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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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All you need is love. 8


All you need is love. 8





「おまえさ、ちゃんと分かってんの?」


話し始めたのに途中でボロボロと泣き出したあたしに、道明寺がムッとした顔で聞いてくる。


分かってるよ。私が悪かったって。

分かってるから。

5年間、いや、その前からずっと。


道明寺からの連絡を待つばかりで、あたしから連絡しなかったこと。

道明寺から連絡がないからって、あたしからではなくF3に連絡させたこと。

それに就活も、就職も、何もかも。


道明寺に何一つ連絡することなく、全部一人で決めてた。


バカだよね。道明寺と一緒にいたくて頑張ってたのに、本人になんの連絡も相談もしないで、なんでいつまでも道明寺からの連絡を待ってたんだろう。

道明寺に愛されてるって妙な自信があって、アイツはあたしを見捨てないって、どこかで思ってた。

5年間、道明寺に好きの一言すらも言わなかった。

それなのに、いつまでも道明寺が好きでいてくれると思ってるなんて自信過剰もいいところ。

そりゃフラれるし、別の誰かと婚約だってするよ。

挙げ句の果てには、道明寺と再開したあの夜に誰とも知らない人と致してしまうし。


悔やんでも悔みきれないあの夜を思い出したら、ふと僅かに感じたあの部屋の香りが車内を満たしていることに気が付いた。




「この香り


ポロリとこぼれたあたしの言葉に、


「あぁ、俺のコロンか?高校の頃からずっと同じの使ってるからな。憶えてたか?」



え?


「え、っと。うん?」


少しばかり思考が停止してしまって、上手く言葉が出てこない。


道明寺のコロンの香り?



こっちの様子なんてお構いなしに、道明寺は話を続ける。


「それで。5年間連絡しなかった云々はもうどうでもいい。

それよりもあの日、何も言わずに勝手に帰ったのは何でだ?朝起きて、おまえがいなくてビックリしたぜ。」


はい?

5年間も連絡しなかったことが、どうでも良い?

あたしにはかなり重要度高め、いや、高めどころか最重要事項なんだけど!


あ。もう別の人と婚約してるんだから今さらどうでもいいってことか。


いやいやいや、ちょっと待って。

道明寺はなんて言った?


あの日って道明寺の帰国&婚約パーティーで泣いて帰った日のこと?だよね?

何も言わずに勝手に帰ったっていうのは、あのパーティーをした日しかないよね?


でも朝起きたらいなかった?朝?

5年以上は道明寺と一緒に朝を迎えるなんてしてないけど、そんな昔の話を今する?

いや、あの泣いて逃げた日と朝は繋がってる?


待って待って。

混乱してきた。

落ち着いてあたし。


訳分かんなくて涙止まっちゃったけど。

そんなまさか。


まずは確認。

仕事でもそうでしょ、確認は大事。



「あの日って?どの朝のこと?」








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All you need is love. 7

All you need is love. 7





昼休み。

噂を聞きつけた同僚や先輩社員たちに根掘り葉掘り聞かれたけど、支社長とはあくまで高校時代の先輩後輩の間柄なだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

本当に義理でパーティーには呼んでもらったけど、話すことなく終わったって朝と同じ説明をした。

本当は話すどころか、泣いて逃げたんだけど。


「連絡するなんて言われてたから、本当は親しいんじゃないの?支社長の連絡先知ってるの?なんで連絡してくるの?」

と聞かれたけど、


「忘れ物か何かしたかもです。支社長の知り合いか秘書さんから連絡するってことじゃないですかね?」


そんなことを言って適当に流した。

みんなあまり納得した感じではなかったけど、でももうこれ以上聞かれても答えようがない。


「なぁ〜んだ、支社長とお知り合いならF4の誰か紹介してもらったり出来るかなぁなんて思ったけど、そんな簡単じゃないか!」


そんなことを言いながら、先輩たちも元々そんなに期待してなかったのだろう。

まわりの人たちも時間を気にしてお昼ご飯を食べ始めた。



英徳出身なのにお金持ちでもない。服装も持ち物もブランドものではなく、いつもシンプルなものばかり。

仕事に真面目な牧野さんだから。

まさかF4とオトモダチなんて思わないだろう。英徳に通わなければ一生関わることのなかった人たちだ。

段々と道明寺とお付き合いしてたことすら、あたしの妄想だったような気もしてくる。


そこに同期の高橋さんが来て、「牧野さん!今度こそ合コン行こ!」ってまたしてもお誘い。



いい機会かな。場はどうであれ出会いって大切だ。

今までは全て道明寺との未来の為に脇目も振らずにやってきた。


でもそれももうおしまい。

夢を見ていた日々は、もう終わったのだ。



うん。いつも誘ってくれてありがとう。今回は参加してみようかな?」

「えっ、来てくれるの?!わぁ嬉しい!詳しくはあとで連絡するけど、来週の金曜日の夜だからね、残業しないでね〜!」


高橋さんは、あたしの両手を握ってブンブンと振りながら喜んでくれた。

合コン行くって言っただけなのに、こんなにも喜んでくれるんだ。

落ち込んでる今はそんなことで喜んでくれるなんてと、ちょっと救われた気分だ。



お昼ご飯もそこそこに午後も仕事。

今日も定時で退社。


さすがに法務部は労働基準法遵守で、普段からあまり残業はない。

お夕飯はどの作り置きを食べようかな、なんて考えながらエレベーターを下りると、エントランスホールがなんだかザワザワとしている。そのざわめきに特に興味を惹かれることもなく、そのまま社屋から出ようとしたら、突然腕を掴まれた。



ギョッとして、あたしの腕を掴んでる手を辿ってその人の顔を見れば、道明寺。


えっ。


なんでこんなところにいるの?


なんで腕を掴まれてるの?


なんでばかりが頭に浮かんでいて、気が付けば掴まれた腕を引かれてエントランスの車寄せに来ていたリムジンに放り込まれていた。


思わずため息が出た。

この強引さは昔と変わってない。今は道明寺の顔を見るだけでもしんどいけれど、会えたからには話をしたい。

こないだは泣いて逃げた感じになったけど。



今日何度目かの感情の昂りを抑えながら、気持ちを落ち着けようと窓の外へ視線を向ければ、窓ガラスに映る道明寺の視線とぶつかった。

咄嗟に何か言わなくてはと思って出た言葉は、


「御婚約おめでとうございます」だった。


それに対して道明寺は、

「おまえ何言ってんの?」だけだった。


ですよね。

元カノにおめでとうとか言われてもね。


「そんなことよりも!おまえな、なんでこの間は何も言わずに帰った?」


そんなこと?!

婚約って道明寺にとってはそんなことなの?


いや、違う。


きっとその人と婚約するのは道明寺にとって当然な流れで、とっくに別れてるあたしには関係ないことだ。

本人に言われるとズンと心くるものがある。


それでもあたしは、ちゃんと道明寺と話さなければいけない。

頑張れあたし。

ふぅと小さく息を吐く。



「あの、あのね。今さらかもだけど、道明寺に謝りたくてごめんなさい。今まで…5年も、本当に、ごめ





やっぱりダメだ。

ちゃんと話して、謝らないといけないのに。


やっと正面向かって道明寺の顔を見たら、やっぱり涙があふれて止まらなくなってしまった。







All you need is love. 6

All you need is love. 6





「初めまして、道明寺です」と挨拶が始まった。


法務部の仕事は契約に限らず株主総会からコンプライアンス、特許等も含めて多岐に渡る。

弁護士というと訴訟ばかりかと思いきや、インハウスローヤー(企業内弁護士)はやることが多い。あたしもある程度は知識としてあったけれど、働き始めてから法務部の仕事の多様さにビックリした。さすがは道明寺HD


法務部の中はそれぞれ業務内容によって、いくつかのグループに分かれている。

入社して何年かは色々なグループを順番に回って、様々な法務問題を学んでいく。

まだ入社して間もないあたしは、専ら先輩社員に付いて契約書類作成時の注意点を教えてもらったり、労務問題としてパワハラやセクハラなどの社員同士のトラブル解決方法など取引先と関わりのないところを見て回っている。


道明寺は支社長として、これから数多くの契約を結び、そしてこの会社で働く人たちの責任を担っていくんだ。

道明寺の挨拶が終わったのか、パチパチと拍手が聞こえる。 また物思いにふけってしまった。

仕事中に道明寺の顔を見て泣きそうになるなんて、社会人失格もいいところ。顔を見ないようにずっと下を向いていたから、てっきり道明寺はもう部屋を出たと思っていた。


そろそろ自分の席へと踵を返そうとしたら、目に入る高級ブランドの丁寧に磨かれた革靴。

ん?と顔を上げてみれば、目の前に道明寺が立っていた。


「おい牧野。お前、こないだはよくも逃げてくれたな」


こんなところで、こんな普通に声をかける?

確かに先日のお祝いの席で逃げたのは悪かったけど、今それを言う?


道明寺はジッと視線を逸らさず、あたしを見つめてくる。

まともに道明寺の顔を見ていられなくて、視線を横に向けてみれば、上司や先輩社員の目線があたしと道明寺に集まってる。


逃げ出したい。泣きそう。

どうしよう。

仕事中なのに、道明寺を目の前にして泣きそう。


いや、泣かない!あたしはもう泣かないの!


「え、と。その節は大変ご迷惑をおかけしました。あと、支社長御就任おめでとうございます」


こんなことしか言えない。でも言えた。

泣きそうだけど泣いてない。頑張ったあたし!


もう昔はどうであれ、今は支社長と一社員。

せめて社内では他人のフリをして欲しいと思うのはあたしのわがままか。


「今は時間ないからしょうがねぇけど、あとで連絡するからな。もう逃げんじゃねぇぞ」


道明寺はそう言い残して、秘書課の西田さんと法務部を出て行った。

西田さん道明寺の秘書になったのかな、なんてぼんやり思っていたら、ワッと上司と先輩社員たちに囲まれた。


「牧野さん!道明寺支社長とお知り合いだったの?!」

そう上司に聞かれれば、高校時代の先輩なのでと無難に答える他ない。 

今は確かに先輩後輩なんだし。


「この間はってなに?!会ったの?逃げたの?なんで?!」と先輩が息巻いて聞いてくる。


「はぁ、高校時代に少しお世話になりまして、その時に親しくさせていただいた先輩たちや後輩と、帰国と支社長就任お祝いパーティーにお呼ばれしたんです。」


嘘は付いてない。


それにしても道明寺!

逃げるなとか言ったから、余計に説明し辛いじゃないのよ!

本当は婚約お祝いも含まれてたけど、そこはあたしも詳しく知らないし、変に話して相手の御令嬢に迷惑が掛かっても大変だ。


その後も色々と聞きたそうにしていたけれど、とっくに始業している。

あとは昼休みにと、それぞれ席に戻って通常業務が始まった。






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All you need is love. 5

All you need is love. 5






道明寺HD日本支社。

入り口には多くの報道陣の姿があり、本当に道明寺司がこれからここで働くのだと実感する。
一会社の支社長就任にこれほど報道陣が集まることも、普通ではないだろう。

財閥の御曹司という立場に胡座をかくことなく、仕事においては卓越した経営センスを持ち、その実力を遺憾なく発揮しており、若くして日本支社長就任。
そしてその類稀なる美貌に惹かれる女性は多く、日本支社に勤める独身女性は、いつもに増して身だしなみに化粧にと念入りだった。

そんな中、つくしはいつも通りに出社する。
いつもと同じ薄化粧に、ネイルも派手でなくヌードカラーで、綺麗に揃えた爪先。
ブランドではないものの、清潔感のある服装にローヒールの靴。
そして艷やかな黒い髪の毛を後ろに一本縛っている。


真面目の牧野さん。

浮ついた話もないし、飲み会も女子会や部内の企画されたものしか出席しない。
合コンに誘われても行かない。

とにかく仕事に真面目な牧野さん。
今まではそれで良かった。

道明寺と一緒にいられるように、ひたすら真面目に仕事をしてきたのだから。
でももう合コンとか行っても良いかな。
フラレてたし。
酔った勢いとはいえ、知らない男と寝ちゃうし。

毎回断っているのに、いつも合コンや飲み会に誘ってくれる別の部にいる同期の高橋さん。
今度誘われたら行ってみよう。

しばらくは道明寺のことを忘れられそうにないけれど。



きのさん。まきのさん?」
隣の席に座る先輩に声をかけられて、少しばかり意識が仕事から離れていたことに気が付く。

「はい!すみません、なんでしょうか」

慌てて返事をしてみれば、もうすぐ支社長が挨拶まわりに来ると言う。

「牧野さんは新しく就任した支社長と会うのは初めてだよね?支社長が代わっても仕事内容が変わるわけじゃないし、牧野さんはまだ支社長と直接やりとりするような案件はないから、後ろのほうで話を聞いて頭下げるくらいで良いよ」

そう先輩に言われて、ホッとする。
思い出しては泣きそうなのに、挨拶しろって言われても出来なさそう。
いや、仕事だからしろって言われたらするけど、挙動不審にならないように気を付けなくては。




あたしの職場は道明寺HD日本支社の法務部。
弁護士資格を持っていても、新卒でインハウスローヤー(企業内弁護士)になるのはかなり難しい。
普通は法律事務所に何年か勤めて転職するのが無難だけれど、あたしはどうしても道明寺HDに就職したかった。
弁護士資格を取ったものの、もう道明寺HDに勤められるなら法務部でなくても良かった。
それでも運良く法務部に採用されたのは語学力のおかげもあっただろう。

大学在学中に美作さんには中国語と英語をビジネスレベルまで、類にはフランス語とドイツ語、イタリア語も少し教えてもらっていた。
海外企業との契約時は語学力がないと、どうにもならないからだ。
他にも個人面接やグループ面接なんかではコミュニケーション能力や協調性、情報収集能力なんかも見られるらしい。


道明寺のお母さんも特に何も言ってこなかったのは、もう息子とは縁が切れたと思われたのか、単に溝鼠には興味なかっただけか。
何にせよ念願の道明寺HDへの就職が叶ったあたしは、いつかの夢に一歩近付けたと無邪気に喜んでいた。

今になって考えてみれば、他にやらなければいけないことがあっただろ!って自分にツッコミ入れたい。
またしても物思いにふけっていたあたしは、先輩に肘で突かれてハッとする。

「牧野さん、道明寺支社長が近くにいるのに、あの存在感にも気付かず物思いにふけるなんてスゴイね」

嫌味なのか、単純に鈍感さを指摘されただけなのか。


いつの間にか道明寺が挨拶をしに、法務部の入り口に立っていた。
一瞬、目があったような気がした。
気がしたのは、ただの願望だったのかもしれないけれど。






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All you need is love. 4


All you need is love. 4





二日酔いに痛む頭と、泣き続けて腫れた目で、今日が土曜日で仕事が休みで良かったと思った。


ホテルから出て駅に向かえば始発が動き出していて、すぐに電車に飛び乗って帰宅した。

また道明寺を思い出しては泣いてしまいそうだけど、泣くのは止めようと決めたんだからと気合いを入れる。


だって理由はどうであれ、頑張って、ひたすら頑張って資格を取って就職した。

今の仕事を選んだことに後悔はない。

恋に破れたけど、私には仕事が残ってる。

まだまだ下っ端で、大きな案件なんか夢のまた夢だけど、今はとにかくコツコツと経験を積ませてもらうことに専念しよう。


それでも土曜日は頭痛は酷いし、気持ち悪いし気分も最悪だったから一日中ベッドでゴロゴロして過ごした。

日曜日は、また明日からいつも通りに1日を始める為に、休みの日のルーティンを熟す。

掃除洗濯、買い物をして、一週間分のおかずの作り置きをする。

仕事の予習も忘れずに。経済紙を読むのも、いつの間にか慣れた。



道明寺と連絡のなかった5年間、ゴシップ誌ではアイツの熱愛や婚約間近かなんて記事もあったみたいだけど、そういうのは読まなかった。

読んでいたのは、経済紙。

経済紙は道明寺の関わる仕事の功績を知る手段だった。

連絡がなくとも道明寺との未来を信じて疑うことのなかったあたしは、いつか自分の力で道明寺の隣に立ち、自信を持って一緒にいられる日を夢見ていたのだ。


そう。夢を見ていた。


一人で、道明寺を置き去りにして。


また涙があふれそうになるのをグッと堪える。

今日は早く寝よう。

だって明日は道明寺HD支社長就任が決まって初の、本社出社日。

きっと主要部署には挨拶回りに来るはず。


これからはもう道明寺の隣に立つことはないけれど、支社長とは一社員として関わっていくのだから。








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All you need is love. 3


All you need is love. 3





なにがどうしてこうなった。



ガンガンと痛む頭に意識が戻り、薄っすらと目を開けて見れば、そこには男の分厚い胸板。

正面から体に腕をまわして抱きしめられているようで、身動きが取れない。



どういう状況なのか。これは酔った勢いでってやつか。

まさか自分がそんな経験をするとは。

全くなんにも微塵たりとも思い出せない。



道明寺とは、それこそ連絡が取れなくなる前だけど、何度か会える機会があった。

まぁその時にそういう身体を重ねることもあったんだけど。


ただ、最後はもう5年以上前の話だ。

もう初めてではないし、純潔がどうのこうのと言うつもりもない。

純情ぶるつもりもない。


だから経験が少なくともこの身体の違和感は多少なりとも分かる。



これは致している。



もうここからはパニックで、お酒を飲んで記憶を飛ばすのも初めてだし、起きたら知らない場所だったなんてことも初めて。

そしてもちろんあたしも裸のままで、相手も裸と思われる。



この人は誰?!なんで?!どうして?!の疑問ばかりで痛む頭に身動きも取れなくて、訳のわからない状況で。

焦る心で体を少しばかり動かしてみたら、あたしを抱きしめている腕が僅かに緩んだ。


その隙に脱出を試みる。

ギュッと抱きしめられていたのに、するりと体を反転させて抜け出せたことにビックリしたけれど、そんなことを気にしている場合ではない.

これはラッキーとばかりに、そこからは、とにかく後ろを振り返らず、とりあえず目に付いた自分の衣類を引っ掴んでバスルームへ。

下着のパンツが見つからなくて、でもベッドルームに戻る勇気もなくて、スカートの中がスースーしてるけど諦めて静かに部屋を出た。



部屋を出てすぐに、ここがメープルホテルの中だと分かった。

道明寺との初めてはメープルホテルの一室だったから。

その時のことを思い出して、我慢していた涙が少し出た。



バカなあたし。


お酒を飲み過ぎて、誰とも知らない人と体を重ねてしまった。

道明寺に会って、ひと目見て。声を聞いた。

ただそれだけで泣いてしまった自分に、やっぱり道明寺が大好きなんだと思ったばかりなのに。


帰り道、洋服に僅かに付いた部屋の香りに、どこか懐かしさを感じたものの、ひたすら5年前のあの時からの後悔ばかりが心を占めて、懐かしさなどあっという間に消え去った。



やっぱり道明寺を思い出すと涙が出た。

もう泣かないと決めたはずなのに。









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All you need is love. 2

All you need is love. 2





数日後、道明寺が帰国したのをテレビで知った。

帰国することすら、連絡がない。


そして、支社長就任&婚約おめでとうパーティーがF3主催にて、いつものメンバーでいつものメープルホテルの一室で開催されることになった。


これもあたしに道明寺とは別れたんだという事実を突き付けられたようで、泣きたくなった。

F3が噂で動くことなんてない。


きっと道明寺本人に聞いたんだ。

あたしも問答無用で当然の如く参加することになっていて、今回は仕事が忙しいから無理って断ったけど、参加しない理由にはならなかった。

みんなあたしより忙しいんだもん。


行きたくなかった。

本当に行きたくなかった。


自分の道明寺にしていた行いが愚かで馬鹿すぎて、合わせる顔なんてなくて。


なんの為に勉強に試験、就活から就職まで頑張っているんだと、あの頃のあたしに叫び訴えたい。

報道を見てしばらくは、いつの間にか別れていた事実に打ちのめされて泣いたりもした。



でも自分が道明寺に何をしたのか自覚してしまうと、フラれるのも無理はないと、泣くことすらおこがましくて、

もう泣くのはやめようと決めた。

もう本当にこんなに自分に嫌気が差すことも、なかなかない。



今さら、どんな顔して会えばいいのだろう。

それに、元カノが元カレに「婚約おめでとう」って言うのってどうなの?嫌味っぽくない?

でも気にしないかな。

あの電話での最後の会話から5年も経ってるし、道明寺にしてみたら今さらだよね。

きっと気にしてるのはあたしだけだ。

何でもない顔をして、おめでとうって言うだけ。



当日、仕事を定時で終えて重い足取りで向かってみれば、道明寺は仕事の都合で予定より遅れて来るみたいで。

すぐに顔を合わせなくて済んでホッとした。

もう、おめでとうって言ったら、すぐに帰ろう。


まわりのみんなにだって、かつて散々と迷惑かけてたのに、結果がこれだし。

婚約おめでとうパーティーに元カノがいるって、気まずい事この上ない。

みんなもなんであたしを呼ぶのかな!


悶々としながら、話しかけてくれる滋さんや桜子に適当に相槌を打ちつつ、いつもよりハイスピードでお酒を飲んでいた。

お酒に弱いくせに、いつもの倍は飲んでた自覚はある。


類にも、ちょっと飲み過ぎとグラスを持つ手を押さえて止められた、その時。



道明寺が来た。


久しぶりに間近で見た道明寺は、最後に会った5年前に比べると少年らしさが消えて、垢抜けた精悍な顔付きの青年になっていた。

そして、あたしの手に置かれた類の手をチラッと見たような気がしたけど、あたしとは視線が合うことはなく、すぐにスッと視線がズレた。


そして、ぐるりとみんなを一回り見て、前よりも少し落ち着いた声で

「久しぶりだな」って、聞いた瞬間に。



とめどなく涙があふれて、どうしようもなくなった。



ただ道明寺を見つめたまま涙が止まらなくて、もちろん話なんか一つも出来なくて。

なにが「何でもないフリして、おめでとうって言おう」なんて思ってたのか。


何も考えられず、何でもないフリどころか思ってたことすら忘れて、声も出せずに涙がしとどに流れていた。


みんなが、道明寺すらビックリした顔をしてあたしを見ていた。

そしてあたしは持っていたグラスを類に押し付けて、部屋を飛び出した。


あたしが覚えてるのはそこまで。








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All you need is love. 1


All you need is love. 1





「類、類、類!

類ばっかりで、うるせーんだよ!」


確か大学3年生くらいの頃。

そう言って電話を切られてからNYにいる道明寺と連絡が取れなくなって約5年。

5年も音沙汰なしってどういうこと?

道明寺が訳わかんないことでブチ切れるのはいつものことだし、しばらく連絡がないのも、最初は大学や仕事が忙しいんだろうと気にしなかった。



それから数ヶ月経っても連絡がない。

これはおかしいと思って、F3にお願いして道明寺に連絡を取ってもらった。

なかなか繋がらなかった様だけど、電話口では特にイライラしている様子もなく、いつも通りで、仕事が忙しく寝る暇もないと言っていたと3人共に口を揃えて教えてくれた。


類にも怒ることなく、いつも通り普通に話して終わったって。


じゃあ、あたしにだけ連絡をしてこないってこと?



そんなに類の話ばかりしてたかと自問自答。

確かに前に比べると牧野家にしょっちゅう顔を出すようになった類。

類は経済学部、あたしは法学部で選択している授業は大分違うものの、一般教養やフランス語の授業なんかは随分と類に助けてもらってたのは確かだけど。

ご飯もよく食べに来て、パパや進とトランプしたりして遊んでた。

それだけ。


F3や桜子に滋さんたちにはNYまで会いに行け、連絡しろって言われたけど、大学の授業料を道明寺に出してもらってるのに、留年なんて絶対に出来ない。

だから司法試験の現役合格を目指してバイトも減らして勉強していたあたしには、道明寺に会いに行くお金も時間の余裕もなかった。


そして何とか現役で司法試験に合格し、無事に大学も卒業した。それから1年間の司法修習を経て、就職もした。


それでも道明寺から連絡はなく、4年の約束も何だったのか迎えに来なかった。


そして働き始めてしばらくした頃。

「道明寺 司氏、道明寺HD日本支社長就任。帰国と同時に婚約」の文字。

私ではなく、どこぞの令嬢との婚約がゴシップ誌ではなく信憑性の高い経済紙でニュースになった。



そうか、5年間なんの連絡もないなんて!と怒っていたけど、私はいつの間にかフラレていたのか。



だからって5年間全く連絡なしってなによ!

せめて「別れよう」の一言くらいあっても良くない?!なんて怒ってたのも一瞬で、経済紙で取り上げられてからはテレビでも道明寺の日本支社長就任に、帰国と婚約のニュースが流れ始めた。

そこで道明寺がNYの街中で歩きながらインタビューされている映像が流れているのを見た瞬間、私はとんでもないことをしでかしていた事に、ようやく気が付いた。












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