All you need is love. 11
All You need is love. 11
突然、道明寺に抱きしめられて、我慢してた涙がポロリとこぼれたのをきっかけに、やっぱり涙が止まらなくなって。
あんなに泣かない泣かないって呪文を唱えるように自分に言い聞かせて我慢してたのに。
そうだった。なんで忘れてしまっていたんだろう、この香り。
道明寺の、香りだ。
5年という歳月は、香りを忘れさせるには十分な時間だった。姿形は経済紙やテレビを見れば分かるけど、香りだけは伝わらない。
想い出したらどうしようもなくなって、道明寺の背中に腕をまわしてしがみついて、ワンワン泣いてしまった。
道明寺が好きで好きで大好きで。ずっと一緒にいたくて。
ただそれだけだったのに、いつの間にか手放したのはあたし。
なのに、好きでいることをやめられなくて、会って抱きしめられれば縋ってしまった。
なかなか泣きやまないあたしの背中を優しくトントンしてくれる道明寺に、増々涙があふれてしまう。
優しくしないで。
別れたくなかった。守られるだけじゃなく、自分の力で隣に立って。
道明寺と家族になって、あのただ広いだけのお邸の中を道明寺と一緒に笑顔でいっぱいにしたかった。
あたしが、あんたを幸せにしたかったのに。
そう未練がましく言いたくなってしまうから。
「一つ言っておくけどな、」泣きやまないあたしに道明寺が話しかける。
もう何も言わないでよ。これ以上みっともない姿を晒して、サヨナラしたくないのに。
「俺はおまえ以外の誰とも婚約してないし、5年連絡しなかったからって別れた覚えもないぞ。」
「二つ言ってる…。」思わずツッコんでしまったけど、なんだって?
誰とも婚約してない?あたしとも別れてない…?
「どういうこと…?」道明寺の顔を見てみれば、とても優しい顔をしてあたしを見ていた。
あたしの好きな、道明寺の優しい顔。
「おまえ、どんだけ俺のこと好きなの?俺ばっかりおまえのこと好きだと思ってたぜ。いつの間に10分の9が埋まってたのか気が付かなかったな。」
そんなことを言われて恥ずかしくなって、また道明寺の胸に顔を埋める。今度はちゃんと答えも合ってるし。
道明寺の着ている上質なサラサラとしたワイシャツが、あたしの涙とお化粧でグチャグチャになってる。ひとしきり泣いて少し冷静になったのか、そんなことが気になった。
いつの間にか車は停まっていて、メープルホテルの地下駐車場にいた。ここにはスウィートルーム直通のエレベーターがある。
いつまでも車に乗ってても運転手さんだって困るだろうし、とにかく落ち着いてもう一度きちんと話さなければいけない。
あたしの記憶がないところも含めて。
リムジンから降りて、道明寺に手を引かれるまま後を付いていった。