All you need is love. 12
All You need is love. 12
エレベーターを降りて部屋に入るなり、また道明寺に抱きしめられて、噛み付くようなキスをされた。
道明寺とキスをするのが好きだったと思い出す。このまま流されそうになるけど、まずはきちんと話さないと。
そう思うのに、いつまでもキスが終わらなくて、角度を変える度に深くなっていく。だんだん息が苦しくなってきて堪らず道明寺の背中を叩く。
「なんだよ!もっとおまえを堪能させろ、こんなんじゃ足りねぇよ!」
「だっ、だって、話は終わってない、でしょ!」
やっと離れた唇に、ハァハァしながら訴えれば、これ以上何を話すのかみたいな顔であたしを見てくる。そして、
「牧野、おまえ5年振りに会ってすっかりきれいになったかと思ったのに、泣いた顔は相変わらずブスだな。」
は?なに?なんだって?
まさか5年振りに会った好きな男にキスをされたあと、余韻に浸るどころかブスなんて言われるとは思わないよね。
でもここは冷静に。このあと話をするんだから。昔のあたしなら言い返してた気もするけど、あたしだってもう社会人だ。いま道明寺と喧嘩がしたいわけでもない。
「…ちょっとお化粧直させて。」
バスルームに入って鏡を見れば、確かにブスだわ。
随分泣いてしまったから目も少し腫れてるし、アイメイクはほとんど落ちている。ファンデーションも落ちて鼻もテカってるし、口紅もかすれてる。確かにこれはひどい。急いで見られる程度に直して部屋に戻れば、ソファに座っている道明寺と目が会った。
どこに座ろうかと思案していると、立ち上がった道明寺に「なんか飲むか?」と聞かれてミネラルウォーターをお願いした。先日の失態を思い出すと、お酒は飲む気にはなれなかった。
ミネラルウォーターのボトルを持ち、あたしの手を取ってまたソファに戻った道明寺の隣に、繋いだ手はそのままに少し間を空けてあたしも腰を下ろす。
「それで、おまえは俺に何を聞きたい?」
そう道明寺に切り出される。
「まずは、あたしの話をしていい?」そう言うと先を促されて、あたしは話し始めた。
「5年も連絡しなくて、ごめんなさい。あたし、自分のことばかり考えてた。道明寺と一緒にいたくて、いろんなこと頑張ってたのに、いつの間にか道明寺が見えなくなってたことに気が付いてなかったの。」道明寺は返事もなく黙ってるから、そのまま話を続けた。
「5年前のあの電話の時もそう。類が理由じゃないのよね。あたしがあんたを蔑ろにしちゃってた。時差や忙しいを理由に、あたしから道明寺に連絡しようとしなかった。あんたは、あたしより忙しいだろうからなんて言い訳もして。」
道明寺はあたしを見つめたまま、静かに話を聞いてくれていた。いつだってそう。道明寺は、いつでもあたしの話は聞いてくれていたのに。あたしが道明寺に話をしなかったのだ。
「ちょっと前にテレビでね、あんたがNYで歩いてるところをインタビューされてるのを見たの。そしたらね、途中であんたに電話がかかってきたみたいで。電話で話し始めたのを見た時、気が付いたの。」
「バカだよね、本当に初めてそこで気が付いたの。あたしから道明寺に連絡したことなかったって。」
「それで?」道明寺は優しい顔のまま、あたしを見つめて話を促す。
「そのあとに帰国と婚約の報道があったの。帰国することも知らなかったし、何より4年の約束もなかったことになってたでしょ?その報道のあとに美作さんたちが支社長就任と帰国と婚約お祝いのパーティーだなんて言うし、あの人たちが噂で動くなんてありえないじゃない?だから、帰国はともかく…婚約も、道明寺本人から聞いて、本当なんだって…。」
あれだけ泣いたのに、また泣きそう。あたしの涙腺、絶対壊れてる。
「5年も連絡してこない彼女、のことなんて忘れられて、結婚したいと思える人が、道明寺に出来てしまったんだって。でも婚約したなら、無理にでも笑って、…お、おめでとうって言わないとって。だって好きな人が、幸せになろうとしてるのに、昔の女が、…泣いて嫌だなんて、言えないもん…」
泣きそうなのを堪えてたら、言葉が詰まってしまう。
もうどうしようもないくらい道明寺が好きだなんて、ここまでこないと分からない自分に一番腹が立つ。
「なのに、あんたは、会社で普通に話しかけてくるし。やっぱりあたしのことなんて、過去になったんだって、だから…、」
「バカか牧野は。相変わらず一人でグチャグチャ悩んでんのな。」そう笑いながら道明寺は、ソファに座る2人の隙間をあっという間に埋めて、またあたしを抱きしめた。