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Killed by your gaze. 3
[No.162] 2023/03/30 (Thu) 23:00
Killed by your gaze. 2
[No.161] 2023/03/30 (Thu) 19:00
Killed by your gaze. 2 (類つく)
「それ」がいつからと問われれば、始まりは高校生の頃だったと言える。
でも一度は諦めて、ただ幸せでいてくれるならと見守ることにした。
だから付かず離れずの距離を保って接していたけど、そのことに一番に気が付いたのは俺だったと思う。
二人がその結論を出した時、さして驚かなかったのは、それこそずっと見守っていたからに他ならない。
そのことに一番に気付いた時、あいつが本当に彼女の手を離すなら、その離された小さな手は俺が掴もうと心に決めていた。
だって、本当は俺が幸せにしたいし、一緒に幸せになりたいし、そもそもに一緒にいてくれないと息も出来ないのは俺だし。
でも一度は向けられたものを掴まなかったのは俺で、今更そのことを本人に告げたところで同じように気持ちを返してくれると確信を持てるような自信もなかった。
そっちが終わったなら俺と付き合って、なんて言うのもかっこ悪いし。
それでも欲しい。
側にいて欲しい。
だって、俺の知らない他の誰かに攫われたら、一緒にいられない。
今までは俺があいつの親友だったから彼女の側にいられたわけで。
一緒にいられなくなったら、俺は。
だから逃げられないように、いつものように、ゆるりゆるりと側にいて、するりと隣に居座って。
それが当たり前になるように、でも「それ」は強く、見過ごされないように。
その為なら努力は惜しまない。
惜しんでる場合でもないし、横から攫われないように自分の足元をしっかりと固めなければならない。俄然やる気になった俺は、勉強も仕事も選り好みせずに何でもやった。
そんな俺を見た両親は何があったのかと問うてきた。
幼い頃に厳しくし過ぎたことを後悔しているらしい両親は、今まで目的もなく息を吸って吐くためだけに生きているように見えていた俺に、やる気を出させたものが何なのか気にしていたようで。
これは好機かもと切々と話してみれば、両親に諸手を上げて賛成を得られた俺は、あとは彼女に逃げられないようにと少しずつ逃げ道を塞ぐことにした。
進路も、就活も、配属先も、親も、家も、時間すらも。
俺の向ける「それ」に彼女が気付いたのは、いつだったか。
彼女が就職してしばらくした頃だったか、仕事中でも彼女の配属先にふらりと顔を出しては「それ」を見せていたし、会うたびに何を言うわけでもなく、共通の友人たちの前でもただ側にいて「それ」を見せていたから、彼女が気が付いてくれた時は密かに喜んだ単純な俺。
そして、彼女の中にある壁。
実のところ、これが一番大変だった。
大企業の御曹司と恋をすることに疲れていた彼女の恋愛に対する壁は厚く、そして同じような環境にいる俺に対しては更に高い壁をいくつも作っていた。
それを無理矢理壊すようなことをせずに、一つずつ最適なルートを探って乗り越えていった。
俺が大企業の御曹司だから。
家柄が違うし、財産もないから。
教養もそこまであるわけでもないとか、美人じゃないとか、貧相な体付きだからとか、それはもう数え切れないほどの違いを列挙してたけど、俺の「それ」に気付いてないふりをしている壁すらも乗り越えた。
そう、俺は登るより簡単だろう、壊すという行為は出来なかった。
なぜ壊せなかったか。
だって彼女の心は傷付いた。
あいつとの別れが穏やかな別れだったとしても、それまであいつに向けていた彼女の気持ちは本物だった。
その気持ちの形が変わって、そして別れを選んだ時から、それ以上あいつと思い出を積み重ねることはなくなっても。
嬉しいことも、楽しいことも、悲しいことも、悔しいことも。
彼女は、あの日々を忘れることは出来ないだろう。
それを未来ではなく過去のものにすることに、躊躇いも後悔もないはずもなく。
友人たちには見せなかった涙を、俺には見せてくれたから。
その後に出来た彼女の心の壁を、壊して何の意味があるのだろうか。
彼女の思い出も、想いも、それは彼女だけのもので、それを守って、そして同じことにはなりたくないと怯えているから作られただろう壁を他人が壊したり、むやみに傷を付けていいものではない。
もしそれを無理矢理、強引に壊して、彼女の心を囲うものがなくなった時。
その時はそれこそ、どこへでも彼女は行けてしまうのではないかという恐怖心。
自分本位な言動で、自己中心的な考えだ。
でも、俺は俺の為に、彼女の心を壊すことなく手に入れたい。
彼女の一番近くにいるのは俺。
一番近くで彼女を見てきたのは俺だ。
壁が作られて、彼女の心が落ち着くのを見ていたのも俺で、その壁がどうやって作られたかを見ていたのも、俺だけ。
牧野、忘れなくていい。
その過去も、想いも、思い出も、それは牧野だけのもので、全部ひっくるめて今の牧野なんだから。
だから壊さずに乗り越えた先は、壁に囲われた彼女の心と、俺の心の二人きり。
絶対に、逃さない。
他の誰でもなく、その手を繋ぐのは、俺でありたい。
彼女の為なら、俺に出来ないことはない。
彼女が壁の中から出たいと思った時、その時は俺も一緒だ。
壁の乗り越え方を知っているのは俺だけだから。
壊さずに、守ってきたのは、俺だから。
その零した涙もため息も、一つ残らず掬って俺のモノにして、身体中に彼女を巡らせたい。
そして気付いた彼女の「それ」。
やっとだ。
少しずつ強くなっていく彼女の「それ」を感じる度に、心が震えた。
早く、早く、早く。
早く気付いて、俺だけになって。
そして俺と彼女の間で揺れる桜色の向こうに見えた彼女の瞳に、「それ」を見た。
どちらからともなく重なった唇に、彼女はまたなんだかんだと理由を付ける。
もう、いいのに。
もう二人きり、なんだから。
勝ち負けなんてどうでもいい。
生かすも殺すも、奪うも与えるも、俺の全てを委ねるから、早く。
俺だけを、見て。
でもそうだな、ずっと二人きりでも良いけれど、俺は一人っ子だったから自分の子どもは兄妹が多いほうが良い。
そう言ったら順番が違うと顔を赤くして怒るけど、いずれそうなるんだから順番なんて瑣末なことで。
だから早く言って欲しいのに、彼女は勝ち負けばかりを気にして、肝心なことに気が付かないふりをする。
それでも俺の瞳に写っただろう自分の「それ」に気付いた彼女は、何を今更恥ずかしがることがあるのか、今度は見ないふりをしようと目を閉じるから。
俺の心臓を、「それ」で何度も貫いて。
早く、その言葉で俺を、繋いでいて。
牧野の「それ」で、俺は何度も殺されたい。
あとは、その言葉があれば、何でも、全て、君のためなら。
牧野。
そしてその熱を、何度も何度でも、君の唇に、身体に、心臓に、心にあげるから。
だから、俺の「それ」に殺されて。
I want to be killed by your gaze.
君の「視線」に殺されたい。
Then, Happy birthday Rui!
「 Killed by your gaze. 3」は、がっつりエロです。
それしかないし、マジのR18なので鍵をかけます。すぐに分かるパスにしますが、うっかりクリック防止として念の為に壁を一枚作っておきます。
読まなくても何の問題もないですし、本当にそれしかないので、読まれる方は自己責任でお願いします。
Killed by your gaze. 1
[No.160] 2023/03/30 (Thu) 15:00
Killed by your gaze. 1 (類つく)
それは、ふとした時。
高校生の頃から続いていたらしい「それ」に、あたしが気が付いたのは社会人になる前だったと思う。
ジェットコースターのような恋は最後、緩やかにスピードを落として終わりを告げた。
お互い特に遺恨があったわけでもなく納得の上で終わりにしたその恋は、高校生の頃から見ていた友人たちには、あまりにも呆気ない幕切れのように見えたらしく、それはもう多大に心配された。
確かにまわりを巻き込むだけ巻き込んで大騒ぎして、高校生の恋と言うには一般的なラブストーリーではなかったから、そう思われても当然かもしれないけど。
でも大人になるにつれて世の中が見えてきて、それが家柄とか財産とか、そういうことでもなくて、かと言って別の誰かに気持ちを持っていかれたわけでもなかったけど、常にフルスロットルで走り続けていられるわけでもなかっただけ。
そんな風に終わりにしたあの恋を、まわりと同じように何でどうしてと騒ぐわけでも心配するわけでもなく黙って見ていた人が、一人。
あいつと別れてすぐには自分ですら気付かなかった傷。
終わった恋への想いと思い出の大きさに、それは思ったよりも深く残っていた。
別れたことに後悔はない。それでも、大事にしていたものを未来ではなく過去のものにするということが、こんなにも痛みを伴うものだと知らなかった。
別れから時間が経ったある日突然それに気付いて、図らずもほろりと零れた涙は、いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていた彼の指に掬われた。
一つの恋が終わる前から、するりするりと懐に入ってきて、いつの間にか当たり前のように常に隣にいた人。
いつも側にいるからといって何をするわけでもなく、ただ一緒にご飯を食べたり、お茶を飲んだり、課題を見てもらったり、いろんなことへのアドバイスをもらったり、あくまで友達の範囲を越えないものだった。
そして、一つの恋に終わりを告げた途端に、見えた「それ」。
ゆるりと過去に思考を巡らせて辿ってみれば、「それ」は高校生の頃からだったのかな、と想像するに至るのは簡単だった。
「それ」はあたしも同じ意図を持って向けていたことがあったからに他ならない。
だからと言って「それ」に気付いたからと、高校生の頃と同じ意図をあたしが持つことはなかった。
二度と同じことは繰り返したくなくて、あの喪失感と、深い傷を作りたくなくて、心の中に堆く作った壁。
それにあっちがダメならこっちみたいに思われるのも嫌だったし、それは違うと思ったから。
それなのに。
あまりに強い「それ」は段々と無視することが難しくなってきて、高校生の時に一度は終わらせたものが再び頭を擡げてあたしの心に住み始めるのに、さして時間はかからなかった。
なまじ同じ会社にいるものだから遭遇率は高く、そして「それ」は社内でも社外でも同じように、あたしにのみ注がれていた。
ただ、「それ」に気付くのはもちろんあたしだけで、社内の人には全く気付かれていないことだけは不幸中の幸いと言える。
でも、そろそろ「それ」に、あたしは殺される、かもしれない。
「殺される」なんて穏やかな言葉選びではないけど、まさに心境としては「殺される」がぴったり当てはまる気がしてならない。
彼のスタイルはジェットコースターでもないし、常時フルスロットルの乗り物でもなく、あえて言うなら徒歩。
そう、まさに徒歩。そして散歩。
なのに「それ」はいつか「殺される」なんて思わせるほどに強い。
強くて、強すぎて、無視できない。
ふだんはのんびりしているようで、ぼんやりしているようで、のらりくらりという表現がぴったりなのに「それ」だけは強い。
そして、あたしが「それ」をあえて無視していることに気付いたのか、それともその前からだったのか、メキメキとやる気を出し始め、やれば出来る子だと知っていたよなんて親に言われてて、挙句あたしに末永くよろしくねなんて涙ながらに頼まれ託されてしまった。
確実に、正確に、あたしの中に築き上げた壁を壊すことなくロッククライミングよろしく攻略して登って乗り越えてきて、気付けばその壁の中に二人きり。
厄介なことに、向けられるのは「それ」だけで、一度も言葉にされたことはない。
もういっその事、言葉にしてくれれば如何様にも出来るのに。
ずるい。
駆け引きのつもりなのか、それとも無意識なのか。
いや、無意識ってことはないか。
付き合いの長い友人たちの前でもあたしに向けられる「それ」は、あまりにあからさまらしく、社内の人は気付かなくても昔からの友人たちには嫌でも分かるらしい。
そして、よく堪えられるなとも言われる。
うっさい。
あたしだって堪えたくてそうしてるわけじゃない。
これはもう、プライドの問題だ。
言葉にしないで「それ」だけなんて、ずるい。
春の光りが満開の桜の間から柔らかく二人に降り注いでいるような、のどかでお花見をするのにぴったりな陽気に、気持ちもうらうらとして。
広大な敷地に建つ大きなお邸を横目に、広い庭にそびえ立つ大きな桜の木の下で芝生にレジャーシートを広げて寝転ぶ二人。
シートの横には簡易テーブルに椅子もあるけど、それには一度も座らずテーブルの上にはジュースとお菓子と果物が並べられている。
その桜の木から少し離れたところにある花壇には、マーガレットと菜の花と、チューリップが咲いていた。
赤と、白と、ピンクと色とりどりのチューリップ。この花を見ると、あの頃の気持ちと今の気持ちが混ざり合って、この春の香りも、風も、色も、じんわりと広がるように、心の中に染み込んでいく。
お互いの肩がくっつきそうでくっつかない距離で、なのに手はイタズラをするようにくすぐったり、繋いでいるように絡ませたり。
傍から見れば恋人同士の戯れのように見える、かもしれない。
「類」
「なに、牧野」
「言いたいことがあるなら、はっきり言って」
「それは牧野もでしょ?」
「あたし?類が言わないなら、あたしも言いたいことなんてないけど」
「嘘つき」
「言うに事欠いて嘘つきですって?良いよ、それならもう類が言うまで、あたしも言わないから!」
「え、ずるい。そんなこと言われたら俺、牧野に殺されるの待つだけじゃん」
「……うん?」
カラン、とグラスの中の氷が崩れて聞こえた音に、ふわりと類の髪の毛に舞い降りた桜の花びらに、そして、あたしが類の瞳の中を見た時、同じ「それ」をあたしも類にも見せていたことに気が付いて。
ああ、それなら相討ちだなぁ、なんて考えていたら、それだけ瞳の中が見える距離に類がいることに気が付いた。
あ、と思った時には重なっていて、それでも言葉もなく始まろうとしていることに過ぎった不安を、いとも簡単に振り払うように何かを紡いでくれるのかと思ったのに、類の口から聞こえた言葉は何とも穏やかとは言い難いもので。
「牧野に殺されるなら本望だけどね」
「……ふぅん、生かすも殺すもあたし次第?」
「どう?最高にスリルある人生を送れると思わない?」
「なによ!あたしの逃げ道、全部塞いでまで言わせたいことなの?」
「言わせたいね。俺だって必死だから」
「そんなの、ずるい」
「そりゃあ、ずるくもなるよ。俺はジェットコースターより散歩が良いもん。散歩なら寄り道だって遠回りだって出来るし、手を繋いでゆっくり歩いて進んでいけるよ。隣に並んでお互いの顔を見て、あれこれ話しながらね。だからもう、急ブレーキも途中下車も、逃げ道だっていらないんだ」
「やっぱり、類はずるい」
「……俺、子どもは三人以上欲しいな」
「ばっ、なっ、なんでいきなり、順番が違うでしょぉ?!」
「違くないよ。外堀埋めて、乗り越えて、それでも大事に壊さず守ってきたんだ。どっちにしろ結果は同じなんだし、もう俺しかいないだろ?」
類は、俺のしていることを壁の中から黙って見ていたのに、今さら何を言ってるの?みたいな顔をしてあたしを見る。
それに言い返せなくて、うぐ、と言葉に詰まってしまうけど、何も言わないのも悔しくて。
「相討ちなんだからね!おあいこなの!」
「え、おあいこってことは牧野の殺生与奪権、俺が持ってていいの?」
また一つ、カランとグラスの中の氷が崩れて、あたしと類の間に桜の花びらがひらりひらりと揺れ落ちて、ピントが合うのはお互いの瞳だけ。
そのぼやけた桜色の向こうに見えた類の「それ」に、やっぱり殺されるなら類が良いな、なんて思ったりして。
「おあいこって、言ったでしょ!類の生殺与奪権はあたしが持ってるのを忘れないで!」
「うーん、勝ち負けのつもりはないけど、それって言っちゃってるよね?もう同義じゃない?」
「さっき類からキスしてきた」
「えー、牧野からだったよ」
「類からだった!それだって同義じゃないの?」
生かすも殺すも、奪うも与えるも、あなたの気持ち一つで繋がれる人生。
それがジェットコースターに乗るよりこわいことに気が付くのは死ぬ時で良いと思うなんて、あたしの心が「それ」にすでに殺されてしまっていることに他ならないけど、そんなことはきっと、あたしの「それ」に気付かれた時に知られてる。
言葉遊びのような駆け引きも、その言葉を口にしないでいることも、それは類が側にいることが当たり前になってしまったように、いつの間にか我が物顔で隣にいた。
もう一度、類の瞳を覗いて見れば、ビー玉色に染まったあたしの「それ」と目が合って、途端にそれが恥ずかしくなって自分の「それ」に見てないふりをしようと目を閉じれば、フッと類の笑った吐息を感じた後に最初に与えられたのは唇で。
そしてそれは、それまで唯一知らなかった、さっきよりもアツい、類の熱。
Killed by your gaze.
あなたの「視線」に殺される。