All you need is love. 17(完)
All You need is love. 17(完)
「それにしてもなぁ、5年間も会わず話さずだったのに、再開して3日?で婚姻届提出って。お前ら相変わらず意味分かんねぇな。」首を傾げながら西門さんが言う。
「いや、あの日か、遅くても次の日には役所に提出したと思ってたぞ俺は。」と美作さん。
類に至っては、あの天使のような微笑みで「牧野が幸せで笑っていてくれるなら、何でも良いよ。」なんて言ってくれるから、頬もほんのり赤く染まってしまう。
「おい!類!人の女房を誘惑すんな!」してもいないことで理不尽に類を怒鳴る道明寺。
相変わらずのやり取りに、クスリと笑いが漏れる。
婚姻届を出して初めての週末。
F3が新居に遊びに来てくれていた。
5年間、全く連絡しないで一切の交流がなかったあたしと道明寺。
特に道明寺はその反動がすごくて、無駄に騒がれたくないと会社では他人のフリをさせられていることもあってか、家の中では常にあたしにべったりくっついている。今も無駄に広いリビングの、無駄に大きいソファの上で道明寺に後ろから抱え込まれて座りながら話している状態。
道明寺が話す時以外は、ずっとあたしの首筋に顔を埋めている。みんなの前では恥ずかしいから止めて欲しいんだけど。
「そもそもにだな!類が牧野の家に入り浸ってたのも気に食わねぇ!
テレビ電話する度に、後ろでチョロチョロしやがって!話すことも類のことばっかりで!」
「え〜、俺は関係なくない?
司が勝手に嫉妬しただけだし、お前らがケンカしないでちゃんと話せてれば、ここまで拗れなかった。それだけでしょ?
それに俺は牧野の家族がいる時しか、家には入ってなかったよ。それこそ牧野の家じゃなくて、外で会うなら良かったの?」
ど正論過ぎる。
とにかくあたしは遠距離とか時差とか忙しさを仕方ないと言い訳していたし、道明寺はすぐに怒って電話を切っていた。
類は道明寺に誤解されないようにしてくれていたのに。
「類は一番勉強を教えてくれたもんね。ありがとう、類。」と言えば、
「牧野のありがとうは聞き飽きたよ」なんてニッコリ微笑みながら言ってくれる。
また道明寺が青筋を浮かばせて怒鳴り散らしそうな様子に気が付いた美作さんが、話題を変えてくれた。
「牧野、仕事はどうしたんだ?続けてるのか?」
「うん。仕事はそのまま続けてるよ。いつか一緒に道明寺と仕事をするのが、今のあたしの夢なの。」
あたしの仕事は相変わらず法務部で、牧野姓のまま。
これも道明寺と一悶着あった。
結婚したんだから道明寺を使えと言われたけれど、いくら一緒に働くのが夢でも、今はまだそんなの仕事がやり辛くなるだけ。
せっかく下っ端からコツコツと努力しているのに、急に道明寺姓になったりしたら支社長就任の時に道明寺に声を掛けられ、知り合いかと聞かれた時の様子を思い出して、少し気持ちがどんよりする。きっとあの時以上に根掘り葉掘り色々聞かれて騒がれて、尾ひれに背びれまで付いた噂が横行しそう。
みんな社会人とはいえ、どこにでも女子特有の陰湿なイジメはあるものだ。せっかく他人のふりをしているのに、意味がなくなってしまう。
英徳時代のイジメを思い出し、慣れているつもりでもあんな思いは二度と嫌だと身震いする。
まだまだ仕事も覚え始めたばかりだし、今は静かにお仕事したい。
婚姻届を出してすぐに連れて行かれたのは、某有名宝飾店。
あたしの好きそうな、仕事中でも付けられるシンプルなデザインの指輪を買ってくれた。
以前は石が大きければ良いだろ!みたいな感じだったのに、こうやってあたしの好みを聞いてくれるようになった。
道明寺って実はとても優しい人だ。
そして次に向った先は、一緒に住むために道明寺が買ったマンションのペントハウス。(いつの間に!)
住むのはお邸でも良かったけれど、仕事へ行くのに近くて便利なのはマンションだった。
それに、婚姻届が無事に受理されたと道明寺のお母さんに報告したところ、
次の日には道明寺HDの広報部から正式に「道明寺日本支社長、一般女性と結婚」のニュースがリリースされ、お邸に報道陣が詰め掛けたこともあり、落ち着くまではしばらくマンションで暮らすように指示された。
道明寺はあたしと二人きりになりたいから、報道が落ち着いてもお邸には住まないって言ってるけど。
指輪も付けていけと散々言われたけれど、左ではなく右の薬指に付けることで落ち着いた。
本当はネックレスにして付けたかったけど、あたしだって道明寺とケンカがしたいわけじゃないから。
「そうだ。来週の金曜日だけど、同期の高橋さんと飲み会行ってくるね。」
昨日、高橋さんから「牧野さん、ごめんね〜!今度の合コンだけど、ただの飲み会になったの!」と言われた。
婚姻届を出して引っ越してと忙しくて、すっかり忘れていた合コンの約束。
昨日言われて思い出したけど、さすがに既婚者が合コンに参加するわけにいかない。
それに誰ととは言えなくても、結婚しましたと報告するのも気まずい。だって彼氏がいないと思われてたから合コン誘われたんだし。でも合コンじゃないなら、道明寺にも後ろめたいことは何もない。
せっかく誘ってくれて、あんなに喜んでくれた高橋さんに断りを入れることもしなくて済んだ。
当然、道明寺は「高橋?!男か!」から始まり、
「その飲み会、まさか男がいるんじゃねぇだろうな?!」と凄まれるけど、
「高橋さんは女性の同期だよ〜。それに女子会みたいなものって言われたから、大丈夫だよ。なるべく早く帰ってくるし、だから行っても良いでしょ…?」
あたしに抱きつく道明寺を上目遣いで見て言えば、顔を赤くして「早く帰って来いよ!」と言ってくれた。
「まーきの。そうやって素直にしてる牧野が一番可愛いよ。」類は道明寺が怒るのを分かってて、こういうことを言う。
あたしも、あの5年間は良い教訓になったのだ。
なんでも言えば良いってものでもないけど、自分の気持ちは素直に道明寺に伝えるようにしている。
5年間で言えなかった、寂しいや会いたい、道明寺が好きで好きで大好きなんだってことを。
伝えなかった後悔は二度としたくない。
それを類は見抜いている。聞き飽きたって言われるだろうけど、それでも。
「ありがとう、類。」
仕事帰りに連れ出され婚姻届を提出した翌日は、会社を休むしかなかった。
結婚初夜(!)だと言って、マンションに着いてから一晩中ベッドら出ることができなかったからだ。
あたしは5年ぶりなんだから手加減してよね!って言ったのに、3日ぶりだから心配すんなって言われ。
覚えてないっちゅーの!
結局、足腰立たなくて動けず、体調不良ということで休んだ。
休みを取った翌日、あたしが出社したら、やはり先輩たちに囲まれた。
道明寺があたしを連れ去ったことに関しては、やはり忘れ物があって、それを渡したかったが、どうしても本人確認が必要で連絡先も分からなかった為だったと、かなり無理矢理な説明をした。(事実、忘れ物の下着は本人確認を取って返してもらった!)
さらに、女子会みたいな飲み会に男性がいることが発覚。これはあたしも行くまで知らなかったから、どうしようもない。
あたしには結婚してから密かにBGが付けられていたらしく、そこから道明寺に報告されていた。
急遽NY出張になって迎えに行けない道明寺はF3に電話をしまくり、唯一電話が繋がった類によって、あたしは強制帰宅となった。
道明寺が迎えに来ても困るけど、類もこういう時だけウキウキしながら来るんだから!
「まーきの。お迎え来たよ。早くおうち帰ってご飯食べさせて?」
なんて言ってくれちゃったもんだから、また週明け月曜日のお昼休みに高橋さんと先輩たちに囲まれることになり、なぜF4の花沢類が迎えに来るのかから始まり、そこから芋づる式に話を引き出され。
道明寺の結婚相手があたしだとバレるまで、そう時間はかからなかった。
fin.