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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 47

Re: notitle 47






今日も一日、何事もなく恙無く。

いやいやいや。なにごとがあったし、つつがないとか、ありえないでしょ。

仕事だけはキチンと熟す。仕事とあたしのプライベートは関係ないし、それが自分の人生を揺るがしかねないようなことだったとしても、上司や同僚たちにはどうでもいい話。そう思ってたのに、今週は小さなミスの連続で。

情けない。
全然キチンとなんて出来やしない。ふとした瞬間にぼぅっとしてしまうことが増えた。

情けない。


部長と話をしてから一週間。
あれから、たくさん考えた。

初めて会った日のことを、初めてミドウさんの指に触れた日、ミドウさんがくれた沢山のお土産と写真、お好み焼きとコーヒーが好きで、甘いものが苦手。
口は悪いけど優しいところ、あの温かい大きな手と、優しい笑顔と、穏やかな時間、抱きしめた時に震えた身体。

『聞かれても言いたくないことは言わなくていい。でも、嘘は付かないで。』

そう約束をした。

そして今まで何一つ、彼に嘘なんてなかった。

お互いに言わなかっただけ。
それを信じなかったのは、あたし。

考えれば考えるほど彼との関係をどうしていくべきか、分からなくなってしまった。


彼を好きなんだと気が付いた時、自分は馬鹿だと思った。
彼は恋人なんかいらない、結婚もしたくないと言っていたし、あたしも結婚をしたくないと、だから協力することになって、彼に選ばれた。
だから二人の間に恋愛感情はありえないはずだった。
それなのに好きになったなんて、不毛以外の何物でもない。

そしてミドウさんのことが好きだと気付いたあとも、考えていたこと。


『女の人と、手を繋げるようになったから。
もし、もし万が一それで女の人への認識が良い方へ変わったとしても、その時その相手はきっとあたしじゃなくても良い話。

もっと美人で、スタイルも良くて、世の中にはこんなに素敵な女性がいるんだって、彼もいつかは知るかもしれない。

結婚願望がなくて、誰かと付き合う気もなくて、会う時はいつも女を感じさせないような体のラインを強調しないボーイッシュな格好の女。
きっといつかはそんな女は霞んでフェードアウトして。そういえば女に慣れるきっかけは、大したことない雑草みたいな女だったなって、思われて終わる。』


それは、ミドウさんがどこかの御曹司とかじゃなくても同じで、人が誰かと出逢えば必ず、誰にでも可能性としてあるもの。

人は人と出逢うことをやめることは出来ない。

それでも優紀に「運命みたいな出会い方」だと励ましてもらって、ミドウさんに好きになってもらおうと、少しだけ勇気を振り絞って頑張ってみようかと思った。

恋なんてしたくない、結婚もしたくないと思っていた。
それでも好きになってしまった気持ちを、彼のことを知ってしまってからも無くすことなんて出来なかった。弄ばれたとしても、それでも彼と過ごした半年間で感じたこと、あたしの気持ちは、嘘じゃなかったから。

だから、いつか来る終わりの時までは大切にしようと思って、……思ってたのにあたしは何をした?

何もしないよりは何かを、あたしは残したかったのだろうか。
残したくて、キスをして、抱きしめてしまったのだろうか。

あたしにではなく、彼に、あたしの何かを少しでも残したかったなんて、酷く嫌な人間になったものだ。

彼のいる柵の多い世界はきっと、運命なんて不確かで人の感情で左右されるようなモノを許さない。
あたしとミドウさんの、二人で過ごせるいつかの未来はないと、心のどこかで諦めて、達観した大人のふりをした。


女嫌いが本当だという彼が、女の人と手を繋いで、キスをして、抱きしめる。
これがどういうことなのか。

自惚れていいなら、いくらでも自惚れたい。
あのキスをした時のあたしを見た瞳の熱は、あれは、あたしと同じものを持っていると錯覚させるほどの、熱だった。

ダメだ。
勘違いしちゃいけない。あたしと彼の関係は、友人の範囲を越えないものであるべきだ。それ以上でも、それ以下でもない。
あくまで、彼の結婚を阻止するまでの協力関係で、それに伴う友情だけ。

友人は、キスをしたり抱きしめたりしない。

彼は、そのことを知っているのだろうか。
女性とプライベートで話すのは二十年振りだと、初めて会った日に言っていた。それなら恋人なんていたことがなかっただろう彼が、どこまでを異性の友人として認識しているのか、分からない。


『司も、牧野さんとの関係を終わらせたくなかったんじゃないかな。お姉さんに会わせたらおしまい、そういう約束だったんでしょ?』

部長の言葉が頭の中でこだまする。
でもそれも結婚を阻止する為の手段で、お姉さんを信用させる為だけのもので、そのお姉さんに会ったら……、

そう、結局は彼と会って話をしないと何も解決などしない。
彼の気持ちも、考えてることも、他人のあたしが勝手に推し量って決めつけたらいけない。

もう何度決めつけたらいけないと、考えただろう。
分かってるのに堂々巡りで、やはり悪いほうへと考えてしまう。
彼の友人と会ってからミドウさんからメールが来てないことも、そう思ってしまう原因の一つ。


彼は、あたしがミドウさんの本当の姿を知っていたと、あの友人たちから聞いただろうか。

そして、正体を知ったから態度が変わったんだと、思われたら、

思われたらだなんて、そうじゃない。
そう思われても仕方ないことをしたのは自分だ。

彼の立場と名前を教えてもらえないからと、コソコソと隠れて後をつけるなんて、卑怯で、身勝手で、彼があたしに教えないことの気持ちも事情も深く考えもせず覗き見をして、自分の憶測だけで誤解をして、態度を変えた。
そして、あたしはもう彼らに言ってしまった。

『もう、彼を信用も信頼も出来なくなったから会うのをやめた』と、言ってしまった。

話も聞かず、確かめもせず、憶測だけで判断し、今までの半年間の信用と信頼はなくなったと、怒りと悲しみの感情に任せて一方的に。

これで、きっと彼のあたしに対する信用も信頼も、なくなってしまった。


『彼のことが好きなら、話をしなきゃ。知ることがこわいのは分かる。でも、それは必ずしも悪い方向に行くとは限らない』

また部長の声が、頭の中でこだました。

こんなあたしに彼は会ってくれるだろうか。
もう一度会って、話をしてくれるだろうか。

好きになって、なんて言わないから。

勘違いで誤解をして、あなたを傷付けたことを謝りたい。
今さらかもしれないけれど、自己満足かもしれないけど、それでも。

あなたと過ごした半年間、全てに嘘はなかったと伝えたい。


あたしは本当に、どこまでも馬鹿な女だ。




今日も仕事の帰り道、最寄り駅から自宅までぼんやりと歩いていたら、もうすぐ自宅に着く手前という所に馬鹿みたいに長い黒色のリムジンが停まっているのが見えた。
一般的な自動車販売店ではお目にかかることはないだろう車。一般人が見るとすれば、大体はテレビの中くらいだろう。

思わず、ハァーと大きなため息が出る。
あたしは一般家庭に育った、極ありふれた平凡的な人間だ。なのに、この車をテレビの中ではなく実物を見るのは何度目だろうか。

いつも部長が使う車はこういう車だ。運転手付きの。
もう今さらだからジロジロと見ることはないし、なんでどのリムジンも外装は泥はね一つもなく、いつもピッカピカに光ってるんだ、くらいのもので、慣れってこわいなぁなんて。

それでも、こんな住宅街の一角にリムジン。嫌な予感とか、そんなもんじゃない。ほぼ確信を持って、彼に関する誰かが乗ってるのではないかと思った。

いや待てあたし。違う可能性も考えよう。
勘違いをして痛い目を見たばかりだし、先入観は良くない。たまたまあたしの自宅の近くに、たまたまリムジンが停まってるだけ。

素知らぬ顔をしてリムジンの横を通り過ぎても特に何もなく、あれ?やっぱり違かった?と、あたしとは関係何一つなくて、やっぱりたまたま停まってただけだったかと自分の勘違いを恥ずかしく思っていたら、カチャリと後ろで音がした。
彼に繋がる可能性がある物を近くにして、無意識に神経を張り詰めてしまっていたのか、音一つでビクついたあたしはもう、それはもう、心臓がピョン!と跳ねるくらいには、次に聞こえてきた言葉にびっくりした。


「こんばんは。あなたは、クシマ ツキノさん?それとも、牧野つくしさん?どちらでお呼びしたらよろしいかしら」


ゆっくりと、声のした方へと振り向く。そこには女性が二人、車の横に並んで立っていた。

なに、この人たち。
なんで初めて会ったのに、あたしのニックネームと名前を……?

そんなことを思ったのは一瞬で、こういう嫌な予感に限って大抵当たる自分を恨めしく思った。
あたしの本名と婚活アプリでしか使っていなかったニックネームという個人情報を知っている人。この人たちは個人情報など容易く手に入る手段を持っていると、そういうつもりであたしの名前とニックネームを告げたのか。
それはお金と立場で、あたしのことをどうにでも出来る力を持っているとも言える。

現れるなら彼に関する誰かだろうと思っていた。
でも、まさかの人物の登場に震えそうになる足に力を入れて、姿勢を伸ばして。
逃げたら、ダメ。
この二人は見た目だけの年齢で判断したとしても、あたしの憶測はたぶん間違っていないと思う。


「あの……?」

「突然ごめんなさいね。私、こういうものです」

そう言って二人から差し出された名刺に、ああやっぱり、と思った。
そして、自分の名刺を渡す手がこんなに震えそうになったのも初めてだ。

「あの、ご用件は何でしょうか」


あたしの前にいるのは、道明寺 楓。
道明寺財閥の会長だ。「鉄の女」と呼ばれ、経営に対するその姿勢は冷徹で無慈悲だと聞く。

こわい。そのオーラに圧倒される。
ただの会社員が大財閥の会長を目の前に普段通りに振る舞うなんて無理な話で、平然としていられるわけがないのだ。

足が竦む。震える。逃げたい。
逃げたい。
でも彼のことは、彼と話をするまでは、彼自身から全てを聞くまでは、もう会いたくないと言われようとも会って顔を見て話をしたい。
だから、それまでは例え何があっても逃げたくない。

傷付けてしまった彼へ、これ以上もう人を恐れてほしくない。
それなら、あたしはここから逃げたらいけない。


だからって、どうして、どうして彼に会う前に次から次へと、……もう!













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