sei l'unico che può rendermi felice.

花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Take a look at me now. 29

Take a look at me now. 29







「やっぱり、バカ男じゃないの!」

「牧野!」

「美作さんは黙っててよ!お見合い相手があたしだって知ってていきなり断るなんて酷いと思ったけど、本当はあたしだって知らないで、あたし以外の女とお見合いして結婚するつもりで、ここまで来たってことでしょ?!こんなことされたら、いくら自分の為の五年間だったとしても、何でここまでやってきたのか分かんなくなるわよ!
それなのに、なんであたしが類と結婚するなんて話になるわけ?!」

「俺は牧野と結婚したいけど」

「類!黙ってろ!」


なんだ?どういうことだ?
牧野と類は結婚しない?ということは、あの雑誌の記事はやはりデマだったのか。
でもそれで何で俺が牧野を放ったらかしなんて話になるんだ。
先に連絡しなくなったのは牧野じゃないのか。

「司は、なんで牧野と類が結婚すると思ったんだ?」

こういう時、あきらはいつも世話役になる。
さっきからずっと牧野を宥め、類に注意し、俺に話をさせようとしている。
久しく会っていないが、こういうところは昔から変わらないなと思うあたり、少し自分も冷静になっていることに気が付く。
やはり突然の事にいつもより気持ちが落ち着かなかったことは否定出来ない。


「……牧野からの連絡が少なくなった頃に、類と牧野の写真を見た。そのあと全く牧野から連絡がなくなったから、そういうことかと」

「類!何もかも全部、類のせいじゃないのよ!」

牧野はそう言うと、類の背中をバチンと強く叩く。

「いてっ!俺だって牧野が好きだもん。牧野がこれで俺に靡くなら、司に対してもその程度だろ?別に司と牧野は付き合ってないんだし、俺がどうしようと何か言われる筋合いもない」

フンと、そっぽを向いて不貞腐れたように類が話す。
前から牧野と仲が良いと思っていたが、類はいつから牧野のことを?
でも、それでなんで牧野からの連絡がなくなったのかが分からない。

「……牧野は、なんで俺に連絡しなくなったんだ?」

「それは……、日本に帰った年の夏休み中はずっと、おばさまの、会長の仕事に付いて海外を飛び回ってたの。時差とか、もちろん疲れてたのもあるけど、卒論も同時進行でやってたから、なかなか連絡出来なくて……」

ババアの仕事で海外に?もうインターンシップとかの次元じゃねぇ。
なにやらせてんだよ、ババア。

「それで夏休み明けてしばらくした頃かな?類に社会経験させてあげるって言われて付いていったら、花沢物産の創立記念パーティーだったの。まさかそこで類のパートナーにされるとは思わなくて。多分その時に類との写真を撮られたのよね」

それは。
創立記念パーティーなんかに後継者が女性のパートナーを連れて、あんな風に微笑みながらエスコートして歩いていたら、誰もが将来を約束している相手なのかと勘繰るだろ!
類は、わざと写真を撮らせんたんじゃねぇか?

ハァーっと大きなため息が出る。
あの雑誌の記事はデマなのか。
類と牧野は結婚どころか、付き合ってもいない?

「私が厳しくレッスンさせてそれなりに見えるようになった事と、国内から海外まで牧野を連れて顔を売らせていたのが仇になったわね、あれは。全く余計なことをしてくれたわ」

ババアが類を睨みつけてるけど、類自身はどこ吹く風といった感じでにこりと笑うだけ。

「それが雑誌に載っちゃって、そうしたら大学でちょっとね」

「牧野ね、それを妬んだ内部生の女子たちにイジメられて、スマホを中庭の池にわざと落とされて壊れたんだよ」

「大学生にもなって、イジメとかあり得ないわよ!ましてや、人の物を盗んで壊すなんて!やってることは犯罪よ?!」

「今時のスマホは牧野には高価だからな。インターンシップ頑張って働いて牧野が新しいスマホを手に入れた時には、もう司と連絡が取れなくなってたってわけ。司は俺らとも連絡手段を断っただろ?NYの邸まで会いに行っても門前払いだしな。もうどうにもならねぇよ」

総二郎はNYまで来たような口ぶりだが、あの頃はNYの邸には帰らずに、ずっとペントハウスで過ごしていた。
だから来たとしても俺はいないし、帰されて当然だ。
しかし、まさか連絡が取れなくなった理由が、スマホを壊されたからだとは思いもしなかった。

「司も卒業まで少しだったろ?相当忙しいだろうからって、連絡が取れないことをそこまで気にしてなかったんだ。卒業したら、日本に帰ってくると思ってたしな」

「なのに卒業しても全く帰ってくる気配なし!それでもアメリカの本社で今までと違うことをしようとしてたから、司なりに何か考えてるんだろうってな」

あきらと総二郎が茶を啜りつつ、苦笑しながら話しているのは、俺に対して何かしら思うところがあるからだろう。
牧野だけならともかく、総二郎たちまで理由もなく俺と連絡が取れなくなるのは不自然だから。

「私も卒業したら日本へ帰りますかと聞いたのに、帰らないと言うからどうしたのかと思っていました。司さんもNYへ行く前に忙しい中、各地へ謝罪して回って過去に決着を付けたと思っていましたし、それなのにスクールを卒業しても日本へ帰ろうとしないですから、まだ何かあなたたち二人の間にお互い納得できないところがあるのだろうかと不思議でした」

「謝罪?NYへ行く前?なんのことですか?」

「ババア、余計なこと言うな。今は関係ない話だろ!」

何のことかと不思議そうに聞く総二郎たちに、チッと思わず舌打ちをしてみんなの視線から逃れるように顔を逸した。
そんなこと、別にわざわざ話す必要なんてないことだ。
あれは、俺の、ただの自己満足だ。

「司さんの高校時代のお話はご存知?」

ババアが牧野に向かって話そうとしているが、やめてほしい。
そんなこと、牧野の耳に入れなくていいことで、あえて話すようなことでもない。

「やめろ!話すな!」

「知っています」

……知ってる?
何を、どこまで、

「えっと、赤札?」

「どこで、どなたからお聞きになったの?」

「大学二年生の夏休みが終わって、しばらくした頃です。たまたま同じゼミの内部生の子たちが話しているのを耳にしてしまって……」

そんな前から、知っていたのか。
なんで、どうして。

「そのあと、……中学の同窓会でも。当時同じクラスだった男子に会ったんです。あたしが英徳大学に通っていると話すと、昔の話をしてくれました。仲の良いお兄さんが近所に住んでいて、そのお兄さんは英徳高校に通っていたそうです。そこで道明寺に、入院する程のひどい怪我を負わされたけど、お金で有耶無耶にされて終わったって……」

まさか、そんな繋がりがあるとは。
どこでどう人が繋がっているのかなんて分からないものだが、一番牧野には知られたくない過去だ。
そんなことをしていた俺を、知られたくなかった。

「あれは司さんが大学二年生の夏でした。牧野に公園で助けられた後のことだったわ。帰国した私にわざわざ話があると言うから何かと思えば、高校時代に赤札を貼って怪我をさせ、退学にしてしまった人たちに直接謝罪に行きたいと言い出しました」

「司、お前そんな事してたのか……!てっきり仕事で忙しいのかと……」

あきらたちには話さなかった。
赤札の始まりは、俺だ。
俺が始めたことは、俺が最後までけじめをつけなければと、思ったから。

「あの頃は通常の講義に加え、NYの大学編入に必要な試験や手続き、MBA取得の為に通ったスクールからの勤続二年以上相当という入学条件を満たす為に、一年生の頃から仕事を始めさせて、二年生の時には本格的に実務にも関わらせてましたから、相当忙しい中で言い始めたことに私も驚きました」

「もう良いだろ。今この場で、わざわざ話すことでもねぇよ!」

「もう済んだ話なのに何を今さらと思いましたが話を聞けば、牧野。あなたが司さんを動かしたのね」








今年最後の更新です。
次回更新は1/4~、いつも通り18時の予定ですので、よろしくお願いいたします。
みなさま、よいお年を!



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Can we get back together? 後書き&お知らせ

Can we get back together? 後書き&お知らせ




「Can we  get back together?」をお読みいただきまして、ありがとうございます。

題字の通り、「私達やり直せる?」でした。
流石に誕生日は忘れてないと思います。笑

1話から3話まで司くんはとにかく「いつも」を言い続けてますが、それは司くんが仕事を頑張っているからこその「いつも」が送れているとは思います。
でも、その仕事も「いつも」誰かが支えてるんだよって言うことで。

司くんは良い事があると調子に乗ったり、楽観視したりと、ちょっと浮かれポンチなところがあると思っているので、穏やかな日常が続いて油断してそうだなってところで思い付いたお話でした。

このお話の司くんの中では、側にいるのが当たり前になってしまって、空気のような存在になっているつくしちゃん。
常にあって、なくてはならないもの。空気がなくなったら死んじゃうのにね。
最後のプロポーズも少し弱気になってます。約2日半?つくしちゃんに会ってないですから、酸素不足ですかねぇ。
まぁ当然、人は空気ではないので、いることが当たり前ではありません。
しっかりと一緒にいることの意味を改めて考えるきっかけとして、「いつも」が変わるだろう妊娠をぶち込みました。
あとは司くんに「牧野」を連呼させたかっただけです。「牧野」呼び大好きです。

ということで、クリスマスに別れ話からの、つくしちゃんのお誕生日おめでとう短編でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!


ここからはお知らせです。
年末年始ですが、12/30〜1/3の5日間お休みさせていただきます。
なので、年内は本日18時の更新が最後となります。
1/4~は、いつも通り18時にお話を更新する予定です。

このブログを始めてまだ3ヶ月半ですが、みなさんからの拍手とかコメントとか、とても励みになっています。
本当にありがとうございます!
どこまで続けられるか分かりませんが、来年も頑張ってお話を妄想したいと思います。

それではみなさん、良いお年を〜!








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Take a look at me now. 28

Take a look at me now. 28







「……牧野?」


牧野が、いる。
何年振りだ?二年?三年か?

めちゃくちゃ怒っている顔をしているが、一目見て改めて牧野に惚れたままだと自覚する。
牧野は淡い青色のふわふわとしたワンピースに白いカーディガンを羽織っていて、今まで一度も染めたことのないだろう艷やかな黒髪は最後に見たときより長くなっていた。
小さなパールのイヤリングが牧野が動く度に耳の下でゆらゆらと揺れている。

やはり忘れることなど無理だと、思い知る。

怒っている顔すら、美しい。
牧野は学生の頃にはまだ残っていた幼さが抜けて、大人の女へと変貌していた。

ああ、類に女にされたのかと、どこか遠くでそんなことが頭を過り、一瞬、胸の奥がチリッと痛んだ気がした。
人間、衝撃が過ぎると馬鹿なことを考えるものなんだなと、冷静なようで全く冷静ではないことを思っていた。


「司さん」

会長の声。
髪の毛から滴る液体が目を掠めて視界の邪魔をする。
とりあえず濡れた前髪をかきあげ、改めて室内を見てみると、怒った顔の牧野の向こうに、会長と類にあきらと総二郎?
なんでこいつらが?

「お前ら、何してんの?」

「牧野の付き添い」

類がにこりともせずに答える。
牧野の付き添い?
俺が牧野のことを好きだと知っていて、類と牧野と二人揃って俺の見合い相手を見に来たのか?
久々に、ブチ切れそうだ。

「社長、とりあえず会長の隣の席にお掛けいただけますか」

「牧野も。気持ちは分かるが、やり過ぎだ。座れ」

あきらがそう言うと立ち上がり、牧野の腕を取って座るよう促している。
俺も西田にタオルを渡されて、冷たくなって髪の毛から滴るお茶だろう液体を拭いてから、ババアの隣に座る。

なんで見合いの席に牧野と総二郎たちがいるんだ?そんなに俺の見合い相手を見て冷やかしたいのか。
それか、俺の見合い相手は牧野たちの知り合いなのか?
この部屋には、他に知らないやつはいない。
俺より先に来ていると聞いていたのに、まだ来てなかったのか。
まさか牧野がいるとは思わなかったから、今になって釣書を見ておけば良かったと後悔した。

そう思ったら、俺の前に座る牧野。
そして牧野を挟んで類とあきらが座り、あきらの隣に総二郎。

ん?

なんで牧野が俺の前に座る?
そもそもに、なんで俺は牧野に熱い茶をかけられ叩かれたんだ?

「いや、どう考えてもおかしいだろ」

思わず呟いた声に、

「おかしいのは、あんたの頭よ!このバカ男!」

牧野がテーブルを強く叩きながら言うから、さっき牧野が持っていただろう中身が空になった茶碗がカタカタと揺れた。

バカ男。
初めて言われた。
俺のことだよな?

「牧野、落ち着け」

ギリギリと音がしそうなほどに拳を握りしめた牧野を、横であきらが宥めている。


「司さん、今日のお見合い相手の牧野つくしさんよ」

ダメだ。
俺は仕事で忙しいんだ。
この手の冗談を笑って流せるほどの余裕はない。

「会長、なんの冗談か知りませんけど俺は、」
「お黙りなさい。あなた、分かってて来たのでしょう?」

ぎろりと会長に睨まれる。
何なんだよ!何が分かってんのか意味がわからないし、誰も説明を始めないからムカつく。
しかし、よく見ればこの部屋にいる全員に睨まれているような気がする。

「どうも!バカ男のお見合い相手の、牧野つくしです!」

牧野が怒りながら言い放つ。
牧野がお見合い相手?そう言えば類が牧野の付き添いだと言っていたが、なんで類は自分の女が見合いをするのに、そんな平気な顔で隣に座ってるんだ?
昔から何を考えてるのか、いまいち分からないことの多かった類だが、今回ばかりは本当に意味が分からないし、理解も出来ない。

「あ!でも断られたんでした!」

「そうだな、断られたら仕方ないよな」

「そうだよ。何年も牧野を放ったらかしにした男だよ、司は」

「類!黙って!」

「牧野、落ち着け。総二郎も類もやめろ!」

放ったらかし?俺が、牧野を?
なんでそんなことを言われないとならない?
先に連絡をしてこなくなったのは、牧野だ。

何が面白いのか知らないが、こんな訳のわからないことをされたら、いくらなんでも不愉快だ。
第一、牧野は類と結婚するんだろ!

「お前らマジでうぜぇ。ババアもこんな馬鹿みたいなことすんのに呼び出すな。俺は帰る」

なんで類と結婚するだろう牧野を俺と見合いをさせるのか、どうして付き添いで類も来るのか。
そもそもがおかしい。
ババアもババアだ。なにを考えてんのか、さっぱり分かんねぇし、流石に今回は理解しようとも思えない。

仕事だ。
俺は、仕事をする。
牧野の近くにいたら、何か余計なことを考えそうだ。
これ見よがしに溜息をついて立ち上がり、部屋を出ようとした。


「……道明寺の、嘘つき!」

牧野の叫ぶような声に、思わず足を止める。

「嘘つき……?」

「俺が勝手にお前を迎えに行くって言ったのに、来ないじゃない……!」

「言いたいことはそれだけか」

「司!」

「嘘つきだろうが何だろうが知るか。お前が選んだことに、恋人でも何でもない俺が!何か言うことも、することさえも出来るわけないだろうが!第一、待たないって言ったのは、お前だろ!」

「おい、司!落ち着けって!」

そうだ、落ち着け、俺。
ふぅーっと大きく息を吐く。
こんなの、相手にする必要もない。

「……俺を揶揄って面白がる為に呼び出したなら、もう満足しただろ。俺は帰る」

「司さん」

ババアが呼んでるけど、無視。
一体なんなんだこれは。俺を揶揄い面白がって、噓つきだと過去のことを糾弾する。
いくらなんでも、やって良いことと悪いことがあるだろ。

もう、何も、聞きたくない。
俺は、仕事をしなければ。

……しなければ?

違う、仕事をしたいんだ。
仕事は義務じゃない。やりたくてやってることだろ。
なんだ、しなければって。仕事は俺の生き甲斐、だ。


……また、空虚感。

下手に牧野に会ったりしたからだ。
空虚感から虚無感へと、心が、思考が、支配させていく。

ダメだ。

しっかりしろ。

「西田、会社に行く」

「社長、落ち着いてください」

西田が俺の肩を押さえて部屋から出さないようにするのを、強引に払う。

「離せ。俺は冷静だし、こんなくだらないことに付き合ってる暇はない」

「……くだらないですって?!」

「牧野、お前までキレたら収集つかなくなるからやめろって!今までなんの為に五年間やってきたのか、思い出せ!」

牧野とあきらの会話に視線を後ろに向ければ、あきらも牧野が勢いのまま立とうとしているのを止めていた。
それを聞いた総二郎も続けて話し出す。

「そうだぞ牧野、よく思い出せ。類に騙されてパーティー出た時に写真を撮られたせいで大学で類と婚約の噂をされても、ずっと司と連絡が取れなくなっても頑張ってたのは、……司の為じゃなかったな。自分の為だったか」

「騙したとか人聞きの悪いこと言うなよ。俺はいつでも牧野を受け入れるし、結婚出来るよ」

「類!それは何度も何度も断ったでしょ!あたしが好きなのは、ずっと道明寺だけだって言ってるじゃないの!」


いま、一気にいろんな情報が頭の中に流れ込んできた。
なんだって?

「司さん、そろそろいい加減になさい。牧野も!あなたから私にお見合いを頼んできたのを忘れましたか」

「……申し訳ありません」

「牧野、あなたも選ばれなかったら仕方ないと五年前に言っていたわ。司さんに選ばれなくても、もう一人で立っていられるのでしょう?」

「そうかもしれないですけど…!この話を受けておいて、話すどころか顔も見ずにいきなり断るなんて、こんなのあまりにも酷いです……!」

なんだ?どういうことだ。
選ばれなかったのは、俺だろ?
牧野は、類を選んじゃないのか?

「待て、待ってくれ。牧野は類と結婚するんだよな?」

この言葉に、この部屋の全ての人の刺さるような視線が俺に集まって、なんとも居心地の悪い気分になる。

なんだ?
違うのか?

「会長、司様は今回のお相手のお釣書に一切目を通しておりません」

西田がそう言うと「ああ〜、なるほど」と、あきらと総二郎が声を揃えて納得している。
そして、牧野は。

「やっぱりバカ男じゃないの!」


また牧野がダン!と今度は拳で強くテーブルを叩くから、遂にその近くの空になった茶碗がコロンと茶托の中で転がった。











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Can we get back together? 4 (完)

Can we get back together? 4






つくしちゃん、元気な赤ちゃんを、産みましょうね?


「……あ?」


待て。
誰が?赤ちゃんを?産むって?

つくしちゃんって、牧野だよな?

つくしちゃんが子どもを?

誰の、子どもを?

俺か?
俺しかいないよな?

俺の、子ども?


「……牧野!」

牧野はどこに行った?!

ぽかんとしていた俺を置いて女三人はとっくに書斎を出て行ったらしく、あたりを見回しても、もう誰もいない。
慌ててババアの書斎を出る。

そこら辺にいる使用人に牧野の場所を聞くが、誰も彼も知らぬ存ぜぬで、話にならない。
この邸に俺の味方はいないのか。
いや、この期に及んで味方などいらない。この状況で、俺に味方がいては困る。
全面的に、この家に牧野は受け入れられている証拠だ。

途中でババアと姉ちゃんに会ったが、牧野はもう一緒にはいなかった。
もちろん、二人とも俺を無視。当たり前か。


どこだ。牧野は、どこへ行った。
この邸のどこかにいるはずなんだ。

昔の俺は、こうやっていつも牧野を追いかけていた。
いつも、いつも牧野を見ていた。

なんでいなくなってすぐに探さなかったんだ俺は!
いつもと違うことばかりを気にして、いつもの喧嘩に家を出るような大げさなことをしてと、心の中で牧野を責めていた。

俺は、何をやってるんだ。
牧野がいる「いつも」に慣れ過ぎて、大事なことを見失っていた。

牧野。
俺が全部悪い。

話も出来ない、聞かない男なんて、結婚もしたくなければ、父親にだってなれない。

俺は牧野に甘えていた。
俺からは離れないと高を括って、当たり前の日常を享受して。「いつも」と変わらないことに安心して、牧野の変化にすら気が付かなかった。

なんで話を聞いてなかったんだろう。
聞いてるふりをして、聞いていなかった。
「いつも」のなんてことない話だろう、そう決めつけて。
牧野のことは何でも分かってるつもりでいたけど、話もしないで何が分かるんだ。


ごめん、牧野。

「いつも」一緒にいたのに、いなかった。

「いつも」は「当たり前」じゃないのに。

いくら怒ってたからって、「別れる」なんて勢いで言い返していい言葉じゃなかった。
牧野は、我慢して、耐えて、それでも話そうとしてくれていたはずなのに。
別れるなんて、言わせたいわけじゃなかった。
俺は、初めて出たその言葉を、もっと重く捉えるべきだった。

俺は牧野と家族になりたいけど、それは兄としてじゃない。
ここまでしないと分からなかった俺を許してほしい。
これからは何でも話すし、言葉一つ漏らさず何でも聞くから。
ちゃんと、顔を見て話しをしたい。

牧野を、牧野がいることを、大切にするから。

牧野、


「……牧野」


「なぁに、お兄ちゃん」


クリティカルヒット。

やめろ、マジで。
本当に俺が悪かったから。

牧野は昔、学生の頃に俺が土星を見せた部屋にいた。
流石に外には出ていないけれど、窓の横で外を見ながら一人毛布をかぶって、膝を抱えて蹲っていた。
牧野の横に肩を並べて座る。

小さい。
牧野は、こんなに小さくて……、

牧野、


「ごめん」

「良いよ、お兄ちゃん。許してあげる。妹だからね、優しいでしょ」

これは。
笑ってるけど、笑ってない。
いや、こんな「ごめん」の言葉一つで許されるわけがないのは分かってる。

「いや、あの……」

なんで言い淀んでんだ、俺!
完全に牧野の雰囲気に呑み込まれている。

「11年一緒にいても、スマホ一つの繋がりしかないなら、探そうともしてくれない道明寺なんていらない」

あ。
捨てられた。

本当に、牧野に、捨てられたんだ、俺。

「心配すらしないで。父親ならあなたじゃなくても、類とか西門さんとか美作さんに滋さんも桜子も、西田さんも他にもたくさんいるから大丈夫よ」

道明寺財閥の後継者も、一人の女を前に為す術なし。
西田はやめてくれと突っ込むことすら出来ない。

俺は、なんてことをしたんだ。
心配すらさせてもらえないほどに、追い詰めてしまった。
仕事も大事だけど、何の為に学生時代に牧野と離れてNYへ行ったんだ。何の為に仕事をして、何の為に……、


牧野と、未来を過ごしたくて。
牧野と、ずっと一緒にいたくて。
牧野に、ずっと側で笑っていて欲しくて。


潰したのは、俺。

「いつも」に甘えて、俺が欲しかった「いつも」が消えた。

会社を潰さない為なら、いくらでも解決策を見つけようと頭が働くのに、牧野を引き止められるものが俺にはない。
どうしたらいいのかも分からない。

……分からないなんて、言ってる場合か!


「牧野、いやだ。妹になんかしないからな」

無視。

「牧野、俺が悪かった。何でも話す。ちゃんと聞く。顔を見て話すから」

無視。

「牧野、適当に返事もしない。ちゃんと洗濯物を洗濯機に入れるし、電気も消す。皿もシンクに持っていくし、なんなら皿洗いもしてみる。掃除も、したことないけど、やってみる」

無視。

「牧野、俺を、捨てるな」

「牧野、別れないからな」

「牧野、毎日ありがとう」

「牧野、好きだ」

「牧野と一緒に、育てたい。父と母として」


「牧野、愛してる」


「牧野」

「牧野」

「牧野」

無視されるって、しんどい。
いつも牧野はこんな気持ちだったのか。
俺は、なんて酷いことをしていたんだ。


「牧野」

「牧野、ごめんな」

「牧野、好き」

「牧野、牧野、牧野」

泣かせたいわけじゃない。
静かに涙を流す牧野を抱きしめることも出来ず、ただ背中を撫でることしか出来ない、情けない俺。

「牧野、泣くな」

「牧野、いや、泣いて当たり前なんだけどな、あの、」

「牧野、泣くなら、俺のところで泣いてくれ」

「牧野、」

「まきの……」


「……Can we get back together?」
「Absolutely!」


牧野の問いに間髪入れずに返事をした俺の胸へと飛び込んできた牧野を、しっかりと抱きしめる。
温かい。
こんなに、温かい存在を、手放しそうになった俺。

「「of course」とか適当な返事だったら妹になってたからね!」

危ない。
いや、そうなっても仕方ないことをしたのは分かってる。
仕方ないで諦める気もないけど!

「牧野、好き」

「牧野、大好き」

「牧野、愛してる」

「牧野、ずっと、側にいて」

「牧野、ここまでならないと言えなかった俺を許して」

「牧野、俺から離れないで」

「牧野、牧野、牧野」

「五ヶ月!」

「……なに?」

ずっと牧野を抱えるようにぎゅうぎゅうと抱きしめていたけど、牧野の体を少し離して改めて顔を見れば、怒ってる?
まだ、怒ってる?

「お腹の子!もう、五ヶ月なの!気が付いてから二ヶ月経ってるの!二ヶ月!話そうとしても「ああ、うん」しか返事しないのよ、あなたは!一ヶ月前に一回言ったからね、赤ちゃん出来たのって!そしたら、新聞読みながら「ああ、うん」ですって!バカなの?!」

知らなかった。
聞いてなかった。
俺、何してんの?!

「年末年始で忙しいのは分かってるから、じゃあもうクリスマスなら、ゆっくり話を聞いてくれるかもって思ったのに!頑張ってご飯も作ったのに、いつもと同じ!食べてすぐに「風呂入って寝るわ」って!クリスマスも忘れてたんでしょ!」

何も言えねぇ。
クリスマスなんて眼中なかった。

「いや、それは、悪かった……」

「赤ちゃんの話をしても「ああ、うん」だけ!クリスマスも忘れられた!あたしの話を聞かない!別れるには十分よね?!」

「……はい」

「今まで言わない、それだけはしないって決めてたけど、いくらなんでもあたし一人じゃなくなったのに、これじゃあ、困るのよ!なのに、「じゃあ別れるか!」って!赤ちゃんいるって、言ったのに……!」

最低な俺は、ただ黙って話を聞くしかない。
聞かなければいけない。

「前ほど好きとか言ってくれなくなったし、赤ちゃんいるのに、返事は適当だし、もう、ダメだって……っ、」

誰も俺の味方をしなくて良かった。
みんなが、牧野を守ってた。
俺の、代わりに。なんて情けない。

「もう、これからお腹も大きくなるのに無理だと思って、一ヶ月前にお母様に相談したの!それなら、ここで暮らしなさいって、ごめんなさいねって、あなたじゃなくて、お母様が、……っ!」

「本当にごめん、悪かった……!」

「赤ちゃんが出来たことも、家を出ることも話そうとしても聞いてない。
引っ越すのに荷物をまとめてても、有給取っても、気にも留めない。
話も聞いてるようで聞いてない、返事も適当!あなたも関わる話なのに!お腹の子はあなたの子なのに、結婚の言葉すらない!
結局、別れるって言われたってお話したら、それなら、うちの子になりなさいって、お母様がね!本当に道明寺財閥の後継者が、聞いて呆れるわ!」


「「Absolutely」で許したあたしを、この子を、一生守りなさいよ!その言葉を忘れないで!」

「絶対に」忘れない。
こんな馬鹿な俺に、11年も側にいてくれた牧野に、俺の全てを。


「牧野」

「なに?!」

「Do you want to be married to me?」
「Absolutely yes!」

「嫌味かよ!」

「だって!あたしの誕生日も忘れてるでしょ!このバカ男!」






Happy Birthday Tsukushi!
May you be happy always.


fin.









Take a look at me now. 27

Take a look at me now. 27





社長就任が発表されてからの一ヶ月は特に忙しかった。
連日、取引先への挨拶回りにパーティーへの出席。
パーティーでは、どうしてもと頼まれて取引先の令嬢をパートナーにすることもあったが、基本的には日本に来てから秘書になった西田を連れて行く。
牧野以外の女は、触るだけでも鳥肌が立つ。気持ち悪い。
あきらたちも会社に挨拶に来たが、挨拶だけで余計な話はせずに終わった。
本当に忙しかったし、牧野の話をされたら困るから、無理矢理切り上げ追い出した。


仕事もNYにいる時とやり方は変わらない。
強引な取引はしない。
社員を、取引先を大事にする。

日本支社の社長に就任してすぐに始めたのは、福利厚生の見直し。
若手社員からのヒアリングを続け、全社員へは無記名でのアンケートを取り、一番改善要望の多かった女性社員の出産後の社会復帰の手助けになるような制度も作った。
今では男性社員の育休取得率を上げられるように、在宅勤務の推奨など臨機応変に対応出来るように仕事環境を見直し、同時に働き方の多様化を進める話し合いも始めた。
アニバーサリー休暇なんてものも作ったが、これがなかなか高評価を受けて、女性誌から取材なんかも来た。


俺は、家族からの愛はほとんどもらえずに育った。
それでも、愛される幸せを知ることが出来たのは、牧野のおかげだ。

社員たちも、道明寺財閥に関わる全ての人にも、家族や恋人と友人と、楽しく幸せに暮らしてほしい。
俺はその為の手助けをしているだけ。
その為に働いている。
それだけ。

それだけ。


じゃあ、俺は誰を愛したらいい。

社員たちの幸せを願い、その為の努力も時間も惜しくはない。

でも、俺は?

これから誰も愛することなく、誰かを愛する幸せを二度と感じることなく、過ごすのか。


夜中一人になると、突然訪れる空虚感。

考えるな。

考えるな。

こうなると、もう寝ることなど出来ない。
仕事だ。
俺の、存在意義は、仕事だ。

仕事をしていれば、俺は幸せだ。



日本へ帰国して仕事が少し落ち着いたのは半年を過ぎた頃だった。
あの空虚感に耐えられず一人で家にいられなくなり、それを紛らわせる為に、すぐ仕事が出来るよう就任直後から社長室に泊まり込んだ。
春の桜も見ず、夏の暑さも感じることはなく、いつの間にか季節は秋へと移り変わり、朝晩の冷え込みが気になる頃になって、やっと家に帰るようになった。

そして冬になった今でも、やはり会社と家の往復で一日が終わる。
マンションには使用人を入れないようにしていたから、自分のことは自分でしなければならない。
でも、そのくらい忙しいほうが何かを考えなくて済む。


そんな時、会長が突然日本へ帰国した。
俺と入れ替わるようにNYをベースに仕事をしていたが、何をしに日本へ来たのか。
会長に呼ばれて、役員室へと赴く。


「司さん。あなた、お見合いしましょうか」

お見合い。

学生の頃にはしていたが、牧野と出会ってからは、そういう話は断るようにしてもらっていた。
だが、今は年齢的にもお見合いをしたら婚約と結婚はセットだろう。

もう、いい加減に、忘れなければならないのか。


「……分かった」

「随分あっさりね。お相手が誰だかお聞きにならないの?」

「誰でも同じだろ」

「牧野さんは、どうするのですか」


牧野。
久しぶりに聞いた他人の口から出たその名前に、心臓が一瞬跳ねたような気がした。

会長も牧野を気に入っていた。
牧野なら、俺と結婚させても良いと思っていたのだろうけど。

「牧野は、類と結婚するんだろ」

「あなたは、それで良いのかしら?」

「良いも何も牧野が決めたことだ」

「あなたたち、きちんとお話はしたの?」

「してない。牧野から連絡もないしな。そういうことだろ」

「そう……」

会長は何か考えてるようだが、自分でお見合いの話を持ってきておいて牧野がどうのこうのと、どうでも良いだろ。
もう、過去の話だ。

「会長、見合いの日時は」

「来週末の土曜日、午前十一時からホテルメープル東京の料亭で。その日は一日休みにするよう西田に言ってあるわ」

「分かった」

見合いの為に一日休みとは、よほど繋がりを持ちたい相手なのか。
まだ何か言いたげな会長を無視して部屋を出た。


俺はいつまでも、牧野を忘れられない。

仕事をしていても何をしていても、常に牧野が俺の中のどこかにいる。
今の俺は、牧野の言葉で出来ているから。
いつになったら、どれだけの時間が過ぎたら思い出になるんだ。
どうすれば、あの頃は良かったと、思えるんだ。

何を、どうしたら、


俺は今でも牧野のことを、愛しているのに?


それでも見合いをすると決めたのは俺だ。

見合い相手には、忘れられない女がいると正直に言えばいい。
それで駄目なら仕方ないし、それを受け入れてくれるなら、それで良いじゃないか。
いずれは俺も道明寺財閥の後継者を……、

これで家族を愛せるのか。
いくら相手が良いと言ったとしても、俺は牧野を忘れられずに、誰かを愛することが出来るのか。
そんな不誠実なことをして、妻になる女は、生まれてくるだろう子どもは、幸せになれるのか。

相手を幸せに「したい」ではなく、幸せに「しなければならない」と思っている時点で、もう先は見えている。


まだ、ダメだ。
やはり見合いは断ろう。そう思ったのに、忙しさにかまかけて気が付けば見合い前日の金曜日。
西田に見合いは断りたいと申し出たが、流石にもう変更は出来ないと呆れた顔で言われた。
前日にキャンセルなど失礼極まりないのは分かっているが、万が一キャンセル出来たら、なんて思っただけだ。

話を受けてからすぐに届いた見合い相手の釣書は、職場のデスクの端にずっと置かれたまま。
西田にきちんと見るようにと、しつこく言われているが一度も封を開けて見ることはなかった。
見たら、牧野と比べてしまう。

もう、俺にとって牧野以上の女なんていないのだ。
どれだけ大きな家柄や財産を持っていても、魅力的だろう身体をしていても、牧野を超える女などいない。
話を受けておいて申し訳ないとは思うが、明日の見合い相手には直接断りを入れるしかない。


憂鬱な朝を迎え、一人支度をしてマンションを出ると、外に西田が迎えに来ていた。
前日になって断りたいなんて言ったから、逃げないようにとでも思っているんだろう。
一度でも受け入れたのはこちらだし、当日に何も言わずに逃げるようなことはしない。それに断るなら、色々と挨拶をする前にしたほうがいいだろうと断るタイミングを考えておく。


「社長、お相手の釣書はご覧になりましたよね?」

車内で西田に聞かれたが、結局一度も見ることなく会社のデスクに置かれたままだ。

「見てない」

正直に言うと、西田は「なるほど」と言うと、他には何も言わなかった。
自分で聞いといて、なるほどってなんだよ!


色々と思うところはあるけど、すぐにホテルメープル東京に着いて総支配人に料亭まで案内され、西田と共に部屋の前まで来た。
もう相手の女は来ているらしい。

扉を開ければ相手がいる。
そして西田が扉を開けてすぐ、相手の顔も見ずに俺は頭を下げた。


「申し訳ないが、今回の話はなかったことにしてもらいたい」

そう言ったのに、相手は文句も何も言わずに黙っているようで、部屋の中は静寂だけが流れていた。
すると相手が立ち上がったのか、布擦れの音が聞こえ、頭を下げたままの俺の視界には見合い相手のだろう女の足先が見えた。

そのままもう一度「申し訳ない」と言うと、頭に熱い、液体。

「……あっつ…っ!」


なんだ、この女!
熱い茶でもぶっかけたのか?!

いきなり断りを入れるのが失礼なのは分かっているが、いくらなんでもこれはないだろう。
流石に一言くらい彼女に言っても良いだろうと顔を上げようとしたら、バシッという音と、頬に衝撃。
そしてジンジンと痛む頬。
いま平手で叩かれたのか、俺は。

ここまでされるって何だ?
いくら見合い相手の男から断られて腹を立てたにしても、ここまでするか?

もう、面倒だ。
帰りたい。

俺はもう相手の顔など見る気も失せて、頭を下げたまま。

「気は済みましたか?それなら、帰らせてもらいます」

そう言って初めて頭を上げた時、視界に入った女の顔。

この時の驚きは、たぶん、この先の人生でも訪れないだろうほどの衝撃だった。




なんで目の前に、牧野がいるんだ。











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Can we get back together? 3

Can we get back together? 3






「副社長」

朝イチ西田。
寝起き早々から牧野がいない事実に打ちのめされる。
やはり夢ではない。
牧野はいない。

「さすがに起こすところからとは思いませんでしたが」

「朝からうるせぇな!」

「朝一人で起きられないようでは牧野さんに捨てられても仕方ありませんね」

「捨てられたとか言うな!まだ捨てられたか分かんねぇだろ!」

「おやおや。まるで子どもですね、司坊っちゃんは」

西田のやつ、マジでブッ殺す。

「そんなに睨んでも怖くありませんよ。牧野さんに出会ってからの副社長は優しくなられましたからね。高校生の頃の坊っちゃんのほうが、まだ恐ろしかったですよ」

やれやれと言わんばかりに呆れたような顔で話す西田。
仕方なく起きてリビングのソファに座るが、西田は早く支度をしろと言わんばかりに俺の周りをうろちょろする。

「坊っちゃんは洗濯も出来ませんか。せめて、洗濯物を洗濯機に入れるくらいはしても良いでしょうに。ここはお邸ではないですよ。まさかとは思いますが、牧野さんに全部やらせていた訳ではありませんよね?」

一昨日、昨日と俺が脱ぎ散らかしたシャツや靴下をつまみ上げながら、尚も西田は俺に言い続ける。

「今時、忙しいからといって家事を分担出来ない男は選ばれませんよ。いくら収入が多くても、使用人もいない家で生活を共にするのに任せきりなんてありえません」

洗濯物を纏めて手に取り、ちらりと俺を見る。

「まさか、家政婦のようなことをさせていたなんてことないですよね?牧野さんが副社長より早く帰ると言っても、休みは全て副社長と一緒ですからね。忙しさは変わらないはずです」

まとめた洗濯物をバスルームへ持って行き戻ってきた西田は、動かない俺をまたちらりと見て、ダイニングテーブルに置きっぱなしのグラスをキッチンへと持って行く。

「……まぁ副社長は生活能力ゼロですから、全て自分でやれとは牧野さんも言わないでしょうが、手伝いくらいはしてましたよね?それに、やってもらったらありがとうくらいは言ってらっしゃいますよね?まったく、これではクリスマスの朝に喧嘩するのも納得です」

クリスマスだと?

「……副社長、まさかクリスマスを忘れていたなど…」

俺の顔を見た西田は、今までで一番大きなため息をついた。

「牧野さん、24日の夜はいつもより早く帰りました。クリスマスイブの夜くらいは一緒にゆっくり過ごしたいと張り切っていましたが……。副社長も早くお帰りになったじゃないですか」

何も言えない俺に、西田は心底軽蔑したような顔で「最低ですね」と呟いた。


まさか西田に言葉で殴られるとは思わなかった。

選ばれない男。
捨てられた男。
生活能力ゼロ男。
クリスマスを忘れた男。

最低な男。

口を挟む間もなく繰り返されたジャブからの渾身のストレート。

ノックダウン。

「おっと、今さらでした。牧野さんはもう出て行かれましたからね」

ノックアウト。
再起不能。




「副社長、明日は仕事納めで最後に納会があります。そこで挨拶したら今年はとりあえず終わりですので。残りは年明けに必要な書類全てに目を通してサインするだけです。明日は牧野さんも出勤しますから頑張りましょう」

「牧野」の言葉で意識が覚醒する。
気が付けば、いつの間にか職場のデスクを前に座っていた。
目の前には様々な企画書に、サイン待ちの決裁書類やら何やらが山積み。

「副社長、本日は午後から会食です。今年最後の会食ですからね、牧野さんがいなくても愛想良くしてください」

牧野がいなくても仕事くらい出来る!


そう思ったのに、会食の相手が面倒だった。
牧野がいないと分かると急に不機嫌になるのは、取引先の中でも一番の牧野贔屓を公言している爺さん。

「なんじゃ、つくしちゃんいないのかい?こりゃ、つまらんのぅ。仕事納めにつくしちゃんの顔が見たかったのに……」

俺相手では不服と、包み隠さず態度に出すクソジジイ。
馴れ馴れしく「つくしちゃん」なんて呼びやがって!

「わしと会食の時はいつも来てくれるのにのぅ。ふん、粗方この坊主がつくしちゃんを怒らせたんじゃろ。ついに愛想でも尽かされたか?それなら好都合じゃわい。うちの孫息子はイケメンというやつでな!」

思わぬ図星を指されて言葉に詰まる俺を見たジジイは、わははと笑いながら「お見合いさせても良いかのぅ?」などと西田に確認している。
西田も「牧野さんに確認させていただきます」なんて返すんじゃねぇ!

結局、俺は一言も話させてもらえず、西田とジジイが世間話をして終わった。
本当に牧野の為だけに来てたのか、このジジイ!


「副社長、本日はこれで終わりです。どういたしますか?お邸に帰られますか?それとも牧野さんのいない家に?」

西田は黙る俺を一瞥すると、「邸へ」と運転手に言っていた。
マジでムカつく。

邸に着いて中に入ると、エントランスホールでババアに会った。

「司さん、お話があります」

めんどくせぇ。マジでめんどくせぇ。
明日、牧野が出勤したら捕まえて話がしたい。
その為に山積みの書類を持ち帰ってきたのに。
仕事をさせろ、そう言おうと思ったらババアがニヤリと笑いながら俺を見る。

「牧野さんのお話よ」

なんだよ、ババアも俺と牧野のことをもう知ってるのか。

「早く着替えて私の書斎に来なさい」

もう今日は何度ため息をついたか分からないが、とにかくババアの話は気になる。
牧野のことは、知りたい。
着替えてババアの書斎へと向かい、ノックをすると「お入りなさい」と返事があった。
扉を開けて中へ進むと、ババアは一人ではなかった。


「牧野!」

と、姉ちゃん?
なんだ?なんだ、この組み合わせは。
西田が牧野は安全なところにいると言っていたのは、この邸のことか。
それなら納得だが、なんで牧野が邸にいる?

牧野はちらりとも俺を見ない。
無表情のようで、ツンと澄ました顔をしているが、あれは、めちゃくちゃ怒ってる。
俺には、分かる。
牧野が家を出て行ってから、牧野のことが何も分からないと思っていたのに、いま唯一分かるのが牧野が怒っている顔とはどういうことだ。
姉ちゃんも珍しく一言も話さない。
いつもは何かしら殴ったり蹴ったりしてくるのに、今日は何もない。笑顔もない。
それが怖い。


「司さん」

さっきのエントランスホールで見せたニヤリ顔から打って変わって、ババアも冷たい目で俺を見る。
何なんだ。
牧野と拗れただけで、なんでここまで冷たい反応をされるんだ。
姉ちゃんだって、いつも俺の味方をしてくれるのに。


いや、拗れたとか味方とかの問題じゃなくなってきている?
本当にただの、いつもの喧嘩じゃねぇのか。
でなければ、ババアと姉ちゃんが牧野といる理由がない。


「牧野さんのことですが、来年にはあなたの妹になります。これからは兄妹ですから、仲良くなさい」


は?

ババア、遂にボケたか?

妹?
妹って何だ?

妹?
兄妹?
俺は姉がいれば十分なんだが、牧野が、妹?


「いや、意味がわかんねぇ」

「成人してもうすぐ30になるというのに、ここまでとは思いませんでしたが、子どものしたことは親が責任を取らないといけないですから」

責任ってなんだよ。
俺が何をしたって言うんだ。
なんでそれで牧野が妹になるんだよ。

「よろしくね、つくしちゃん」

姉ちゃんはニコニコしながら牧野に声をかけている。
俺に対する態度とはえらい違いだ。

「司と結婚してくれれば、つくしちゃんが妹になるって思ってたけど、養子縁組でもいけるのよね。嬉しいわ!」

「私も姉が欲しかったんです。よろしくお願いしますね」

なんて牧野もニコニコしながら返事をしている。

「待て、ちょっと待て。なんで牧野が妹になるんだよ!冗談やめろ!」

「冗談ではありません。もう弁護士にも話してありますから、決定事項です。手続きは来年を予定していますが、明日の納会で発表しますから、そのつもりで」

なんでそうなる。
養子縁組?弁護士?納会で発表?
だから、明日だけ出勤なんて言ってたのか。

「冗談じゃなくても、どうして牧野が養子縁組して妹になるのか説明しろよ!」

「牧野さんは、最近、お付き合いしてる方とお別れしたそうね」

別れたつもりはねぇけど、それは俺のことだろ!
だからってなんで養子縁組なんだよ!

「その方と何度もお話をしようとしたらしいけれど、全く聞く耳を持っていただけなかったようですよ。別れると言ったら、そのまま別れるかと返されたから家を出たと言うし、代わりに私が話を聞けば、お付き合いの相手は司さん、あなただそうね」

何を今さら!
さっきからふざけたことばっか言いやがって、このババア!

「息子のしたことは自身で責任を取ってもらいたいですけれど、お話が出来ないなら仕方ないですから。代わりに親の私が責任を取ります」

「だから!何の責任だよ!俺が牧野に何をしたって言うんだ!」

「呆れた。あなた、本当に牧野さんのお話を聞いてなかったのね。もういいわ。それと、もう一つお伝えすることがあります」

関心のない顔は何度かされているが、こんなに呆れた顔をされたのは初めてではないか。
姉ちゃんを見ても、これが弟を見る目なのか、今までにない冷たい目をしている。

もういいって、なんだよ。
良くねぇよ、何がいいんだよ!
何なんだ?
俺は、牧野に何をした?
もう一つって、まだ何かあるのか。
これ以上、何があるんだ!


「来年、孫が産まれるのよ。あなたは伯父さんね」


ババアに孫?!
俺が伯父?
どういうことだ?
姉ちゃんに子どもでも出来たか?
それなら俺が伯父になるのは分かるが、でもそれでなんで牧野が妹?


「つくしちゃん。初めてだし不安だと思うけど、私もお母様もいるから大丈夫よ!来年は元気な赤ちゃん産みましょうね!」


はっ?








Take a look at me now. 26

Take a look at me now. 26






牧野とはNYの道明寺邸で再会したあと、またパッタリと会えなくなった。
同じNYにいるのに、意味が分かんねぇ。
メールはまた毎日来るようになったけど、添付されてる写真に写ってる、牧野の隣に並んで顔を寄せて肩組んでる金髪野郎は誰だ。


牧野は翌年の五月に留学を終えて日本へ帰って行った。
結局牧野は、大学三年生の一年間をほぼアメリカ留学で過ごしたことになる。
なのに、会えたのがあの一回だけってなんだよ!どうせババアの仕業だろうけど、ここまで会わせないって何なんだ!

スクールもフルタイムであれば早くて今年の九月には卒業出来たが、パートタイムでは無理で、どうしてもあと一年弱はアメリカだ。
牧野も就活はどうしたのか、さっぱり分からないままだった。
二年生の時にインターンシップも行っていたらしいし、ババアがアレコレさせてるんだから道明寺財閥に就職するのだろうと思っていた。

それからも仕事、学校、家の往復の毎日。
夏も秋もあっという間に過ぎ去った。
牧野からの連絡がなければ、頭も気持ちもどうにかなりそうな程に忙しい。
牧野も忙しいのは知っている。
それは分かってるけど、牧野からの連絡頻度が夏頃から減っている。しかも学校や就職、日常のことは一切話さなくなった。
また何かやってんのか?

もしかして今度こそ本当に、俺以外の……。

馬鹿らしい。
そんなわけあるか。それならそれで牧野は言ってくれるはずだ。
恋人ではないけど、俺とのことを曖昧なままにしておくことなど牧野はしない、はず。
連絡がないわけではないし、牧野が日本にいることも分かってる。
だから、大丈夫。


そう思っていたのは、俺だけだったらしい。

牧野が日本へ帰国してから、半年後の冬だった。
スクール卒業まであと半年。友人に勧められた本が面白そうで、珍しく本屋で買い物をしようと思ったのが良くなかった。
立ち寄ったのは海外進出してきた日系企業の書店だったらしく、日本の雑誌もコーナーを作って数多く取り揃えてあり、懐かしさに手を伸ばそうとした時に目に入った一冊の雑誌。

『花沢物産の後継者、結婚間近か』

こんな文字が表紙に出ていて、類のことが載るなんて珍しいと興味半分で買ってみたのが間違いで、類に直接聞けば済む話なのに、こんなものを見てしまったら電話すら躊躇って出来なくなってしまった。
こんな雑誌を鵜呑みにするなんて、俺らしくもない。こういうのは、ほとんどが面白可笑しく捏造されたものだ。
それでも、そんな噂や写真が出るくらいには何か関係があるのかと、どういうつもりだと類を問い詰めて、怒鳴って……、


なんで、類の婚約相手が牧野なんだ。


牧野、どうなってるんだ。
結婚間近の見出しと共に載っていたのは、どこかのパーティーに出席した時に撮られたのか、類に手を繋がれエスコートされている牧野の写真だった。
お前は類の前でも、こんな風に笑うのか。
その笑顔は俺だけのものだったはずなのに。


『他に男がいても関係ない、奪いに行く』

そう言った。でも、類は親友だ。
類だって、こんな笑顔は滅多に見ない。親友の俺でさえ。
すぐ会える所にいれば、会って話をして、まだ牧野は俺のことが好きだから大丈夫と安心できることのはずなのに。
だが、このNYと日本という距離と、時差と、スマホ一つの繋がりしかないことが俺を躊躇わせた。

牧野が、決めたことなら。

これが理由で牧野からの連絡頻度が減っているのなら、本当にそういうことなのかもしれない。

一年前の今頃は、牧野と再会して幸せの絶頂だった。
まだ頑張れると、これからが踏ん張りどころだと、やる気に満ち溢れていた。
日本へ帰れるまで、あと半年と思っていたのに、こんなに早くお前は……。

牧野。

それから、牧野からの連絡は全くなくなった。
なんでメールも電話も寄越さないのか、連絡をしてこない理由を牧野に聞けなかった。
あの記事は事実で、類と結婚することになった、なんてことを牧野本人の口から直接聞かされた時のことを想像したら、こわくなった。俺らしくもなく、何かがこわいと思うことがあるとは。
学生の頃なら感情そのままに動いていたことも、今はスクールと仕事のことを考えると、闇雲に動けない。
感情優先だった学生の頃とは違う、完全に理性が上回った瞬間だったかもしれない。
こうやって人は大人になっていくのだろうか。

そして日本にいる友人たちやF3にも教えることなく電話番号を変え、連絡を断った。
どこからも、特に牧野の近くにいるだろう親友たちから牧野の話を聞きたくなかった。

アメリカの大学に編入したのも、MBAの学位を取るのも、NYで仕事をしているのも、全て自分の為だ。


俺は、牧野に選ばれなかった。
それだけ。


牧野との連絡手段は一切なくなった。
元々連絡なんて来なかったのだから、これでいい。

ババアには、スクールを卒業したらすぐに日本へ異動するかと打診されたが、断った。
あんなに日本へ帰りたがっていた俺を不思議そうな顔をして見ていたが、とにかく牧野と会うのがこわかったのだ。

人を愛すると言うのは、こんなにも苦しくて、人を臆病にさせるものなのか。

失うことの怖さを、こんなにも生々しく感じるものなのか。


それでも自棄になったりせずに、スクールでMBAの学位を取得して無事に卒業出来たのも、そのままNYで仕事をしているのも、牧野と約束したから。


『たくさんの人に、愛されて』


牧野が、そう言ったから。
牧野が近くにいなくても、俺のものにならなくても。

牧野が、誰かのものに、なってしまっても。

一番愛されたかった牧野に、愛されなくても。


それが牧野との、約束だから。



牧野に待てるかと聞いた四年は過ぎて、その次の年の四月に日本支社の社長として日本へ帰ることになった。
会長命令だから、仕方ない。

それまでの間に花沢物産の次期代表が結婚となればニュースになるだろうが、なぜかそんな話は聞かなかった。
それに、よく考えたら類と結婚するなら牧野は道明寺財閥には就職してないだろう。
それなら日本へ帰っても良いかと……、あんなに帰りたかった日本へと帰るのに、こんな憂鬱なことがあるか。


やはり誰にも何も連絡せず、俺が道明寺財閥日本支社の社長になるというニュースリリースが流れる前に、日本へ帰国した。
公に発表されたら忙しくなることは分かっているし、忙しいほうがありがたい。
仕事が忙しければ、他を考えなくて済む。


家も道明寺邸には帰らず、都内のマンションにした。
使用人も入れない。誰も、俺以外の誰もこの部屋には入れない。

あの夏に、牧野が過ごしていたという道明寺邸には帰りたくなかったから。
メープルのホテルにも絶対に宿泊しなかった。あそこに一人で泊まるのは無理だ。
牧野との四年前の思い出が、よみがえってしまうだろうから。

とにかく、牧野を感じるものを遠ざけて排除して、学生の頃の牧野だけを記憶に残し、あとは全てに、蓋をした。
これでいい。
俺は、何千何万という社員たちや財閥に関わる全ての人が幸せなら、それでいい。
そういう人の幸せを願える経営者になりたいのだから。


ババアとは違う、強引なやり方を俺はしなかった。
始めは、やり方が甘い、東洋人の若造が理想ばかりを追っていると扱き下ろされ、役員たちですら味方なんて極僅かだった。
それでも、少しずつ付いて来てくれる社員たちが増え、メディアからも評価を得られるようになってきた。


牧野との約束だけは守りたかったから。

今は社員たちの幸せが、俺の幸せの糧だ。


そんな中での、日本への帰国。



なぁ牧野。
お前も今、幸せなんだよな?











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Can we get back together? 2

Can we get back together? 2






ジュエリーチェストの上に置かれていたモノ。


それは、土星のネックレスとミラノで渡したダイヤの指輪だった。


本気だ。
牧野は本気で俺と別れるつもりで、この家を出て行った。


でも待て。
喧嘩したのは昨日の朝だ。
なのに翌日から有給?
いくらなんでも俺の秘書をやってる限り、突然の有給は取れない。
前から有給申請をしていたことになる。

でも、荷物はどうした。仕事中に業者に運ばせた?
一緒に暮らして五年は経ってる。
牧野の荷物だって少なくはない。予め纏めていたのか。

俺はそれにも気付いていなかった?

喧嘩はあくまできっかけで、前から牧野は、出て行くつもり、だったのか。


……昨日の朝は、なんで喧嘩になったんだ?
いつもの些細なことだったはず。
洗濯物をそこら辺に置くなとか、使ったカップはシンクに持って行けとか、電気を点けっぱなしにするなとか。

でもそんないつものことで、今さら別れるなんて言うか?

他にも何か言ってなかったかと考えているうちに、もう一つ気が付いた。
何年か前に買ったペアリング。
それすらも置いて行かれている。
絶望感。



「副社長」

西田の迎えが来たことにも気が付かなかった。
いつの間に入ってきたんだ。

「牧野さんがいないと着替えも出来ませんか」

「うるせぇ!考え事してただけだ!」

「そうですか。何を考えていたのか一目瞭然ですが、仕事は待っていてはくれません。急いで準備してください」

「……何か知ってるのか」

「知っていますが、牧野さんに口止めされてますので。とにかく急いでください」

口止めって何だよ!
いつもなら牧野がスーツとシャツとネクタイを選んで置いといてくれるのに、今日はない。
いつも牧野が選んでくれていたスーツとシャツとネクタイを思い出しながら、自分で選んだ。
前は自分でやっていたのに、いつの間にか牧野がやるようになっていた。

朝飯もない。
「いってらっしゃい」と「いってきます」も、ない。

大きくため息をついて。
牧野と暮らすようになってから、初めて無言で家を出た。



車の中で西田が一日のスケジュールを俺に伝える。
今日も一日忙しい。プライベートなど無きに等しい。


「西田、牧野はいつ有給申請を出した?」

「一ヶ月ほど前ですね」

一ヶ月も前から決めてたのか。
俺は何も聞いてない。

「上司の俺が知らないって何だよ」

「本当にご存じなかったんですか?承認のサインは副社長がされてますよ」

「知らねぇ!そんな書類にサインした記憶もない!」

「いえ、してますよ。他の書類と紛れて、牧野さんのだからと適当にサインしたのでは?」

んなことあってたまるか。
内容を確認しないでサインするなんて馬鹿のすることで、経営者としてあるまじき行為だ。
俺は絶対にサインはしていない。
牧野が有給申請して俺が理由を聞かないなんて、あり得ない。

「……有給は今日だけか?」

「一応、明日までです。今年はあと明後日だけ出勤の予定です」

なんだ。
明後日は会社に来るのか。
でも、昨日今日とどこにいるのか分からないのは変わらない。
だが、西田は牧野が家にいないことも知っていた。
俺よりも何かを知っているのか。

「西田、牧野はどこにいる」

「大丈夫ですよ、安全なところにいますので。お休みも本当はそのまま年末年始休暇にしてあげたかったのですが、納会の準備で人手が足りず忙しいので一日だけと無理を言いました」

マジで知ってんのかよ。
俺よりも牧野のことを知っているのがムカつく。
なんで俺が知らねぇんだ!


昨日も日曜日なのに出勤しなければならないくらいには忙しい。
年末はどうしても忙しくなる。
日本支社は正月休みがあるが、NY本社は年明けすぐに始業するから、俺はそうそう休んではいるわけにもいかない。

牧野が明後日には会社に来ることが分かっていても、家には帰ってこないのかと思うと、どうしたらいいのか分からない。
一緒に暮らし始めてから1日でも離れたことがなかったから、分からない。

いつも一緒にいたから、知らないことなんてないと思っていたのに。


「副社長は牧野さんがいないと急にポンコツですね」

呆れたような顔で西田が言うけど、上司に向かってポンコツはねぇだろ!

「西田。お前よくそんなこと俺に言えたな」

「今の副社長は全く怖くありませんし、牧野さんがいなくなった今、副社長の味方をする方は誰もいませんよ」


なに言ってんだコイツ。
普段なら怒鳴りつけているところだが、牧野が家を出て行った事実に打ちのめされていて、いつもの覇気が出ない。
それにしても、誰も味方にならないって何だよ。んなことありえねぇだろ。

そう思って会社に着く前にあきらと総二郎に電話をすれば、俺が話す前に二人揃って「今回ばかりは全面的に牧野の味方だ」と言われた。

なんだ?
もう牧野がいなくなったことを知ってるのか。

類は電話なんてしても意味はないだろう。
あいつはいつでも牧野の味方しかしない。

昼休みに滋と三条に電話してみれば、やはり開口一番、「今回ばかりは呆れて物も言えない。自分で何とかしろ」と言われた。

なんなんだ。
昨日今日の話なのに、なんで俺だけ何も知らないんだ。
牧野のやつ、俺には何でも話してると思ってたのに。

いつもの喧嘩にここまですることないだろ。
なんでそれで別れるだの何だのになるんだよ!
今さらだろ!



「副社長。いい加減、仕事に集中してください。仕事納めの28日までに終わらせないと、牧野さんのところに行けませんよ」

どこにいるのか分からないのに?
喧嘩の原因も、行きそうな場所も、親しい友達も、牧野の何も分からないのに。
とりあえず。

「西田!うるせぇ!黙ってろ!」

「失礼いたしました。今、牧野さんの居場所を副社長にお伝え出来るのは私だけですが、黙ってますね」



今日も帰れば一人。
いつもは明るい室内も、自分でスイッチを押さないと暗いまま。
もしかしたらとは思わなくもなかったけど、もしかしたらなんてなかった。
牧野は、いない。

昨日着た服も俺が放り投げたままだし、コーヒーが飲みたくても、コーヒー豆の場所すら知らない。
いつの間に、こんなに牧野に頼りきりになっていたのか。

牧野がいる「いつも」が、ない。
牧野がいなくなるなんてことは、考えたこともなかった。

明日も牧野は休みで会社にはいない。
一緒に暮らす前は離れているのが当たり前だったのに、今は近くにいないことが不安で仕方ない。

今さら。
別れるつもりで出て行った牧野に、今さら、そんなことを言ったって。
こんなに牧野のことを考えるのは久しぶりな気がする。
「いつも」が「当たり前」になってしまって、考えることも、寄り添うこともしていなかったのではないか。

離れてから気付くなんてバカげてる。
昔は離れていても、牧野が俺を想っていてくれていることを感じていたのに、側にいることが当たり前になってしまって、牧野を見ていなかったのではないか。

愛想を尽かされても仕方ない、かもしれないが、それで済ませるつもりはないし、俺はまだ牧野が好きだ。

……最近、牧野に好きとか愛してるとか、言ったか?
それすらも言ってなかったような気がする。
いつも一緒にいることが何よりも意味があると、言わなくても分かってるだろうと、思って……。

牧野は元々そういうことをあまり言葉にしない。
だから俺がいつも言っていたのに、言わなくなったら牧野が何を思うかなんて、想像に難くない。

仕事では秘書、家でも秘書のような家政婦のような扱いをされていると思っているのかもしれない。
俺にそんなつもりはなくても。

改めて自分の言動を振り返れば、今まで別れると言われなかったことのほうが不思議な気がしてきた。
牧野も堪りに堪り兼ねて、そうなったのだろうか。

こんなに自己嫌悪に陥ったのも人生で初めてだ。

どうやって牧野を取り戻したら良いのか分からない。
そもそもに、こんなに分からないことだらけで、取り戻すも何もあるか。
だって、今までも昨日も、いつもと同じ毎日だったじゃないか。

分からない。

こんなんで、こんな俺に戻ってこいと言われても牧野は首を縦には振らないだろう。


ため息ばかりの今日も、牧野がいない大きいベッドで一人眠る。









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Take a look at me now. 25

Take a look at me now. 25







「と言うことでね、去年の夏から日本の道明寺邸で過ごしてたの」

あっけらかんと言う牧野。
そんなことを考えていたとも知らなかった。

俺と、俺の側にいたくて?
それなのに待たないと決めて、ババアに啖呵切って何やってんだコイツ。
約束をしてないとはいえ、四年間どうするのかと思えば、まさか牧野からこっちに飛び込んでくるとは。
そこまで想われていることを知って顔がニヤける。

「それからすぐに道明寺邸で、レッスンレッスンレッスンレッスン!」

げんなりって言葉がピッタリと当てはまるような顔をして話す牧野。

「昼間は大学、夕方からインターンシップ、それ以外と休日はレッスン!もう休む暇なんてないわよ!おばさまも厳しくするとは言ってたけど、こんな休みもないなんて!」

ハァーと大きなため息をついてコーヒーを飲む牧野は、その仕草一つ取っても違和感なく、確実に身に付いてきているのだろう。
道理で二年前の牧野と比べると座っている姿勢も仕草も、しなやかというか、流れるような優雅さを感じるわけだ。

「留学も道明寺邸に住み始めてすぐに準備が始まったでしょ?願書も提出期限過ぎてたと思うんだけど、おばさまが無理矢理ねじ込んだみたいでね。提出書類のエッセイなんて書いてないのに、書いたことになってるの!それからは毎日、類たちとも英語でしか話さないんだよ」

「類?」

「うん。道明寺がアメリカに行ってから、会える時は教えてってお願いはしてたんだけどね。将来、道明寺といたいなら、あれもこれもって。だから大学にいる時は、類には英語とフランス語、美作さんは中国語とダンス、西門さんは英語とお茶を教えてもらってたの。
桜子と滋さんからはマナーレッスンと、女性らしい立ち居振る舞いっていうの?そういうのを大学のカフェでも、外食してても指導されてたよ……。道明寺邸に帰れば、また先生からレッスン受けてね、本当に寝てる暇もなかった」


ということは、あいつらも牧野が何をしてたのか知ってたってことだよな?
俺だけ知らなかったってことか。
あいつら、夏から牧野に会ってねぇって言ってたが、そりゃ牧野がアメリカに来てんなら日本で会えるわけないんだよな。
次にあいつらに会ったら全員ぶっ飛ばしてやろう。
いや、でも頑張る牧野に協力してたのかと思えば、ぶっ飛ばすのは悪い気がする。
ぶん殴るくらいにしておくか。


「こっちに留学に来てからも、アパートに帰るのは寝る時くらいで、学校のあとは道明寺邸でレッスンレッスンレッスン……。寝落ちしちゃってアパート帰れないこともあったから、それを見兼ねたおばさまがお部屋を作ってくださったの」

ふふっと微笑む牧野。
ババアの話をしてんのに笑えるのって牧野ぐらいじゃねぇの?ババアも相当コイツが気に入ってるんだろう。
俺らが付き合ってないと知っても、道明寺家で預ってアレコレさせてるぐらいだ。


……ん?類?

「牧野!お前、まさか類と良い仲になったりしてねぇだろうな?!」

「はっ?!なんでそうなるの?」

「だってお前、類って呼んでんのか?!他は美作さん、西門さんって言ってたのに、類だけ類?!」

「あ〜、日本にいる時は、たまに実家に帰る時になぜか付いて来て一緒にご飯食べたりしてたから、いつの間にか?弟も勉強を教えてもらったりして、気付いたら仲良くなってて「類さん」なんて呼んでるよ」


これは、マズい気がする。
あと二年と思っていたけど、本当に手遅れになる前に迎えに行けるのか、俺は。

というか、類!
元々、牧野とは仲が良いと思っていたけど、俺のいない隙に何かしようとしてねぇよな?!

とにかく早くスクールを卒業してMBAの学位を取得しなくては、どうにもならない。
そうすれば、日本に帰れる予定だ。
それが、俺とババアとの約束。
これからあとの二年は、我武者羅にやるしかない。
とりあえず牧野がどこで何をしているのか分かっただけでも良しとしよう。

それに今回のことはきっと、牧野の為だろう。
ババアは俺にそこまで優しくはない。
まだクリスマスではないし、俺はクリスチャンでもないけれど、今日は神に感謝したい。
ババアにも感謝するべきか?そう思ったけど、今はババアの顔を頭から追い出す。

今日だけ。
今日だけは牧野を、堪能してもいいよな?


「牧野」

「なに?」

呼びかけに俺を見る牧野。
かわいいが、あふれてるよな。
だから、しょうがない。
かわいい牧野が、悪い。

「キスしていいか」

「は?!」

「いい?」

「いや、あの、話の流れ的におかしいでしょ。そ、それに、付き合ってない、人とは、しないもん……」

さっきしたけどな。
スーッと俺から視線を外して俺から顔を背けるけど、ソファから立ち上がった俺につられて視線を上げる。
そして牧野の前に立ち、ゆっくりとソファに膝を付いて牧野に跨り、牧野を挟むように背もたれに両手を掛ける。
こうして閉じ込めたみたいにすると、牧野を独占してる感じがして堪らない。

「ひっ……」

ひっ、てなんだよ。そんな顔を赤くして。
髪の毛に、こめかみに、頬に、鼻に、耳に。

二年前。
あの時もクリスマス前だった。

触れるか触れないか、ギリギリまで唇を近付ける。

「唇以外なら良いんだ?」

「唇以外は、挨拶ですることあるもん……」

「ふぅん……。この二年で、誰かとキスしたか?」

「……した」

「誰と?」

「……ど、道明寺と、さっきした、けど……」

ギュッと目を瞑ってる牧野。その瞼にもキスをする。
すると驚いた牧野が目を開ければ、俺と絡み合う視線。

「けど?他の男ともしたんだ?」

「してない!でも、道明寺は、」

「してない。俺も、牧野だけ」

「ほんとに……?」

「他の女なんて気持ち悪くて無理。それにもう牧野にしか勃たねぇよ」

「たっ……!た?!ど、もう、なにを、ばっ、ばっかじゃないの?!」

「前から言ってんだろ、俺は牧野馬鹿なんだよ」

もう、何なの、この人……!
こんな色気を、男の人に感じるなんて、それが道明寺のコロンの香りと合わさって、あたしもきっと、どうかしてる。

だって、好きな人が、目の前に。

「好き……」

「俺も」

二年前と、同じ。


「ん、」

牧野の頬を両手で包んで上を向かせて、そのまま唇を合わせる。
ガチガチに緊張してる牧野は、唇に力を入れて閉じたまま。
さっきは口の中まで入れてくれたのに。
勢いでなら出来るけど、改まってしようとすると出来ないのか。

これはこれで、本当に他の男とはしてないだろうと確信が持てるけど。
閉じたままの唇をぺろりと舐める。

「牧野、口あけて」

また目をギュッと瞑ってるから、それも可愛くて。
またぺろりと舐める。

「な?牧野の中に、俺を入れさせて」

「い、言い方が、やらし……!」

かわいい牧野。話せば口を開いてしまうのに。

「……っ、ふ」

牧野が中にいれてくれたから、余すことなく味わい尽くす。
ちらりと牧野を伺い見れば、俺に必死に応えようとしているけど、されるがままでいるしかなく、次第にとろんと惚けたような顔になる。
かわいい。
全身食べてしまいたいけど、これ以上はまだ牧野が許してくれないから仕方ない。

少し苦しそうにして俺の腕を引っ張るから、仕方なく少し唇を離すと、「二年前はワインの味だったけど、今日はコーヒーだね」なんて、またかわいいことを言うから。
かわいい牧野が悪い。

それから「唇がふやける!」と殴られるまで、ずっとキスを続けていた。










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Can we get back together? 1

Can we get back together? 1






朝、喧嘩をした。
いつものことだけど、いつもと違うことがあったとすれば、一つ。

「もういい、別れる!」

牧野にそう言われたことだった。

今まで数え切れないほど何度も喧嘩をしてきた。
それでも、この言葉だけは言わなかったのに、初めて出た言葉。
その時は俺も激昂してたから気にも止めなかったし、なんなら、

「そうかよ!じゃあ別れるか!」

なんて言い返した。
そう、売り言葉に買い言葉のように。


牧野と付き合って11年。
4年の約束はとうに過ぎ去ったものの、いつの間にか一緒に暮らしていたし、なんだかんだで上手くやっていると思っていた。
会社も一度か二度は経営危機に陥って、政略結婚なんて話も出たが、ババアもそれだけはしないと牧野を守っていたし、実際持ち直した。
だから、どこか安心していたところはあった。

牧野は俺から離れない。

お互い浮気は絶対しなかった。
それだけは、する気もなければ、されない自信も、あった。
だって俺は道明寺財閥の跡取りだ。
しかも相手はあの牧野だし。

しかし、もう11年だ。
どこか漫然とした空気があったと思う。
特に牧野も結婚だの何だの言ってこないし、俺には居心地の良い距離感だった。



牧野は俺の秘書として仕事をしている。
今朝は喧嘩をして別々に出勤したものの、仕事中はそれを持ち出すことなく、いつも通りだった。
こういう時いつもなら、牧野は俺よりも早く帰り飯を作って、俺が帰ってくるのを待ってる。
それでどちらからともなく謝って、収まる。
いつものパターンだ。

そう思っていたのに、今日は帰って玄関を開けたら真っ暗で、物音一つなくシンと静まり返っていた。
いつもと違うことに疑問を抱きつつリビングに入るが、ここも真っ暗で明かりを点けて見回しても牧野はいないし、飯もない。
いや、今は飯のことはどうでもいい。
一緒に暮らし始めてから、こんなこと今まで一度もなかった。
たまたま今日は疲れたか何かで先に寝てしまっただけだろうと寝室に入っても、牧野はいないし、いつもと何かが違う。


牧野の物が、何も、ない?

いやいやいやいや。
まさか。

とりあえず、どこにいるのか連絡してみようとスマホを取り出し、牧野の番号をタップする。
そしていつものコール音は鳴らずに流れた、音声メッセージ。


『この電話番号は現在使われておりません』


嘘だろ。
まさか。

確かに、今朝、別れるとは言ったけど、あれは言葉の綾だろ?
俺だって本気で別れるつもりで返したんじゃない。

まさか。
牧野は、本気で言った?

嘘だ。

本当に?
別れると行った時、牧野はどんな顔をしていた?

今日、仕事をしている間は?
どんな顔をしていた?

近くに、いつも近くにいたのに牧野がどんな顔をしていたのか、見てない。


落ち着け、俺。

牧野は何か残していってないか探そう。
こんな黙っていなくなるなんてことはしないだろうと、メモ書き一つでもないかと全ての部屋の明かりを点ける。

どこかに、何かないか。
リビング、ダイニング、キッチン、バスルーム、寝室。


ない。
何もない。
マジで、牧野の物が何もない。

リビングのソファに腰を下ろし、しばらく呆然とした。

これは、あれか。
愛想を尽かされたとか、そういう。

数時間前まで、何事もなかったかのように一緒に仕事をしていたのに?
スマホが繋がらなくなった今、牧野と連絡を取る手段がない。
どこに行ったのか、誰と親しいのか、よく立ち寄る場所があるのか。

牧野には、かなり厳しく交友関係も行動範囲も制限させていた。
なんせ道明寺財閥の副社長秘書で、恋人だ。
人間誰しも信用出来る奴ばかりではない。

それなのに、俺が何も知らない?
そんな馬鹿な。

でも、最近はこの家と職場の往復をしていることしか知らない。
職場でも家でも、いつも一緒だったから、牧野のことは全部知っていると思っていた。

いつも側にいたのに。

家ではいつも何の話をしていた?
仕事の話と、あとは……、

牧野がいつも何の話をしていたのかすら、思い出せない。




翌朝。
気が付いたら、もう翌朝。
いつもの夜なら「こんなところで寝てないで早くお風呂入りなさい」とか牧野が言ってくれるけど、そのままソファで寝てた。

いつもは牧野が起こしてくれるのに、今日は西田からの電話で起きた。
気分は最悪だ。
やはり牧野は出て行ったのか。


「今日から牧野さんが有給を取ってることはご存知だと思いますが」と続けて仕事の話をされたけど、有給を取っているなんて初めて知ったなどと言えるわけもなく。
間もなく西田が迎えに来ると言うから、風呂に入って着替えようとクローゼットを開けた。
そう言えば昨日はこの中までは見なかったな、と思いながら中へと入る。

そしてクローゼットの真ん中に置いてあるジュエリーチェストの上に置かれたモノを見て絶句。


それを見て、牧野が本気で俺と別れるつもりで出ていったことを悟った。







今日から28日までの4日間、午前6時に1話ずつ更新します。つかつくです。
連載中の「Take a look at me now.」は、いつも通り18時に更新します。


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