You belong with me. 10
You belong with me. 10
めちゃくちゃ気まずい。なにこれ。
いくら話をしろと言われても、道明寺ずっとダンマリじゃん。話すことないってことじゃないの?
「えーっと、あの、私も帰りますね…。あー、あっ、私もお休みいただいたので、明後日からのスケジュールは西田さんに確認してください。」
道明寺は黙ったまま、両手で顔を覆って俯いて、大きなため息をついた。
やっぱり話なんかしたくないってことよね…。10年もストーカーじゃないけど、しつこく好きでしたとかキモい気がしてきた。
いやいやいや、ここで自分を落としたらダメでしょ。
それにしては反応ないけど、もしかして具合悪くなってきたのかな?頭を打ってるのに、ずっと起きてるのも辛いか。
楓さんたちを見送って、そのまま病室の扉の前にいたけど、心配になってベッドの横に移動して道明寺の様子を伺う。
「あの、副社長?もしかして具合悪いですか?看護士さん呼びましょうか?」
…まさか返事が出来ないくらい具合悪くなったとか?!ナースコールどこだ?!
ナースコールを探そうとベッドの反対側へ回ろうとしたら、道明寺に左腕を掴まれた。
「えっ、どうしました?吐きそうですか?ちょっと待ってくださいね、ナースコールがここらへんにあったはず…!」
腕を振り払おうとするも、強い力で掴まれていて離せない。
「副社長!早く看護師さん呼ばないと、お布団に吐いたら大変ですってば!」
「うるせぇ!黙ってろ!」
突然、道明寺が大声を出したから、体ごとビクッと震えてしまった。
そうだよね、具合悪いのに周りで話し続けられるのも嫌だよね。
「す、すみません…、でも…。」
「吐きそうでもなければ、具合も悪くねぇよ!」
「え、じゃあどうしました?お休み明日一日じゃ足りないですか?うーん、結構厳しいですけど、明後日までお休みに出来るか西田さんに聞いてみますね。」
「違う!黙ってろって、言ってんだよ…!」
道明寺は入院患者。
頭を打っている。10年振りに記憶が戻った。
落ち着け、あたし。
動揺するとおしゃべりが止まらなくなるクセが今ここで出てしまった。
すると、道明寺が小さい声で「悪かった、」と呟いた。
片腕は掴まれたまま離してくれなくて、どうしようかと道明寺の顔を見ようと思ったけど、まだ俯いたまま。
黙れと怒鳴ったかと思ったら、悪かった?
一体どうしたというのか。
あ、気持ちに応えられなくて悪かった、かな?
落ち込む。落ち込むけど、仕方ない。
どんなに願っても10年の月日は大きい。
「あの〜、具合が悪くないなら本当にもう寝ましょう?そろそろ体に障りますよ?」
「…おまえ、なんでそんなに冷静に話せるんだ?」
少しだけ道明寺の声が震えてるような気がした。
「そりゃ、さっきの今で気まずいですけど。でも慌てて何かしてどうにかなります?それよりも、」
「本当に類のところに行かなくて良いのか?今ならまだ…っ!」
あたしの言葉に被せるように道明寺が話してきたけど、類の名前が出た瞬間にカッとなって、掴まれた腕とは反対の手で道明寺の頬を叩いてしまった。
「いい加減にしてよ…!なんで?!あんなに類は違うって言ってるのに…!さっきの話聞いてた?!あたしが好きなのは道明寺なの!でもあんただって10年経ってるんだから、もう好きになれないって言われたら離れる覚悟くらいあったわよ…!」
なんで?なんでわかんないの?
「気持ちが、…気持ちがなくなった言い訳に、類を使わないでよ!もう、あたしのことなんて、好きじゃないって!はっきり言いなさいよ…!」
「だっておまえ、バカじゃねぇの…?いつ俺の記憶が戻るか分かんねぇのに、10年も道明寺に、」
「うるさい。そんなのあたしが勝手にやったことなんだから放っといてよ!」
そう、まさにそれ。これはあたしが勝手にしたことだ。記憶を失っていた道明寺には殊更関係のない話。
「腕、痛い。離して。」
引っ叩いても道明寺は掴んだ腕を離さなかった。痛みを感じる程に強い力で掴まれていたから、離してほしかった。
少し冷静になりたい。このままだと泣いてしまいそう。
「離したら、おまえは俺の前からいなくなるだろ。」
「そうですね、もう二度と副社長の前に現れることはないと思います。副社長もそれがお望みで花沢様のところへ行けと仰っているのでは?」
いくら上司命令でも結婚は無理だ。
類を理由にしてでも、道明寺があたしを離そうとしてるんだから。
「総帥には副社長からお断りの話をなさってください。私を拒否したのは副社長ですから。」
「本当に類のところに行かなくていいのか。」
力任せに腕を振って無理矢理、道明寺の手を離す。こいつが入院患者だなんて知ったことか。
「そうですね、楓さんたちに恩返し出来てませんから行くつもりは更々ないですけど、副社長が上司命令だと、そこまで言うなら花沢様のところに転職しましょうか?副社長のお気持ちは十分すぎるほど分かりましたので。もう良いですよね。私も帰らせていただきます。」
まだ泣くな。今は副社長と秘書なんだから。
「待て、違う。帰るな!」
もうやめてほしい。類のところへ行けって言ったり、待てって言ったり。
何が言いたいのか分からない。しんどい。早く10年分を泣きたい。
「うるさいバカ男!あんたなんか、ずっと勘違い野郎のまま生きれば良いのよ!もう本当に帰りますね!今までありがとうございました!」
踵を返してドアに向かう、その時。
「地獄だろうが何処だろうが!どこへだって追いかけてつかまえてやるからな!」
今ここで、それを言うなんて。
「ふざけないで!そう言ったのにあたしのことだけ忘れたのはあんたじゃない!
あんたが他の女と噂になっても!パーティーでどこかの令嬢と並んでるのを側で見てたって!秘書として再会してからずっと無視されて冷たくされても、それでもあたしはあんたの側にいた!」
「わかってるよ!だからお前が類んとこに行かねぇのに俺から離れるなら、どこまでも追いかけて掴まえてやるからな!俺は10年じゃ諦めねぇぞ。」
本当になんなのこいつ。なにを言ってるの?!
「あんたが、あたしを拒否して、離そうとしてるんじゃない…!」
「10年だ。10年もお前の意志が及ばないところで道明寺に縛り付けてたんだ!しかも俺のせいでだ!
お前、秘書やってる間、俺の前では1回も笑ったことないんだぞ!お前が秘書になってから笑ってるのを見たのは、類といる時だけだ!それだったら、前と同じように、類の側で笑えるなら、あいつのほうがお前を幸せにしてやれるだろう、そう思ったんだよ…!」
「バッカじゃないの…?!なによそれ…!」