sei l'unico che può rendermi felice.

花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 13

Re: notitle 13







この女は一体、何を考えているのか。

分からない。
仕事以外で女と話すことなどないから、分からない。
今までの人生において「分からない」という選択肢はなかった。

彼女は、俺が出会いも結婚相手も求めていないことに気が付いているから、何しに来たという質問が出たのだろう。

だからといって、それを正直に話す必要もない。
これは返答次第では、運営に報告されるような話だ。
出会いも結婚も求めていないのに、こうして会う事自体が規約違反に近いはず。
もう二度と会いたくないと思えば良いとしていた態度で目的を疑われるとは思っていなかった。
彼女は勧誘やそういう類を警戒しているのだろうか。

なんと答えるべきか。
彼女と会う前に見たメッセージのやり取りを記憶の中から引きずり出す。

そうだ。
彼女だって、本気で出会いを求めていないのではと一度は疑ったではないか。


「クシマさんこそ、今日は何をしにここへ?」

「質問に質問で返すなんて卑怯ね」

質問に、質問で返す。
確かに卑怯なやり方だ。でも、すでにこれは駆け引きに近い。

面白くなってきた。
俺と腹の探り合いでもするつもりか。


「ご注文のパンケーキとコーヒー、お待たせいたしました!」

出来たての、湯気が見えるくらいほかほかののパンケーキを持ってきた席で、男女が笑顔もなく修羅場のような雰囲気になっていれば笑顔だった店員も流石に気不味さを感じただろうが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
彼女が無言で手を上げると、店員はささっとパンケーキとコーヒーを置いて逃げるように去っていった。

何しに来たのかと聞いた俺の質問に、彼女はどう答えるのかと思ったら。


「パンケーキ、食べて良いですか」


は?
この雰囲気でパンケーキ?
食うか?この状況で?!

無言で彼女を見ていたら、それを肯定と捉えたのか、ナイフとフォークを持つと、もぐもぐとパンケーキを食べ始めた。

マジで食べ始めたぞ、この女。
豪胆なのか、それともただ食い意地が張っているだけなのか。

パンケーキを一口、二口と食べたあたりで、彼女の頬がふにゃりと緩んだ。
そしてもう一口食べて、またふにゃり。

……食い意地が張っているだけだったか。


この顔を見ていると、なんだか気が抜ける。
そういえば、美味しい食べ物屋さんを探すのが趣味だと書いてあったし、甘い物には目がないとも聞いた。
これは本当なのだろう。顔を見れば一目瞭然だ。

それにしても、にこにこと美味しそうに食べる女だ。
女と食事をするのは仕事か見合いの席だけだが、俺を目の前にして、こんなにふにゃけた顔をして飯を食べる女はいなかった。


そうだ、この女は俺が誰だか知らない。
目の前にいるクソダサい格好をした男が道明寺財閥の後継者だなんて、想像すらしていない。


彼女の目に映る俺は、何者でもない、ただの一人の男。


そう思ったら自分を取り繕うのが馬鹿らしくなってきた。
もう色々と面倒に感じてきて、思わずため息をつく。

「あっ、食べてる人の前でため息をつくなんて態度悪いわね」

「うるせぇな、俺は甘いもんが嫌いだと言っただろ。見てるだけで胸焼けする」

「急に態度が変わったわね?!ドタキャンしたお詫びにって連れてきたのはあなたでしょ?せめて私が食べてる間くらいは付き合いなさいよ」

「人の好みも聞かずに、この店を選んだのはお前だろ」

「初対面の人にお前ですって!偉っそうな態度ね。あなた何様のつもり?本当に何が目的で私に会おうと思ったわけ?」

何様のつもり、か。
周りは常に俺を知っている人間ばかりで、俺の為すことに文句をつける奴はほとんどいない。
初めて言われたその言葉になぜか怒りは覚えず、むしろ気分は高揚してくる。

それでも目的なんて簡単に言うわけない。
答えたくないことには答えない。

「お前だって、出会いも結婚も目的じゃないだろ。何で会おうと思ったんだ」

「女性が苦手なのは本当みたいだけど、勧誘かサクラか何か?」

……ほら、彼女だって言いたくないことは答えずに、はぐらかす。

「サクラでも勧誘でもねぇよ。サクラなら会わずにアプリ内で金を出させるように仕向ける。もし勧誘なら、もっと愛想良くするだろ。それに苦手な女なんか選ばない。相手にするなら男のほうがマシだ」

「えっ、男の人?あなた、同性愛者なの?」

「ばっ、んなわけあるか!勧誘ならって言っただろ。俺は、男に興味はない!」

あらそう、と言うと彼女はまたパンケーキを一口。
ふにゃりと緩んだ笑顔。

「……そんなに美味いのか」

「とっても美味しい!フワフワで、もっちり。小麦粉からバター、牛乳、卵まで素材そのものの美味しさと甘みを感じる。やっぱり生クリームが一番少ないものにして正解だったわ!あなたも食べてみる?」

「いらね」

そんな俺の態度に、ふふっと笑う。
こんなに素っ気なく適当に返事をしたのに、怒るでもなく彼女は笑っている。

「でも良かった。もう今日が終わったらアプリは辞めるつもりだから。また会いたいとか言われたらどうしようかと思ってたの」

「奇遇だな。俺もだ」

「あなた、かなり女性が苦手みたいなのに、何かの勧誘目的でもサクラでもなく、どうしてアプリを?それに何で嫌な顔をしてまで、わざわざ会ったりしてるのよ?メッセージのやり取りをしている時と比べると随分イメージが……」

突然話すのをやめた彼女はパンケーキを切っていた手を下ろすと、何かを考えるような顔をした。

「……プロフィールの写真はあなただけど、メッセージを送っていたのは別の人?」

「なぜそう思う」

「口調が全く違う。メッセージと口頭じゃ違うとかいう次元じゃない。あなた、誰かに何か脅されでもしているの?」

脅し?
……近い。確かに脅しに近い。
しかも、写真の人物とメッセージを送っている人物が別だというのは当たっている。
勘の鋭い女だ。

ここまでの過程に俺の意思などなかったし、今日だって姉ちゃんの為に来た。
でも、脅しではない。
最終決定は、あくまで俺だ。
どんな理由があったとしても、ここへ来て会うと決めたのは、自分だ。

「脅されてはいないし、ここへ来て会うと決めたのは俺だ」

「そ。それなら良かったわ」

そう言ってまたパンケーキを食べて、ふにゃり。
少し頬を膨らませてもぐもぐと食べている姿は、どこかリスかハムスターの姿を彷彿とさせる。

リスと、ハムスター?
最近どこかで聞いた単語。


……類だ。
類が一緒に飯を食ったと言っていた姉弟の話。
頭のどこかにその話を聞いたことを覚えていたから出てきた単語かと思い至る。
あの類が女のことで腹を抱えて笑っていた姿に印象深いものがあったからだろう。

そして、はたと気が付いた、ある事実。


俺は今、女と話をしている。


見ず知らずの、一時間ほど前に会ったばかりの女なのに、普通に話してる。

「クシマ ツキノ」は、女だ。

女だが、女を感じさせない。
白塗り能面顔の仮面でもなく、臭い香水の匂いもしない。
勝手に馴れ馴れしく触ってもこなければ、今のところ食い物の前以外で笑わないし、話もしない。

それは俺がこの格好をしているからだろうか。
いや、彼女が人を見た目で判断するような人間なら、見目の良いあきらに無表情で対応などしないはずだ。
それにどの男が相手だとしても、こうして約束をして会っている以上、出会いや結婚が目的じゃないのなら何かを要求してくるのかとも思ったが、これを最後にアプリも辞めて、もう俺とも会うつもりはないと言っていた。


この女も、男との出会いや結婚を求めていない。

やはり、この女は何かが違う気がする。

でも、まだ分からないことが多すぎる。
このアプリを使って何が目的で男と会っているのか真意が分からない以上、危険だ。

危険だが、そこに悪意は感じない。
悪意を持っている人間は、弱みに付け入ろうと虎視眈々と相手の一挙手一投足を見逃さずに笑顔の仮面を付けて見てくる。
弱みに付け入る為なら相手の好みを徹底して調べて連れて行き、そこで油断させるだろうが、彼女は俺を油断させるどころか、自分に隙がありすぎる。
こんな、パンケーキを食ってふやけた顔をする奴に悪意があるとは到底思えない。


ふと、彼女との接触を終わらせた後のことを考えた。

あきらと西田は、コレでダメなら母と姉は諦めるだろうと言った。
だが、姉はともかく果たして母は、これで女と結婚しろと言わなくなるだろうか。
むしろ他の手段で、今度こそ強制的に無理矢理にでも結婚させようとしてくるのではないか。
それを想像して身震いする。
自分の息子に気味の悪いことを提示してくるくらいだ。そう簡単に諦めるとは思えない。


これは、賭けだ。
俺にとって人生最大の博打かもしれない。

姉ちゃんを悲しませたくない。
これ以上の後悔も、また涙を流すようなことも、させたくない。
俺自身が変わらなければ、周りの環境が変わらないことも分かっている。


自分の勘を、今までの俺の知っている女と何かが違うと何度も思った、この自分の勘を信じるしかない。


一か八かの大勝負。

仕事では絶対に出来ないが、プライベートなら。
先の見えない賭けを、してみるか。


「おい、クシマ ツキノ。俺と、」











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Take your time. 2 (完)

Take your time. 2 (完)







「……ん、」


しばらくそのまま髪の毛を撫でながら牧野を見ていたが、それに気が付いたのか薄っすらと目を開けた牧野。
初めはぼんやりとしていたけど、俺の姿を確認すると、また涙を流し始めた。

やっぱり俺か。
また俺が、何かをしたんだ。


「……牧野」

「道明寺、」

「ごめんな、何が悪いのか分からないんだ。牧野を泣かせたいわけじゃないんだが、これ以上どうしたら良いのか分からなくてな」

「ちが、違うの……!」

「じゃあ、なんで俺を見て泣くんだよ。なんで、一人で泣いてるんだ……?」

牧野は体を起こして髪を撫でていた俺の手を取ると、強く握ってくる。
それでも涙を流したまま首を振るばかりで、やはり何も言わない。


「あの時に反省したはずなのに、また分からないんだ。牧野のことなら何でも分かっていたいと思っても、どうしても牧野のことになると……」

「違うの……!これは、あたしの問題で、」

「じゃあ、何で俺の前で、笑わなくなった……?」

「そ、れは、」

「最近はあんまり俺に話しをしなくなっただろ?だからまだ、俺は何か見えてないんだ。あれから一ヶ月も経ったのに、まだ牧野のことを分かってやれてない」

牧野はスン、と鼻を啜ると、握っていた手を離して手の甲で涙を拭った。


「……あのね、違うの。最近ね、道明寺が、急に遠くに感じるようになっちゃったの……」


遠く?
どういうことだ?

「ずっと側にいるだろ?」

「そうかもしれないけど、そうじゃなくて……。今までは、ずっとあたしが道明寺の側でスーツ選んだり、ご飯の支度をして、掃除洗濯をして。仕事も、ずっと隣で一緒にいた」

「でも、今の牧野はお腹も大きくなってきてるし、負担は少ないほうが良いだろ?前と同じことをしていたら、牧野もお腹の子も辛いんじゃないか?」

「分かってるの。道明寺が、いつも一番にあたしとお腹の子のことを考えてくれてるのも、とても大事にしてくれているのも。
でも、あれからまだ一ヶ月しか経ってないのに、今まであたしが道明寺にしていたことが、急に何もなくなっちゃって、それが、さみしくて……、でも、道明寺が大事に大切に考えてくれるのも分かってるから、こんな、さみしいなんて、言えないと思って……、」


牧野。

俺が良かれと思ってしていたことが、牧野にとってそんなさみしさを感じさせてるなんて思わなかった。


「あの、あのね、あたしのわがままなのは分かってるの。別れるなんて言って家出して、お義母さまたちまで巻き込んで大騒ぎしたのに、今はあの頃のほうが、……道明寺が近かったなんて、思っちゃいけないって。
あたしも道明寺を支える何かをしたい。なのに、何もかも先回りして、あなた一人が先を行ってしまうようで、さみしかったの……」


また、俺は分かってなかった。
側にいてくれれば、それだけで他に何もいらないと思ってた。

牧野の負担にならないように、そればかりを考えて。
牧野に何も聞かずに、また俺一人で決めていた。


「ごめんな」

「違うの!道明寺は何も悪いことなんてなくて、あたしが、気持ちが追いつかなくて、それで……っ、」

優しく、優しく牧野を抱きしめる。

やっぱり俺は、バカだ。
牧野の変化に気付けなかった時間を取り戻したくて、それを埋めたくて無意識に焦っていた。

牧野の気持ちも考えずに、一人で。


俺は何度同じことを繰り返すんだ。

牧野。


「やっぱり俺が悪い。牧野を大事に大切にしたいのに、気持ちはどこか焦ってたんだ。
牧野、さみしい思いをさせてごめんな。
でも話してくれて、ありがとう」

「……うん。あのね、道明寺、……大好きだよ」

「俺は牧野を愛してる」

「ふふ、相変わらずね」

「牧野、ゆっくり、ゆっくり行こう」

「そうね、お互い焦ってたのかも」

「11年も一緒にいるのにな」

「ジェットコースターから、そろそろ乗り換えないとね」


まだまだ長い、この先の人生を、牧野と一緒にいられるように。
焦らず、ゆっくり。


「あっ!道明寺、お誕生日おめでとう!」

「ん?日付け変わったか?」


「道明寺、生まれてきてくれてありがとう」



当たり前の毎日を、「いつも」がいつまでも続くように、ゆっくり、ゆっくり、二人いつまでも手を繋いで、同じ道を前を向いて歩いていけるように。






Happy Birthday Tsukasa!
Love does not consist in gazing at each other, but in looking together in the same direction.






「Can we get back together?」の続編でした。
思いついたら吉日、ちょうど司くんのお誕生日だったので。
お誕生日おめでとう〜!


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Take your time. 1

Take your time. 1






昨年のクリスマスの朝にケンカをしたことから始まった別れ話。
牧野が家を出て行ってしまったり、道明寺家と牧野が養子縁組することになったり、色々あった。
結局、納会ではもちろん牧野の養子縁組ではなく、俺と牧野の結婚が報告されたわけだけど。

牧野が妊娠していることを知ったあの日から約一ヶ月。

最近、牧野が素っ気ない。


当たり前の日常がいつもあるなんてことはなくて、「いつも」は誰かの支えで出来ている。
それにようやく気が付いた俺は、牧野の話もちゃんと聞いて、適当に返事もしないことを心掛けた。

この俺が、なるべく自分のことは自分でするようにもなった。
洗濯物もそこら辺に放置しないし、電気も付けっぱなしにしない。
毎日仕事で着るスーツだって、また自分で選ぶようにしてる。


牧野はもう妊娠6ヶ月になっていて、お腹も目立ってきた。
妊婦検診でも異常はないから大丈夫と牧野は言うけど、俺は心配で仕方ない。

だって、愛する妻のお腹に、俺の子どもがいるのだから。
「万が一」は絶対に起きてはいけない。


牧野優先。
牧野第一。
牧野。


仕事も今まではずっと側に居させたけど、今は内勤だけにした。出張も同行させない。
マンションに住んでいた時は牧野に任せっきりだった家事も、道明寺邸で住むようになって大抵のことは使用人がやってくれるから、牧野の負担もかなり減ったはず。
俺も自分で出来ることは自分でしてるし。


なのに、牧野があまり笑わない。
というか、俺にあまり話をしなくなった。俺だけがずっと話している。

なんでだ?
俺はまた何かを間違えたか?
それとも何かを聞き逃した?

牧野にどうしたと聞いても、何でもないと言われるし。
そう言われてしまうと、もうどうしたら良いのか分からなくなってしまう。
だから出来るだけ牧野の負担にならないように、牧野の手を煩わせないことを第一に考えて行動していた。



なのに、また牧野が。
日付けが変わる2時間前。邸に帰ってきたら、牧野がまだ会社から帰ってきていないと言う。

俺より先に帰ったのに?
ちゃんと邸から会社まで車で迎えを寄こして帰らせたはずなのに。
電話をしても出ないし、どこへ行ったのか。
身重なのに、何をしているんだ。

つい、重いため息が出てしまった。


まただ。
また同じことを繰り返している
前より牧野のことを気にかけているはずなのに、牧野がいなくなった途端に色んなことが分からなくなる。

そこへ牧野を会社まで迎えに行かせていた運転手が帰ってきた。
牧野は?と聞くと、今日は邸ではなく引っ越す前に住んでいたマンションへ行きたいと言ったらしい。
運転手は牧野が帰るまで待っているつもりだったが、帰る時はまた呼ぶから邸に戻ってと言われたと。
あそこは今、俺が仕事の資料を置いたりする程度にしか使っていない。

なんでマンションに?
でも、とりあえず前とは違って行き先も分かった。

家出ではない。
それだけでホッとした。

とにかく牧野のところへ行かなくてはと、急いでマンションへ車を走らせる。
鍵を開けて玄関扉を開けると、明かりも付いてなくて真っ暗だった。

あの時を思い出す。
牧野が、いなくなったあの日。

大丈夫だ、牧野はここにいる。
靴があるから。



「牧野」

廊下からリビングへと繋がる扉を開いてみてもそこに牧野はいなくて、それならと寝室へ行ってみる。

そっと寝室の扉を開いてみると、間接照明だけがほんのりと部屋を明るくしていた。
そしてベッドの上で丸まって寝ているのは、

牧野。

起こさないように静かに近付く。
ベッドに腰掛け、牧野の様子を見ても顔色は悪くない。
でも、頬には涙の跡が残っていた。

なんで一人で泣くんだ。
どうして泣くほど辛いことがあっただろうに、俺に言わない。


また、俺は何かを間違えたのだろうか。 


牧野の寝顔を眺めながら、髪の毛を撫でる。

俺の「いつも」には必ず牧野がいる。
高校生の時から、ずっと牧野だけ。

牧野の為なら何だって出来るのに。
牧野の為なら、何もかも。








「Can we get back together?」の続編です。



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Re: notitle 12

Re: notitle 12







この男は一体、何を考えているのか。


確かに無口で、女性が苦手だとは言っていた。
だからって、置いていく?!
途中であたしが隣にいないことに気が付いて戻ってきてくれたのは良いけど、ゆっくり歩いてくれって言ったのに、ほんの少ししかゆっくりにしてくれなかった。
だから、あたしはほぼ小走りで彼のあとを付いていく羽目に。
たまにちらりとこちらを見ているから、あたしが小走りなのに気が付いているはずなのに!
それでも彼は、お店に着くまでずっと車道側を歩いてくれていた。
これは、たまたま?

靴に続いて、またチグハグ。


パンケーキのお店は駅ビルから徒歩5分くらいの場所にあった。
着いた時には少し息が上がってしまっていて、流石に少し疲れた。

でも、店外に漏れ出る甘い香りに、一気にテンションが上がる。
早くお店に入りたくてウズウズしているあたしは、お店に入るのを躊躇っている彼を見つつも欲望には勝てず、意気揚々と「入りましょう!」と声をかけると、彼は渋々といった感じでドアを開け、店内へと足を踏み入れた。


店内に入ると観葉植物などのグリーンが多く置いてあり、テーブルや椅子も柔らかい色の木目調のもので統一されていた。
ナチュラルで男性でも気兼ねなく入れそうな雰囲気のお店で、実際、男性客もパンケーキメインのお店にしては多い気がする。
男性だけで座っているテーブルもあるくらいだ。
横に立つ彼を見上げると、彼もそう思ったのか少し表情が和らいだ気がした。

案内されたのは大きなガラス張りの窓の横にある一番奥のテーブル席だった。
ガラス張りの窓の向こうは小さいながらも冬なのにグリーンであふれる庭があって、吹き抜けになっているのか外からの光で満ちていた。
外はあんなに寒かったのに、ここだけ春みたいに見える。

一つ一つのテーブルも離れていて、周りの会話もそこまで気にすることなく落ち着いて食べられそう。
確かに『パンケーキそのものを楽しんで』がコンセプトのお店だ。
これはちょっと楽しみだなと思いながら椅子に座ろうと思ったら、ミドウさんが「奥にどうぞ」とソファ席を勧めてくれた。

え?
うっそ、こんなの初めてだ。

男性が女性と同じ席に着く時、女性に座ってもらうのはソファ席が良いとか、綺麗な景色が見えるなら椅子でもとかいろいろあるらしいけど、正直あたしはどっちでも良いと思っている。
お互いに気持ちよく過ごせれば、それが一番いい。

今までの彼氏も、アプリを通じて会った男性たちも、こんな風にしてくれた人はいなかった。
ミドウさんは女性が苦手だと言うわりには、さっきからさり気なくエスコートするような行動をとる。
女性と話したり一緒に歩くことに慣れていないような雰囲気なのに、こういうことが自然に出来るって何だろう。

また、チグハグ。

彼はあたしがそんな事にびっくりしていることには気が付かないようで、あたしをソファに座らせると自分も向かいの椅子に座った。

まだ、会って数十分。
このあと、いろんなことがチグハグなこの男がどうするのか、じっくり観察してみることにした。



「ミドウさんは、どれにしますか?」

彼女にメニューを見せられたが、元から俺は食べるつもりはなかった。
甘いものは嫌いだから。

「いや、コーヒーだけで」

俺がそう言うと、メニューを見ながらニコニコしていた彼女は、スンと無表情になった。
確かにパンケーキの店に来て、パンケーキを頼まないなど考えなかったのかもしれない。
でも、甘いものは嫌いなんだ!

「……甘いものは、苦手なので」

それを聞いた彼女は途端にとても申し訳なさそうな顔になった。

「あの、前回キャンセルしたお詫びだと言っていただいたので、お言葉に甘えて私の行きたいお店にしてもらいましたけど、そうですよね。あなたの好みを聞きませんでした。ごめんなさい……」

素っ気なく適当に扱うつもりで、これで良いはずなのに、あまりに彼女が申し訳なさそうな顔をするから、またしても罪悪感。

「いや、前回はこちらが全面的に悪かった。だから俺のことは気にせずに、あー、何でも好きなものを」

俺の言葉に彼女はまだ申し訳なさそうな顔をしつつも、生クリームが少しだけ添えられているだけのシンプルなパンケーキを選んだ。
遠慮しているのだろうか。
いや、それにしては選ぶのに迷いがなかったから、これと決めていたのだろうか。

店員を呼ぼうかと視線を巡らせると、それに気が付いた店員が声を掛ける前にテーブルまで来る。
しっかりと教育が行き届いている。
良い店かもしれない。
彼女の選んだパンケーキとコーヒーを二つ頼んだ。


そして、沈黙。

パンケーキが来るまで、間が持つのだろうか。
いや、持たせる必要もない。

今回限りの、たった数時間同じ空間にいるだけの女。

俺には会話をする必要もない。
こちらからお詫びと誘っておいて、なんでこんな態度なんだと怒っておしまいになれば良い。

それから特にこちらから話を振ることもなく彼女も何も話さなかったが、沈黙が5分ほど続いた頃、彼女が話しかけてきた。


「あの」

「……何でしょう」

「ミドウさんは今日、何をしに来たんですか」


突然そう聞かれて、咄嗟に返事が出来なかった。

仕事では、この躊躇いの瞬間ですら命取りになることだってあるから常にいくつもの答えを用意している。
でも彼女と会うことは嫌々ながらで、今後も会おうとは思っていないし、適当にあしらうつもりだから会話をすることすら考えていなかった。
だから話どころか怒って文句の一つでも言ってくるだろうと、そう思っていたのに、まさか今日なにをしに来たのかなんて聞いてくるとも思っていなかった。

だって、あのアプリを使っている限り結婚相手を探している以外に目的など、あるはずないのだから。

彼女は目を逸らすことなく、穴が開くほどにジッと俺を見てくる。

なんだ、この女は。

「……何をしに来たか、ですか?」


彼は驚いたような顔をして聞いてくるけど、そんなに意外な質問をしたつもりはない。

無口で女性が苦手。
それに間違いはないと思う。まだ数十分しか一緒にいないけど、明らかな拒絶を感じる。
初めこそ女性が苦手だから、こういう態度なのかと思っていた。
だけど、それだけではなさそうだ。


あたしは、この人と今後会うつもりはない。
もし本気で結婚相手をと思っているとしたら、これ以上その気持ちを踏み躙るような失礼はしたくなかったから。
それでも会うことに同意をしたからには、誠意を込めて一緒の時間を楽しく過ごせたら良いなと思っていたけど。

彼からは、それすらも感じない。
隣に並んで歩く人のことを考えずに、一人で歩いて行ってしまうところは女慣れしてないのかなって思う。
それは経験しなければ分からないことだから、それは良い。
でも、このお店に来るまで明らかにあたしが早足なのが分かっていて、ゆっくり歩いてとお願いしたにも拘らず歩く速度を緩めない。

更に、あたしが選んだお店へ行くことに同意をしてここまで来ているのに、嫌そうな顔を隠さない。
しかも、ため息まで。

パンケーキを注文したあともそう。
どれだけ女性が苦手でも、誘った人を目の前にして食事を共にするつもりなら、何か世間話くらいは話題を振るものではないのか。
ただでさえ今回は、前回のドタキャンのお詫びも含まれているはず。
それこそ「今日は良い天気ですね」だけでも良いのにそれすらもなく、目線が合うこともないし、話をする気さえ感じない。

単にあたしが彼の好みの女性ではなかったとしても、それなら本屋で見つけた時に声をかけないで帰ればいいだけ。
声をかけ、一緒にここまで来たということは、少しでも同じ時間を共有する意思があったからのはず。
勧誘の線も考えたけど、それならもっと愛想良くするはずで、不快感を与えてから物を売るなど商売が下手すぎる。


そして、前回のキャンセル。
今まで急用という言葉を信じていたけど、本当に悪いと思っている雰囲気をこの人から感じない。
今回会うことにも仕方なくといった風情だ。

たぶん、ミドウさんの代わりにキャンセルを伝えに来たあの人は、本当に友人か知り合いなのだろう。
あの人はドタキャンした時のあたしの反応を確かめる為に来たのではないか。
そして、あたしは彼らの考える何かに引っかかって、また会うことにしたと考えるのが妥当だろうか。


ミドウさんは、出会いも、結婚相手も探していない。
そして、この人の影には、このアプリで何かしようと企んでいる人がいる。


何が目的なのか、分からない。








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Re: notitle 11

Re: notitle 11







姿見の前でくるりと回る。

変なところないよね。
白のざっくりニットに、紺色のタイトスカート。コートは黒にした。
靴も黒のショートブーツ。
アクセサリーはどうしようか悩んで、シンプルなネックレスとピアスを付けることにした。
肩より長い髪の毛は後ろで束ねてポニーテールに。

今日は本当にミドウさんは来るのかな。
お店を予約したと言っていたから、今日は絶対来てくれるはず。
もし来なくてもパンケーキだけは絶対に食べて帰る!

前回ドタキャンしたお詫びだからと予約をしてくれたけど、今日行く予定のお店は予約なしだと1時間以上は並ぶと話題の、美味しいパンケーキを出すカフェだった。
素材選びからこだわって作られたという、もっちりフワフワ厚めのパンケーキ。
生クリームは添える程度で、パンケーキ本来の味を楽しんで、と言うのがコンセプトらしい。
やだ、想像しただけで涎が出そう。


歩いて5分の最寄り駅から電車に揺られること10分。
待ち合わせの駅に着いて、駅ビル内の本屋さんへとエスカレーターに乗って向かう。

ミドウさんの今日の服装は、黒いコート、黒いセーターにジーンズ。
……どこにでもいそうな服装っぽいから、誰だか分からなくて落ち合えないとか有り得る。
待ち合わせ時間まであと少し。

本屋さんに着いて、まずメッセージ。

『着きました』

よし。
そのまま真っ直ぐガイドブックコーナーへ。
昨日発売の食べ歩き本が目に入ったから手に取り、ちょっとだけ立ち読み。


ハッと気が付くと、約束の時間を5分過ぎていた
ちょっとのつもりが夢中で読んでしまった。慌てて本を置いてスマホを取り出し、アプリを開く。
既読なし、メッセージもなし。
え、今日もまたキャンセルとかないよね……?

とりあえず探してみよう。
時間通りに来ていれば、本屋さんのどこかにはいるはず。
そう思って振り返ると、後ろに立っていた人とぶつかりそうになった。

「わ、ごめんなさい!」

思わず謝ってその人を見たら、とても背の高い人で。
デカ!こんな背が高い人、身近にはいないから少しびっくりした。
そういえば先月会った花沢さんも背が高かったな〜、なんてことをふと思い出したのは同じくらいの身長だったからだろうか。


「クシマさんですか」

その背の高い男の人が、そう言った声にちょっとドキッとした。
これがバリトンボイスと言うのだろうか。
低くて落ち着いていて、でもどこか甘さがあるような、そんな声。

「……はい。もしかしてミドウさん、ですか?」




本屋に着いて、「クシマ ツキノ」から聞いていた服装をしている人物を探していた。

フロア1階分はある広い本屋に明確な入り口などなく、エスカレーターを上がってきたところの近くには聞いていた服装の女はいなかった。
その場で立ち止まり、どうしようかと考える。

このまま「クシマ ツキノ」は見つからなかったことにしてバックレようかと思った。
でも、その時やはり頭の中に浮かんだのは悲しそうな顔をした姉で、踵を返そうとした足を踏み止まらせた。

姉ちゃんの為。
姉ちゃんの、為だ。


「クシマ ツキノ」は食べることが好きで、美味しいご飯屋さんを探すのが趣味だと書いてあった。
それならガイドブックか、暮らし・料理、グルメコーナーあたりにいるだろうか。

とりあえず案内板を見ながら探していると、ガイドブックコーナーのメイン通路に面した新刊が平積みされているところで真剣な顔をして立ち読みしている女が一人。

服装が、聞いていたのと同じだ。
たぶん彼女だろうと思うが、女に自分から声を掛けたことなどないから、どう声を掛けたら良いのか分からない。
どうしようかと考えながら、ゆっくりと近寄り彼女の近くに立ったら、彼女はハッとした様子で読んでいた本を戻すとスマホを取り出した。
そして急に動いて振り返るから、彼女とぶつかりそうになってしまった。


ちっさい。
彼女はヒールのあるショートブーツを履いているようだけど、それでも俺を見上げていた。
とりあえず確認はしなければと「クシマさんですか」と聞きながら彼女を観察する。

まぁ、あきらの言う通り、可愛いかも、しれない。
普段そんなにまじまじと女を見ることなどないし、見たとしてもいつもは白塗り能面の仮面顔にしか見えないはずなのに、この「クシマ ツキノ」の顔はそうではなかった。
それに、さっきぶつかりそうになった時も鼻がもげるような、臭い香水の匂いもしなかった。

俺の知っている女とは、何かが、違う?

それに、さっき可愛いかもとか思わなかったか、俺?!
そんな馬鹿な。

姉ちゃんの為にと思い込み過ぎて、何かのフィルターが掛かっているのかもしれない。
こんなの絶対に気のせいで、勘違いだ。



「あの……、」

「ミドウさんですか」と声を掛けたのに、反応しないどころか、だんまりで見つめてくるだけの男にどうしたものかと悩んでしまう。

「クシマさんですか」と声を掛けてきたし、見た目もプロフィールの写真と同じ人物に見えるから返事をしたのに。
というか、すごい眼鏡だなぁ。
こんな瓶底みたいな眼鏡がこの世に本当にあるのかと、まじまじと見てしまう。
髪の毛も、何だか鳥の巣みたい。

ずっと見上げてるのって意外と疲れるなと顔を下に向けると、目に入った彼の靴。
ジョン・ロブ?
着ている洋服と靴のチグハグ感すごい。
もう一度彼を見上げると、彼もまだあたしを見ていた。

何、この時間。

「あの!ミドウさんですか?」

さっきより少し大きめの声で声を掛ければ、彼はハッとした顔をしてコクンと頷いた。
女性が苦手と聞いてはいたが、ここまで口数少ないとは。
まぁ一人目に会ったおしゃべりな人よりは良いかもだけど。

「クシマ ツキノです。今日はよろしくお願いしますね」


にっこりと笑って自己紹介する彼女は第一印象は悪くなく、笑顔も媚びた感じではなくて、自然と溢れるような笑みだった。
いつもの俺ではなく、ダサい格好の俺だから見せる笑顔だろうか。

「こちらこそ、よろしく……」

え、めちゃくちゃダサくなかったか、今の俺!?
ダサい格好で尻窄みしたような声が出てしまった。母と姉以外で、こんな普通に女と話すことなんかほとんどないから、上手く言葉が出てこなかった。
女と話すことがあるとすれば仕事をする上で仕方なく取り繕う時くらいだ。

そうだ、取引先だ。
この女は取引先の人間だと思うことにしたんだった。

「先日は急にキャンセルして申し訳ない。無駄な時間を使わせた」

おっ?良いんじゃね?
普通に話せた。

「……いえ、急用なら仕方ありませんから、お気になさらないでください。それに今日はパンケーキのお店を予約してくださったんですよね?一度行ってみたかったので、嬉しいです!」

彼女はなぜか一瞬だけ訝しげな顔をしたが、すぐに笑顔に戻って返事をしてくれた。

「じゃあ、早速行きましょうか」

そう言って歩き出すと、彼女は横に並んで一緒に歩き始めた。
そして駅ビルを出たところまでは良かった。
だが、駅ビルを出て少し歩いて、ふと横を見ると彼女がいない。

あぁ?!
どこへ行った?!

横を歩いていると思ったのに、慌てて後ろを振り返ると少し遠くでぴょこぴょこと跳ねるように歩いている人間が一人。
彼女だ。
なんであんなに後ろを歩いてるんだ?
訝しげに思いつつも、彼女のところまで引き返す。

「ミドウさん、あの、もう少しゆっくり歩いてもらえますか?背の高い人って歩くのも早いんですね〜」

……そんなことがあるのか。
身長の違いでこんなに歩幅も変わるとは知らなかった。
俺が歩く時は周りが勝手に付いてくるから、他人の歩幅など気にしたこともなかった。

「……早かったか」

「はい、ちょっと早かったです。でもミドウさんは背が高いから離れちゃっても見つけやすいですね!」

ニコニコと話す彼女は随分とポジティブな思考の持ち主のようだ。
置いていかれたことに怒っても良いだろうに。

いや、でもこの調子で良いんじゃないのかと思い当たる。
素っ気なく適当に扱っていれば、次も会いたいなどと言ってこないだろうと思っていたんだから、丁度いい。
さっきよりはゆっくりだが、それでも彼女には少し早歩きくらいの速度で歩くことにした。

案の定、彼女は少し小走りに近い歩き方をしている気がする。歩くのに必死で話しかけてもこないし、都合が良い。
さすが俺、頭良いな。

だが、あっという間にパンケーキの店に着いてしまった。
横目でちらりと彼女を見ると少し息が上がっているようで、頬はほのかに赤らんでいるし、はぁはぁと口から漏れる息が白くなっては消えていく。
……ほんの少しだけ罪悪感。
いや、今日だけの女に罪悪感なんて感じる必要ないだろ!


しかし店外にまで漏れる、この甘い匂い。
本当にこの店の中に入るのか?!
寒空の下、店の外に並んでいるのは女が多いが、カップルで来ているのか数人の男もいることに少し安心する。
女ばかりの店内など堪えられない。
それでも店内に入るのを躊躇っていたら、彼女が「入りましょう!」と意気揚々といった感じで声を掛けてきた。

姉ちゃんの為、姉ちゃんの為。

小さくため息をついて、仕方なく店内へと足を踏み入れた。









Re: notitle 10

Re: notitle 10






あきらと総二郎に薦められて始めた婚活アプリ。

俺が何かすることは一切なく、この日を迎えた。


憂鬱だ。
今までの人生において、こんなに憂鬱だったことはない。
どれだけ厄介な仕事でも、どれだけ面倒な見合いでも、ここまで気持ちが沈んだことはなかった。

午前中のNYとの会議が長引けばいいと思っていたのに、西田にきっちり時間通りに切り上げさせられた。
これから付き合う予定もない、一回会っておしまいになるだろう女より仕事じゃねぇのか。

いや、姉ちゃんの為にと決めたことだ。
一回でも会えば、やはり女はダメだったと言える。
あきらと総二郎、西田も良いと言った女だ。あいつらだって半分は面白がっていただろうけど、俺の為にやっていたことに間違いはない。

信じるしかない。

条件は合っていると言っていたし、一度会っているあきらが言うには見た目も可愛かったと言っていた。
いや、可愛いかどうかはどうでもいい。
付き合うことも、結婚することもないのだから。


しかし、この格好はひどい。ひどすぎる。
髪の毛はぐちゃぐちゃにされるし、視界の悪い分厚いレンズの眼鏡、どこから出してきたのかタータンチェックのネルシャツに黒のセーター、それにサイズの合っていないジーンズ。
黒のピーコートまで羽織って、なぜか靴だけはジョン・ロブのブーツでチグハグ感がすごい。よくこんな格好を思い付くものだと、関心すらする。
この格好で外を出歩くなんて、笑い者もいいとこだ。

こんなクソダサい格好をしてまで、なんで。

いや、姉ちゃんの為だ。
そう、姉ちゃんの為だった。

自分に姉ちゃんの為、姉ちゃんの為と言い聞かせる。



今日はパンケーキが美味しいと評判らしいカフェに連れて行く予定らしい。
前回キャンセルしたお詫びも含めて彼女の好みを優先、その店を予約してあると地図アプリを俺に見せながら、あきらが言っていた。

今日会う予定の「クシマ ツキノ」は、食べることが大好きで、甘いものに目がないとか。

甘いものも嫌いだ。
それを食べている女に付き合わないといけないのも、嫌だ。
しかし体面的には、こちらから誘っている以上、嫌な顔も出来ない。

どうしたものか。

出来るだけ会話をしないように、取引先の社員とでも話していると思えば良いのか。
そうか、それが良いだろう。
素っ気なくしていれば向こうも嫌だろし、また会いたいとも思わないはずだ。

俺にこのクソダサい格好をさせる為に、さっきまであきらが家に来ていて、話す内容に齟齬が出たら不味いからメッセージを遡って読むようにとしつこく言われたけど、まだ読んでない。


待ち合わせ場所はそのカフェから近い駅ビルの中の本屋だった。
あきらが「クシマ ツキノ」の今日の服装はどうとか言ってたが、忘れた。
というか、全く聞いていなかった、が正しい。

アプリを開けば良いのか。
着くまでの間に確認しておくかと、駅へと向かう車の中でスマホをコートのポケットから取り出す。

初めて見るアプリのメッセージ欄を探し当てタップして開いてみると、複数人の女性とやり取りした形跡があり、その一番上に「クシマ ツキノ」の名前があった。
そこをタップしてメッセージを見る。


『ミドウさん、おはようございます。今日はよく晴れていますね。会えるのを楽しみにしています。』

『今日は白のニットに紺のタイトスカート、黒のコートを羽織ってます。』


すぐ目に入ったメッセージ。
一応、遡って読んでおこうかと画面をスクロールする。


『ミドウさん、こんばんは。土曜日は13時に駅ビルの本屋さんで待ち合わせですね。
パンケーキ楽しみです。よろしくお願いします。』

『おはようございます。今日は一段と寒いですね。風邪など引かれませんよう、暖かい格好で過ごしてくださいね。』

『こんばんは。近ごろ残業が続いていたので、お返事が遅くなってすみません。』

『こんばんは。私は食べることが好きです。どんな時でも、ご飯を食べると元気になります。
先日も素敵なレストランで食事をする機会がありました。
年末の忙しい時期でしたが、美味しい食事をするだけで次の日も頑張れそうな気がしました。』


あきらと総二郎が暇な時にしかメッセージを送っていないから、そこまでやり取りが多いわけではなさそうだった。
他の女とのメッセージを見れば、返事をしないと次の日にはやり取りが終わっていることがほとんどだが、相手も複数の男とやり取りをして相手を見極めようとしているのだろう。
レスポンスが遅ければ積極的ではないと交渉を切られところは、仕事でも同じかもしれない。

でも、この「クシマ ツキノ」は日数が空いても必ず返事が返ってきている。
律儀なのか、やり取りをしている人数が少ないのか、単にそこまで焦っていないのか。

メッセージだけで見れば、本当に食べ物の話と天気のことばかりで、他の趣味や話題が見えない。
聞かれた質問には答えているが、彼女からこちらには、ほとんど質問をしていないのはなぜだろう。
これから会う人間のことを少しでも知りたいと思わないのだろうか。

口調も砕けた感じはなく、一線を引いてる感じすらある。
メッセージだけで決めつけるのは良くないが、他の女と比べるとやや堅い感じはあるものの、印象は悪くない。

メッセージ欄を閉じて今度はプロフィールを見る。
写真も載っているが、後向きに近いような横顔しかなくて、いまいち良く分からない。


『「クシマ ツキノ」
29歳
大手企業勤務 
相手に求める年収  特に希望なし
結婚したい時期  良い人がいれば
お酒  飲まない
タバコ  吸わない
居住地  都内
身長  160cm
趣味  美味しい食べ物屋さんを探すこと』


ちっさいな!
俺の身長が185cmだから、25cmも違うのか。
それに……食べ物屋さん。飲食店ではなく、食べ物屋さんか。


俺は物心付いた頃から食に興味を示したことはなく、今でも空腹が満たされれば何でも良いと思っているし、今まで食事をして美味しいと感じたこともなかった。
食事をする相手も仕事での付き合いばかりで、相手が美味しいと思えばそれでいいと思っている。
自分は美味しいかどうかに重要度を置くことは1ミリたりともない。
なぜ彼女は、そんなに美味い食べ物を求めるのだろうか。


「司様。駅に着きましたが」

助手席に座っている西田に声をかけられるまで、駅に着いたことに気が付かなかった。

遂に、行かなくてはいけない。

わざと大きなため息をついて西田を睨めば、どう見てもウキウキした様な顔で俺を見ていた。
ムカつくから助手席に後ろから何度も蹴りを入れてやる。


姉ちゃんの為、姉ちゃんの為。


「司様、どちらにしろ今夜は会食がありますので、17時頃には電話をします。それで引き上げてくだされば結構ですから」

そんな4時間も話すわけねぇだろ!
1時間でこっちから電話してやる!

ギロリと西田を睨みつけ、最後にもう一蹴りしてから車を降り、乱暴にドアを閉めた。








Re: notitle 09

Re: notitle 09








進に薦められて始めた婚活アプリ。


進に改善点を見つけたいと、あたしからの条件を呑み、上司を巻き込んでまで頼んできたことに出来ないと断ることは出来ず、真剣に結婚相手を探しているだろう彼らには申し訳ないと思いながら会っていた。


あたしから誰かにイイねをすることはなく、イイねしてくれた人からプロフィールを見て適当に選び、数人にだけイイねを返した。
そこでマッチングしてメッセージをくれた人と何回かやり取りをして、実際に会ったのは4人だけ
他にも約束をして待ち合わせに現れなかった人もいる。
進によれば、遠目に姿を確認して好みでないと分かると、連絡もなしにキャンセルしてブロックするという事例はあると言う。
そういう報告が多い人は注意喚起、改善されない場合は強制退会になる。


一人目はとにかくおしゃべりな人だった。
緊張からなのか性分なのかは分からないけど、こっちが話し始めると被せるように話してくる。
これは、少々疲れる。
間が持たないどころか、間がない。話せないし、話を聞かない。
結婚生活でもこうなるのかと想像すると、ちょっとあたしには辛い。


二人目はカフェで待ち合わせて、会って話もそこそこに違うところへ行こうと連れて行かれたのはホテル街だった。
初回で?!ホテル?!バカじゃないの?!
進に報告案件だわ!


三人目は話しやすい人だった。
人の話をきちんと最後まで聞いてくれるし、話題も豊富で楽しい時間はあっという間に過ぎていき、こういう人ならまた次も会いたいと思うんだろうなと思った。
だけど、次の日にブロックされた。
なんで?!なんかしたかな?!と不安になり、後で進に聞いたら、「複数人とやり取りをしていて、そのうち一人に絞ったのではないか」とのことだった。
なるほど、本命以外とはメッセージのやり取りを止めたということね。


そして今日、四人目の人「ミドウ ジョウ」さんと会う約束をしていた。
約束の時間を少し過ぎて待ち合わせ場所に現れたのは、類稀なるイケメンだった。
花沢さんも相当なイケメンだと思ったけど、この人も王子様感すごい。
でも、会う約束をしていた人のプロフィール写真と違う人だ。

話を聞けば、本人は急な用事で来れなくなったから、近くにいた自分がお詫びに来たと言う。
……メッセージには何の連絡もない。でもアプリ上のニックネームを知っていたから、ミドウさんの知り合いであることは間違いなさそうだけど。
急用なら仕方がないし本人に会えないなら今日はこれで帰ろうと思ったら、代わりに俺と遊ぼうと言う。

これは、ありえなくない?!
友人だと言うのに、婚活アプリを使ってる本人を差し置いて相手の女性を誘わないでしょ、普通。
ミドウさんは、こんな人が友人で大丈夫かななんて心配してしまう。
待っている間に飲んでいたコーヒーも奢ると言われたけど、なぜお詫びに来た人に奢られないといけないのか分からない。

いや、もしかしたらあの写真の人は本当はいなくて、相手探しに必死な女性を食い物にしている悪い奴?
そこに考え至ると、この人の爽やかな笑顔も胡散臭く見えてきた。
あまりに胡散臭すぎて、早く離れたほうが良いと判断、その場を去った。


そして、そのあとミドウさんから送られてきたメッセージ。


『クシマさん、こんにちは。
今日は突然急用ができてしまい、会うことが出来ず申し訳ありませんでした。友人に代わりに行ってもらいましたが、会えましたでしょうか。
今度こそクシマさんに会いたいと思っているのですが、また機会を作っていただけますか?
早ければ次の土曜日の午後はいかがでしょうか。
お返事待ってます。』


う〜ん。やっぱりあの人は本当に友人だった?
そもそもに友人に連絡できるなら、アプリのメッセージでキャンセルを伝えれば済む話で。

今までのメッセージのやり取りでは悪い印象はなかったし、怪しさもなかった。
しかし、代わりに来た友人だという人の印象は良くなかった。

でも急用が本当のことだったら?
友人がどんな人だとしても、本人に会う前に友人の人間性だけで会わないと決めてしまうのは申し訳ない気がする。
それでも類は友を呼ぶと言うし、あまり期待しないでおこう。

……いやいやいや、期待って何よ!
あたしは、あくまでモニター!
ミドウさんには申し訳ないけど、あたしはモニターで、こういうパターンもあったよって進に報告することだから!


メッセージのやり取りで印象が良くても、やはり実際に会って話すと印象がかなり変わる人が多い。
ボイスメッセージとか、通話機能があったら良いのになぁ。
話し方とか声とか少しでも分かると何となく安心出来るというか。

でもやっぱり、こちらにその気がないのに会って交流を深めることに罪悪感が付きまとう。

今のところマッチングして会った人に結婚に対して真剣さを感じる人は現れなかったけど、この先いないとも限らない。
進にも、「プティ・ボヌール」に連れて行ってくれた花沢さんにも申し訳ないけど、これ以上は精神的に無理だ。
本気で向き合ってくれてるのに、あたしは応えられないから。

次の約束で本当にミドウさん本人が来るか分からないけど、会えなかったらそれまで。
それこそ縁がなかっただけ。


『ミドウさん、こんにちは。
今日は会えなくて残念でしたが、友人の方がいらっしゃいまして謝罪がありました。
急用でしたら仕方のないことですし、お気になさらないでください。
土曜日の午後でしたら大丈夫ですので、ぜひお会いしたいです。
どうぞよろしくお願いします。』

よし、送信。

これでアプリを通して誰かに会うのは、最後にする。



これを良い機会だと恋人や結婚相手を探せるほど前向きになれるわけでもなく、むしろ罪悪感を抱えているようでは、まだ恋などしたくないと心のどこかで思っているのだろう。

結婚は、一生のことだと思ってた。
今どき離婚なんて珍しいことでもないかもしれない。
だけど、あたしは離婚ありきではなく、結婚するなら一生をこの人と共にしたいと決めて結婚しようと思っていたから。

お互い思いやり、慈しみ合い、支え合えるような、そんな人がこの先のあたしの人生に現れる日が来るのだろうか。
もちろん「良い人」がいればお付き合いしたり、結婚したいと思うことが出来れば良いのかもしれないけど、あたしの思う「良い人」って、どんな人なんだろう。

それが分からない今のあたしには、結婚なんて無理な気がする。


前の彼氏を超える人が、いないから、だろうか。

どうしても比べてしまう。
話し方も、優しさも、あたしを好きだと言ってくれた言葉と声と、あの笑顔を。

いつまでも未練たらしい。
浮気して、あたしを家政婦扱いした男なのに。
それでも、今になって楽しかった思い出ばかりがよみがえってきて、どうにも切ない気持ちになる。



ミドウさんは無口なほうで、女性と会話をするのも少し苦手だと言っていた。
それがどうして婚活アプリをしているのかは分からないけれど、ミドウさんがどうか結婚にそこまで前向きな人じゃありませんように、なんて自分に都合の良いことを考えながら運命の土曜日を迎えることとなる。










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Re: notitle 08

Re: notitle 08







「司、類がそこまで興味を持つ女、気にならねぇ?」

「……ならないと言ったら嘘になるな」

「だよな!その部下の姉も同じアプリ使ってるって言ってたよな?もしかしたら司とマッチングすることもあるかもな〜」

総二郎がニヤニヤしながら俺を見てくるが、たとえ類が興味を持ったとしても俺はどの女にも会うつもりはないのに、馬鹿なことを言う。
類は着ていたコートをダイニングのイスに掛け、カウンターのイスに座るとキッチンにいた俺に「水」とだけ言う。
仕方なくミネラルウォーターとグラスを渡し、ついでに自分の酒も用意する。


「類、いくら何でも食べる姿が面白いだけじゃなかったんだろ?」

「うん。あの子は、ちょっと違うかもね」

「違うって何が」

「う〜ん、まだ今日初めて会ったから分かんない」

「ま、そりゃそうか」

結局この話はこれ以上することもなく、しばらく話題に出ることもなかった。
そしてまた、いつもの毎日が過ぎていくはず、だったのに。



あれからも総二郎とあきらは都合が合えば俺の家か会社にまで来て、アプリで何かをして帰って行く。
俺にメッセージのやり取りをしろだの会えだの言わないところを見ると、まだ俺に会わせるほどの女はいないということだろう。

それ以外は特に日常が変わるわけでもなく、1月ももうすぐ終わるという頃。
役付の俺は特に出勤日も休日も決められていない。
今日も日曜日だが出勤していて、それでももう執務室から見える外の景色もネオンが目立つ時間になってきたから帰るかと、西田と話していた時だった。

扉がノックされ、西田が返事をする前に扉が開かれ、慌てた様子のあきらが役員室に入ってきた。
興奮冷めやらんと言わんばかりに、走ってでも来たのか少し息切れさえしている。
何事かと西田もあきらを凝視していた。


「司!西田さんもいたか、良かった!」

「なんだ?どうした?」

「西田さん。次の土曜日か日曜日の昼間、司のスケジュールどうなってますか?」

「土曜日の午前中はNYの役員とオンライン会議、午後は稟議書に目を通して決裁を進めていただいて、夜は会食の予定がございます。日曜日はNYへ出張の予定なので、日本にはいませんが」

「土曜日の午後!空けてもらえますか?」

「それは……、どのような理由で、でしょうか」

あきらは一体どうしたというのか。
そこまで慌てている感じではないけれど、少し興奮しているような言動は久しぶりに見た。


「今さっきまでアプリでメッセージを送っていた女に会ってたんだ」

メッセージだけでなく、もう会っても良いと思うような女がいたことに驚いた。
昨夜も来て俺のスマホをいじっていたが、相手の女と約束があったからか。

西田はその言葉に、あきらを応接用のソファに案内している。
早く帰れると思っていたのに、西田も何が聞きたいのか心なしか表情筋が緩んでいるように見える。
やっぱり西田も楽しんでんじゃねぇか!


「美作様、詳しくお話しいただけますか」

「あ、ああ。今までメッセージのやり取りをして実際に会った女性が何人かいたんですけど、俺や総二郎が現れると、みんな本人にはもう会わないって言う人ばかりで」


あきらの話を詳しく聞いてみれば、実際会う約束をして、でも待ち合わせに現れるのはもちろん俺ではなく、総二郎かあきら。
本人は急な用事で行けなくなったこと、たまたま自分が近くにいたから、連絡を受けて代わりに直接お詫びに来たなどと言って会っていたらしい。
今までの女性は全員、本人とはもう会わなくて良い、あなたとまた会いたいなどと言われていたとか。

ところが、今日会った女性は全く違った。

あきらの風貌に見惚れることもなく、本人が来れなくなったと詫びるあきらの話を無表情で聞いていたらしい。
カフェで待ち合わせだったから、コーヒー代だけでもお詫びに出すと言っても断られる。

人当たりが良く顔面偏差値の高いあきらに愛想良くすることもなく、そして媚びを売るでもなく、そのまま解散しそうになった。
コレはと思って少々試そうと、あきらから「君が気に入ったから、また会えないか」と誘っても、会いたいのはあなたではなくメッセージのやり取りをしている方ですと断られ、別れ際には「もし次回もご本人に会えないのであれば、それはご縁がなかったということだと思いますので」と言われたらしい。
そしてその女はそのまま立ち去ったと。

あきら自身は女を誘って断られたのは初めてらしく、少々ショックを受けた様子だった。

……まぁ、実際にメッセージのやり取りをしているのは総二郎とあきらだから、本人に間違いではないけれど。
そんなことはもちろん彼女が知るわけもないから、律儀にもプロフィールに載せている写真の人物と会いたいと言うことか。


「会いましょう!」

あきらの話が終わったところで西田が突然大声を出す。

いま、会うって言ったか?

俺が?
その女に?


「絶対に、嫌だ」

「坊っちゃん、よくお考えください」

もうすぐ30になる上司に坊っちゃん言うな!

「美作様の風貌に靡かず、誘いにも乗らないしっかりとした貞操観念を持ち、奢られることを良しとしない金銭感覚に、本人以外とは戯れの会話すらしないという強固な意志。その女性、非常に気になります」

ただの頑固な女じゃねぇの?!奢る奢らないも、本人に変わって詫びに来た人間に奢らせるほうがどうかしてるだろ。
そんなんで会う理由になるか!
あまりにも馬鹿らしくて、ソファから立ち上がり一人帰ろうとした。
が、西田とあきらの言葉に思わず足を止めてしまった。


「司様。一度でも会えば、椿様や会長にこれ以上の縁談は無意味だと言えるのでは?」

「そうだぞ、司。イケメンで百戦錬磨の俺よりも、野暮ったい写真のお前に会うことを望んだ女だ。それに、結婚相手の条件も、メッセージのやり取りでも俺らが会っても良いと思った女だから、これでダメなら椿姉ちゃんも文句はないだろ」


 めんどくさい。こんな面倒なことがあるのか。
俺は誰とも会わないと言ったはずなのに。
しかも会うということは、またあのクソダサい格好をしないといけないのか。


「司、この一回だけで良い。俺たちもいい加減、おばさんと椿姉ちゃんたちから解放してくれ」


姉ちゃん。
姉ちゃんの悲しそうな顔が頭に浮かぶ。


会いたくない。
話したくない。
結婚もしたくない。

だけど。
俺だけがいつまでも嫌だと子どものように駄々を捏ねていても仕方がないのは分かってるし、姉ちゃんの後悔を消してやりたいと、ずっと思っている。

「ほら司、スマホ出せ。すぐに今回の詫びと次回日程のお伺いのメッセージを送らないと」


今までこんなに大きなため息ををついたことがあるだろうか。
仕事中は絶対にため息なんかつかない。
ため息は不景気の極み。
代わりにプライベートではため息の嵐だ。


総二郎やあきらに類、西田や母親の為じゃない。
姉ちゃんの為だ。

自分にそう言い聞かせて、プライベート用のスマホをあきらに差し出した。










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Re: notitle 07

Re: notitle 07






「姉ちゃん、今日は楽しかったね!」

「進、あの人は一体何なの?」

「あの人って専務のこと?」

「自己紹介して食事が始まったまでは良かったのに、食べ始めてしばらくしてから、あたしと進を見て笑い転げるって何?!連れてきてもらったことには感謝してもし尽せないけど、あれはちょっと失礼じゃないかな?!」

「いや、専務とご飯食べる時はいつもあんな感じだよ。今日は一段と笑ってたけど、俺も初めて専務とご飯食べた時は、ああやって笑ってたもん」


29歳の誕生日を迎えた12月28日。
弟の上司、しかも花沢物産の後継者と一緒に食事となれば、緊張もする。
しかも、あの憧れのレストラン、「プティ・ボヌール」で。どのドレスコードに合うよう、新しく綺麗めのワンピースを新調して、普段はあまりしないアクセサリーまで付けた。


レストラン近くのカフェで待ち合わせだと聞いて早めにカフェに着くように家を出て、弟と一緒に進の上司が来るのを待っていた。
あたしは甘いキャラメルラテ、進はカフェオレを飲んで、少し緊張が緩んでいたところで、カフェの入り口からざわめきが拡がった。
何だろうと入り口に目線を向ければ、王子様然とした男が一人店内に入ってきたところだった。
視線を進に戻して見れば一つ頷いたから、やはりあの人がそうなのか。

すごい。本物のイケメンを見た。

元カレもイケメンだと思っていたが、申し訳ないくらい比にならない。
色素の薄い茶色い髪の毛に、透き通るような不思議な色合いのビー玉のような瞳に、バサバサと音がしそうなほど長いまつ毛。
すうと通った鼻筋に高い鼻。少し薄めの唇もなぜか品が良いように見える。
しかも高身長。八頭身の人間を初めて見た。
本当に同じ人間なのかと改めて進を上から下まで見れば、少し睨まれた。
ごめんて。


「専務」

進がそう声を掛けると、彼はほんの少しだけ笑みを作り、あたしたちの座るテーブルまで来た。
「こんばんは」と話す声は、そこまで低いわけではないけど、どこか心地よさを感じるような優しい声だった。

う〜ん、天は二物を与えず。
正にこれだな、と心の中で一人頷く。
話に聞いていても思わず見惚れてしまうくらいだから、周りのお客さんたちも当然、彼をチラチラと見ている。
それでも彼はそんな視線に慣れているのか意に介することもなく、あたしたちの席まで来ると進の隣の席にストンと座った。


「専務、これが姉です。姉ちゃん、こちらが俺の上司で花沢類さん」

「初めまして」と挨拶はしてくれたけど、先ほどの笑顔はもうなく、無表情だった。
なんだろう。
誰かれ愛想を振りまけなんて言わないけど、それにしても感情が見えないというか、不思議な雰囲気を醸し出している人だった。


「あの、初めまして。進の姉の牧野つくしです。いつも弟の進がお世話になっております。……あの、今日は本当にすみません!」

「ちょ、姉ちゃん?」

「あの、まさかこんなことになるとは思わず、「プティ・ボヌール」に行くなんて絶対に無理だと思ってたんです。本当にご迷惑おかけして申し訳ありません!」


いくら交換条件だったとはいえ、絶対に無理なことで、本当に行けると思って言ったことではなかった。
それで弟の上司に手間を掛けさせるようなことになるとも思っていなかったのだ。
あたしのわがままに付き合わせてしまっているようで、話を聞いてから今日ここに来るまで、そして今も本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
花沢さんだって土曜日の今日はお仕事も休みだったかもしれないのに、可愛がってもらっていると進が言っていることが本当だとしても、部下の、しかもその姉の為に食事の場を用意するなんて、普通は考えられない。
それでも「プティ・ボヌール」に行けるならと付いてきてしまったあたしも、どうかしてる。


「大丈夫ですよ。あのレストランは母が趣味で経営しているお店なので、融通が利くんです」

は、母親が、趣味で?
経営しているって言った?あの「プティ・ボヌール」を?

何でもないことのように言われたけれど、すぐには理解出来なくて、ポカンとした顔をしてしまった自覚はある。
だって、誰もそんな奇跡のような偶然があるとは思わないじゃん! 
関係者だからこんな直近でも予約が取れたのかと納得も出来るけど。

そんなあたしを見た進が肘で突いてきたから、ハッと我に返れば、目の前の花沢さんはくすりと笑っていた。
そして一言「ハトが……」って、鳩?鳩ってなに?なんで、ハト?!

意志の疎通が難しそうな人だなと思いつつも、柔らかい雰囲気に何だか……、何だかもなにもない!イケメンは鑑賞するだけで十分。
目の保養で、癒やしであれば良い。
関わるのは今日だけだろうし。


そこから先はもう、夢のようだった。
こんな素敵な誕生日は久しぶりで、今までの彼氏と過ごした誕生日は何だったんだろうかと思うほど。


「プティ・ボヌール」は、「グランメゾン」のような最高級フランス料理レストランではないけど、「ビストロ」ほどカジュアルでもない、本当に「レストラン」だった。

レストランがあったのは路地を入った、なんてことない雑居ビルの中にあり、一見入り口には見えないような扉を潜ると、そこは別世界だった。
外観とは全く違う、まさか中にこんなお店があるとは想像出来ないような空間だった。

店内は少し照明を落としてあるけど、オレンジ色のやわらかい光で満たされていた。
高級感を感じるもののシンプルでモダンなような、それでもなにかが他のレストランと違うように感じた。
なんでそう思ったのだろうと疑問に感じつつも、レセプションでコートを預け、店内を見渡せばテーブル数は少なく、その全てが埋まっていた。
どこに案内されるのかと不思議に思っていたら、花沢さんは近くに来た店員さんと一言二言話すと「こっち」とだけ言ってそのまま通路の奥へと入っていくから、進と二人で後を付いていった。
案内されたのは個室で、内装は他と変わらないけど、一つ違うところを見つけた。


「あ、このお部屋はお花があるんですね」

そう言うと、花沢さんはあたしをジッと見た。
あまりにもジッと見てくるから、変なこと言ってしまったかな?と不安になる。

「え?花?」

進が何のことかと聞いてくるから、不思議な違和感を話した。

「ほら、私もたまに贅沢する時に優紀と色んなレストラン行くけど、大体テーブル上やインテリアにお花や鑑賞植物が置いてあって、壁には絵画が飾ってあったりとか、テーブルウェアとかも何かしら色があるのに、ここは照明のオレンジとテーブルウェアの白にテーブルと椅子の黒だけだなって」

入ってきた扉の向かいにある小窓の下のコンソールテーブルに置かれた、透明なガラスの花びんに白いスター・オブ・ベツレヘム。
このお花を見るまで、何に違和感を持っていたのか分からなかったけど、それが色だと気が付いた。
ここまで内装に色がないのも珍しい。


「内装はここのシェフのこだわりでね。この部屋は関係者だけが使ってるんだけど、母がこの部屋だけでも花を置かせてと譲らなくてね」

それでも飾ってあるその花の色も白だけど。
本当にこだわりのある方がシェフなんだなぁと思いながら、案内されるままにイスに座り、その後はひたすら出される料理を堪能した。


ちょっと良いところで食べることを趣味にしているから当然マナーも必要で、学生の頃に取得した資格と今まで通って覚えたマナーが役に立った。
それでも個室だったから、そこまで周りの目を気にしないでいられたのも良かった。
きっと花沢さんが気を使ってくれたのかな。
マナーとかどの程度出来るか知らない人を連れていくわけだし、実際、進はマナーも何もあったもんじゃなかったけど。

それでも花沢専務の前では私のマナーなど所詮、付け焼き刃感。
花沢物産の後継者だと聞いていたけど、やはり幼少期から教育を受けているのだろう。何もかもがスマートで、こりゃ王子様って言われるのも納得出来るなぁ、なんて思った。

出てくる料理はどれも美味しくて、進と「コレ最高」とか話しながら食べられたことも更に美味しさが感じられた理由かもしれない。
進と頬張らないように気を付けながら口に入れつつも、食べる手は止まらなくて、ここで初めて内装の意味に気が付いた。


「お料理の華やかさが、際立ちますね。お料理以外の色に目を持っていかれないから、この色彩と味だけに集中出来ます。見た目からも美味しさを感じられるし、食べると更に美味しさが増すような気がしますね」

花沢さんにそう言うと、ニコッと笑ってくれた。
爽やか過ぎる笑顔に思わず赤面してしまった気がする。それを誤魔化す様にまた食べていると、くつくつと笑い声。
何?と思って顔を上げると、花沢さんが「あはは」と声を出して笑い始めた。

なにか、おかしなことを言った?
進を見ると特に驚いた様子もなく、「いつものことだから大丈夫だよ」と何事もないようにナイフとフォークをカチャンと音を立てて食べていた。













Re: notitle 06

Re: notitle 06







 「司、おかえり〜!」

「……お前ら、どうやって部屋に入ったんだ」

「ん?聞いてねぇ?西田さんから合鍵預かってるけど」


また総二郎とあきら。
暇ではないだろうに、こいつらも何を考えてるのか。
あきらはともかく、総二郎は茶事が続く年末年始はいつも忙しくしていたはず。

西田も西田だ。
何でこいつらに合鍵なんて渡したんだ。合鍵と言ってもカードキーだし、指紋認証もしないと入れないはずなのに。
わざわざカードを作って、指紋を登録して入ってきたのか?

これみよがしに大きくため息をついてみせれば、あきらが慌てたように話しかけてくる。

「あのな?俺らだって忙しいんだ。でも椿姉ちゃんからの圧が……、あれから一週間だろ?何か進展あったかって聞いてくるんだよ」

「そうそう。椿姉ちゃんも西田さんも、お前のことを心配してるんだよ」

西田は面白がってるだけのような気もするが、姉ちゃんはずっと俺に対して後悔を抱えさせてしまっているのは分かってる。
あの時もっと早く帰って来ていればと、陰で泣いているところも見たことがある。

姉ちゃんのせいじゃないのに、姉ちゃんは何も悪くないのに、俺が、未だに女がダメだから余計な心配を掛けさせている。

親も家も会社もどうでもいい。
でも、姉ちゃんを悲しませたいわけではないし、いつまでも後悔していて欲しくない。

その為には俺が、変わらないといけないのは、分かってる。
ただでさえ仕事柄、人間なんて信用出来る奴は少ない。
油断すれば足元を掬われ、財を貪り尽くそうとする奴ばかりの世界だ。
時間だって無駄には出来ない。毎日何が有益なのかを取捨選択していかないといけない。
そんな中で女を必要としたことがないから、なおさら後回しになってしまっていた。


「それで?今日は何しに来た」

「何って、そのあとどうなったのか聞きに来たんだよ。誰かとメッセージの一つや二つ、やり取りしたんだろ?」

「お前ら忘れたのか?俺は何もしないって言っただろ」

「まさか司、本当に何もしてないのか?!おい、スマホ出せ」

コートのポケットからプライベート用のスマホを出して、あきらに渡す。
コートとマフラーを脱いでソファに投げ置き、キッチンに向かいミネラルウォーターで喉を潤したあと、そのままバスルームへと行こうとした。

「司!お前、電源切れてんじゃねぇか」

「ピロピロ通知音がうるせぇから切った。鳴らないように設定しとけ」

そう言い捨ててシャワーを浴びて出たら、また総二郎とあきらがスマホを覗き込んで、ああだこうだ言っていた。


「この子は?可愛いじゃん」

「いや、この年齢で契約社員だからなぁ」

「この子良いんじゃね?大手企業勤めで、年齢が25?都内住みで可愛い」

「お前ら本当に暇なんだな」

「だから暇じゃねぇって言ってんだろ!」

総二郎がキレ気味に言うが、それなら放っておけばいいものを、わざわざ来るのだから楽しんでる以外ないだろう。
あきらのところもアジア圏をメインに商売している総合商社だ。日本のように年末年始休暇がある国はほとんどないはずだから、仕事はあるはず。

「俺は昨日で仕事納めだったから、日本での通常業務がない分、いくらかマシだな」

「おい司。適当に何人か選んどいたから」

「俺は行かねぇからな。そんな暇じゃねぇ」

「まずはメッセージのやりとりくらいはしろよ」

「嫌だ。やりたいお前らがやれ」

「だぁから!俺らもそんな暇じゃねぇの!俺だって今日は夜咄の茶事のあとにわざわざ来てるんだぞ!大晦日から元日の茶事の準備もあるし、それをお前は!」

んなもん知るか。俺が頼んだことじゃない。
キレ始めた総二郎をあきらが宥めつつも、早速メッセージが来たらしく、ラグの上に投げ出されていたスマホを手に取る。


「……これ、どう思う?」

しばらくスマホの画面を見ていたあきらは総二郎にスマホを渡したが、総二郎は「この子はなしだな」と、また画面をタップして何やら難しい顔をした。

「……なんだ?どうしてダメだったんだ?」

「いや、いきなり質問ばっかり大量に書き込まれてたんだよ。詳しい年収、勤めてる会社名、何歳までに結婚したいか、子どもは何人欲しいのか、借家か持ち家かとかとかとか。いきなりこんな聞いてくることあるか?」

「婚活アプリなんだろ?」

そう言いながら思わず鼻で笑ってしまう。
結婚願望があるからやっているのだろうに。
条件ありきの相手探しだ。
まぁいきなりそこまで聞いてくるのも不躾なのは間違いないし、会話もせずに一方的に質問して答えを待つなど、傲慢にもほどがあるとは思う。


「いきなりそんな上手くいくわけないだろ。バカだな、お前らは」

「あのなぁ!」

「まぁまぁ総二郎、司が乗り気じゃないのは最初から分かってたことだろ。それを承知で姉ちゃんだって頼んできてるんだから、初めは俺らでやるしかない」

チッと舌打ちをした総二郎は、やってられないとソファにどかっと座る。

「類はどうしたんだ?」

類も昨日で日本支社は仕事納めだったはずだ。
今は日本をメインに仕事をしているし、こいつらよりも暇だろうに、また家に籠って寝ているのだろうか。

「類は部下と食事に行くってよ」

「部下と?類が?」

「あいつも今は管理職だしな、それなりに付き合いがあるんだろ」

それでも、類がわざわざ休みだろう日に食事?
しかも、部下と?

「女か?」

「さぁな〜、そこまで聞かねぇよ」


類も昔は幼馴染みの静と色々あったようだが、今はフリーのはず。
そもそもに類は男でも女でも、本当に気に入った人間としか付き合わないような奴だった。
社会人になってからは、そんなところも少しはマシになったようだし、俺ほど女嫌いと言うわけでもないだろうから、類にもそういう女がいても不思議ではない。

総二郎とあきらは顔を突き合わせてスマホの画面を見ながら、また誰かにイイねだか何だかをしてメッセージを送っているのだろう。

早めに帰ることができた今日は寝るにはまだ早い時間で、酒でも飲むかとキッチンに行こうとしたらいきなりリビングの扉が開いてビクッとしてしまう。
部屋に入ってきたのは、珍しく頬を緩ませた類だった。

……類も合鍵持ってんのか?
こんなにいくつも合鍵なんて作ってんじゃねぇよ西田!
もう何度目か分からないため息をつく。


「司どう?良い人いた?」

いるわけないのに、なんで聞いてくるんだか。
それよりも、

「類、お前、何かいい事でもあったのか?」

「んっ?なんで?」

「随分、機嫌が良さそうだな」

「……うん、そうかも。良いかもしれない」

本当に珍しく目に見えて機嫌の良い類に、あきらと総二郎も何だ何だと話に混ざってきた。

「今日は部下と食事って言ってなかったか?それとも女とだったのか?」

「うん。部下は男だけど、その部下の姉もいた」

「は?姉?」

「そう。姉が誕生日だって話を聞いたから、「プティ・ボヌール」で一緒にご飯食べてきた」

「……?なんでそれで姉も一緒に行くことになったんだ?類と食事だって聞いて勝手に付いてきたってことか?」

三人とも意味が分からなくて顔を見合わせ、また類を見れば、何が分からないのか分からないみたいな顔をした。

「違うよ。ほら、部下は司がやってる婚活アプリの発案者なんだよ。いま一緒に仕事してる」

「うん、だからな?なんで姉も?」

「誕生日だから?」

「いや、分かんねぇよ!部下だけなら分かるけど、なんで誕生日だからって姉も一緒なんだよ!シスコンか、類目当てじゃないのか?」

総二郎の言葉に俺もあきらも同意しかない。
話が通じないのはいつものことだが、今回もいまいち話が噛み合わない。

「ほら、アプリの登録者数が伸び悩んでるって話をしただろ?第三者の意見が聞きたいって言って、その部下が姉にアプリを使って結婚相手を探させようとしてるんだ。姉は乗り気じゃなかったけど、「プティ・ボヌール」で食事するのが交換条件だって言うから、良いよって」

「……?やっぱり分かんねぇな?意見が聞きたいのか、結婚相手を探させたいのか。交換条件にしても、類がそこまでしてやることもないだろ」

「両方だよ。第三者の意見が聞きたいのも本当だし、それで相手が見つかれば一石二鳥だろ?身内とはいえ、結婚までいけば実績も出来るし」

「だからって類が部下と勤務時間外に食事に行くだけでも滅多にないんだろ?なのに姉とはいえ、女も一緒にってのが驚きなんだよ」


そうだ。類もそこまで女に興味を持つようなやつではない。
でも類と俺の違いは確実にある。
俺は生理的に受け付けないが、類は単純に自分と関わりのない人間に興味がないだけ。
女を嫌悪しているわけではないから、一度興味を持てば、という話だ。


「面白いんだよね」

「……だから、何が?!」

「その部下が。食べてる時の顔が、面白いんだよ。姉も食べるのが好きだって言うし、姉弟揃ったらどうなるのかなって、……くっ、」

話してる途中で笑い出した類に、また三人で顔を見合わせる。
こんなに笑う類は久しぶりに見た。一度ツボにハマると笑い続けるところはあったが、それも滅多に見ることはない。

「「プティ・ボヌール」は俺の母親が経営してるって言ったら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするし、食事中もリスと、ハムスターみたいで、あははは!」


腹を抱えて笑い出した類に、俺ら三人はただ見ているだけしか出来なかった。











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