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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 45

Re: notitle 45






部長には全てを話した。
あたしのプライベートな話ではあったけど、やはり誰かに聞いてもらいたかった。
出会ったきっかけから、進にも優紀にも話せなかったミドウさんの本当の姿を知ってから、あたしの部屋で一緒に過ごしたあの日のことまで。



「はぁ~、なるほどね……」

「本当に何でこんなことになったのか、私もまだ全部を受け入れられなくて。でもまさか部長まで巻き込むことになるとは思わなかったので、本当に迷惑をお掛けして申し訳ありません……!」

「いや、私を巻き込んだのはあいつらなんだから、牧野さんは悪くないでしょ。あいつらがどういうつもりでこんなことしてるのか知らないけど、でも私はあいつらの友人でもある。牧野さんよりは彼らの人となりは多少知ってるつもり。だから一つだけ言わせてもらうなら、道明寺 司の女嫌いは本当の話だよ」

道明寺 司の女嫌いは本当。
彼の友人だという部長が知っている、でもあたしの中で嘘ではないかと思っていたこと。


「本当に、本当に女の人がダメなんですか……?」

「うん。美作あきらと西門総二郎は無類の女好きだけどね。司の女嫌いは社交界でも有名な話で、一部ではゲイなんじゃないか、なんて噂もあったくらいだよ。どんなパーティーでも同伴するのは彼のお母様か、お姉さんだけだし、秘書も男しかいない。
だから司が牧野さんと手を繋いだりっていう話は本当に驚いた。十年来の友人の私ですら一切、指一本も司に触れることは許されない。だから、司が女の人を騙して遊ぶなんてことは絶対にない。それは私が保証する」

部長はコーヒーを一口飲むと、他にも部長が知る限りのことを色々と教えてくれた。

「なんで司がそこまで女嫌いなのかは知らないけど、お見合いは全部自らぶち壊していくし、政略結婚なんて絶対にさせないって、その為に仕事も頑張ってるようなものだし。それでもやっぱり、あの大財閥の後継者だからね。司のご両親は結婚して子どもをってかなりしつこく言ってるみたいだよ」

じゃあ、あの女嫌いも、結婚もしたくないから阻止したいのも本当だったってこと……?

「でも、それならなんで婚活アプリなんか使ってたんでしょうか……」

「うーん、そこらへんは私も今回牧野さんから聞くまで、あいつらがそんなことしてるのも知らなかったから分かんない。でも、司が自ら進んで婚活アプリを使って女の人と会おうとするなんてことは絶対にない。何か事情があって、仕方なくあいつらと何かしようとしてたのかもしれないけど」

「それに、そこにお姉さんが出てくるのもよく分からないんですよね。彼はとにかくお姉さんのことを気にしてました。ご両親のことよりも、とにかくお姉さんに会ってくれればと言ってましたけど……」

「私と司が知り合った時はもうお姉さんも結婚してたし、個人的にもそんなに親しくはないから、そこらへんは分からない。ごめんね。でもそれもさ、もう一回会って、きちんと聞いたほうが良いんじゃない?」


すっかり冷めてしまったコーヒー。
いつもはお砂糖とミルクを入れるけど、今はブラックで飲んでいた。なんとなくブラックにしたのは、今は甘さよりも苦味を味わいたかったから。

あたしが考えていた彼らの女遊びは、あたしのマイナス思考が導き出した勘違いの可能性が高いこと、女嫌いは本当で結婚は阻止したいこと、でも婚活アプリを使って女の人と会っていたこと。

なぜご両親ではなく、お姉さんに会うことで結婚を阻止できるのか。

まだまだ矛盾していること、分からないことが多過ぎて、混乱する頭の中をすっきりさせたかったのかもしれない。
冷えたコーヒーは苦味だけじゃなくて、渋みも増したように感じた。


「牧野さんは、本当の司のことを見てたんだね」

「……え」

「牧野さんはさ、司の名前や出自、あの見た目でもなくて、司の中身そのものを好きになったっていうことだよね。
私たちのまわりは、そういう自身じゃなくて持ってるもので見られる世界なんだ。だから中身だけを見てくれる人っていうのは本当に貴重で、安心できる存在になり得る。きっと司もそうだったんじゃないかと思う。そうでなければ、あんなに頑なに嫌がって避け続けてた女の人を、牧野さんにだけは触れされるほど近くにいることを許してる」

「そうなんでしょうか……」

「司も牧野さんとの関係を終わりにしたくなかったから、お姉さんに会わせなかったんじゃないかな?お姉さんに会わせたらおしまいって話だったんでしょ?それに、司が名前を言わなかったのは、やっぱり、こわかったんじゃないかなぁ……」

「こわい、ですか……?」

部長は、少し悲しいような、淋しそうな顔をした。

「うん。……どうしてもね、こういう大きい家に生まれると周りに近寄ってくるのは利益を欲しがる人間ばっかりなんだよね。良い人のフリして、いっぱい親切にしてくれても、結局は私たちの後ろにある家や財産だけを見ていて、私たちはそれの付属品でしかない。友達だと思ってたのに裏切られたことも何度もある。だから私たちは簡単に人を信じない。そして、人を損得で見ることに慣れてる」

誰に裏切られるのか、陥れられるのか分からない世界。
損得でしか人を見られない環境。

なんて、悲しくて淋しい世界。

ミドウさんも、そうだった?
だから初めて会った時、警戒心丸出しで、不遜な態度で、一つも笑わなくて……、


「特に司はね、道明寺財閥はあまりにも大きい会社だから。一人息子だし、親からも周りからも期待されて跡を継ぐべく徹底的に教育されて育ってきてる。心を許してる友達もさっきの三人しかいないんじゃないかな。
いつ誰に足元を掬われるか分からない世界だし、それこそ一分一秒の躊躇いで無くなる契約だってある。司の背負ってるのは、社員の、社員の家族の生活そのものだから、その責任は途轍もなく大きい。
それに財閥って結局は家族経営みたいなもんだから、後継者に対する期待も大きい。おばさまの後継者を望む気持ちも分からないでもないけどね」

「それがこわいのと、どう繋がるんですか……?」

「本当の名前と姿を知られたら、自分を見る目や態度が変わるかもしれない」

「それは、」

「ないとは言い切れない。これは牧野さんがどうとかいう話でもないよ。何度信じようとしても何度も裏切られたことのある人が、もう一度誰かを信用しようと思うことは、難しい」


それは、あたしも嫌と言うほど知っている。
あたしだって散々過去の彼氏たちに裏切られて、離れていった。

男は、信用出来ない。
みんな最初は優しいのに、だんだんあたしを疎ましがる。
そして、優しい顔をして浮気をする。

だからもう、男は懲りごりで、結婚だってしたくない。


だから、
だから、ミドウさんに出会った。


女嫌いのミドウさんが、女のあたしに触れて、手を繋いで、キスをして、抱きしめて。
それは、彼があたしを本当に信用して信頼してくれていて、だから近くにいることを、触れることを許してくれていた?

それなのに、あたしは彼に何も聞けずに、自分が傷付くのがこわいからと、あからさまに彼を避けた。
二回目に会った時、赤い車から降りてきたミドウさんを見て、彼が何者であろうと、それで態度を変えるのは違うと思っていたはずなのに。

お互いの、何者でもなかった二人の、半年かけて築いたはずの信用と信頼を、あたしは信じないで、
そして彼の正体を知った時、その事実だけを見て話もせずに決めつけた。

それが彼を傷付けることだと気付きもせずに、もう何も考えたくないと、

……あたしは、逃げたんだ。


「部長……、あたし、彼に酷いことをしてしまったかもしれません……」

「ね、牧野さん。彼のことが好きなら、会って顔を見て話をしなきゃ。知ることがこわいのは分かる。でも、それは必ずしも悪い方向に行くとは限らない。だから、彼に全部話して、話を聞いて、気持ちを伝えて、泣くのはそれからでも良いんじゃない?」

「……部長、」

「ほら、今日は類くんの奢りだから遠慮しないでデザートもっと食べちゃおう?フルーツグラタンとかどう?ワインも頼んじゃう?」


フルーツグラタンって何?とか、お酒はすぐ酔っちゃうから遠慮したいとか色々思うところはあったけど。

今日は、今日だけは部長に甘えて、この「プティ・ボヌール」で少しだけ非日常を楽しんで、そしてもう少し気持ちの整理が出来たら、ミドウさんに連絡をして、話をしなければと思った。













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