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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 35

Re: notitle 35








「もうマジで勘弁しろよ、お前ら」

「そうだぞ。30過ぎて殴り合いの喧嘩なんてすんじゃねぇよ!ったく、久々すぎて司が凶暴なの忘れかけてたわ……」

「ちょっと本気で殴り過ぎじゃない?司」

俺と一番離れたソファに腰を下ろして、イテテと言いながら類は腹をさすっているが、肋骨を折るほど力は入れてないし、多少痣ができるくらいだろう。流石に顔は避けて、殴ったのは首から下だけにしてやったんだから感謝してほしいくらいだ。

「うるせぇバーカ!」

「司!ガキじゃねぇんだから馬鹿はやめろ」

 俺だって初めてのことに戸惑ってるのに、類が俺を怒らせるから悪い。
俺の知らない彼女を知ってると言わんばかりの態度に腹が立った。あきらと総二郎に止められても抑えきれないほどムカついたのは久しぶりだ。


「それで?」

「類、ちゃんと話せよ。司と会ってる女が誰だか知ってるんだな?」

「うん」

類の話では、あの婚活アプリの開発者である部下がアプリを改善する為に、姉に期間限定でモニターのようなことを頼んだ。その話を受ける交換条件として姉が前から行きたかったというレストラン「プティ・ボヌール」に連れて行ってモニターを引き受けてもらった。
でも一ヶ月程でそれを辞めたいと言い出したらしい。理由としては「本気で結婚相手を探している人に申し訳ないから」だと。いかにもお人好しな彼女の言いそうなことだ。
強制的にやらせていたわけではないけど、改善点を見出したいのも本当のところで、それなら直接話を聞きたいと部下と一緒に姉の家を訪れた。そこで今まで会った男の話や、アプリを使う上での要望なんかを聞いていたところ、まさか彼女の口から「ミドウ ジョウ」の名前が出てきたと言う。


「まぁ、司の話を聞いて驚いたのは確かだけど、彼女が司に危害を加えるとかそういう心配はないって分かってたからさ、別に司が会いたくて会ってるなら俺が何か言うこともないかと思って。彼女と会ったのもそれ一回だけで、手料理もたまたま夕飯時だったから部下と一緒にご馳走になっただけ。本当は連絡先も知らないよ」

これみよがしに腹を擦りながら類は少しだけ俺を睨んだ。
一回だけだろうが何だろうが手料理を食べたことに変わりはないし、俺よりも先に彼女の部屋に入っているし、何より彼女の本当の名前を知ってるいるのも類!思い返せばまた腹が立ってきた。
もう一発くらい殴ってやろうかと思ったが、わざわざ俺の怒りを煽るような言い方をしたのか。

「じゃあ何で、いかにも俺のほうが彼女のことを知ってるみたいな言い方したんだよ?!」

「だってさ、俺だって二回会っただけだけど彼女は本当に良い子なんだよ。それに極普通の一般家庭の出だ。食事のマナーは違和感なく出来てるけど、それこそダンスやお茶なんてやったことないと思う。そういう女を道明寺家に嫁がせるんだとしたら、司がきちんとフォローしてあげないと、この階級社会の中で辛い思いをするのは彼女だ。
今まで女を避けて関わらずに生きてきた司に、やっと今さら好きだと気付いたくらいで何の覚悟もなく結婚なんかしてみろよ。彼女だけじゃなく、それを見てる家族だって辛い思いをするんじゃないの?さっき俺が言った言葉で迷うくらいなら彼女は諦めたほうが良いと思った。でも司はちゃんと嫉妬もしてるしね、まぁまずまずかなとは思うけど」

「確かに類の言うことも分かる。ただ単に好きだと自覚しただけじゃあ、どうにもなんねぇな。本気で彼女しかいない、彼女となら結婚したいと思うんだったら、司もそれなりに覚悟しないと椿姉ちゃんやおばさんに立ち向かえねぇぞ。まぁでも司の嫉妬する姿なんて生きてる間に見れるとは思わなかったな!」

わははと総二郎が笑って話してるが、俺が嫉妬?!
嫉妬ってのは羨み妬むことだったと思うが、こんなクソみたいに腹が立って人を殴りたくなるほどのものなのかと、これもまた初めてそんな感情を自分が持っていたことに驚く。
そんな俺の驚きを知ってか知らずか、また俺が類に殴りかかるのをいつでも止めようと思ってなのか、いつもより近い位置で俺の隣に座っていたあきらが冷静に問いかけてきた。

「ちょっと待て。それならその「クシマ ツキノ」は、結婚も出会いも求めてないってことか?」

「そうだな」

「でもそれなら何で彼女は半年経った今も定期的に司と会ってるんだ?それに、司。お前も彼女は何も求めてないって言ってたよな?それが分かってたのに、それでも会ってたのは何でだ?」


ここまできたら話さないわけにはいかないし、彼女との関係を自分でなんとか出来る気もしない。
経験値がいかに大事かというのは、仕事を始めた時に嫌というほど思い知った。今でこそメディアでも取引先からもそれなりに持て囃されているが、仕事を始めたばかりの大学生の頃は何も出来ない無力感と、いかに自分が今まで傲慢で不遜な人間だったかを痛感することが何度もあった。財閥の後継者というプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、我武者羅に何とかここまでやってきた自負もある。
だから、こればかりはどうしようもない。
なにせ一度も恋愛経験がないどころか、そこに思考を及ばせたことすらないのだから。大きなため息を一つ吐くと、仕方なく話し始めた。


「初めて会った時、店に入ってすぐに何が目的なのかと聞かれた。確かに早く終わらせたくて素っ気ない態度は取ってたが、婚活アプリを使って会ってるのに、まさか目的を聞いてくるなんて思わないだろ。でもクシマも何が目的でアプリを使ってるのか分からなかったからな。しばらくは二人で腹の探り合いしてたんだよ」

「なに?司は初めから彼女が出会いや結婚が目的じゃないと思ってたのか?」

「ああ、なんとなくだけどな。会う前にアプリのメッセージのやり取りを見たんだ。それを見たら彼女はそんなの求めてないと思ったんだよ」

「どこを見たらそう思うんだ?俺はそんなの気が付かなかったぞ」

「あいつ、聞かれたことには答えてるけど、こっちにはほとんど何も質問してなかった。会っても良いと思ってるなら、どんな人間か知りたいと思わないか?」

あれも確信があったわけではなかった。質問が他と比べると極端に少ないこと、メッセージの返事をするまで間があっても他の女のようにすぐにブロックしなかったこと。

「あきら、メッセージのやり取りをしていた人間と俺が違う人間だということにも気付かれたんだ。しかも、あきらがキャンセルを伝えに行った時から彼女は疑ってたぞ」

「えっ」

「お前のこと、胡散臭い男だと思ったって言ってたな」

あきらは胡散臭いと言われていたことにショックを受けたのか、そのあとしばらく黙ったままだった。
確かに美作物産の跡継ぎで専務をしている人間に胡散臭いなど、なかなか言える言葉ではない。その時の彼女との会話を思い出して笑いが出そうになる。

「おい、今はそんな話はどうでもいいんだよ。司、お前は何で彼女と会ってたんだ」

総二郎が鋭い目で睨んでくる。こいつらは姉ちゃんが怖かったのもあるだろうけど、多少面白がりつつも本気で俺の心配をしていたはず。こっそり付いてきて様子を見てたぐらいだから。そんなこいつらの心配する気持ちを俺は無碍にした。

「司、もう話しちゃえば?彼女のことが本気で好きなら、もう話しても大丈夫じゃないかな」

本当に類はどこまで何を考えてるんだか分からないし、何が大丈夫なのかも分からない。
分からない尽くしの今の状況を何とかしたい。

今日、部屋を訪れた時に彼女の顔を見て、触れて、好きだと気付いた。
結婚したいかと、今決めろと言われたら迷うかもしれない。でも、彼女とこれからも同じ時間を、あの穏やかな居心地の良い空間を一緒に過ごしたいと思ったことに間違いはない。

ババアや姉ちゃんは跡継ぎだの何だの言うかもしれないが、そんなことで結婚したくはないし、それを彼女に押し付けたくもない。

他の女と結婚させられそうだから彼女にするんじゃない。
俺は、彼女だから、クシマという女だから、触れることが出来るからじゃなくて、仮面を付けてないからでもない、どうして彼女なのかと言われても上手く言えないけど、でも。

俺は、あの時の自分の勘を信じる。
あの時、彼女を選んだ俺を、俺は信じる。

予想外の事態にいつまでも戸惑っている場合ではない。
最初の計画から大幅に軌道修正しなければならないのであれば、早めに対策を考えないと取り返しのつかないことになるかもしれない。


「あの時の俺はババアや姉ちゃんがなんと言おうと絶対に結婚なんてしたくなかった。話してみればクシマも結婚どころか男と付き合うことすら考えてなかったんだ。それなら、俺の結婚を阻止してもらう為に協力してもらおうと思って、話を持ち掛けた」

「お前、俺らがどれだけ……!」

今度は俺の正面に座っていた総二郎がローテーブルを乗り越えて俺に殴りかかるつもりなのか、少し腰が浮かんだ。

「分かってる!お前らが本当に俺の心配をしてることは分かってる!それでも、あの時は姉ちゃんに嘘を付いて騙してでも結婚なんてしたくなかったんだよ!クシマだって、俺の提案を聞いた時、最初は拒否してた!」

「じゃあ何で半年も続いてるんだよ!」

「クシマも始めは今時こんな結婚を強制されるなんて話は信じられない、初めて会った俺をそんな簡単に信用出来るわけないから協力なんてしないって拒否してた。それでも最後には、友人から始めてみて、それで俺のことが信用出来ると思ったら協力するって言ってくれたんだよ……」

本当に彼女はお人好しすぎる。
未だに名前も勤め先も何も知らない俺に、半年も。交換条件に言った彼女の行きたいレストランにだって、まだ一回も連れて行ってない。
ここまで協力してもらって、彼女は俺に一度も連れて行けなんて言わなかった。
礼もしない俺に、なんで半年も?


「なんで彼女なんだ?いくら結婚が目的じゃないって分かっても、何で初対面の彼女に協力を求めた?」

「あいつ、最初から仮面を付けてなかった。吐き気のするような匂いもしないし、今までの女とは違うと思った。それに、出会いも結婚も求めてないなんて、こんな好都合なことないだろ。それなら、姉ちゃんさえ騙せれば済むと思ったんだよ」

「椿姉ちゃん騙すって、そんな簡単な話じゃないだろ」


やはりそこだ。簡単に姉ちゃんを騙せるわけがない。
その為に俺の馬鹿みたいな計画に彼女を巻き込んでしまった。














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Re: notitle 34

Re: notitle 34









「おい、待てよ。類も司も何の話をしてるんだ?」

「類?」

あきらも総二郎も何の話をしているのか分からないということは、やはり類は誰にも彼女のことを話していないのだろう。

「俺も初めはまさか司と彼女がマッチングして会ってたなんて知らなかったけどね。その話を聞いた時はびっくりした」

「彼女から俺の話を聞いてるのか?」

「聞いてる。だから俺は知ってるよ」

「何を、知ってる?どこまで聞いた?」

「お前の思惑、全てかな」

類とクシマは、確実に一度はプライベートで会っている。
あのクシマの誕生日にレストランへ行った時から既に二人は連絡を取り合っている?それとも、弟か?

俺の思惑全て、と類は言った。
全てということは、彼女との協力関係を知っているということか。
普通に考えれば、部下が事細かに姉のしていることを上司に報告するなんてあり得ない。つまりそれは、彼女本人から聞いたことにならないか。
類はあの時、部下は姉にモニターのようなことを頼んだと言っていた。登録者数が伸び悩んでると、だから改善点を見出したいと言っていた。つまり、彼女は弟にアプリを通して会った男の話をしているはずだ。
類は責任者として、その場に同席していた?なんせ交換条件として類がレストランに連れて行ってる。それ以降に弟を通して二人が会っていても不思議ではない。そう考えないと、類とクシマが直接会って話す関係でなければ、類が俺の思惑など知るはずもないし辻褄が合わない。


「ストップ!」

あきらが俺と類の間に手を入れて会話を止めた。
俺と類の様子に二人とも何かを感じ取ったのか、いつものふざけた雰囲気はない。

「類も司も何の話をしてるんだ?俺たちにも分かるように話してくれ」

「……クシマは、類の部下の姉だ」

「は?どういうことだ?類?」

「昨年末に類が部下と、その姉を「プティ・ボヌール」に連れて行った話を覚えてるか」

「ああ、類が珍しく女の話で笑い転げてたから覚えてる」

あの時はまだ、婚活アプリをするかしないかで騒いでた頃だ。
あの話を聞いていなければ彼女が類の部下の姉だとは気が付かなかったし、そうだという確信に近いものがあったから彼女と二回目以降も会うことにしたと言ってもいい。


「あー、やっぱりそれで気が付いたんだ。司も何も聞いてこないから気付いてないと思ってた」

「クシマをレストランに連れて行ったのが類だと薄々分かってた。初めて会った時に彼女はあのレストランで食事をしただけじゃなく、関係者しか使わない部屋の話をした。確信したのは彼女と二回目にあった時だけどな」

「それなのに俺に彼女のことを聞かなかったのは何で?」

「聞いたところで意味なんかないだろ。部下の姉なんて、普通は関わるはずのない人間だ。それに、お前がレストランに連れて行った部下の姉と、俺が会っている女が一緒の人物だと類は気付いてないと思ってた。彼女のことを類自ら調べるか、彼女から直接聞かない限りは彼女と会ってる男が俺だということを知り得るはずがないからな」

「なるほどね。でも彼女と司が初めて会った次の日には俺は知ってたよ」

そんな前から?俺と会った次の日には報告を受けていたということか。
そのあとは?俺と会う度に彼女は類に会って報告していたのか?聞きたいことがたくさんあるはずなのに、目の前にいる類の、やけに余裕ぶった顔付きに腹が立って仕方ない。

「司、俺が彼女の本当の名前も勤め先も連絡先も家も知ってて、彼女の手料理も食べたことがあるって言ったら、どんな気持ちになる?」

勢いよくソファから立ち上がった俺を、あきらと総二郎が慌てて止めに入る。
ムカつく。類を殴ってやりたい。
あきらと総二郎に両腕を掴まれて止められてなければ確実に類を殴ってた。

なんで、どうして、こんなに類に腹が立つ。
彼女にだってプライベートはある。二週間に一度しか俺は会わないし、それ以外の休みを彼女がどう過ごしてるかなんて、そんなの、そんなの俺に話さない程度の関係で、俺と彼女の縮むことのない距離だ。

名前も、メールアドレス以外の連絡先も、勤め先も聞いてないし、手料理の味だって、俺は知らない。
そう、俺は何も聞かなかったし、知ろうとも思ってなかった。

俺が、そういう距離で接していたから。
俺が、そういう関係を望んでいたから。

全ては俺の意志だったのに。

もっと、もっと彼女のことを知りたい。もっと近い距離でいたい。
今日初めて彼女のプライベートに踏み込んだ。「クシマ ツキノ」以外のものに、初めて近付いたのに。

類はそれを越えていく。


「類、お前どういうつもりだ?!司を煽んじゃねぇよ!」

「全部話せ!何が何だか分かんねぇ!」

あきらも総二郎も類に掴みかかろうとしている俺を止めながら怒鳴っているのに、類だけが胡座をかいて座ったまま、表情も変えずに俺らを見上げていた。

こいつ!

「司!一回落ち着けって!何だよ、ちゃんと彼女のこと好きなら、そう言えよ!」

「そんなの知るか!俺だって今、初めて気が付いたんだぞ!」

「類も類だろ!彼女が知り合いだって言うなら、どうして司が会ってるって知ってたのに俺たちに言わなかった?どういうつもりだ、類!」

「一回座れ司!落ち着け!」

そうだ、類を殴っても何にも解決しない。今日は初めてのことが多過ぎて、俺も少し気が昂っているのかもしれない。
大人しくあきらの言うことに従ってソファに座ってやる。
あきらと総二郎が俺がソファに座ったのを見て、両腕を掴んでいた手を離した。
その間もずっと表情も姿勢も変えない類。その冷静にも見える視線に、全てを見透かされているような感覚さえして、俺の中の何かがプチンと切れた音がした。


「ぶっ殺す」

「司!やめろ!」


頭で理解できても心が納得しないことがあるんだと、俺はこの時初めて知った。
そして総二郎もあきらも止める間もなく、胸倉をつかんで類を殴った。













Re: notitle 33

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『あなたの本当の名前は?』


聞かれても話したくないことには話さなくて良い。そういう約束をした。

もう彼女になら自分のことを話してもいいんじゃないかと思ったこともある。彼女には本当の自分を知ってもらいたい。

でも自分が名乗ることで彼女の態度が変わってしまうことを恐れている。
どうせいつかは終わる関係なんだから、そんなこと気にしなくて良いはずなのに、あきらや総二郎を見た時のような彼女の無表情で無感情な態度を取られたくないとも思っている。
それで全てが終わってしまいそうで、それだけが気になって、言えない。


「……知りたいけどな」

友人から始めて、女に慣れる練習をしている。これは本当。
こいつらが知っているのもここまでで、それ以上の関係になることを誰もが望んでいる。

でも実際は、俺の結婚を阻止する為の協力関係でしかない。だからプライベートなことなど聞く必要がないし、そもそもに彼女は出会いも結婚も望んでいない。こいつらの望み通りに俺が彼女に好意を持ったとしても、彼女はそれを望まない。俺にそんなことを望んでない。


類は会話に加わることはなく、ずっと無言で俺を見ていた。
類はあのレストランで彼女と弟と会ってるから、きっと本当の名前を彼女自身から聞いているはず。そのことに無性にイラッとする。
類は彼女本人から情報を得ている。彼女と会って話して、あの笑顔と、手の柔らかさと温かさを俺は知っているのに、類は俺の知らない彼女のことを知っている。
ムカつく。
なんで、なんで俺の知らない彼女のことを知ってるんだ!


「いてっ!何すんだよ司!」

「ムカついたから」

無意識に類の頭を殴ってしまった。
俺は本当の名前を知らないのに!

「司、理由もなくムカつくからって類を殴るな」

理由はある。あるけど話せないだけだ!

「そういや司。さっき帰ってくる時、俺に聞きたいことがあるって言ってたよな?何が聞きたかったんだ?」

「あー、それは……最近クシマと会うと、もやもやするんだよ。なんかこう、彼女を見てると胸のあたりがもや~っとするというか、ざわつくというか、でも嫌とか不愉快とかじゃなくて、これが何なんなのか分かんねぇんだよ」

「彼女の喜ぶ顔が見たい。つい彼女のことを考えてしまう。何よりあれだけ女を避けて歩いていたお前がプライベートで女なのに彼女だけは信頼しているし、一緒にいても苦痛を感じていない。でも半年経っても彼女のことを知りきれてないし、なぜか心がざわつく」

「そうだな」

「司、やっぱり彼女のこと好きになってんじゃねぇの?」


あのもやもやは、今日彼女の顔を見た時の、あの時のあの気持ちは、これは友達には抱かない感情。
なんとなく、そういうことだろうかとは思っていたけど、30年生きてきて初めてのことに理解が追いつかなかったのは事実で、好きというものがどんな時に感じるものなのか言葉にして聞いてみれば、ストンと心に落ちてきた。

これは、ため息しか出ない。
こんなつもりじゃなかった。まさか、俺が女を好きになる日が来るなんて思ってもいなかった。
予定外、想定外、意想外。いつの間にか全てが俺が思った方向とは別の向きで動いている。

でもそういうことなら、こんな不毛なことはない。

だって彼女は、俺に何も望んでいない。
「道明寺 司」にも、「ミドウ ジョウ」にも興味がないのだから。
事実、彼女は俺に名前も何も聞いてこない。仕事のことも一度聞かれたけど、上手く答えられずにいたら話題を変えられた。それからは何も聞いてこない。
彼女も過去に何かがあったらしいから男とそういう関係になることを望んでいない。だから俺のことも、そういう対象として見ていない。俺が彼女のことを知りたいと思っても、彼女は、

「なぁ司。お前が本気でこれから先も彼女と付き合っていくつもりなら、類に彼女の詳しい情報教えてもらってもいいんじゃねぇの?」

「いらねぇ!」

「なんでだよ。出会ってから半年経ってるんだし、いくら友人からだと言っても向こうだって司と付き合う気があるから会ってるんだろ?もっと彼女のことを知りたいと思わないのか?」

知りたい。彼女のことは知りたいけど他からじゃなく、ちゃんと彼女の口から聞きたい。そうでなければ、なんの意味もない気がする。しかも類から聞くってのが一番ムカつくから嫌だ。
あきらが俺を諭すように話してくるけど、彼女が俺に会ってくれるのは俺に協力してるだけで、それ以上でもそれ以下でもないのだから、俺が知りたいと望んで聞いても答えてくれるとは限らない。


「司も彼女となら二人きりでも話せるんだし、仮面も被ってない女は他にいない。だったらもう、彼女しかいないじゃねぇか」

「……彼女しかいないって何だよ?」

「もし結婚するなら、彼女しかいないだろって話だよ。まぁまだ触れられるかどうかは知らねぇけど、またおばさんや椿姉ちゃんに他の女と結婚させられそうになるぐらいなら、彼女と結婚しちまえばいいだろ」

「そうだ、それだ司。まだお前は彼女に名乗ってないんだろ?彼女だって出会いや結婚を求めてるからあのアプリを使ってるんだし、相手が「道明寺 司」だって分かれば、彼女だって二言目には結婚するって言うさ」

「絶対言わねぇよ、あいつは!あいつは、クシマは、俺に何も求めてない……」


『結婚なんかしたくない。女と暮らすなんて御免だ。物だけでなく、生活空間すら共有するようなこともしたくない。それでも俺が良いと思う女がいるなら、苦労なんてしない』


アプリを始めた時に俺が思ったことだ。
こんなことになるとは思わなかった。
今まで何もなかったからって、これからも何も起こらないと高を括っていた。ずっと日常が、いつもと同じ毎日が死ぬまでずっと続いていくだけの人生だと、結婚なんて無意味で、それに価値なんてないと思っていた。

それなのに、これからも彼女と同じ時間を共有したいと思ってしまった。
あの笑顔を見るだけで、頑張れと言われただけで、それだけで何でも出来るような気さえするくらいに、彼女が俺の日常を、変えた。


「おい。何も求めてないって、どういうことだ?」 

もう、俺には分からない。
初めての感情にやっと理解が追いついたのに、それが無意味なものになりそうだなんて、こんなことがあるか。

どうしたらいい。
彼女との関係を終わらせない為には、どうしたらいい。

それすらも分からない。
もう何もかも俺の許容範囲外だ。もうこれ以上、こいつらに隠せる自信もない。


「……類は、彼女のことを知ってる」

「類?そりゃ類がアプリの責任者なんだから、調べてりゃ分かるだろ」

「違う。調べなくても類は知ってるはずなんだ。彼女の名前も、弟のことも、なんであのアプリを使っていたのかも」

それを告げたあと両手で顔を覆って大きなため息を吐く俺を、何のことだと顔を見合わせる総二郎とあきらを。
類はそんな三人をいつもと同じ無表情で見て、あっさりとその事実を認めた。


「……なんだ、司は気付いてたの?俺と彼女が知り合いだって」













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Re: notitle 32

Re: notitle 32







「なんでお前らまでいるんだよ」

「良いじゃねぇか、いても。今日は彼女と会ってたんだろ?」

「今日はどんな話したの?」

総二郎と類。
なんでよりによって今日なんだ。こいつらの勘というか、タイミングには驚かされる。
いや、それともあきらが何か言ったのか。
そう思ってあきらを睨むと、「俺は何も言ってない!」と慌てて言うから、ソファで寛いでいた類と総二郎も何かあったのかと聞いてくる。

「それがな、司のやつ彼女の部屋に入ったんだってよ~」

馬鹿じゃねぇの、こいつ?!
いきなりそんな話をしたら、

「なんだ、どういうことだ?!強引に連れ込まれたのか?!」

「司、いつの間にそんなことに?」

珍しく類だって食い気味で聞いてくるじゃねぇか!
めんどくせぇな!

「どうもこうもねぇよ。風邪を引いたって言うから、見舞いに行っただけだ」

「へぇ、司が風邪を引いた女の心配をするんだ?」

「……なんだよ、おかしいことないだろ」

「まぁ普通はな。でも司、女に触れることすら出来ないのに、よく部屋なんて入ったな」

「ああ、薬とか飲み物とか渡したら帰るつもりだったんだけどな」

「やっぱり連れ込まれたのか?」

総二郎がそう言うのも分かる。俺が女の部屋に入るということ自体が今までの俺からしたらあり得ない。こいつらは俺とクシマが協力関係にあることも、触れ合えるようになったことも知らないから尚更そう思うんだろうけど。
そもそもの前提として彼女の前では「道明寺 司」ではなく「ミドウ ジョウ」なんだから、連れ込むだの何だのって発想になることがおかしい。

「だから!連れ込まれてねぇよ!荷物はすぐ渡したんだが、あいつ思ったより熱が高くてな。玄関で座り込んだまま動けなくなったから、仕方なくベッドまで連れて行ったんだよ」

「あー、なるほど……」

「司が連れて行ったの?」

「しょうがねぇだろ、歩くのも大変そうだったんだぞ」

「どうやって?」

「どうやってって、手を……」

あ。しまった。
馬鹿じゃねぇの、俺?!

「手を……?」

「まさか、司」

「……なんだよ」

「はは、まさかな」

「手を、壁に付いて歩いてるのを転ばないように見守ってたんだよ」

「だよな、手を貸してやったのかと思ってびっくりしたわ」

あぶねぇ!上手くごまかせたよな?
今はまだ彼女のことで何か探られるようなことにしたくない。まだこの気持ちがはっきりしないうちは、今のままが良い。


「それにしても彼女と司が会うようになって半年過ぎたか?定期的に会ってるのに、本当に何もねぇの?」

「まぁ司の女嫌いは相当だからな。でもいくら友達からと言っても、そろそろ何かあってもいいよな」

「……何かってなんだ?」

「あー、ほら、好きとかそういう気持ちにならないのかってことだよ」


好きだと思う気持ち。
今までの俺は女に対して嫌悪感しか持ったことがないが、クシマに対して嫌な感情は全くない。
だから嫌いではないのは確かだが、嫌いでないことと好きとはまた違わないだろうか。

「好きっていうのは、例えばどんな」

「司には難易度高いか?てか、小学生じゃあるまいし、普通は30過ぎた男のする会話じゃねぇけどな。いいか、好きって言うのは、特定の相手ともっと一緒にいたいとか、話をしたいとか、相手のことをもっと知りたいとか思うこと、かな」

「そうそう。一緒にいると落ち着くとか、気が付くとその人のことばっかり考えちゃうとか」

「……それは、友達には思わないことか?」

「司、いつも俺たちのことを考えてるか?もっと知りたいとか、もっと一緒にいたいとか考えるか?」

「気持ち悪いこと言うな!」

「だろ?」

「あとは、もっと相手に触れたいと思うかどうかだな。キスしたいとか、抱きしめたいとか」


クシマと一緒にいると落ち着くと言うか、不安感が全くない。
だから話していて会話が途切れて沈黙しても気まずくないし、安心して時間を共有できる。

どこかへ出張に行けば、彼女に何か喜びそうな土産がないか探してしまう。
それは彼女が喜んでる顔が見たいから。あの笑顔を見ていると落ち着く。

彼女との穏やかな時間が心地良い。
だって彼女は俺が安心して一緒にいられる人。

もっと彼女に触れたいと思うか?
今はもう彼女に触れても嫌悪感はない。それも彼女を信頼しているから。
だから彼女の小さくて温かい手に触れられる。
彼女が寝込んでいる時に、触れたいと思った。髪や頬に、唇に。


これは、好きなのか?
あきらたちには間違っても抱かない感情だ。でもそれはあきらたちが男だからで、女の友達だと違うのかもしれない。
この感情は、女の友達にも当てはまる?

「……男女間の友情でもそれは、」

「ないとは言い切れないけど、男と女の友情は成り立たないことがほとんどだな」

「一緒にいればいるほど、お互いのことを知るだけ好意を持ちやすいよな。やっぱり男女間だと本能的なもんもあるしな」

ソファに座って黙り込んでしまった俺を見て、三人は俺を囲むように近付いてきた。あきらと総二郎は俺の両隣に座り、類は俺の正面で胡座をかいてラグの上に腰を下ろす。


「彼女のことが気になるか?」

「気になると言うか……」

「彼女に会うようになってからの司は出張行く度に土産を買ってるよな。彼女に渡す為に」

「あいつ、土産を渡すと喜ぶんだよ。特に甘い菓子とか」

「喜ぶ姿が見たいんだよな?それに、面倒がらずに、ちゃんと彼女と連絡を取り合ってる」

「俺の都合に付き合わせてるからな。それに俺の嫌がることは絶対にしない。そこは信頼してる」

「長い時間、一緒にいても苦痛じゃないんだろ?」

「苦痛なら会わないし話さねぇだろ」

なんだよ、これは。
男三人で顔を寄せて尋問みたいになってんじゃねぇか。
何が聞きたいんだ?

「彼女のことをもっと知りたいと思うか?」

それは思う。
彼女の話から知り得たことは多い。でもそれは偶然の産物であって、彼女自らが俺に教えようと思って話したことではない。
弟とレストランへ行った時に類が一緒だったことも、勤めている会社も。

聞かれても話したくないことは話さない。そういうルールだ。
だから未だにお互い本当の名前も知らない。

彼女が知っている俺は「ミドウ ジョウ」で、その名前以外を何も知らないし、聞いてもこない。
それは、俺に興味がないから。俺も何か聞かれても答えられないから。

知らないし、聞けない。
知りたいけど、聞けない。
聞いたら聞かれる。


『あなたの本当の名前は?』














Re: notitle 31

Re: notitle 31







「司」

「なんだよ」

「お前、俺が何時間待ったか知ってるか?」

「んなもん知らねぇよ」

あきらは、本当に待っていた。
彼女の部屋で待つと決めた時にメールで帰っていいと送ったのに、勝手に残ってたのはあきらだ。
それを恩着せがましく言われる筋合いはない。

「ずっと彼女の部屋にいたのか?」

「あ?」

「彼女に荷物を渡して、そのあと」

「いたら何だよ。早く車出せ。明日から出張だから早く帰りたいんだよ俺は」

「ああ、悪い」

あきらは俺に急かされて、すぐにエンジンを掛けて車を発進させた。
俺は助手席のシートに体を預けて、行きと同じように外を眺める。昼間と違って夜の街にはネオンが溢れ、歩く人たちは陽気に騒いでいる。

俺は今、気分が良い。
もう自分からクシマに触っても何ともなかった。
むしろ自分から彼女に触りたいと思ったし、実際触ってみても大丈夫だった。吐き気も嫌悪感も何もない。前よりも彼女と触れ合えるようになったことが嬉しい。

よし。

薬を飲んで数時間寝ただけでも、彼女の顔色は訪ねた時より良くなっていたように思う。
早く良くなってほしい。また二週間後に元気な彼女に会いたい。
俺もクシマに頑張ってと言われたから仕事は頑張ろう。

彼女に触れた手を握って、開いて。
次に会えた時は、彼女から触れてもらおうか。きっと大丈夫な気がする。
そんなことを考えていた俺の思考を、あきらが遮ってきた。

「いやいやいや、待て司」

「なんだよ」

「ずっと彼女の部屋に居たわけないだろ」

「なんかおかしいかよ」

「おかしいだろうが!極度の女嫌いで椿姉ちゃんの部屋以外入ったこともないお前が、何時間も女の部屋に居られるわけないだろ!」

そう言われても。彼女の部屋にいたのは事実で、他にはどこにも行っていない。
彼女の側にいたらおかしな気分になってしまいそうだったのは確かだから、意識のない彼女に無断で触れてしまわないように隣のリビングに移動してソファに座り、腕を組んで自分に何かを言い聞かせながらひたすら時間が過ぎるのを待っていた。

「仮にいたとしても、そんな何時間も何してたんだよ。もしかして何かされてたのか?!」

「ちげぇよ!馬鹿か!あいつが俺に何かするわけないだろ」

「じゃあ何で戻って来なかった?何時間も何をしてたんだよ?」

「鍵がなかったから」

「おい、類みたいな話し方するなよ。ちゃんと話せ!」

類みたいって何だよ。
俺は類みたいにぼんやりしてねぇ!

「だから、俺が部屋を出る前にあいつが寝ちまったんだよ。戸締まりしようにも鍵がどこにあるか分かんねぇし、鍵も掛けないで病人の女一人残して帰れないだろ。だから起きるまで待ってただけだ」

「あー、そりゃ仕方ない、かもしれないけどな?なんで部屋に入ることになったんだよ。買ってきた物を渡したらすぐ帰って来いって言ったのに」

「それは……」

高熱でふらつく彼女の手を引いて寝室まで連れて行った。

それだけの話なのに話しにくい。
あきらや総二郎たちには、彼女に触れる練習をしていることは話していない。半年経った今も、ただ彼女と会って話しているだけだと思っている。

まさか俺が結婚を阻止する為に彼女に協力を頼んでいることなんて簡単に話せる内容ではないし、こいつらは姉ちゃんと繋がってる。彼女と会っているのに付き合うつもりも結婚する意志も俺にないことがバレたらマズい。
あきらも総二郎も一度ずつ俺と彼女の様子を遠目に見ていた。その様子に何か思うところがあったか知らないが、あれから後を付いてくることはなかった。
毎回どんな話をしたのかは聞いてくるけど。


彼女に触れても大丈夫。

それをこいつらに話したらどうなるのだろうかと一人想像して。
姉ちゃんだって女に触れるようになった俺を見たら、泣いて喜んでくれるはず。
そろそろ姉に会わせても良いかもしれない。先延ばしにし過ぎて怪しまれても困る。

でも、姉ちゃんに会わせたらクシマとの期間限定の関係は終わる。
姉ちゃんにクシマを紹介した途端に彼女と会わなくなったら不審に思われるかもしれないが、仕事が忙しいとか彼女と予定が合わないとか、いくらでも言い訳は出来る。

彼女もよくこんな馬鹿みたいな話を信じて受け入れてくれたなと思う。
初めて会ってからもう半年過ぎた。何も言わずに俺に付き合ってくれてはいるが、本当はこんなこと早く終わらせたいと思ってるだろう。

そして全てが終わったら、彼女とはもう会わない。

そう、俺がそう決めた。
自分の人生に関わることのない女に使う時間すら無駄だと思っていた。
だから彼女も出会いや結婚を求めてないことは、俺にとっても好都合だった。

飯を美味しそうに食べて、よく笑って、話して、手と手で触れ合って。
それでも、いつか終わる関係。

終わる。
終われば彼女と、会えなくなる。

彼女と会う為に二週間おきの休みも必ず取るように西田に言っていたが、それもなくなる。
あの彼女の喜ぶ姿を思い浮かべる時間もなくなって、ギフトショップを見かけても何も選ぶことなく通り過ぎる日に戻るのか。

彼女に会う前の、何もない毎日同じことの繰り返しの日々に戻る。

分かっていたはずの、関係。
本当の名前も知らない関係。
俺がそう望んだ。
望んだのに。

きっとミントタブレットを見る度に彼女を思い出す。
日常に入り込んだ、彼女のくれたもの。

彼女と会う前の、いつも同じ日常を繰り返すだけの日々に戻って、「ああ、そんな女もいたな」と思い出にして、そしていつか彼女を忘れる日が来るのだろうか。

嫌だ。
彼女に会えなくなるのは、嫌だ。

どうして?
なんで嫌なんだ?

クシマは女。
女は嫌いだ。

でも、クシマは違う。
女だけど、俺が唯一許した女だ。

彼女と触れ合えるようになったことが嬉しい。でも、それは彼女との終わりが近付いたことになる。

終わりにしたくない。

まだ彼女に会いたい。あの穏やかな時間を手放したくない。
今の俺が唯一安らげる場所。

俺の日常に一時紛れ込んだだけのはずの非日常が、いつの間にか特別なものに変わっている。

分からない。
これは、何なんだ?

この感情は、彼女の部屋の扉が開いたその時の、彼女を見た時のあの気持ちは、


「あきら」

「なんだよ。急に黙り込んでどうした?やっぱり何かされたのか?」

「違うって言ってんだろ。聞きたいことがあるから帰るな」

「それは良いけど、どうした?」

「俺の部屋に着いたら話す」


そのあとは何を聞かれても黙ったまま、流れる夜の街並みをただ眺めていた。











Re: notitle 30

Re: notitle 30







ふと目を覚したら外はもう真っ暗で、ベッド横の窓からは近くの街灯の明かりだけが、ぼんやり部屋を照らしていた。

……ミドウさん、来たよね。
あれ、夢じゃないよね?

寝返りをうつと、ドアの隙間からリビングの明かりが差し込んでいるのが見えた。

あれ?進が来たのかな?
そう思って体を起こしてみたら昼間ほどのダルさはなく、熱も大分下がったように感じる。
枕元のスマホを見ると、21:34の表示。

「進?」

部屋のドアを開けながら進に声を掛けたつもりだった。
でもリビングにいたのは、

「……ミドウ、さん?」

彼はソファに座って腕を組んで、フワフワの髪の毛をゆらゆらと不規則に揺らしながら俯いて寝ていた。

なんで?帰ったんじゃないの?!

寝起きの頭で、何でどうしてばかりを考えても彼がここにいる理由に思い当たることはなく、とりあえず直接聞いたほうが早いと声を掛けた。
それでもなかなか起きなくて、体に触るわけにはいかないし、どうしようかと彼の顔を見つめるばかりになってしまう。
いつもの瓶底メガネが少しずれて、彼の目元が見えそうになっている。
ミドウさん鼻高いなぁとか、伏せられたまつ毛が思ったより長いなとか、思ったより整った顔をしてるのかも?とか、いつもは起きてたらまじまじと見れないところが見えて少し嬉しいような気持ちになる。

「ミドウさーん、起きて……」

やっぱり仕事で疲れてるのかな。なのに約束は駄目にしちゃうし、風邪なんて引いて余計な心配させた。
風邪を移したらいけない、これ以上の迷惑をかけられないと思っていたのに、どうしても、ひと目で良いからミドウさんに会いたかった。
熱にうかされてそう思ってるだけで、きっと気のせいだと、勘違いだからって思い込もうとしたけど、もう、ごまかせない気がする。

あたしのバカ。
ミドウさんのお姉さんに会ったら、きっともう彼とは会わなくなる。彼の結婚を阻止する為の、その場限りの関係で、絶対に恋愛関係にはならないと思っていたから、あたしは彼に協力することにした。

世話が焼ける兄のような人に、いつもの世話好きのお節介をしているだけ。

それだけのつもりだったのに、もうあたしの中でそれだけではなくなってしまった。
何度も同じようなことを繰り返して本当にどうしようもない。

未だに本当の名前も、素性も分からない人。
想いを伝えることすら出来ないし、こんな気持ちを知られたら、きっと彼は二度とあたしには近付いて来ないだろう。

それは、辛いな。
まだもうちょっと、一緒にいたい。
でも、いつかさよならすることが分かってるから、一緒にいるのも辛い。

だって彼と会うということは、ミドウさんが女の人に慣れていくということ。
もう、手を繋ぐことが出来てしまった。
いつも温かいミドウさんの手だけど、今日はあたしのほうが熱くて、ひんやりと感じた彼の手のひらは心地良かった。

たぶんもうすぐ、この期間限定の関係も終わりの時が来る。

今年はもう30歳になるのに、いい歳して名前も何も知らない人のことを。
本当に馬鹿すぎて、自分が嫌になる。

ソファでうたた寝している彼の前でラグに腰を下ろし、両膝を手で抱えて座る。
膝に顔を埋めて大きなため息を一つ。

もう、泣きそう。

「……つらいなぁ」

「まだ熱があるのか」

突然ミドウさんの声が聞こえて、ビクッと体を揺らしてしまった。
いつの間に起きてたの、この人。

「……うん、どうかな……」

「大丈夫か?」

「ミドウさん、なんで帰らなかったの?」

「あぁ、鍵がなかったから」

あ、そうか。あたしが寝ちゃったからだ!

「やだ、ごめんなさい!約束キャンセルしただけでも申し訳ないのに、こんな迷惑ばっかり掛けて、本当にごめん……」

顔を上げて謝罪を口にしたけど、ミドウさんへの気持ちを自覚したばっかりで何だか気恥ずかしい。
泣きそうになってる顔も見られたくないし、彼と目線を合わすことも出来なくて、また膝を抱えて俯いた。

「クシマ」

「……なに?」

「でこのシートが剥れかけてる」

そう言うと彼は迷わずあたしに手を伸ばして、おでこに触った。

え?

あまりにびっくりして顔を上げて彼を見たら、今まで会った時間の中でも見たことないほどに、とても優しい顔で微笑んで、あたしを見ていた。

なんで今、そんな顔を見せるの?
なんで今、あたしに手じゃないところに触れたのに大丈夫なの?

いつもメガネのせいでよく見えない目元まで見えそうなほど、いつもより顔と顔の距離も近い。


「お、さっきよりは良くなってんじゃねぇの?」

「……そう?」

「もう大丈夫か?」

「うん、こんな遅くまで起きるの待っててくれて、ありがとう……」

「おう、気にすんな」

あたしに触れたのに、ミドウさんはそれを特に気に留めることもなく、腕を上げて大きく伸びをすると、彼は立ち上がって玄関へと向かう。

「明日も仕事?」

「ああ、明日から一週間ヨーロッパだ」

「え、やだ、本当に?ごめんなさい!あの、今度何かお礼させて?」

彼の後を付いて玄関まで来ると、靴を履いたミドウさんは、あたしの方を向いて黙ってジッと見下ろしてくる。
やっぱり少し怒ってるのかな、と遠慮がちに彼を見上げると、ミドウさんはパッと目を逸らしてしまった。

「あの、怒ってるよね。……迷惑かけて、本当にごめんなさい……」

「怒ってねぇよ」

「でも、」

「クシマ」

「……ん?」

「怒ってない、迷惑でもねぇよ。俺が勝手に心配して来て、勝手に残ってただけだ。それよりも早く治すこと考えろ」

「……ん。ミドウさんも、お仕事頑張ってね」

「また連絡する。じゃあな」

「うん、今日は本当にありがとう」

「おう」


彼はそう返事をして、そして帰って行った。

鍵、鍵掛けないと。玄関の戸締まりをして、リビングに戻る。
そして、あたしはヘナヘナと冷たいフローリングの上で座り込んでしまった。

なに、あれ?
「おう」って返事したあと、あの人あたしに何をした?

微笑むのも、まあ良い。最近はよく笑うし、それは良いんだけど。

ミドウさんが来た時、彼からあたしの手を取って握ったことにもびっくりしたのに、今あたしの頭をぽんぽんってしたよね?

なに?なんで?
顔色も悪くなるどころか、頭ぽんぽんされてびっくりしてるあたしを見て、また笑った。

何が、彼に何が起こったの?
なんで触れても大丈夫なの?

嬉しいのに、泣きそう。

嫌だ。
彼に触れてもらって嬉しいのに、終わりが更に近付いた。


会いたい。
会いたくない。

慣れてほしい。
慣れてほしくない。

触れてほしい。
触れてほしくない。


彼はきっと、早くこんなこと終わらせたいはず。
彼は結婚を阻止するのが目的で、それが達成されれば満足なんだから。

こんなはずじゃなかったなんて、今さら後悔しても遅い。
もう好きだと自覚してしまった。


嫌だ。
もうすぐ、会えなくなるなんて。









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Re: notitle 29

Re: notitle 29







「……大丈夫か」

「大丈夫、じゃない……ケホッ」

「そう、だよな」

「ごめんね、仕事いそがしいのに、約束だめにしちゃって」

「気にすんな」

「うん……」


ミドウさん、怒ってない。声が、とても優しい。
本当に心配してくれてるのが分かる。
会えないと思ってた人に会えるって、こんなに嬉しいものだったっけ?

「これ」

そう言いながらミドウさんが差し出したビニール袋二つ。

「こういう時どうしたらいいのか分からなくて、友人に聞いて買ってきた」

こんなに、何を?
袋の中を覗いてみると、スポーツドリンクにゼリー飲料、レトルトのお粥に、フルーツゼリー、ヨーグルト、冷却シートなどなど。風邪薬も全メーカー集めたのかと思うほどに何箱も入ってる。

「ふふっ、ありがと」

袋を受け取って廊下にビニール袋を置いた途端にその重さに引きずられて、へたへたとしゃがみ込んでしまった。

「おいっ、」

「あ、ごめん。なんか、力が入らなくて……」

「薬は?飲んだんだよな?」

「わかんない、のんだ記憶なくて」

「熱は?」

「うん……、だいじょうぶ」

明らかに大丈夫じゃないだろ、こいつ。
どうしたらいい。ずっとここに座り込んだままだぞ。

「あの、大丈夫だから、うつったら大変だから、かえって……くしゅっ、」

何なんだよ、自分のほうが大変なのに、何で俺の心配してんだ?それどころじゃないだろ。
とにかく今はどうしたら良いんだ?
とりあえず寝かさないとダメだよな。いつまでも玄関に座らせておいても治るもんも治んねぇし。

「おい、立てるか?」

「……ん、」

彼女は小さく返事をすると、ヨタヨタとしながらも壁に片手を付けながら立ち上がったものの、なかなか一歩を踏み出さない。
相当熱が高いのか、ふぅふぅと吐く息は荒く、いつもより潤んだ目に頬も赤い。

俺は、どうしたらいい?
あきらには、すぐに帰ってこいと言われた。でも、こんな様子の彼女を一人おいて帰るのは不安で仕方ない。
俺でも出来る何かが他にないか。


……そうだ。
今の俺にも出来ることがある。

「……おい、手を貸してやるから、頑張って布団まで行けるか」

「大丈夫、歩けるから、ミドウさんはかえって」

「ダメだ。ちゃんと薬を飲んで寝るのを見るまでは帰らない」

「でも、」

「うるせぇ、病人は黙って言うこと聞いとけ」

「……うん、たすかる」

上がるぞと声を掛けて、靴を脱いで廊下に足を踏み入れる。
ほら、と手を差し出したのに、彼女は俺の手を黙って見ていた。

「どうした?」

「……やっぱり、やめとこ?いま、本当にふらついてるから、手、にぎっちゃうかもしれないし、」

「バカか!今は自分のことだけ気にしてろ!」

「……ご、ごめん、おこんないで」

あ、違う!バカは、俺だ!
具合が悪いやつに大きい声を出すなんて、何をしてるんだ、俺は。
早く、早く薬を飲ませる。そして寝かせる。

「がんばれ」

これは、彼女に言ったのか、俺が自分を鼓舞するために言ったのか。
躊躇う理由も、時間もない。
なかなか手を出そうとしない彼女の、壁に付いてる手と反対の手を取る。

ほら、大丈夫。
彼女となら、もう大丈夫だ。


「寝室はどこだ?」

「つきあたりのドア入って、リビングのとなりの、」

「分かった」

フラフラとしながらも彼女は歩いてくれて、なんとか寝室まで来た。
ベッドに座らせ、握っていた手を離す。

「布団入って熱計っとけ、薬とか持ってくるから」

「……ん、」

彼女は一つ頷くと、大人しく布団の中に潜り込んだ。
よし。あとは薬だ。

玄関に戻って、ビニール袋の中から「発熱、さむけに」とパッケージに書いてある箱を出す。用法用量を読んで、この通りに飲ませれば良いんだよな。あと、おでこに貼るやつも。
薬、飲み物、冷却シート。それらを持って寝室に戻ると、彼女は熱を計り終わったところだった。

「熱は?」

「38.9度……」

「早く薬飲め」

「……ごめん、あけられない……」

……熱で力が入らない彼女の代わりにペットボトルの蓋を開け、薬を渡して飲むところまで見届けて、おでこに冷却シートも貼ってやった。
とりあえずは、これで何とか大丈夫だよな?


「もう寝ろ」

「うん、ありがと……」

「気にすんな。困った時はお互い様だ」

「……ひとりで寂しかったから、ミドウさんに会いたかった……」

「……そうか」

「うん……」

彼女は小さい声で返事をしたかと思ったら、すぐに寝てしまった。

彼女が眠るベットの横に座って、自分の手を握って、開いて。
その手をジッと見る。

大丈夫だった。
いつものように手を添えるだけじゃなく、握っても大丈夫だった。
手を握って感じたのは、彼女の手がいつもより熱かったということだけ。もちろん不快感も、吐き気もない。

これは、一体なんだろう。
俺の身に今までにない何かが起こってる。

今日、この部屋の玄関で彼女と顔を合わせた時に感じた、あの気持ちが何なのか知りたい。

姉ちゃん以外の女の部屋に入るのも初めてで、このまま彼女の香りに満たされた部屋にいたら自分がどうにかなりそうな、変な気分になる。ぐっすりと眠る彼女の顔もまともに見れない。
ずっと見ていたら、手だけじゃない、その頬や髪、唇に触れたくなる、ような。

だめだ。
何でか俺までおかしくなってきたような気がする。
今日はもう帰ろう。あきらも車で待ってる。

しかし玄関で靴を履いて、ハッと気が付いた。

鍵は?
高熱の病人が、鍵の掛かってない部屋に一人。
しかも女。

ダメだろ!
このまま帰れるわけがない。
せっかく寝かせたばかりの彼女を起こして、帰るから鍵を締めろなんてことも、とてもじゃないが言えない。
でも彼女の側にいたら、俺もおかしくなる。


分からない。
この場合の正解は何だ?

どうしたら良い?


俺は、どうしたら良いんだ?!












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Re: notitle 28

Re: notitle 28







クシマが、風邪を引いたらしい。
二週間前は彼女の都合で会えなかったから、明日は一ヶ月振りに会えると少し浮ついた気持ちになっていた。

「ミドウ ジョウ」ではなく「道明寺 司」の姿で彼女と鉢合わせるアクシデントはあったものの、彼女といる時の、あの穏やかな時間は待ち遠しかった。


クシマは、よく話す。
俺からそんなに話題を振れないからか、それとも元々おしゃべりなのか。
特に食べ物の話をしている時はとても幸せそうな顔をするし、そのクルクルと変わる表情も見ていて飽きない。

そして、俺の嫌がることは絶対にしない。

触れる練習も、よく俺に付き合ってくれていると思う。
彼女なら大丈夫だろうと分かっていても、やはり始めはこわかった。
彼女のせいじゃないのに、触れて顔色を悪くした俺を見て申し訳なさそうな顔をした。俺のせいなのに、彼女は何もしていないのに。
それでも辛抱強く、嫌な顔もせず、いつも見守るように微笑んで俺を励ます。

最近はどこにいても彼女のことを考えてしまう。
今まで素通りしていたギフトショップも、一度目にすれば何かないか探さずにはいられない。どんなものが好きなのか、どれなら彼女は喜んでくれるのか。

指先から、手のひらまで進んだ関係。
ただ、それだけのはずなのに。


クシマと二度目に会った後、姉ちゃんから連絡があった。
プライベートで女と知り合ったこと、彼女は俺の女嫌いも知っていて、今は女に慣れるようにゆっくり友人関係を築いている途中だということを伝えると、少しホッとしたような声で「良かった」と、電話越しに呟いたのが聞こえた。

そして、やはり一度彼女に会わせろと言ってきたから、そこは予定通り今はゆっくり関係を築いてる途中で、近いうちに必ず会わせるから俺を焦らすなと言った。
それは両親にも伝わったのか、月一の見合いがパッタリとなくなったことに心底ホッとしたのは言うまでもない。

だけど、彼女とは姉ちゃんに会わせたら終わってしまう関係に変わりない。


彼女との、穏やかな時間が好きだ。
ただコーヒーを飲みながら他愛のない話をして、手のひらに触れる。そんな僅かな触れ合いと、この穏やかな時間を共有しているのは楽しい。忙しい仕事の合間の唯一の休息時間なのに、彼女と触れ合うことを選んでいる。
それが苦痛じゃないのはなぜだろうか。

今では彼女の手に触れても、もう気持ち悪さはない。
クシマの手は俺の手を重ねて置くと、すっぽりと隠れて見えなくなるほど小さい。
その手を重ねた時の、暖かさと柔らかさに、今まで知らなかった俺の中の何かが顔を出そうとする。

自分の中のもやもやとしたこの気持ちが何なのか、俺自身にもまだ理解の出来ない、今までに感じたことのないこの感情は誰もが知っているものなのだろうか。

この感情が性別に限らず友人に対して感じるものなのか、それとも違う何か、なのか。

そして彼女が俺のことを、本当の俺を知ってしまったら。

知られたところで、姉に会わせたら終わる関係なのに自分は何を恐れているのか。
俺は、彼女に何を望んでいるのだろうか。


ポン、とメールが届いた音。

……風邪。
病院にも行かず、食欲もない。
彼女に食欲がないなんて異常事態だ。

こういう時はどうしたらいい。

彼女に何をしてやれるだろうか。
病院に行かないなんて、心配が過ぎる。医者から処方された薬のほうが早く治るんじゃないか?
それに、ちゃんと寝ているだろうか。部屋のどこかで倒れたりしてないか。
グルグルと考えていたら嫌な想像をしてしまう。


「おい、司。何してんだ?」

「あきら」

落ち着かなくて部屋の中をウロウロしていたら、あきらがまた合鍵を使ったのか部屋に入ってきた。

「今日は彼女に会うって言ってなかったか?もう大丈夫だとは思ってるが、一応見に来たんだ」

「お前ら過保護なんだよ。もう大丈夫だって言ってんだろ!それよりもクシマが、」

「うん?彼女がどうかしたか?」

「風邪を引いて熱があるらしいんだが、病院行かないで薬を飲んで寝るって言ってる。普通はそれで大丈夫なのか?」

「いや、熱があるなら病院は行ったほうが良いと思うが、それが出来ないくらい体調が悪くて動けないんじゃないか?」

「薬は医者に貰ったのじゃなくても?」

「まぁ医者に症状を診せて判断してもらうのが一番良いが、病院に行けないなら市販薬を飲むしかないな」

「……こういう時、友人ならどうするべきなんだ?」

「そうだな、一人暮らしなら買い物にも行けないだろうから、飲み物や簡単に食べられる物とか、おでこに貼る冷却シートを差し入れるくらいなら良いと思うけど」

なるほど。
あいつに食欲がないなんて、どう考えても相当悪いに違いない。
心配だ。
声だけでも聴ければいいけど、電話番号も知らない。
メールは返ってくるけど、いつもと違ってひらがなが多い。
とにかく心配でたまらない。


「……様子を見に行ったら迷惑だろうか」

そう言った俺を、あきらは驚いた顔で見た。

分かってる。いくら心配とはいえ、俺が女の家に行こうとしている。
俺だってクシマだから言っているのであって、他の誰がそうなっても様子なんか見に行くほど心配なんかしない。

「……それは、彼女に聞かないと」


あきらにそう言われて、彼女とメールのやり取りを始める。
メールをしている最中に、あきらには「風邪だと嘘を付いて、司を自宅に連れ込もうとしているだけじゃないのか」と言われたが、それは絶対にないと言い切った。
彼女には素性も本当の姿も見せていないから、連れ込むとかそんな心配はするだけ無駄だ。

それに、彼女は嘘を付かない。
友人になりたいなら、嘘は付かない。そう俺と約束をした。

会って、話して、触れる。
その練習をするということは俺の姉に会うことが前提の行為だと彼女は分かっている。言葉はなくても、もう俺をそれなりに信用してくれているということだ。
俺だって、彼女に触れるということは、彼女を信用していないと出来ないことだと自覚している。
クシマは俺の嫌がることは絶対にしない。
俺は彼女に対して、もう信用だけじゃなく信頼すら持っている。


そして住所まで聞き出した俺に、あきらはもう何も言わなかった。
友人だから、変じゃないんだよな?様子を見に行くくらいは、良いんだよな?
彼女も無理しないでと言っていたが、今は俺のことより彼女の具合の確認が最優先だ。

この後、あきらを連れて初めてドラッグストアなるものに行き、あれこれ言われながらも薬に食べ物に飲み物と色々買い揃えた。
彼女の自宅近くのコインパーキングを探し出し、車を停める。

「良いか、渡したら帰ってこいよ。行っても司が何か出来ることはないんだから、様子を確認したら戻ってこい。俺はここで待ってるから」

あきらに何も出来ないとかムカつくことを言われても、今は彼女の様子が気になって仕方ない。
住所を教えてもらってから、だいぶ時間が経ってる。

両手に持った薬局のビニール袋。
俺が、こんなビニール袋を持って外を歩く日が来るなんて。

彼女と関わるようになってから、今まで考えられなかったことの連続だ。
でもそのことに全く嫌な感情はない。これが彼女が関わってなくてもそう思うのか、彼女のことだからそう思うのか。


彼女の住むマンションのエントランスホールでインターホンを押したが応答がなく、何度か押してみても出ない。
具合が悪いのだから、そんなすぐには起きれないのかもしれないけど、もしかして本当に倒れてる?
もう一度押してみると、やっと彼女からの応答があった。でも、いつものクシマの声じゃなく、酷い鼻声のように聞こえる。

オートロックを解除してもらって、遂に彼女の住む部屋の玄関前。
ここまで来て今さら少し緊張した。

緊張したのは初めて女の部屋を訪れることに対する恐怖とか、そういう負の感情ではなく、一ヶ月振りに彼女に会えるという嬉しさから。
相手は病人なのに、それでも彼女に会いたかった。
少しでも、顔を見たかった。


インターホンを押してすぐに開いた玄関ドアから姿を見せた彼女は、今まで会った時間の中でも見たことないほどに弱々しく、泣きそうな顔をしていた。
それなのに俺の顔を見た途端にふわりと微かに微笑み、安堵したような表情を浮かべた。


「……会いたかった」


挨拶でも、感謝や謝罪でもなく、零れ落ちたように呟かれた一言に、俺の中の、あのよく分からないと思っていた感情の正体を垣間見た気がした。















Re: notitle 27

Re: notitle 27






一年で一番忙しいと言ってもいい6月が終わった。
いつも多少の残業はあるけど、年末年始と年度末に年度始め、そして6月の株主総会の時はどうしても忙しくなる。
休日出勤も基本的にはないけど、この時期は新人教育に株主総会の準備にと、やることが多く雑務も後回しになってしまう。
主任と言えども、管理職ではない。だから上からも下からも頼りにされていると言えば良いのかもしれないけど、要は体の良い便利な存在なのだ。

あたしも頼まれると断れない性格で、つい何でも「大丈夫」と請け負ってしまうから、どうしようもない。休日出勤なんて会社からしたら無駄な労働と思われるようなこともしてしまった。

そんなことをしているから、いずれ体調が悪くなるのも必然で。


明日はやっとミドウさんに会える。
前回はあたしがキャンセルしたから、会うのは一ヶ月振りで少しそわそわしていた。

明日に備えて残業もせずに定時で社屋から出たら、雨。
もう梅雨に入っているから折りたたみ傘はいつも持ち歩いているけど一緒に下まで降りてきた後輩は、うっかり傘を持ってこなかったらしい。
まだ降り始めで雨もそこまで酷くないしと、その後輩に折りたたみ傘を貸した。そして、あたしも早く帰ろうと駅まで駆け足で急ぐ。

だけど自宅の最寄り駅に着いて外に出たら、雨は小雨から土砂降りに変わっていた。
それでも駅から歩いて5分。このくらい大丈夫だと走って帰ったけど、自宅に着いた時には髪もスーツも靴の中までぐっしょりと濡れてしまった。
すぐにシャワーを浴びたものの、雨に打たれて冷えた体に、溜まっていた疲れが重なった。梅雨寒で外気温も下がっていて、肌寒さを感じつつ寝たけど、翌朝起きたら酷い寒気とダルい感じ。
まさかと思いつつも熱を計ってみれば、とても外出が出来るような体温ではなかった。

やだ。なんで今日なの?
せっかく今日は一ヶ月振りにミドウさんと会える日なのに。


ミドウさんと過ごす、穏やかな時間が好き。
女の人に慣れたいと頑張る姿も健気で可愛くて。
外を歩く時も一緒に並んで、あたしのペースで歩いてくれるようになった。
タバコも仕事中しか吸わないとは言ってたけど、あたしの前では絶対に吸わなかった。
仕事が忙しいと疲れているはずなのに、おしゃべりなあたしの話をいつも、いつも優しい顔で聞いてくれて、初めの頃とは違う険しい顔付きもなくなって、乱暴な口調なのに笑う声は少しあどけない感じがして、あの温かい大きな手のひらが、あたしの手に触れて……、

やっと一ヶ月振りに会いたかったのに。

変だな、熱があるから、こんなこと考えるんだ。

まずは、ミドウさんにメールしなきゃ。
そう思ってスマホを手に取り、ごめんなさいのメールを送る。

ミドウさん。

こんな感情、きっと熱があるから、弱気になって勘違いしてるだけ。

きっと違う。
それに勘違いでも、こんな感情をミドウさんに知れたら、あたしのことも避けてしまうかもしれない。

出会いも結婚も望んでいないから、あたしは彼に選ばれた。
お互いに恋愛関係にはならないと分かっていたから始まった関係。
女性が苦手な彼との絶対的な暗黙の了解。

頑張っているミドウさんの為にも、彼のお姉さんに会ったら終わりの約束なんだから。
勘違いのままで、熱が下がれば勘違いで終わるはずだから。



ピロン、と鳴った音で目が覚めた。
ミドウさんにメールを送ったあと、そのまま寝てしまっていたようで慌ててスマホを確認する。


『ミドウ ジョウ        10:35
 Re: こんにちは

 病院は行ったのか           


ミドウさんからだ。
ごめんなさい。頑張ってる最中なのに、あたしが続けてキャンセルしてる。


『Re:Re: こんにちは

 行ってない。
 でも大丈夫、薬飲んで、寝れば
 今日練習できなくて、ごめんね     


ピロン。


『ミドウ ジョウ        11:05
 Re:Re:Re: こんにちは

 食欲はあるのか            』



『(notitle)

 ない。
 今は、食べる元気もなくて、      』




再びピロン、とメールの着信音。
またウトウトしてた。
ミドウさんからのメールに返事くらいは、すぐに返したくて起きてようと思ってたのに。
さっき返事を返してから一時間近く経っていた。


『ミドウ ジョウ        12:18
 Re: notitle

 迷惑じゃなければ、
 様子を見に行っても良いか       』 
   

え?

いや、無理でしょ。
久しぶりの高熱に、今は誰でも来てくれたらありがたいくらいに体はキツイ。

でも、さすがにミドウさんが女の人の家に来れるとは思えない。返事がきた時間を考えても、彼は相当悩んだに違いない。
友達が風邪を引いて熱があるのに病院に行かず苦しんでいたら、あたしでも何かしてあげたいと思う。
でも、それがいくら、あたしが相手だとしても、きっと彼にはまだ無理だ。


『Re:Re:  notitle

 むりしないで。
 まだ女の人の部屋に来るのは、
 むずかしいよ。
 風邪うつったらたいへんだし      』


『ミドウ ジョウ        12:26
 Re:Re:Re:  notitle

 クシマなら大丈夫
 病人が余計なこと考えんな。
 飲み物とか持ってってやるから、
 住所教えろ              』


『Re:Re:Re:Re:  notitle

 ごめん、たすかります。
 ありがとう。
 住所は、……             』



ーーーーーー


インターホンの音。
かすかに聞こえた気がして目が覚めた。
ぼんやりとあたりを見回しても、まだ部屋が明るいから、夜になってないのが分かる。

あたし、薬飲んだっけ?
熱いのに、寒い。
ぼんやりしていた意識に、また聞こえたインターホンの音。

ハッと一気に意識が覚醒する。
ミドウさん?

スマホを見れば、待受画面には16:23の表示。
重い体を引きずってインターホンのモニターを見れば、映っていたのはやっぱりミドウさん。ホワホワの頭が、見える。
玄関先まで来てもらうよう伝えてからオートロックを解除して、廊下に蹲って彼が来るのを待つ。

一人で心細くて不安だったから、心配して来てくれたことが嬉しい。
風邪を移すかもしれない。仕事が忙しいから休んでほしい。
女の人の家を訪ねるなんて無理をしないでほしい。
どれも本当に思ってること。

でも本当は、本心は、ただ会いたかった。


ミドウさん。

ピンポンと、玄関のインターホンの音。
ゆっくりと立ち上がって玄関の鍵を開ける。

扉を押して開けば、ミドウさん。

ミドウさん、来てくれた。


本当に、来てくれたんだ。











Re: notitle 26

Re: notitle 26







あたしとミドウさんの知り合い以上友人未満という微妙な関係は、それからも続いている。


ミドウさんの仕事が忙しいのは相変わらずで、会うのは大体二週間に一回程度。

そして、その都度どこかのお土産をくれる。
日本は北海道から、仙台、金沢、大阪、名古屋、京都、沖縄。
日本だけじゃなく、シンガポール、イタリア、フランス、イギリス、カナダ、オーストラリア。
二週間の間に二~三ヶ所まとめて各地を回ることもあるらしく、そういう時はお土産もいっぱいだった。

この人、本当に何の仕事をしてるんだろう。

こんなに日本だけじゃなく、世界各国へ出張に行くって何?
お土産も大体は高級ホテルのものだったり、現地限定品だったり。

なんだか貰うばかりなのも申し訳なくて、替わりにあたしはミドウさんに会う度に、いろんなメーカーのミントタブレットをあげていた。金額が全く釣り合ってないところは心苦しいところだけど、こればかりは仕方ない。

そのうちミドウさんも、どのミントタブレットが良かったとか言うようになったから、それも会った時に聞くのが楽しみの一つになった。


そして、会話もだいぶテンポよく出来るようになってきていて、もうこれは知り合いというより友達同士の会話に近く、かなりフランクに話せるようになってきた。

そして、ミドウさんの変化の一つ。
服装が変わった。

最初は変なチグハグな服装だと思ったけど、最近はミドウさんの体型に似合う服装になってきている。
変わらないのは、もふもふの髪の毛と瓶底メガネだけ。

あの髪の毛は、触ったらどんな感じなのかな。実はゴワゴワ?それとも見た目通りフワフワ?


今日もいつもの喫茶店。
いつもと同じ席。


「ねぇ、その髪の毛触ってみても良い?」

「嫌だ」

「ケチ」

「うっせぇ、ケチ言うな」

「髪の毛でも触られると気持ち悪くなっちゃう?」

「……どうだろうな」

「触ってみても良い?」

「……いやだ」

「分かった。じゃあ、いつもの指から始める?」

「……お、おう」

テーブルの真ん中にあたしが手を置く。
その指にミドウさんの指が近付く。

「動かすなよ」

「分かってる」

恐る恐る、という表現がぴったり。
ちょん、とあたしの指先に触れると、少ししてから指を引っ込めた。

「気持ち悪くなってない?」

「ない」

「だいぶ慣れてきたんじゃない?じゃあ、次はいつもより長く触ってみようよ」

「……よし」


こんな感じ。
初めは本当にちょこっと、触れたかどうかすら分からないくらいだったのに、それだけでも顔は真っ青だった。

今でもミドウさんは過去の話をしない。
彼自ら話をしてくれるまで、あたしからは何も聞かないと決めているけど。

彼の過去に一体、何があったのか。
触れると吐き気がするとは言っていたけど、ここまでとは思わず、ミドウさんには申し訳ないが甘く見ていた。

これは思ったより時間がかかるのではないか。
そう思った。

でも彼は本当に克服したいと思っているようで、始めてから数ヶ月経った今は手と手を合わせても顔色は悪くならないし、吐き気もしなくなったらしい。
それにしても、お姉さんに会う時だけの為に何でここまで?女の人と話が出来るだけじゃ駄目な理由は何だろう。


ミドウさんの結婚を阻止する為に知り合いから始めた。
まだ本当の名前も過去も、お互いに話してはいないけど、それなりに信用関係は築けている気がする。
そもそもに、あたしに触れようと頑張っている時点でかなりの進歩だし、それだけであたしを信用してくれているのが分かるから。正直な話、もう友達と言って良いんじゃないかとも思う。

知り合いから始めて友達になって。
信頼関係が出来たら、結婚を阻止することに協力するって話だった。
まだ言葉にして伝えてはいないけれど、あたしが既にそのつもりなことを彼はきっと分かってる。


最近、あたしの頭の中はミドウさんのことで占められてきている。

この間もそう。
仕事中に、ミドウさんのコロンの香りがしたような気がした。
その時まわりを見てもミドウさんらしい人はいなかったし、香りを感じたことも勘違いかもしれないのに、彼を思い出してドキッとした。

その日、朝から社内はざわついていた。
女子社員はみんな浮足立っていて、化粧室はお化粧直しをする人で溢れていたくらい。

まぁイケメンらしいしね、道明寺 司って。
経済誌で少しインタビュー記事を見たことがある程度で、道明寺 司がどんな容姿をしてるかなんて気に留めたことはなかった。

道明寺財閥の御曹司で、未来の経済界を担うだろうと期待されている人。
30歳という若さにして、遺憾なく発揮される経営手腕と実績に憧れる同世代は多い。

今、道明寺財閥と大河原財閥とで大型リゾート施設の共同開発の話が持ち上がっている、らしい。
まだ確定ではなく、あくまで噂の範囲だったけど、彼が今日ここ大河原財閥に訪れているということは話が進んでいる証拠なのだろうか。
ま、どちらにしろあたしはいつもと同じ業務をするだけ。イケメンに興味もないし。

お昼休憩の時間になって、外で用事を済ませてから社食へ行こうと考えてた。
それほど時間も掛からず用事は済んで、これなら今日食べたかったB定食が残ってるかもと、速足で社屋まで戻り、社員専用ゲートを抜けてエレベーターが降りてくるを待っていた。

待っている間、ミドウさんにメール返してないと気が付いてスマホを操作していると、チン、とエレベーターが到着した音。
スマホの画面から顔をあげて前を見たら、エレベーターから降りてきたのは、道明寺 司だった。

お~、初めてこんなに間近で見たけど、これは本当にイケメンだ。
二重で切れ長の目に、スッと通った鼻筋と高い鼻。少し薄めの唇もセクシーなんだと、総務の後輩が言っていた。
身長も日本人男性の平均より高い。まるで、どこかの彫刻を見ているようだと思った。

突然、道明寺 司が現れたことに驚き、周りにはざわめきが広がる。偶然その場に居合わせた女子社員なんかキャーキャー言い始めてるし、経理部の係長も財務部の課長もペコペコ頭を下げてる。

今は噂の範囲に過ぎないけど共同開発の話が本当なら、これから密な関係になっていくかもしれない。
そうでなくても、今はご来社いただいたお客様に変わりない。その客人に対して総務のあたしが騒ぐわけにもいかないし。
どちらにしろ、この人の容姿に興味もないから騒ぐこともないあたしは、他の上司達と同じようにただ無言で頭を下げて彼を見送った。

……はずだったのに、なぜか道明寺 司はしばらくその場で立ち止まっていて、隣にいた秘書らしき人に促されて、やっと歩き出した。
顔を上げるとエントランスホールを歩いていた彼が、こっちを振り返ったのが見えた。
一瞬、目が合ったような気がしたけど、あたしの意識はもうB定食で占められていて、閉まりそうになったエレベーターに慌てて乗りこんだ。

あの身長とクルクルの髪の毛にミドウさんを思い出して、返事をしている途中の画面に目を落とす。

そこで初めて、香りに気が付いた。
ミドウさん?
ふわりとエレベーター内に残る、コロンの香り。

同じコロンを使ってる人でもいたのかな。
エレベーターの中にはもちろんミドウさんがいるはずもなく。最近ミドウさんのことばかり考えてるから彼が近くにいたのかも、なんて心のどこかでちょっと期待した。

……期待って何よ!
コロンの香りにドキッとして、彼が近くにいたのかもと期待するって。
なに、考えてるのあたし!
彼は、友達!それ以下でもそれ以上でもない!



『クシマ ツキノ           12:15
 こんにちは!

 一週間後の土曜日ですが、ごめんなさい。
 株主総会に向けての準備が忙しくて、
 出勤になってしまいました。
 ミドウさんのほうが忙しいのに、
 キャンセルしてしまって本当にごめんなさい!   』


大河原財閥の社屋を出て車に乗って、すぐに来たメール。
読んで酷くがっかりした自分に驚いた。

彼女に今、会えたのに名乗れない。
「ミドウ ジョウ」としても、今週は会えない。


クシマ、だった。
あれは絶対にクシマだ。
俺を見ても周りに同調して騒ぐこともなく。

本当に偶然だった。
彼女が大河原財閥に勤めていることも知らなかった。
手に持ったスマホをただぼんやりと眺めているだけの俺に、西田が話しかけてくる。

「クシマさん、でしたよね」

「……ああ」

「大河原財閥にお勤めだったんですね」

「ああ」

軽く、衝撃を受けた。

いつもの「ミドウ ジョウ」ではなく、偶然でも初めて「道明寺 司」として、彼女の前に立った。

別に他の女と同じように騒いでほしいとかではなかった。
彼女はあくまで自社に来た客に対しての正しい対応をしただけだ。
道明寺財閥と大河原財閥の共同企画の噂があるのは知っているし、それは間もなく事実として公表される。それが単に噂ではなく現実になった時から両社は密に関わる事になる。
ましてや彼女は総務課の主任だ。彼女の対応は、正しい。

でも。
彼女は、本当の俺に興味がない。

彼女は、本当の俺にも他の男と同じ扱いをすることを知ってしまった。

彼女が「道明寺 司」と「ミドウ ジョウ」が同一人物だとは思ってもいないと、分かっていたはずなのに。
彼女が見目の良い男になど興味がないことも知っているのに。
俺は、彼女に何を期待した?

姉ちゃんに会わせたら終わる、期間限定の関係。


自分から言い出して始めた関係なのに、それでも、その手のひらだけの関係が急に遠くなったような気がした。