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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 38

Re: notitle 38







待ち合わせはいつもの喫茶店。

そう、いつも会って話をするのは初めて会った時に利用した喫茶店。
約束の時間になると、どちらかが先に来ているパターンが定着していて、流石に半年間二週間置きに来るあたしたちを店員さんたちも認識し始めていた。
ミドウさんが先に来ていれば、もう来てますよって言われるし、あたしが先に来た時はいつもの窓際の席に案内されるようになった。

なのに、ミドウさんは今日は初めて会った時に待ち合わせをした駅ビルの中の本屋さんで、と言った。
なんだろう。何か買いたい本でもあったのかな。でもそれなら別にあたしと一緒じゃなくても一人で行けばいいことだし。
あれからずっと喫茶店以外では待ち合わせることも会うこともなかったから、いつもと違うことに何だか少しドキドキする。

本屋さんに着いて店内の入り口付近をぐるりと見回してもミドウさんらしい人は見当たらなかった。スマホを確認しても彼から連絡は来てないし、とりあえず既に本屋さんにいることだけをメールで送る。

連絡が来るまで時間を潰そうと、トラベルコーナーへと足を向けた。
そこに平積みしてあった『世界の可愛い食べ物巡り』と言う本が目に入ったから手に取ってパラパラと立ち読みを始めると、イタリア特集の中に掲載されていたリモンチェッロが目に留まった。

『リモンチェッロとはイタリアを起源とするレモンを用いたリキュールで、レモンの香りがし、甘味もあるので口当たりは良いが、アルコール度数は30%以上ある。南イタリアにある酒造メーカーから販売されているリモンチェッロは、二人の絵師による手描きのイラストと、その瓶のデザインが可愛いとお土産としても人気の一品。』

これは可愛い~!お酒は少しずつしか飲めないのが悔しいところだけど。
容器の瓶はバイオリンやギターみたいな形や、イタリア本土を模したような靴の形だったり、ハートや月と星なんてものもある。飾って見てるだけでも癒やされそう。
ネット通販とかしてないのかなとページ内の文字列を追っていたら、そこにフッと影が入り込んだ。


「酒は飲めないんじゃなかったのか」

ドッ、と心臓が一跳ねする。
そんな近くで、耳元で、その響くようなバリトンボイスで話さないで欲しい。

もう!心臓持たないから……!


「……飲めなくはないよ。すぐに酔っちゃうだけで。ただ、このデザイン可愛いなぁって」

「今度イタリア出張あったら買ってきてやろうか?」

「……うん」

思わず、それまでこの微妙な関係が続いてれば良いな、なんて独り言つ。

「ん?なんか言ったか?」

「うん、お土産楽しみだなーって言ったの!」

そう言いながら本を置いてミドウさんに向き直って、彼を見た。
今週に入ってすぐ梅雨明け宣言があって、一歩外に出ればジリジリと夏の暑さが身を包む陽気になっていた。
前回ミドウさんと会った時はまだ梅雨で、風邪を引いて熱を出したあの日も確か、天気予報では降水確率も高かくて気温は上がらないって言ってたような気もするし、ミドウさんも薄めの上着を羽織ってたから、今までの季節に合わせた服装では知らなかったと言うか、見えなかったところなんだけど。

今日のミドウさんは黒いTシャツとジーンズとスポーツサンダルっていう、極ありふれたようなコーディネートなのに、なにこれ。
なに、この人。

そのフワフワな髪の毛と瓶底メガネで相殺になんてならないくらい、ファッション誌からそのまま飛び出してきたようなスタイルの良さで、そのTシャツの袖から見えた程良く筋肉の付いた二の腕と、足の長さと、少しロールアップしたジーンズの裾から見える踝まで、その高身長と相まって何もかもが格好良く見える。

なに、これ。
これは惚れた欲目なの?
この人、こんなに、あれだった?


「おい」

「……あ、うん?ごめん」

思わずぼんやり見惚れていたら、ミドウさんに声をかけられてハッとした。
そして差し出された左手。
手がどうかしたのか、何だか分からなくて首を傾げてミドウさんを見れば、少し頬が赤い気がして、今日も外は暑いからかななんて考えてた。

「練習!」

「……え、あ、うん?」

練習……。
手と手を触れる、あの練習しかないよね?
え、なに?え?
ここから?手を繋いで歩くってこと?

「早くしろって。いつまで俺は手を出してりゃいいんだ」

「あ、ごめん」

そう言われて特に何かを考えもせずミドウさんの手を取った。
その瞬間に、ぴくりと少し腕が震えたような気がしてミドウさんの顔を伺い見るけど、特に何かを気にした様子もなくて、手を繋いで彼に引かれるまま本棚の間を抜けて歩く。

夏で、良かった。

暑いだけじゃない熱さが手のひらに集まって、少し汗ばんでしまってる気がする。
でも、元々体温が高いらしいミドウさんの手のひらも熱くて、それがどっちの汗か分からなくて、そしてぴったりくっつく手のひらが更に温度を上げていくような。

そういえば。さっきミドウさんの手を取った。
それは初めてあたしからミドウさんに触れたことに気が付いて、いつも触れるのはミドウさんからで、あたしから彼に触れたことは一度もなかったはずで。
そこまであたしに気を許してくれてるのかのと思うと何だかこそばゆくて、でもそれだけ女の人と触れ合うことに抵抗がなくなっているのかとも取れるそれに、なおさら別れが近付いたことになるのかと、浮いたり沈んだりする気持ちが自分でも掴めないでいた。


「梅雨、明けたな」

「ね。初めて会った時は冬だったのに、もう夏になっちゃったね」

あの時はミドウさん一人で先を歩いて行ってしまって、でもその長身と頭一つ飛び出して見えるフワフワの髪の毛に置いて行かれないようにと小走りで彼を追いかけた。
あれから半年しか経っていないのに随分前の出来事のようで、それが今は手を繋いで同じ歩調で隣にいるなんて。
ふと口が緩んでしまったところを見たのか、なに笑ってんだよと彼が言うから、じぃと彼を見上げてニコッと笑うと、ミドウさんはついと顔を逸して進行方向を見るだけになってしまった。
背けられた顔に少し寂しさを感じたけれど、その代わりと言わんばかりに、ギュッと手を握られて、なんかもう、この瞬間だけでも恋人同士のような、そんな感覚に囚われる。

これがずっと、続けばいいのに。


ジワジワと、都会のビルとビルの合間から遠くで鳴く蝉の声が聞こえて、そしてじんわりと首筋に汗が滲んだ気がした。
でもこれは夏の暑さだけじゃなくて、彼女に上目遣いでニッコリと笑いかけられたからに違いない。

今日のクシマは初めて会った時のように髪の毛を一つに束ねてポニーテールにしていた。
こっそりでも彼女を見ていたくて25cmも彼女より背が高いことを有利に使って視線をチラリと下に向けて盗み見れば、それは一歩一歩と前へ足を進めるたびにゆらゆらと揺れていた。

今日は珍しくピアスも揺れるタイプのものを付けていて、ポニーテールと後れ毛と、揺れるピアスから、こっそり見ていたはずの視線を背けることが出来なくて。
そしてふわりと何かで微笑む彼女に、なんで笑ったのか知りたくて、教えてくれたら良いなと思いながら聞いたのに、その大きな瞳で見上げられて笑みを深くするから、また俺自身も知らない妙なこそばゆさを心臓とみぞおちの辺りに感じて、その感じたものをコントロール出来ずに咄嗟に彼女を視界から遠ざけた。

自分で顔を背けたのに、それが不自然に思われてないか途端に不安になった。
クシマのせいではないのだと伝えたくて、でもそれは言葉にも出来なくて、代わりに繋いだ手をギュッと握った。


そもそも今日はいつもと違う始まり方だった。
待ち合わせの時間にはまだ少し早かったけど、彼女から本屋に着いたとメールが来て、待たせたら悪いと少し急いで本屋に行って探してみれば、また食べ物の本をジッと見ている彼女を見つけた。

そんな彼女は緩いオーバーサイズの白いTシャツに、淡い色のジーンズをロールアップにして、鮮やかなターコイズブルーのパンプスを履いていた。なんだか打ち合わせたわけでもないのにTシャツとジーンズという服装が少し似ていたし、練習と称して彼女にたくさん触れたいが為に、いつもと違う待ち合わせ場所にしたのだけれど。

そして、初めて彼女から触れてもらった。
いつもと違うパターンにクシマは慌てることなく自然に俺の手を取った。
男の手を取ることに、躊躇いのない彼女。
今まで彼女は一体何人の男の手を取り、こうやって街中を歩いたりしたのか。彼女に触れたことのある男たち全てを抹殺してやりたいような、このじわりと心に擡げたものは、先日類が言っていた嫉妬というものなのだろうか。

それでも彼女から触れられたことに気持ち悪いとか、吐き気がするとか、もうそんなことは全くなくて、いつも俺より体温の低いクシマの手が夏の暑さだけじゃなく火照った俺の手のひらを冷やしてくれると思ったのに、なぜか今日は彼女の手のひらも暑くて、次第にどちらともつかない手の汗が、俺とクシマをぴたりとくっつけた。

彼女を遠ざけようとして先を歩いた、あの日。
それが今では横に並んで、同じ歩調で、手を繋いで歩いている。
この一瞬だけしかすれ違わない、同じように街中を歩いてる人たちにだけでも良いから、自分たちが恋人同士にでも見えたら良いのにと思えば、やはり心臓とみぞおち辺りがカァッと熱くなったように感じた。


これがこのまま続いて欲しいと、彼女も思ってくれたら良いのにと願ってしまう俺は欲張りだろうか。













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