままだったお茶を噴き出しそうになる。
危ない。
慌てて飲み込めば、道明寺はあたしを見つけてじっと見ているし、まわりの社員さんたちも同じく、あたしを見て、道明寺を見てと、成り行きをただ見ている。

「……牧野」

「はい!」

「飯は食い終わったか」

「はい!」

そうね、ここは早く立ち去るに限る。
みんなの注目を浴びながら急いで食器の載ったトレーを片付けて、道明寺の後ろに付く。

「仕事戻るぞ」

「社長!牧野さんとはどういうご関係か、お返事いただいてません!」

受付嬢、その根性はすごい!
すごいけど、道明寺の様子がだんだんと剣呑なものになっていく。

「牧野、もう俺はそろそろ限界だ」

「だっ!だめですよ!会長の許可もなしにダメですから!」

あたしがそう言うと、道明寺は眉根をこれでもかと寄せて、ものすごい顰めっ面をした。
ヤバい。

「社長、牧野さんとはどういうご関係か何も言わないということは、何もないってことでよろしいですか?それなら私と、」

受付嬢はそう言うと無理矢理、道明寺の腕を取り、胸を押し付けた。

「俺に、触るな!」

道明寺は叫ぶと受付嬢の腕を振り払う。
ダメダメ!やりすぎ危険!
家ではともかく、社内ではあからさまに感情を出すことが少なくなった道明寺が、こんな風に声を荒げることはほとんどない。
受付嬢も驚いた顔をした。

「社長、ダメですってば!」

「俺に、触っていいのも、俺が触れるのも、牧「みなさん!お昼時にお騒がせしてすみませんでした!社長、行きますよ!」

これ以上は本当にまずい。
いくら人に対しての壁が低くなったとは言え、相変わらず女性に不意に触れられるのは物凄い嫌悪感があるらしい。
それでも!会長からは社内報を出すまで内密に、静かに、大人しくと言われてるのに!

慌てて道明寺の話に被せるように集まってきた社員たちに向けて言えば、もうブチ切れ寸前の道明寺の背中を押して食堂を足早に出た。










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Take a look at me now. 〜 After story with makino family. 〜

Take a look at me now. 〜After story with makino family. 〜







あのお見合いの日から約一ヶ月後のある日。


道明寺は一度決めたら、実行するまでが本当に早い。
それが財閥の社長なんて仕事をやっていられる所以なのだろうけど。

今は、道明寺と二人で牧野家に来たところで。
あたしの家族には、お見合いをしたこと、そのお見合い相手の人と結婚することにしたから、一度会ってほしいと時間を作ってもらった。
普通は予め相手のことを伝えておくものだろうけど相手が相手なだけに、迂闊に情報を伝えると、うちの家族は何をするか分かったもんじゃない。
これを電話で知らせた時にも一悶着あったんだけど、それは道明寺には言えなかった。


珍しく少し緊張しているらしい道明寺を横目に、社宅アパートの狭いリビング兼ダイニングの小さなちゃぶ台を挟んで、やはりこちらも緊張の面持ちをした両親と弟と向き合い、座っていた。

すっごい違和感。
このアパートに、道明寺。
ちゃぶ台と、道明寺。
緊張すべきシーンなのに、あまりの違和感に笑いそうになってしまう。
ダメダメ、今は笑うところではないと、気を引き締める。


「えっと、彼が一ヶ月前にお見合いした方で、道明……」

「つくし!」

話してる途中で、突然パパが大きい声であたしを呼ぶから、隣の道明寺もビクッとしていた。

「な、なによパパ。そんな急に大きい声出さないでよ」

「……つくし!パパは、パパはねっ、つくしは類くんと結婚すると思ってたんだ!なのに、誰なんだコイツは!」

パパったら!電話した時も、類の話はしないでって言ったのに!
ほら!道明寺の顔に青筋がっ……!

「パパ!やめてよ!類は違うって、何回も言ったじゃない!」

「そんなの、親の前だから照れ隠しで言ってるんだと思ってた!だって類くんはパパとも進とも遊んでくれるし、ご飯も美味しいって食べてくれるから、ママも類くん気に入ってるし!何より類くんがつくしに結婚しようって何回も言ってたじゃないか!だから類くんと結婚してくれたら良いねって、」

「そうねぇ、類くんは確かに良い子だけど、この方もイケメンじゃないの〜!」

「ママ!パパもいい加減にして!」

バンッとちゃぶ台を叩いて、無理矢理話を止める。

「あのね!あれは類が勝手に言ってることなの!あたしは一回も同意したことないから!」

「パパ、パパってば」

弟の進が、パパの洋服をツンツンと引っ張っている。

「うるさいぞ、進!進だって、類さんがお兄さんになってくれたらって言ってただろ!」

「そりゃ言ったけど、パパ。この人、もしかして、」

「あの!」

道明寺の低い、威圧感のある声に、牧野家のみんなは動きを止めて道明寺を見た。
少し緊張していたはずの道明寺は類の話に青筋を立てたものの、それが分かったのはあたしだけで、ずっと綺麗な姿勢で正座をしたまま、あたしたちの会話を静かに黙って聞いていた。
シンと静まったところで、道明寺が口を開く。

「本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。改めてご挨拶させてもらえますでしょうか」

「……はい」

パパは、道明寺の落ち着いて堂々とした雰囲気に呑まれて、返事をする声も急に小さくなってしまっている。
中小企業の万年係長が、財閥社長の雰囲気に敵うはずもないのよね……。

「ありがとうございます。私は道明寺 司と申します。道明寺財閥日本支社の社長をしておりまして、つくしさんには日頃から秘書として仕事を支えてもらっています」

「えっ」

パパが目をまん丸にして道明寺をガン見。
そしてフリーズ。

「ほら!まさか本人だと思わなかったけど、楓おばさまの息子さんでしょ?!姉ちゃんが大学の時からお世話になってる道明寺さんだよ!どこかで見たことあると思ったんだ!」

「えっ」

「本日は、つくしさんとの結婚をお許しいただきたく、ご挨拶に伺いました」

「えっ」

「うわー!俺、会えてめちゃくちゃ嬉しいです!俺が今インターンシップ行ってる会社の副社長もかっこいいですけど、道明寺社長はもう格別で憧れなんです!」

進がそう言うと身を乗り出して、強引に道明寺の手を取り、握手している。

「道明寺、進は今、美作商事にインターンシップ行ってるの」

「あきらのとこか。道明寺財閥には来たのか?」

「はい!事前選考で落とされました!」

「そうか。それは申し訳ないが、うちは縁故採用しないし、実力主義だからな。あきらも一見優しく見えるが、仕事には厳しい奴だ。頑張れよ」

「はいっ!」

「道明寺財閥の、社長さん……」

パパが放心したように呟く。

「はい。会長である母にはまだ及びませんが、これからも精進していくつもりです。つくしさんには秘書として支えてもらっていますが、私生活でも」

「っきゃーーー!やった!つくし、でかした!」

急にママが万歳と言わんばかりに両手を上げて叫び出したものだから、さすがにだんだんと苛ついてくる。

「ママ!いい加減、話してる途中なのに遮るのやめてよ!」

「だって!楓さんには本当につくしのことでお世話になったけど、まさか息子さんとつくしが結婚だなんて!道明寺さん、お見合いして一ヶ月くらいしか経ってないようですけど、つくしのどこが良くて結婚を?」

「つくしさんとは大学生の頃に既に知り合っていましたので、人柄はよく存じ上げております。つくしさんの」

「そうなんですか?!やだ、つくし!なんで言わないのよ〜!」

「だから!なんで相手が話してる途中で遮って話し始めるのよ!」

「つくし!」

またパパが大きい声を出して!
もう今度はなに?!

「い、いくら社長さんだからって、親に黙ってお見合いなんてして!こっちは、この人の人柄も分からないのに、はい良いですよなんて、言えるわけないだろ!」

「パパ!お見合いは私がおばさまに頼んだの!」

「つくしが?!なんで!」

「あのね、私が高校生の時にバイト帰りに危ない目に合ったの、パパとママは覚えてる?」

そんな昔の話を急に始めたあたしに、パパとママは顔を見合わせたあと、あたしを見てうんうんと頷く。

「忘れないわよ!あの時は運良く見知らぬ人に助けてもらったみたいけど、あんた怖がっちゃって、しばらくバイト先まで迎えに行ったの覚えてるわ」

「あの時、助けてくれた見知らぬ人が彼だったの」

「えっ」

「彼は、あたしの命の恩人」

「えっ」

「マジすか!うっわ〜!運命じゃないですか!姉ちゃんの運すげぇ!え、それで大学で再会したってことですか?それでなんで今になって、お見合いなんてしたんです?」

進の素直な疑問に、返事に詰まってしまう。
確かに、既に知り合いなのにお見合いって言うとおかしく聞こえるかも。

「あ、あたしが彼とどうしても結婚したいって、おばさまに頼んだの!ほら、あんな大きい会社の社長さんじゃ、他の会社からいっぱいお見合いの話もくるでしょ?おばさまも、あたしの気持ちを知ってたから断ってくれてたんだけど、」

「いや、お見合いの話は大学の頃から私が母に頼んで受けないようお願いしていました」

「え、そうなの?なんで?!」

「お恥ずかしい話ですが、学生の頃の私は人に褒められらるような生き方をしていませんでした。それに気付かせてくれたのが、つくしさんです。彼女は私を財閥の後継者としてではなく、一人の男として接してくれました。そんな彼女の分け隔てのない、素直で芯のあるしっかりとしたところに惹かれたんです」

なんか、改めて言われると照れる。
そんな風に思ってたんだ。

「その時の私はまだ、つくしさんと釣り合うような人間ではありませんでしたから付き合いすら申し込めませんでした。でも、いつかつくしさんと結婚したいと思っていましたので、まずは自分の立場をはっきりさせるまでは一人で頑張ろうと思い、母には縁談を持ち込まないようお願いした次第です」

「じゃあ、なんでつくしは道明寺さんのところで……?」

「真意は母に聞きませんと分かり兼ねますが、母はつくしさんに助けられたことがあると伺っております。つくしさんが人柄にも優れ、学業も優秀なところを母が気に入ったんだと思います」

「それなら、なんでお見合いをつくしから?道明寺さんもつくしを少なからず思ってくださってたんですよね?」

「それは……、」

ちらりと道明寺はあたしを見て、小さくため息をついた。

「一年ほど前まで私はNYにいました。その時に、つくしさんと類の結婚話を知りまして、一度、つくしさんへの想いを断ち切る覚悟をしました」

「ほら、あたしのスマホが壊されたことあったでしょ?あの後から、彼と連絡取れなくなっちゃって……」

「彼女が幸せならと思ったんですが……」

「あの、あたしもね?高校生の時に助けてもらった時からずっと好きで、大学で彼を見つけた時もびっくりしたんだけど。
スマホ壊れてから最近まで連絡取れなくなっちゃってて、彼が他の人と結婚しちゃう前にと思って、おばさまに頼んで強引にお見合いをね?」

「姉ちゃんの惚気話聞くのって、なんだか恥ずかしいね!」

「進!」

惚気話なんてしてないわよ!
そう思ったけど、どう聞いてもそう聞こえたかもしれない。
家族の前で話すのは、意外と恥ずかしいと思い知る。

「あら〜、素敵な話じゃないの!あんた、一途だったのねぇ。それなのに類くんとなんて、悪いこと言ったわ……」

「いえ、私が不甲斐ないばかりに、つくしさんには不安な思いをさせました。彼女からのお見合いがきっかけではありましたが、つくしさんもまだ自分を思ってくれていると知ったこと、そして仕事でも地位を確立してきたと自負できるようになりましたので、つくしさんとの結婚を決意したところです」

「パパ。あたしを助けてくれた彼を、同じように助けて、支えたくて、今まで頑張ってきたの。だから結婚を許して欲しくて……。お願い、パパ……」

ずっと腕を組んで目を閉じて、黙ってあたしたちの話を聞いていたパパ。
いつもはお調子者で、寒いオヤジギャグばかり言うパパだけど、今はいつになく真剣な雰囲気で。

「たまにはうちに遊びに来て、パパと進と遊ぶこと。その時は美味しいママのご飯を食べていくこと。これが出来るなら、認めてもいい……」


もちろん、「類に出来て、俺に出来ないことはねぇ!」と時間の許す限りではあるものの、牧野家に遊びに来てはパパとお酒を飲み交わし、進に就活のアドバイスをしたり、ママのご飯を「牧野の味と同じだ」と感動したりしていた。

ちゃぶ台と、道明寺の違和感がなくなるのも、そう遠い未来ではないかもしれない。










Take a look at me now. 後書き

Take a look at me now. 後書き





「Take a look at me now. 」を最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。


「今の私を見て」ってことで、テーマとしては「存在意義と幸せ」でした。
もう、最後のほうは本当に鬱々としながら書いてました。
だってなんか道明寺が道明寺らしくないじゃん。
書いてる本人が言うなよって話なんですけどね、本当に。
どうしてこの話を思いついたのか忘れたんですけど、存在意義を調べてたらアンガーマネジメントに辿り着いたような記憶があります。

「存在意義」と「アンガーマネジメント」と「幸せとは」を交えたわけですけど、原作が掲載されてた頃に登場人物が持ってるのってポケベルでしたよね、確か。
ドラマ版でもガラケーだし。金ピカのやつ笑
スマホを出した時点で、現代に則してないとおかしい気がしてですね。

今は何でもタップ一つで拡散拡散ですから、司くんが高校生の時にした赤札については、お金でどうこう出来る問題ではないと思いました。
それを放置しているのは、かなり危険ですし、実際ドラマ版でも司くんの一言で株価暴落してますから、もしこれが現代なら道明寺楓が何もしないわけないよな〜とか漠然と考えてました。

人の行動って、結局は想像力の問題だと思うんですよね。
まずはこうしたい、あれしたい!っていう欲求からですけど、これをしたらこうなる、あれをしたらああなるから、やろうとか、止めておこうとか思うわけで。
だからこそ人は法律やモラルやルールを遵守した選択をして行動に移すことが出来るわけじゃないですか。
でも、司くんは今まで何をしても親が金で解決!って感じだったので、そこが欠落してるんじゃないかなって。

高校生の頃ではなく大学生になってから、つくしちゃんに出会って恋におちたら?
そこで未来を想像したことで、初めて自分のしたことを振り返って、後悔出来るんじゃないかなと。
それが分からない限り、高校生の頃の勢いのまま、好きとか愛してるなんて感情だけでどうにかなるようなものではない、と思いました。
財閥の経営者なら尚さら、未来の予測が出来ないようでは、行く先は倒産とかそこらへん?それこそたった一言で株価暴落、大量リストラです。


存在意義って本当に難しくて、このお話の中では消化出来てません。
存在意義
存在理由
存在価値
それぞれ違うんですけど、自分自身に生きる価値や意味があるのかとか、そういうところらしいです。
自分自身で感じるところと、他人から見たところで違うわけですが、他人から見た存在意義ばかりに目が行くと、その意義を失った時に自分の中の価値がなくなる、だからこそ自分自身で感じられる存在意義が生きていく上で重要になるとかなんとか。
そんなん意識して生きてきたことなかったので、これを知った時にもう道明寺じゃん!ってなりました。

他人を存在理由にしてしまうと、その人が幸せじゃなくなったりした時に、また生きる意味を失ってしまう。
そして、自分自身で生きる意味を知り得る為には、他人からの愛とか信用とか信頼、そういうものを感じることで、価値を見出す。
それを司くんにどう感じてもらうか、どうつくしちゃんと絡ませるかで悩みました。

高校生のつくしちゃんを助けたのは、そんな存在意義を見失ってる中での暴力行為です。
そんなことを知らないつくしちゃんは、誰もが面倒に巻き込まれたくないと見て見ぬ振りをされ、恐怖の中で助けれくれた彼に惹かれます。
そんな出会いがあっても良いかなって軽い気持ちで始めたお話でした。


MBAについても、めちゃくちゃ調べました。
日本の大学やスクールでも学位は取れるらしいですけど、やはり財閥の後継者としては発祥地でもあるNYの方が箔が付くかなーって。
入学条件も、社会人としての実務経験2年以上としているところがほとんどらしいので、司くんには大学入ってすぐに仕事させました。
四年で日本に帰って来させるには一年スキップしないと無理なのでNYに行かせましたけど、これもまたややこしくて、そもそもに編入するには大学2年分の単位を持っていないと編入もスキップも出来ない学校もあるとか。
アメリカと日本だと学期始めの季節が違うので、そこもややこしや、ややこしや。


36話は1話から読み返しながら書いてました。
1話からNYへ行く前の18話までの司くんの心情を一気に詰め込んだ感がすごくて、すみません。
それを踏まえて読み返すと、存在意義と存在理由、そしてつくしちゃんへの想いが重なって情緒不安定感満載の司くんの出来上がりです。はい。

アンガーマネジメントも、怒りによる衝動をコントロールしようってものらしくて、怒りそのものを無くす為にやるものではないそうです。
なので、この作品の中の司くんは怒りはあっても、ほぼ強引さや暴力はないです。
つくしちゃん相手だと少し箍が外れますので、ちょっとやり過ぎたりはありましたけど。
Rも書きたかったんですが、このお話では書くのやめて事後のみにしました。
なんだか純愛小説みたいになってしまったので、キス以上は入れたくないなぁなんて思った次第です。


そしてこのお話、本当は40話までありました。
ありましたが、最終話で題の「Take a look at me now. 」を司くんの心情として出してしまったので、これ以上は長すぎてダラダラ感すごいなと思いまして、37話でぶった切りました。
なので、明日からアフターストーリーとして、5話更新します。

道明寺社長、社内ではそんななの?前・後編。
道明寺、牧野家へ挨拶に行く!編。
道明寺、結婚式どうするの?前・後編。

この5つのお話です。
需要がなさそうな気もしますが、はらぺこ02が書きたかったので書きました。
もしよろしければお付き合いいただければと思いますが、推敲も何もしてないですし、適当ストーリーなのはご了承ください。
重い部分は本編で書き切ったので、明るいお話にしたいと思いながら書いたものです。
こちらも楽しんでいただけたら幸いです。


それでは、また。





はらぺこ02






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Take a look at me now. 37 (完)

Take a look at me now. 37 (完)






「道明寺、あなただってこの五年間、何もしなかったわけじゃないでしょ?」

「……牧野が、言ったから。何から始めたら良いのか分からなかったけど、牧野が俺なら出来るって、言ってくれた。だからそれを信じて、今まで出来なかったことを、人を大切にすることから始めてみようと、ただそれだけで、俺の言動一つで誰かを笑顔に、幸せに出来るんだって、牧野が教えてくれたから」

「誰かを大事に大切にするとね、大切にされた人は、また誰かを幸せにしたいって思うんだよ。 そうやって幸せって巡り巡って、また自分に返ってくるの。
あのね、道明寺が日本支社の社長になってから、みんな働きやすくなったって言ってるよ」

「そうか?」

「そうだよ。取引先の人たちからもね、羨ましいって言われることあるんだよ。あんなに大きい会社なのに、社員思いの社長さんだねって。会長は少し肩身が狭そうにしてるけど。
最近ね、道明寺のやったことを、ロールモデルとして話を聞きたいって社長さんが何人もいるの知ってた?この若さで、たった数年でここまで出来るってすごいことなんだよ」

「俺には誰もそんなこと聞いてこねぇけど」

少し拗ねたように道明寺が言うから、思わずくすりと笑いが漏れる。
こんなことで拗ねるんだ。
怒ったり、泣いたり笑ったり。
拗ねたところも、強気な時に見せる得意げな顔も、どんな表情でも、すぐ側で見ていられることに幸せを感じる。

「道明寺はさ、やってることはすごいのに、笑わないからだよ。財閥の社長でイケメンで社員思いで。でも笑わないから、近寄りがたい。そういうクールなところも社員さんたちからの人気の一つではあるんだけど。なんで笑わないの?」

「おかしくもないのに笑えねぇだろ」

「そういうことじゃなくて!愛想笑いすら、ほとんどないじゃん」

「だって、牧野が、いないから」

「え?」

「俺は牧野と一緒に幸せになりたいし、家族になれるなら、その家族を大切にしたい。もっと言えば、牧野だけじゃなく、俺に関わる全ての人を守れるだけの実力とか自信、信頼、そういうものが生きていく上で必要なんだと思って、その為に今までやってきた。
だから類と牧野のことを知った時、本当は俺が幸せにしてやりたかったのにって思った。でも、牧野が、どこで誰といても幸せなら、それで良いかと思ったんだよ。だから、牧野を幸せにしたかった分を、一緒に働くみんなと共有出来れば、それが俺の幸せだって。
でも、牧野がいないから、どうやって笑ってたのか分からなくなってたかもしれねぇな」

「馬鹿だなぁ、道明寺は。あたしの幸せを道明寺が決めないでよ」


牧野が、あの大きな瞳を輝かせながら優しく俺に微笑みかける。
なんで牧野はいつまでも真っ直ぐで、きれいなんだろうか。
俺の手を取り、絡めて繋ぐ牧野の手は、俺よりも小さい手なのに、その温かさに何もかもが包まれているような気分になる。


愛とか、幸せとか、一生知らないまま生きていくと思った過去の俺は、今の俺を見たらどう思うのだろうか。

幸せなんて、誰かに決められたり、してもらうものではない。
何を幸せだと思うかは人それぞれで、それを他人が勝手に推し量るものでもない。
そう考えると、また社員たちは今、本当に仕事のしやすい環境にいるのかと考えてしまう。俺の思う幸せを、押し付けていないだろうか。

全ての人が幸せになんて、理想に過ぎない。
それでも、そうあって欲しいと願い、行動することに意味があると思いたい。

それは直接的に「幸せにしたい」ではなくて、幸せを感じる為に、日頃の日常を大切にする手助けが出来れば、それは幸せに繋がるだろうか。
何気ない日常があるからこそ、些細なことでも人は幸せだと感じることが出来るなら、例え嫌なことがあっても、辛いことがあっても、それを乗り越えていけるのだろう。


「ね、道明寺。もしね、もし、これから赤札のこととか、そういう過去が世間に明るみに出て、万が一それで財閥の危機になったとしても、一緒に支え合って乗り越えていくんだよ。あたしだって五年間何もしなかったわけじゃない」

「そう、だよな。じゃなきゃ、ババアがお見合いなんて許すわけないか」

「そうよ!あたしを誰だと思ってるの?道明寺財閥会長の秘書よ?学生の頃から、ずっと会長に付いて回ってるあたしの人脈と信頼を思い知るが良いわ!」

あまりにも自信満々に言うから、思わず笑ってしまう。

「ほら、あたしといれば笑えるから、それだけできっと大丈夫よ!」



後悔ばかりの過去の俺に、ひとつだけ感謝するとすれば、あの時、高校生の牧野を助けたこと。

あれがなければ、今の俺はなかった。


牧野。
俺は、過去の自分のしたことを忘れない。
それを含めて、ずっと、ずっと、今の俺を見ていて欲しい。

毎日迎える俺の「今」を、ずっと側で見ていて欲しい。


きっとこれから先、幸せばかりじゃない。
辛いことも、悲しいことも、間違えてしまうことも、たくさんある。
でも、それも牧野と一緒なら。


手を繋いでも、見つめ合っていても、抱きしめていても、肌を合わせていても、それでもあふれ出るこの気持ちは、何と表現したらいいのだろうか。

あの冬の日に、この場所で初めて牧野と想いを交わした時にも感じた、あふれて収まりのつかない、好きとか愛してるなんて言葉でもない、この感情に名前はあるのだろうか。


いつか、その答えが解る日がくるのか、それを探しながら生きていくのも良いなと、隣で微笑む牧野を見ながら思った。













Take a look at me now. 36

Take a look at me now. 36







一頻り食べて満足したらしい牧野は、ソファに移って食後のコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れて飲んでいたが、さっきから隣に座る俺をチラチラと見てくる。

「さっきから何だよ」

「あ、あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、でも、あのー、話したくなければ話さなくても良いんだけど、えっと」

「何だよ、聞いてみないと分かんないだろ。なに?」

「あの……、赤札、のことなんだけど」


ドッと一瞬強く心臓が跳ねる。
話さなくて済むなら話したくないくらいに、一番知られたくない過去だった。
自分の知らないところで話されたいことではなかったが、もう既に数年前に知っていたと牧野は言っていた。
これはいずれ話さなければいけないことで、隠すべきことではないし、話す時期が早いか遅いかというだけのことで、それを知っても牧野は自分と一緒にいることを決めてくれたのだから、不安に思うことはないはずなのに、それでも過去の自分のしたことが、こんな風に未来の自分に降り掛かって来ることになろうとは思っていなくて、そんな過去の自分を知っても牧野は俺を、


「……道明寺!大丈夫?嫌なら話さなくても、」

黙ってしまった俺を、心配そうに牧野がのぞき込んでいた。
しっかりしろ。
俺はもう、牧野を離さないと、決めたんだから。

「いや、大丈夫だ。何が、聞きたい?」

「あの、なんで、改めて謝罪に行こうと思ったのかなって……」

「それは……、きっかけは類の言葉だったんだが」

話すなら、全て話さなければならない。
牧野の知り合いにも俺のしたことが知られているなら、いずれは牧野の耳に入る。それなら、自分から話すべきだ。
俺の側に牧野をいさせるなら尚更、話しておかないといけない。
もうこれは、避けて逃げたりしてはいけないことだと、分かっている。


「……類が、牧野は理由もなく暴力を振るったり、イジメをするやつは嫌いなんだと、言ってた。それを聞いたのは、滋が初めて牧野を俺たちのところに連れてきて、しばらく経った頃だったと思う。
その時は牧野が好きとか、そう言う気持ちはあやふやで、それでも牧野になぜか嫌われたくないと思ったのを覚えてる」

「……うん」

「あの頃の牧野は、とにかく顰めっ面ばかりを俺に向けてたから、それが気になってた。愛想笑いしたりとか擦り寄ってきてベタベタと触ってくる女たちとは全く違ってて、そんな顔をあからさまに向けてくるのは牧野が初めてだったから余計に気になってたな。だから、俺が知らない間に牧野に嫌われるような何かをしたのかと、そればかり考えてた。
はっきり牧野が好きだと思ったのは、あの夏休み前の図書館裏で牧野を助けた時」

「えっ、そうなの?!」

「あの時、牧野は俺たちの家を「そんなもの」って言ったんだ。それを聞いた時に牧野が好きだとはっきり思ったのと同時に、初めて自分の過去を後悔した」

今まで後悔なんて知らずに生きてきたから、あの時は少しだけ落ち込んだ。

「牧野の真っ直ぐなきれいさに惚れた。だけど、同時にこのままでは牧野に正面から向き合えないと思った。それまでの俺は、とてもじゃないが牧野に好かれるような人間ではなかったから」

「……そんなことないと思うけど」

「そうだったんだよ。高校生の頃の俺は、人を殺したとしても何の感情も湧かないような、そんな人間だったから。……前に、牧野に俺の存在理由の話をしたのを覚えてるか?」

「道明寺がNYへ行く前の、この部屋で話したこと?」

「そう。それが分からなくて小学生か中学生くらいの頃から毎日イライラしてて、殴って蹴って誰かを傷付ける。そうすると、俺も痛いんだ。その痛みで自分は生きてるって実感してた。それでまた何で生きてるんだろう、なんの為に、俺はいるんだろうって虚しくなって、その繰り返しだったんだ。
いま考えれば、ただのガキの反抗期のような、親に少しでも気に掛けてもらいたいってのもあったんだろうなと思うが」

「美作さんたちも言ってた。道明寺ところは親子でも、年に数回会うか会わないかだって」

幼い頃から両親は仕事に忙しくて、いつも家にはいなかった。タマと姉ちゃんが側にいたけど、いつだって本当に側にいて欲しかったのは……、両親だった。

「あのね、あたしも少し調べたの。存在理由って何だろうって調べたら、存在意義っていう言葉が出てきた。存在意義なんて気にして生きてきたことなかったけど、その存在意義が分からなくて、人によっては暴力に走ったり、自殺したり、殺人までしてしまうこともあるって」

「まさにそれだな。他人から見た俺に対する存在意義と、俺自身が感じる存在意義の乖離が大きすぎて、生きる意味さえ分からないこともあった。それを赤札なんてことをして、発散してたんだ。
でも、俺が何をしても親は仕事優先で来なかった。全て金で解決だ。警察すらも動かせるんだからな。それが当たり前になると、自分がその力を持っていると勘違いした。俺は、何をやっても許されると」

やって良いことと、悪いことの区別がつかないほどに、荒れていた。

「でも牧野に会って、牧野に惹かれていく自分に気がついた時、初めて赤札なんて馬鹿なことをしたと思った。
もし牧野が英徳高校に通っていて、この赤札の対象に牧野が選ばれていたら?お前は三条や滋を助けたみたいに、誰彼構わず困ってる奴がいたら放っとけないだろ?だから、いつかきっと赤札を貼られた奴を助けるかもしれない。
その時、高校生の頃の俺だったら、そんなお前にムカついて赤札の対象にして、まわりの奴らにイジメさせて、俺はそれを見て楽しんでいたと思う」

「……うん」

「それを想像した時にやっと、俺はやってはいけないことをしていたのかと気が付いて、後悔した。そして、牧野を好きだと自覚した時も、牧野との将来を想像したらゾッとするような、身のすくむような感覚になった」

「こわくなったってこと?」

「そう。もし、この赤札を貼られたのが、俺と牧野の子どもだったら?俺は、自分がしたのと同じことを、自分の子どもにされて傷付く姿を見たら、絶対に、他の何を以てしても絶対に許せないと、思ったんだ。
……その時に、俺が今まで赤札を貼って暴力を振るって傷付けた人たちは、誰かの大切な人なんだって、傷付けていい人なんて誰一人いなくて、誰もが誰かに大事に大切にされている、誰かなんだって、」

道明寺が静かに一つ、息を零したのを見て、思わず道明寺の手を取り握った。
あたしに一瞬視線を向けたけど、すぐに下を向いてまた話し始めた。


「成人になる歳で、少しずつでも仕事を始めていたのに、その歳になるまでそんなことにも気付けなかった俺は、初めて自分を恥ずかしいと思ったし、そんな自分を責めた。
そう思ったら、もう牧野に想いを伝えることすら烏滸がましい気がして、出来なくなった。俺はそれまで全てを周りのせいにして、俺自身は何も行動せずに、親の権力を笠に着た世間知らずのただの馬鹿な男だったんだから。
それなのに、牧野はそんな俺を、優しい人だと、言ったんだ。そう思ってくれている牧野を裏切れないと思ったし、そういう人に、今からでもなれるのかって、」

「……道明寺」

「もう、許してもらおうとか、そんなんじゃなくて、ただ、誰かに大切にされている人を、その人を大切に大事にしている人をも傷付けたことを、謝りたかった。
それに自分で謝ることもせず、親の金で解決した気になってた俺は、もう誰かを大切に思う権利すらないと思った。
それでも牧野を好きになるのを止められなくて、早く、早く牧野が欲しいって思ってしまう自分もいて、せめて全ての人へ謝罪が終わったらその時はって思うのと、その自分の気持ちの為に謝罪をしてるわけじゃないのに、そう思ってしまうことへの罪悪感とで、そんな自分を牧野には見せたくなくて、忙しいって言い訳して大学に行かないこともあった。
……赤札を貼った全ての人に謝罪して、それが終わった時、みんなが俺の謝罪をどこまで受け入れてくれたのかは分からないけど、やっと、牧野に想いを伝えても、良いんじゃないかって、俺にも、……大切にしたい人がいても、許されるだろうかって、」

ずっと俯いたまま話していた道明寺の目から、一つだけ涙が零れたのを、見てしまった。
咄嗟に道明寺を抱きしめれば、その大きな体は微かに震えていて、あまりにも、どうしようもなく胸が張り裂けるみたいに苦しくなる。
これ以上道明寺に話をさせるのが辛くなってしまって、さらに強く抱きしめた。


「道明寺、分かったから、もう分かったから……っ!」

「いや、これは、話さないといけないことなんだ。いくら謝罪しても、もういいと許されても、俺はこういうことをしてきた人間だったんだと、忘れたらいけない。それは、これから一緒に生きていって欲しい牧野にも、知ってもらわないと、いけないことなんだ」

「道明寺……!」

「牧野に、初めて好きだと言った時から、牧野は俺の冗談だと思って聞いてただろ?だから、いくら謝罪が終わったからって、それは自分の自己満足でしかなくて、こんな中身のない薄っぺらくて、親の金で大学に行って守られてるような俺は、身一つで家族を支えながら特待生として必死に頑張ってる牧野には、相手にもされないんだって思ったよ。
でも俺が側にいて牧野が笑ってくれるようになってから、ずっと牧野の笑顔を見ていたいって、一緒に同じもの見て、感じて笑い合えたら幸せだろうって、牧野のこの笑顔を守りたいって思った。
……そう思った時、誰かを好きになって、大事に大切に思う気持ちがこれかって。
俺にとって牧野は、いつだっていろんなことに気付かせてくれる、そんな存在なんだ。きっと誰しもそう思う人がいて、それを知らなかったから傷付けていいなんてことも、それで済まされるようなことでもなかったんだ」


赤札の話を聞いた時、本当に道明寺がそんなことをしていたのかと、信じられなかった。
助けてもらった時からずっと、この人はあたしには優しかったから。
でも、まさかその後すぐに同窓会で、また道明寺の話を聞くことになるとは思わなかった。あの赤札の話は本当で、道明寺は、そういうことをしてきたんだと認めざるを得なかった。
その同級生の仲の良いお兄さんと道明寺の間にどういう会話があったのかまでは分からないけれど、そのお兄さんは道明寺を許したと、でもその謝罪が本物かどうかずっと見ていると、言っていたと聞いた。

あたしの知る道明寺は、ほんの一部で、もちろん他人の全てを知って理解することなんて出来ないのは分かってる。
でも、NYに行く前に聞いた道明寺の存在理由の話と、その謝罪の話を合わせた時、きっと道明寺の中で何かがあって、お金では何も解決出来ないこと、悪いことをしたら謝らないといけないこと、なにより、どんな理由があっても人を傷付けてはいけないことを理解していると思った。
だって、そうでなければ誰かに優しくすることなんて出来ない。

だから道明寺を信じてみようと、近くで誰かが信じてくれていると知れば、もうそんなことはしないと、道明寺なら大丈夫だって、思ったから。


「道明寺、NYで会った時には、もう赤札のことを知ってたの。過去のことも、謝罪のことも。それでもあなたを好きなことをやめなかったのは、あたしの言葉をずっと、約束を守ろうとしてくれてるのが分かったからだよ。道明寺は、道明寺自身の力で人を守れることを知ったんだもん。もう二度と同じことはしないって、信じてたよ。
どんな過去があっても、その過去に、罪に、ちゃんと向き合って、それでも大事な人たちを守ろうとしてる道明寺を知ってるから」

「牧野、俺は謝罪はした。でも、それで終わりじゃなくて、これから先も、ずっと背負っていかなければいけないことなんだ。誰かを大切にしたいって気持ちを知った今だから、その過去に犯したことの重さを忘れたらいけない。
それに、いつか俺のしたことが世の中に明るみに出た時、きっと世間は俺を許さない。もし、そうなった時は、」

「道明寺。あたしは、ずっと道明寺と一緒にいるよ。道明寺が何と言おうと、何があろうと、一生側にいるって決めたの。道明寺だって、そうでしょ?」

「牧野、」

「あたしは雑草のつくしなの。雑草はね、何度踏まれても、また起き上がれるんだよ。これから先、何が起こっても、世間から責められることがあったとしても、あたしが隣で起き上がって道明寺を支えるから。
言ったでしょ、知ってたよって。知っても尚、あたしは道明寺を選んだの。そんな覚悟もなしに、おばさまにお見合いさせて欲しいなんて頼まないよ。昼間は道明寺に拒否されたって勘違いして、ちょっと一瞬挫けかけたけど、道明寺が一緒にいてって言ったんだよ。一生覚悟しろって、二度と離さないって言ったんだよ……!」

抱きしめていた道明寺の体を離して顔を見れば、なんて情けない顔。


「大丈夫だよ、道明寺。今の道明寺は、みんなに愛されてる」














Take a look at me now. 35

Take a look at me now. 35







ふと目が覚めると、目の前には道明寺のきれいな寝顔があった。
起きてすぐに道明寺の顔って!心臓に悪い!

ドキドキしつつも初めて見る寝顔に嬉しさが込み上げてきて、まじまじと見てしまう。
長い睫毛に、高めの鼻は鼻筋も真っ直ぐで、薄めの唇も触れると意外と柔らかいことを知った。
同じ人間なのに、こうも作りが違うものかと感心してしまう。
その唇に、ほんの少し指先で触りながら、その柔らかさを確かめるようになぞってみる。
この唇があたしにキスをして、それから、それから……。

恥ずかしい!思い返すだけで恥ずかしい!
まともに道明寺の顔を見ていられなくなって視線を下に向けてみれば、道明寺の厚い胸板が目に入る。
ということは、あたしも……、まだ裸だー!

これ、道明寺が起きた時、まともに顔を合わせる自信がない。
恥ずかしすぎて、苦しい。
世の中の女の子はハジメテの後を、どうやって過ごしてるの?
うっかり寝ちゃうってありなの?!
あとで起きても恥ずかしいけど、先に起きちゃっても、どうしたらいいのか分からない。

待って、待って。一回冷静になって、つくし!
落ち着け、落ち着く為には、そうだ。
仕事のことを一回考えよう。
会長のスケジュール、スケジュールは……、


「くっ……」

く?
え、あたし何か喋った?

「……まきの」

道明寺が起きてる……?!
うっそ、いつの間に起きてたの?!
道明寺は体をたまにピクリと震わせながら、くっくと声を出しながら笑っている。
恥ずかしくて、顔が、あげられない。

「そんなに、俺の唇が、気になる?」

ひっ……?!
い、いつから起きてたの、この人!

「うっかり、寝ちゃったんだ?」


『愧死(きし)〘名〙 恥ずかしさの余り死ぬこと。また、死ぬほど恥ずかしく思うこと。』


知識としてこの言葉を知ってはいたけど、これを自分が、いま、体験することに、なろうとは。

「へぇ、んな言葉あるのか。牧野、冷静じゃん。そんな言葉が出てくるくらいなら、まだイケるな」

えっ、なにがイケるって?!

「お前のそれ、癖なの?」

くせ?何が?それ?!

「ひとりごと」

「えっ、声に出てた?!どっ、ど、どこから、」

「恥ずかしすぎて苦しい。ハジメテの後って……ぐ」

声に出して言わないでよ!
なに?!全部、口から、漏れてたの?!
全部じゃん!ほぼ全部聞かれてる!
道明寺家でレッスンを始めた頃から、ひとりごとを言う癖も直したはずなのに。
それ以上はとてもじゃないけど聞いていられなくて、慌てて道明寺の口を片手で塞ぐ。

「……ぎゃ!ちょ、舐めないでよ!」

口を塞いだ手のひらを舐められて、くすぐったさに手を引っ込めると、ギュウッと抱きしめられた。

「牧野」

「な、なに?!」

「牧野」

「……道明寺?」

「ごめんな」

「もう!今度は何のごめんなの?」

「……もう一回」

意味が分からなくて、もう一回って何のもう一回なのか、今この状況でもう一回って言うと、うーん?今の会話をもう一回?
そんなの羞恥プレイもイイとこだわ!

「なんなの?なにをもう一回でごめんなの?」

「あのな、これからはずっと一緒にいるつもりだし、お前がさっき初めてだったのは知ってるし、無理をさせるつもりもねぇんだけど。俺、何年間お前に待てって言われたか知ってるか?」

「な、あの、なにを、何の話……?」

「とぼけんなよ。ここまできて分かんねぇなんてことないだろ」

「あ、あの、ちょっと、しんどいかなって、思うんだけど」

「むり。かわいいこと言うお前が悪いんだから、仕方ない」

そんなの理由になってないって思うし、足の関節も少し痛い。
でも、これからはずっと一緒にいても良いんだって思ったら、とりあえず今はこのまま肌を合わせる気持ち良さに身を委ねてみても良いかもしれないと、道明寺にギュッと抱きついた。

抱きついた時に道明寺の肩越しに見えた、夜景。
前にここへ来た時、もう二度とこの夜景を見ることはないと、見るとしても道明寺以外の誰かと見るんだろうかと思ったことを、ふと思い出した。

世界の違いに悲しくなった、あの日。
そして、道明寺を待たないと決めた、あの日。
その道明寺と、こうして一緒にいられる、今。

「道明寺、好き」

そう言うと「やっぱり牧野が悪い」と言ってキスをしながら、またあたしの体を優しく撫でるように触り始めた。






ーーーーーー

「道明寺のばか!」

「あのな、俺様に馬鹿なんて言ったやつ、牧野が初めてだからな」

「うっさい!ばか!全然優しくない!」

「優しいだろ。動けなくなるまでヤッたのは悪いと思うけどな、だから今は飯食わせてやってんだろ」


数年振りに好きな女に会って、それが見合いの席なんだから我慢することもないし、牧野も良いって言った。
それでも、初めての女に日も明るいうちから、ここまでさせたのは申し訳ないと多少は思ったし、ベッドから動けなくなった牧野を風呂まで運んでやり、暴れる牧野を洗ってやって、恥ずかしがる牧野が可愛すぎるから仕方なく、もう一回シタのも悪かったと思ってる。
だから今は遅くなった夕飯を、ベッドの上で牧野に言われるまま口に運んでやってるところで。


「次!お肉食べたい」

「おう」

牧野に言われるまま、指定されたものを口の中に入れていく。
口に入れると途端に美味しいと言い幸せそうな顔をするから、こっちまで幸せな気分になってくるから不思議だ。

「何これ!おいしー!これ、どこのお肉かな?ねぇ、ルームサービスとブライダルで出すコース料理って違うところで作ってるの?ペナントで入ってるお店は独立した厨房あるから違うのは分かるけど、直営は同じなの?上のレストランは?こっちとは別?」

「何でそんなこと気にする?」

「これがルームサービスだけなら、もったいないと思って!ここのホテルのブライダルって、女の子憧れの式場なんだよ〜。自分で式が挙げられなくても、ここでの結婚式に呼ばれるのも嬉しいんだって。ホテルの式場って料理がイマイチだったりするけど、ホテルメープルは料理も最高って評判なんだけどね、ちょっとお値段がね〜」

「こういうのは値段なりのもんだろ」

「そうなんだけどさ、ここは少人数向けのプランが少ないんじゃなかった?今のあたしたちの世代って、そこまで結婚式にお金かける人は少ないよ。そこで使うなら貯金にまわそうとかね。でも、身内だけとか、親しい人だけとかで結婚式挙げたい人も一定数はいるよ。それこそ、二人きりの結婚式とかでも素敵よね〜。次、これ!」

結婚式の話になった途端に、めちゃくちゃ話す牧野。
とりあえず指定された次の料理を口に運んでやる。

ホテル関連はババアの管轄だが、ブライダルの内容一つ一つを把握していることはない。
最終的な数字はもちろん牧野も秘書だから情報として持っているだろうが、ホテル経営は宿泊やブライダルだけではない。
コンベンションセンターのケータリングもしているし、ホテルオリジナルの菓子や惣菜などの外販、ホテル内のテナントオフィス契約から所有する全てのホテルメープルの不動産管理に開発などなど多岐に渡っていて、意外と規模がでかい。

「ルームサービス、レストラン、ブライダルは全部それぞれ独立した厨房がある。直営のレストランだけで五つ、バーにラウンジもあるからな。メニューも作る時間と量もそれぞれ全く異なるから、同じところでは作れない。
シェフも厨房スタッフもそれぞれ別だし、直営だけで言うなら下拵えや仕分けだけをするセンター調理場もあるし、ベーカリーとペストリーも調理場は別けられてる。配膳スタッフはたまに足りないところにヘルプで出ることもあるらしいけどな」

「へぇ〜、違うのかぁ。じゃあ、食材もそれぞれの仕入れってことだよね。なんか残念。これ、ルームサービス頼まないと食べられないんだね」

「ルームサービスって言っても普通はタダじゃねぇからな。このメープルはスイートとシングルの部屋とじゃルームサービスの料理メニューも違う。それなりに料金を払ってる客だから、これが食える。まぁ、特権だよな」

「こういうの、ブライダルのプランの中に入れられたら更に特別感が出て良いのにねぇ。もうあるのかなぁ?あとで調べてみよ」

結婚式の話かと思えば、結局は食べ物の話か。
牧野はいつでも色気より食い気だなと見ていて面白いし、そんなところも可愛らしいと思うのは惚れた欲目だろうか。

「俺らが結婚するとなると、式や披露宴なんかは思い通りにやりたいようには出来ないだろうな」

「えっ、結婚式?!あたしたちの?!」

「なに驚いてんだ?」

「いや、スケジュール的に出来ないかなって思ってたから……」

「そうだな、今から準備まで含めたら一年以上は先になるだろうが、やらない選択肢はない。流石にこれだけ大きい会社だと、いろんな柵があるからな。特に披露宴なんかは招待客やら何やらはババアが決めるだろうから、一切の口出しは出来ねぇと思うぞ」

「あっ!ねぇ!あたし本当に道明寺の秘書やるの?!いつから?流石に明日からは無理よね?会長のスケジュールだと明日またNYに帰るんだけど」

そうだった。
こいつがいつから会長の秘書をやってんのか知らねぇけど、会長は日本に帰国した俺と入れ違いでNYメインで動いてる。
俺の秘書をやるにしても、引き継ぎだの何だのあるだろう。

「一週間」

「一週間だけ?!」

「一週間で全部向こうの仕事、全部引き継いでこい。会長と社長の秘書が入れ替わるだけだから、それで足りるだろ。あと、今お前が言ったホテルメープルの結婚式。まずは身内と親しい友人だけの少人数向けと、二人きりの結婚式だったか?今あるプラン調べて、それと被んねぇように素案で良いから作ってみろ」

「えっ、それも全部一週間で?」

「足りるだろ?別にプランニングしろとは言ってねぇし、牧野がやってみたい結婚式で良いから」

「え〜、うーん、出来るかなぁ」

「出来る出来る。ほら、次これ食え」

そう言いながら、また次から次へと牧野の口へと料理を運んだ。













Take a look at me now. 34

Take a look at me now. 34







ついさっきまで、あたしが道明寺に今までのことを怒って言っていたはずなのに。
いつの間にあたしが責任を取るなんて話になってるの?
365日24時間秘書ってなに?どういうこと?

それに、この人は、本当に道明寺?
今までちょっと乱暴だったり強引だったりすることはあったけど、ここまで口を挟ませないほどに事を運ばれたのは初めてで、だからって、まだ何も話してないのに!


「ちょ、ちょっと待って!」

「お前、いい加減にしろよ!待て待てって俺は犬じゃねぇんだよ!ここまできてやめられるか!」

「だって!」

「だってもクソもねぇ!」

「まだ何にも話してないじゃない!」

「話ぃ?!この状況で、どうしても今しなきゃなんねぇような大事な話なんだろうな?!」

体は道明寺に上から跨がれてて動かせないし、両腕も強い力でベッドに縫いとめられていて、身動きが取れないし、道明寺はずっとあたしを睨んでいる。
話、ほら、何の話だっけ?!
話したいことも 聞きたいこともたくさんあったはずなのに、道明寺が畳み掛けるように話すから、何を聞きたかったのか咄嗟に思いつかない。

それに、三年振りに、こんな近くに道明寺がいて。
あの目が、あたしをずっと見ているから逸らせなくて、ただ見つめるだけになってしまいそうになる。

「せ、責任で、結婚したくない!」

「それとこれとは別だろ。結婚は結婚、今はお前が俺の浮気を疑って、もう忘れてやるとか言った挙句、俺の愛を軽いって言った責任の話だろ。話を逸らすな」

「秘書!秘書替わるなんて、あたし認めないから!」

「お前もしつこいな。さっきババアに電話してたの隣で聞いてただろ。それに、そもそもお前に人事権はねぇから認めるも何も上司命令だ」

「横暴!職権乱用!」

「るせぇな。他には?あとで言われても、もう聞かねぇぞ!」

「他に?!あとは、あとは、あっ、本当に他に女の人がいないか分かんないもん!道明寺がそう言ってるだけで、」

「類」

「えっ?類?」

なんでここで類の名前が出てるわけ?!
道明寺はずっと睨んでくるし、今は道明寺の話をしていたのに、どうして類の話になるのか、さっぱり分からない。

「お前、類と本当に何もなかったのか」

ムカつく。
なにこの男。

「あるわけないでしょうが!」

「キスの一つも?」

「それは……っ!」

「俺は、お前にやましいことは何一つないけどな。まぁ別に俺らは付き合ってたわけじゃねぇし?お互いとやかく言うこともないだろ。なんで俺だけ責められるわけ?」


それは、そうだけど……!
一度だけ、本当に一度だけ、不意打ちで類にキスをされたことがある。
掠めるような、触れたか分からないくらいの。あたしの意思も確認せずに不意打ちでしてきた類に怒って、一ヶ月は口を訊かなかった。
さすがにそれが堪えたみたいで、それ以降は好きだの何だのストレートに言ってくるようになったんだけど。

「へぇ、本当に類とキスしたんだ?」

思い返していたら少し沈黙してしまった。
ほんの数秒のはずなのに、それが本当だと確信を持つには十分な時間だったようで、道明寺の声が、さらに低くなった。

「あ、あれは、あたしの意志じゃない!類がいきなり……!」

「マジかよ。お前、何やってんの?それでよく俺に他に女がいるとか言えたな?」

「だから!あれはしたくてしたんじゃないし、触れたかどうか分かんないくらいの……っ!」

戸惑ってるうちに、いきなり唇を塞がれ、何かを確認するように口の中を余すところなく舌で探られる。
こんなキスはNYで道明寺と会ったとき以来で、あの時はどうやって呼吸をしてたのか思い出せない。
体も腕も抑えられたままで、もう今さら抵抗なんてしないけど、ただひたすらに受け止めるので精一杯で、でも苦しくて。
だんだんと頭がぼんやりとしてきたところで、やっと解放された。
いきなり何をするのかと文句を言ってやりたいけど、息が上がってしまっているから呼吸を整えつつ目を開けると、道明寺と目が合った。

なんで、そんな泣きそうな顔をしているの。

そう聞く前に道明寺に強く抱きしめられて、そんな顔を見たのは一瞬で、すぐに見えなくなってしまった。


「牧野」

「道明寺……?」

「会いたかった……」


さっきまでの勢いと、激しいキスとは全く違う、切実な、儚いほどに弱気で、小さく呟やかれた声。
本当に、心から会いたかったと思ってくれていたと確信を持てるような、あまりにも切ない声色に、胸が痛くて苦しくなって、一気に感情が押し寄せる。
目に涙があふれて、まわりの景色が滲んで見える。

手を伸ばして道明寺の背中に回して、強く抱きしめた。
この背中には、一人で支えるには重すぎる程にたくさんのものを背負っていることを、あたしはもう知っている。

バカは、あたしだ。


「道明寺、……ごめん、ごめんね……!」

「まきの……?」

「あたしも、会いたかった……!早く、道明寺に会いに行けばよかった……!」


道明寺は、あたしと話したことを忘れないでいてくれた。
誰かを幸せにしてあげてと、たくさんの人に愛されてと言った、あたしの話を、ずっと。

道明寺はいつでも、あたしのことを考えてくれていて、あたしとの約束を守ろうと頑張っていたのに。
彼の言う通り、あたしは自分のことばかりで道明寺を不安にさせるようなことをしてしまった。

時差とか、距離とか、道明寺がどれだけ忙しいのか分かっているから仕方ないとか、恋人じゃないからとか、そんなの関係なくて、ちゃんと話をすれば良かった。

きっとこの人は、あたしが幸せならと、類とのことも聞けなかったのだろう。
道明寺を傷付けたいわけじゃなかったのに。

あたしは、道明寺の側で、道明寺の隣に立って、道明寺と一緒に幸せになりたい。
そう思ってやってきたのに、一番に話すべき人に話さなかった。
いつでも、どんな時でも優しいこの人に、あたしはなんてことをしたのか、後悔してもしきれない。

迎えに来てくれないなんて言ってないで、道明寺のところに行きたいと、会いたいと思った時に行けば良かった。
今まで、たくさんのものを一人で背負ってきた道明寺を、そんな彼を支えたいと思って今までやってきたのに。
それなのに、あたしは彼に何て言った?


あたしは、本当に馬鹿だ。
なんで、どうして彼を責められる。


「ごめんなさい……!類のことも留学のことも、就職のことも何もかも、あなたに話せば良かったのに、不安にさせて、諦めさせるようなことをして、ごめんなさい……!」

「牧野、俺はずっと、ずっとお前だけなんだ」

「道明寺、あたしもずっと道明寺だけ。今でも、ずっと道明寺だけだから……!」

「牧野」

ずっと抱きしめたままだった道明寺は、頭を上げてあたしを見ると、目尻から零れた涙を掬うように唇で吸い取っていく。
そして手を頬に当てて輪郭をなぞるように優しく撫でる。


「牧野。もう、離せないからな。お前が、何て言おうと、俺はもう牧野を離すつもりはない」

「うん……!」

「ちゃんとついてこいよ。365日24時間だからな」

「うん!」

「牧野、愛してる」


あの時に待ってると言えなかったあたしが、すぐに返せなかった言葉。
知識も教養も自信も何もなくて、道明寺の側にいることすら躊躇った学生時代。
あれからあたしは会長の秘書をやるまでになった。

全ては、道明寺があたしを助けてくれたところから始まった。
大学で再会したこと、その夏に道明寺のお母様を助けたこと、そんなあたしをお母様が気に入ってくれたこと。
そして、そこで身につけることが出来た知識と教養と、立場。

巡り巡って全てが繋がるこれが運命なら、この先訪れるだろう幸も不幸も、この人と一緒に分かち合いたい。

そして今なら、自信を持って言えること。
軽くなんてない、こんなに大きくて重いもの、二人じゃないと抱えきれない程に。


「あたしも、愛してる」








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