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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 57

Re: notitle 57






早くクシマに会いたい。
そのことに嘘はない。

なのに何であいつは俺と会う前だというのに、婚活パーティーになんか出てるんだ!


クシマと会う約束をした土曜日は、いつもと同じように仕事へ行く支度をして、いつも通り西田が迎えに来た。
行き先はメープルホテル東京。総支配人とホテル内の各責任者たちと話をして、あとは俺がオーナーをしているイタリアンレストラン「リチェロ」での婚活パーティーの様子を見るだけ。
今日の仕事はそれだけだと聞いていたのに、パーティーに類も来ているから一緒に最後の挨拶だけでもと頼まれた。人前に立つことが得意でない類は嫌そうな顔をしているが、これも仕事だ。
挨拶くらいならしても良いだろうと婚活パーティーの幹事に促され会場となっているリチェロの個室へ行き、類の簡素で適当な挨拶のあとに続いて参加者たちに向かって話していると、部屋の隅で不自然な動きをしている人物が一人。
この場にいる誰もが俺たちを見ているというのに、そいつは顔を隠すようにバッグを持ち、ゆっくりと個室の出入り口へと向かっている。参加者たちに向かって話しながらも、さり気なく動向を見ていたが挨拶を早々に終えて、もう一度その人物を見遣ると、そいつは出口の近くで立ち止まり、こちらを向いて周りの様子を伺うようにバッグから顔を覗かせた。
その顔が見えた時、驚きよりも瞬間的にムカついた。

クシマ?!
あれは、クシマだよな?
なんで、しばらくは彼氏なんていらないと言っていたのに、なぜ婚活パーティーになんか来てるんだ!?

俺と会う前に婚活パーティーに出てどうするつもりだったのか。俺と話がしたいと言ったのは、ほんの数分で済むような、ただ俺に期間限定の関係を終わりにしたいと言う為だけのつもりで会いたいと連絡してきたのか。
こんな婚活パーティーなんかに来るくらいなら、そこまでして結婚したいなら、俺にすれば良いだろ!


「司、顔がこわい」

「うるせぇ」

「彼女にも何か事情があるんだろ」

事情も何も、婚活パーティーとは結婚相手を探し出会う為のもので、それ以外に何の理由があって参加していると言うのか。

「類、お前クシマが参加してるって知ってたのか」

「いや、知らなかった。でも、」

類がまだ何か言おうとしているが、いま話さなければいけないのは類ではなくクシマだ。
彼女とはいつもの時間にいつもの喫茶店で会う約束をしていたけど、もう俺が道明寺 司だとバレているようだし、以前みたいに瓶底メガネのボサボサ頭をした「ミドウ ジョウ」の姿で行くつもりはなく、そのまま道明寺 司として会うつもりだった。
だから場所は違えど、約束の時間が少し早まっただけ。

そう思ったのに、クシマが怯えたような顔をして俺から逃げるように会場を出たものだから、逃がすつもりのない俺は急いで後を追ってレストランを出てエレベーターホールの方へと向かったが、彼女はエスカレーターに乗っていた。一気に一階まで降りるにはエレベーターしかないが、待ってる間に追いつかれると思ったのか。

なんでそこまでして俺から逃げる?
もう俺とは話をしたくないと思われるほど彼女からの信頼を失ってしまったということだろうか。
形振り構わず走って、今すぐにでも彼女を捕まえたい。
しかし一応これでも俺はメープルホテルの代表だ。どこで客人に会うか分からないから流石にフロア内を走るような真似は出来ない。そんな今の立場を煩わしく感じつつも、それを利用しない手はない。
クシマだけは逃さないようにと目を離すことなくエスカレーターで一つ下の階へ降りながら、万が一を考えてフロントに電話で「今から言う服装の女が来たら引き留めろ。良いか、女が何と言おうと絶対にホテルから出すな」と伝えておいた。


宴会場フロアに招待客たちはおらずスタッフのみがいたが、そのうちの一人が俺を見つけると駆け寄って来た。そのスタッフは式場の責任者で、先程渡した資料がどうのこうのと話し始める。今はそれよりもクシマを追いかけたいのにと、話を聞きながらも視線だけは逃げるクシマを追いかけていたが、気が付けば西田が隣にいた。
これ幸いと続きは西田に託して再びクシマを追いかけようとしたら、彼女はすでにもう一つ下のフロアまで降りていて、そして見知らぬ男に腕を掴まれていた。

なんだあの男は。
もしかして婚活パーティーで仲良くなったとかじゃねぇよな?!

そんなの許さない。
俺以外は、許さない!

逃げられてる今、もしかしたらこれから終わりを告げられるのかもしれない。
でも俺は何も終わらせるつもりはないし、むしろこれからだろ!


「西田、あとの話はお前が聞いとけ」

西田が一つ頷くのを見て、急いでエスカレーターへと向かう。
さっきまでクシマの腕を掴んでたヤツはいなくなっていて、今度は彼女の前にカップルらしき男女がいた。そしてエスカレーターを降りてる途中で聞こえた、その男が放った言葉。

「そんなに誰かの世話がしたいなら、また俺が家政婦として雇ってやろうか」

なに?
なんだこの男は。クシマの知り合いか?
どういう状況なのか全く分からなかったが、この言葉を聞いたクシマの体がビクリと揺れ、そして俯いた。

いつもニコニコ笑って、おしゃべりで、たまに怒っても美味しいものを食べると途端にふにゃりとした顔をするクシマが好きだ。

俺はもう、逃げないと決めた。
自分の中にある女に対する恐怖も、怯えも、クシマを好きだと思う感情からも、逃げないと決めたのだ。
顔を見て逃げられるくらいだから、もしかしたら嫌われてしまったのかもしれない。
でも、今までのように諦めたくない。

クシマは俺の運命の女だ。

クシマは俺を諦めの世界から救ってくれた。
だから今度は俺が、彼女が怯えるものから、こわいものも、嫌だと思うことからも守ってやりたい。

恋ってすげぇ。
こんな気持ち一つで守りたいなんて気持ちまで湧いてくる。

クシマは俺に背を向けているからどんな表情をしているのか見えないけれど、彼女は泣いてる気がした。
涙は流してないかもしれない。でも、もし心の中で泣いてるのなら、それがこの男の言葉のせいなら、今の俺に出来ることは?


クシマに追いついて後ろに立ったのと、クシマが振り返ったのは同時だった。
ドン、と彼女の体がぶつかる。

相変わらず小さい。
そして今にも崩れて壊れてしまいそうに見えた彼女を、何かに堪えているかのように震える肩を、ぎゅうっと抱いた。
すると途端に小さく声を出して泣くものだから、どうしたら良いのか分からなくて、肩を抱いた手を放すべきかとも思ったけど、それだけは絶対にしたらいけない気がした。
その泣き顔も、声も、今この状況から彼女を守れるのは俺だけ。


「だ、代表?!」

突然現れた俺に、目の前にいる男は目を見開いて驚いたような顔をしている。
俺を代表と呼ぶということは、こいつは社内の人間だろうか。

「司様、彼はメープルホテル東京の営業企画部二課の山田ですね。来月のクリスマスに、ここのスカイチャペルで式を挙げる予定ですので、今は打ち合わせにでも来てたのでしょう」

式場の責任者との話が終わったのか、いつの間にか俺の後ろに控えていたらしい西田が小声であの男が誰なのかを告げるが、どこの誰だろうが今はどうでも良くて、それよりもクシマが落ち着いて話が出来る所へ連れて行ってやりたい。
彼女に場所を変えようと話そうとしたら、田中だか山本だかが声を掛けてきた。

「代表、お目にかかれて光栄です!」

そんなことを頬を紅潮させて俺に会えたことがさも嬉しいように話しているが、クシマをこんな風に泣かせたのはこの男がクシマに向かって放っただろうあの言葉のせいじゃないのか。もしそうでなかったとしても、目の前で泣いてる女をそのままに何を暢気に。

「おい、この男のせいで泣いてるのか?もしそうなら二度と会えないように南米にでも飛ばしてやるぞ。それともロシアにするか?南アフリカでもどこでも異動の名目で飛ばせるぞ」

クシマの耳元に顔を寄せて、小声でそう聞いてみると、泣きながらもびっくりした顔で俺を見上げてきた。

かわいい。
泣き顔も可愛いとか、ダメだろ。
こんな時なのに思わずそんなことを思ってしまって、咄嗟に緩みそうになった表情を引き締めるべく、ギュッとを眉根に力を入れていたら、クシマは急に怒った顔になって俺の肩あたりをポカポカと叩きながら「あたしが泣いてるのはあんたのせい!」なんて言い出した。

俺?!まだ何もしてないのに、なんで俺のせいなんだ?!
勝手に肩を抱いたからか?いや、前に触るなとクシマが言わない限りは俺も遠慮なく触ると言ったはずで、今クシマは嫌と言っていないし、肩を抱き寄せたままの俺の手を退かそうとする気配もないから無断で触ったことで泣いてるわけじゃなさそうだけど、じゃあ何が俺のせいなんだ?!

理由も分からず俺のせいと言われて戸惑いつつもポカポカと肩を叩かれながら、泣き顔だけじゃなく怒った顔も可愛いなんて思っていたら、男がクシマの腕を強引に掴んで引っ張った。

「おい、お前は代表に何をしてるんだ!」

突然のことに彼女はよろけて俺から離れてしまいそうになったから、咄嗟にもう片方の腕を掴む。そんなことにも気が付かないのか、男はクシマに向かって怒鳴り始めた。

「お前、この人が誰だか知ってるか?!道明寺財閥の代表だぞ!何したか分かってんのか?!」

「……っ!」

今こいつ、クシマに「お前」って言ったか?
それに勝手に体を触って乱暴に引っ張るなど、彼女がこわがって怯えているのが、見えないのか。

「おい、手を離せ」

「えっ?」

「彼女の腕を掴んでる手を離せと、言ってるんだ」

「いや、でもこいつは」

「……こいつ?」

「はい。こいつはいきなり代表を殴るような女ですよ?こんな乱暴な女が知り合いなのも恥ずかしいですけど、代表に暴力を振るうような不届き者は責任を持ってこのホテルから摘み出しますので!」

「山田さん、その方はこちらで預かりますので、あなたは後ろにいらっしゃるお連れ様とお帰りください」

やはりこの男とクシマは知り合いなのか。
だとしても、周りに人がいる状況で彼女に対してこの物言いと扱いは何なんだ?
西田も見兼ねて手を離すように言っているし、男の連れの女も何が起こっているのかと困惑気味だというのに、それを放ってクシマを気にしているのはどういうことなのか。

「いや、でも」

俺と男でクシマの腕を引っ張り合う。
クシマは男の手を払おうと腕をブンブンと振ってはいるが相当強い力で掴まれてるのか、なかなか解けないようだった。
何なんだ、この男は!

「おい田中!いい加減にしろ!彼女は俺の連れだ!」

「え」

俺の言葉に男が急にクシマの腕を離したものだから、引っ張っていた勢いそのままに彼女は俺にぶつかってしまった。

「わ、ごめん!」

「いや、大丈夫だ。悪いのはこの男だろ」

「でも、」

男に掴まれていたクシマの腕は、痣になるほどではないかもしれないだろうが、それなりに赤くなってしまっていた。

「ああ、ほら腕が赤くなってる。痛くないか?大丈夫か?」

「うん、見た目ほど痛くないから大丈夫」

「いや、それでも冷すなり何なりしたほうが良いだろ。それに、この男はどうする?こんな赤くなるほど強い力で掴まれたんだ。傷害で警察呼ぶか?長官と知り合いだから何とでも出来るぞ」

「は?傷害?長官?」

「とりあえず場所を移そう。まずは手当てしないと。西田、いつでも長官に連絡出来るようにしとけ」

「待って待って、長官って誰?!」

「んなもん警察庁の長官しかねぇだろ。ん?それともここは東京だから警視総監が良いのか?西田、どっちに連絡したら良いんだ?」

「長官でも構いませんが、ここは警視庁の管轄ですから警視総監を通したほうが対応は早いと思います。それか傷害で通報するなら、今は先に病院へ行って診断書を出してもらったほうがスムーズかと。まぁ防犯カメラにも映ってるでしょうから、後日防犯カメラのデータと第三者の証言としてそこは私が、そして診断書を持ってから警視総監に連絡するのが一番でしょうか」

クシマがポカンとした顔で俺を見上げてくる。
こんな時なのに泣いたり怒ったり呆けたりと、この数分でクシマのいろんな表情が見れたことが嬉しくて、それを隠しきれずに思わず笑みを浮かべる俺と、物珍しいものを見たと言いたげな西田と、そして青い顔をして俺らを見ている山本と女。
それを挙式を終えたらしい新郎新婦が何事かとチラチラと見ながら横を通り過ぎて行った。









更新が遅くなってしまい、楽しみにしてくださってる方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
次回はもう少し早く更新できると思います。
つくしちゃんの元カレの名前は山田です。


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Re: notitle 56

Re: notitle 56







ここはメープルホテル東京の最上階。

最上階から下三階分は吹き抜けになっていて、すぐ下の階はいくつかの宴会場とチャペルがあり、更にその下の階にはブライダルサロンとドレスショップ、あとは美容室に写真館がある。
そして各階を、この吹き抜け部分で行き来が出来るようエスカレーターで繋がっていたはず。

なぜ知っているのかと言えば、このメープルホテルには数ヶ月前に優紀とデザートビュッフェを食べに来たことがあるからで、その時に訪れたガーデンレストランではウェディングパーティーが出来るという話から始まった。
このメープルホテルの上層階にあるチャペルは一面ガラス張りになっていて、その大きな窓から見えるのは空のみ。正に空に浮かぶチャペルをイメージして作られたらしく、「スカイチャペル」と名付けられている。メープルホテルのHPでウェディングプランの一例を見ながら、こういう式がしたいとか、少人数向けのプランもあるとか、いつかここで式が挙げたいとか優紀が話しているのを聞いていた。


レストランを出て、とにかくここから離れようとエレベーターホールを目指したけれど、後ろを振り返って見れば道明寺 司が追いかけてきていた。しかも鬼のような形相で。

なんでそんな顔で追いかけてくるの?!あとで会う約束してるのに!
やっぱり態度を変えたあたしに怒ってて、本当は顔を見るのも不愉快だけど今すぐにでも文句の一つは言わないと気が済まないとかなのだろうか。それはそれで、きちんと受け止めなければいけないと分かってるけど、それでも、顔が!こわい!

彼の歩くスピードが早いことを知っている身としては、エレベーターなんて待ってたら絶対に追いつかれるだろうとエレベーターホールを素通りし、逃げるように早足で歩けば、目の前にエスカレーターが見えた。危ないと分かっていても、他に乗ってる人はいないからとエスカレーターを駆け下りる。
今は土曜日の昼間、ちょうど挙式中なのか、宴会場とチャペルのあるフロアには招待客らしき人は見当たらず、いるのは数人のスタッフのみで静かだった。そんな中を慌てて歩くあたしにスタッフさんたちは訝しげな視線を向けてくる。騒がしくして申し訳ないと思いつつも、それどころではなく、そのまま下へと思ったら下りのエスカレーターはフロアを周って反対側にあった。

急いで宴会場の前を通り過ぎ 、また下りのエスカレーターを駆け下りる。
その途中で視線を上に向ければ、やっぱり怒った顔のままの道明寺 司が宴会場の前を歩く姿が見えたけど、その彼の後ろにいるのは鈴木さん?!
あたしと目が合った鈴木さんは、手に持つ何かを振り上げた。

あれは、あたしのコートだ!
バッグは貴重品も入ってるからずっと手に持っていたけど、コートはレストランのクロークに預けていたのを忘れていた。

そしてエスカレーターはこの階で終わり。ここから下へ行くにはエレベーターに乗らないといけない。
こわい顔でミドウさんが追いかけてくる。でもコートを持って追いかけてきてくれてる鈴木さんを無視することも出来ないし、どうしようと一瞬立ち止まった、その時。


「つくし?」

懐かしい声に名前を呼ばれて振り返った先にいた人。


「なんで、」

どうして元カレがここに?!
突然の再会に驚きつつも、隣には綺麗な顔立ちの女性。そして彼らが出てきた所は、ブライダルサロン。

ああ、そういうことか。

もう記憶も朧気ではあるけれど、あの浮気現場を目撃してしまった時にベッドの上で彼と抱き合っていた女性、ではないだろうか。
やはり本命はあの時のこの女性で、この人からしたらあたしが浮気相手だったということか。でも、それを知ってもさほどショックではないのは、どうしてだろう。

その時、急に腕を掴まれて、遂に彼に追いつかれてしまったと思ったけど、あたしの腕を掴んだのはミドウさんじゃなくて鈴木さんだった。

「あ~~~、良かった!歩くの早いですねぇ!」

「あ、ごめんなさい!コート、ですよね」


道明寺 司より後ろにいたはずのに、なんで先に鈴木さんがあたしに追いついたのかと不思議に思って、コートを受け取りつつ話しながらも周りに目を巡らせてみると、上のフロアで彼とメガネをかけた真面目そうな男の人と、さっきすれ違ったスタッフさんが話しているのが見えた。きっとエスカレーターを降りる前にスタッフさんに声をかけられたのだろう。
それでも、彼はあたしから目を逸らさず睨んでいて。いつもは瓶底みたいなメガネをかけてたからよく分からなかったけど、なんと眼光の鋭い男なのか。


「お前、今度は歳下の男か?相変わらず人の世話ばっかしてんの?」


横から聞こえた声と言葉に、カッと頭に血が登る。
元カレに顔を向けると、ニヤついた顔であたしと鈴木さんを見ていた。

なんで、好きだったんだろう。
なんで、優しいと思ってたんだろう。
なんで、結婚したいと思ったんだろう。

元カレは、こんなことを言う人だったの?

「やめて。この人はそういうのじゃないから」

自分が浮気をしたのに悪びれることなく、関係のない鈴木さんまで巻き込むような発言に、声が怒りで震えそうになる。


「……あの、僕はレストラン戻りますね」

「あ、ごめんなさい。コートありがとうございました。私は先に帰らせていただきますので、牧野によろしく伝えてください」

何やら不穏な空気を感じ取っただろう鈴木さんは気まずそうにしつつも、あたしの言葉に頷くと足早に去って行った。


「あ、レストランってアチェロか?今日は婚活パーティーやってるよな、確か。そういえばお前もうすぐ三十路だっけ?婚活パーティーなんかに参加してまで相手探しに必死になってんのに、誰にも相手にされなくて帰るところとかだったらウケるわ」

「……あ、あんたはもう今は何の関係もないんだから、私が何をしようがどうでもいいでしょ?!」


お昼時なのだから食事に利用しただけかもしれないのに、婚活パーティーに来たのかと憶測のみで発言するのもどうかしてるし、なんでもう別れて一年以上経ってるのに偶然会っただけでこんな言われ方をしなければならないのかとか、そもそもにどうしてレストランで婚活パーティーが開催されていると知ってるのかとか聞きたいことも言いたいこともあるけれど。
婚活パーティーに来ても一人で帰るあたしと、もうすぐ自分は結婚するということを比べて優越感でも持ったのか、あたしが傷付くだろうことを他人がいる前で笑いながら言う人だったなんて。
どちらにしろもう、この人に恋愛感情はない。別れてもしばらくはあんなに未練たらしくウジウジと悩んでいたはずなのに、時間をおいて再び顔を合わせても付き合っていた頃のような感情は微塵も湧かなかった。

優しいと思っていた彼は所詮、上辺だけの虚像に過ぎなかったということだろうか。
いや、それともそうではなくて、他人の世話を焼くということは、その人の至らないところや出来ないことを探し出して代わりにやってるとも言える。優しさの押し売りをしていたのはあたしの方で、彼がそれを望んでいたかどうか確認したことはなかった。
あれこれ勝手に身の回りのことをしていたけれど、もしかして至らぬところを、粗を探されているようで嫌だったのかもしれない。あたしが良かれと思っていただけで、彼からしてくれとは言われたことはなかったと、今になって気がついた。

『小さな親切、大きなお世話』

あたしはいつも自分のことばかり。
誰かの世話をしていることで、自分も誰かの役に立つんだと、そこで承認欲求を満たして自己満足していたのかもしれない。

なんて酷い自己嫌悪。
思わず重いため息が出る。もうこれ以上は何も聞きたくなかったのに、元カレは尚も言葉を続けた。


「そんなに誰かの世話がしたいなら、また俺が家政婦として雇ってやろうか」


また?あれは浮気しているのを目撃されて、咄嗟に吐いた嘘で言い訳だと思っていたから、また雇ってやるという言葉に何を言っているのかと、すぐに理解出来なかった。

じゃあ、好きだと言ってくれたのは、休みが合えばいろんな所へ行って楽しいねって笑って言ったのも、幾度となく一緒に過ごした夜も、全て、嘘だったの?

あたしには全部、本当だったのに?

まさか元カレにとってあたしは本当に家政婦要員でしかなかったのだと、今さらになってまざまざと突きつけられるとは。結婚したいとまで思ったこの気持ちは、本物だと思っていたあたしの気持ちは、あなたの気持ちも本心だと信じていたのに。

もうこれ以上は無理だ。
別れてから一年半も経ってるし今さら恋情などないけれど、こんなことを言われてるのに笑い飛ばすことも怒って言い返すことも出来なくて、悲しいも悔しいも、自分の愚かさや人を見る目のなさも、今までの楽しくて優しかったいろんな思い出がモノクロになって、もう元カレに何の感情も持ちたくないのに、心の底に溜めたドロドロした醜いものが、自分の意志とは関係なくあふれてしまいそうで、こんな奴の前で泣きたくなんかないのに、涙が勝手に溢れそうになる。

泣いて感情を顕にするような無様な姿を見せる前に、とにかく早くこの場を離れたくて体の向きを変えた、その時。どん、と誰かにぶつかった。


ああ、そうだ。
あたしは逃げていた。

逃げないと決めたはずなのに。


ぶつかったその人はスリーピースのスーツ姿で、見たことのない怒った顔をしていて、それなのにあたしが知ってる香りを纏う人。

まるで、パブロフの犬。

しばらく会っていなかったのに、半年の間にすっかり馴染んでしまったこの香りを少し感じただけで、いつもの優しさと、温かさと、少し乱暴な口調で話すところも、今まで会って話して一緒に過ごした時間は確かにあって、その全てにどうしようもなく心が揺さぶられる。
心臓が、心が、ドクリと音を立てた。


ねぇ、ミドウさん。
あたしたちが一緒にいたのは二週間に一度で、それもほんの数時間だけ。

勤め先も名前も知らない、条件ありきの一時的な関係。
友人のままでいようと、芽ばえてしまった淡い恋心も彼の前では隠そうと決めた。
それなのに、その香りが、こわがることも怯えることも躊躇うことすらなく、あたしの肩を抱くミドウさんの手が、まるで全てから守ってくれているようだった。
それが例えあたしの勘違いだとしても、とても安心できてしまったから。


これだけは信じようと思った、あの夏の日の香りと体温が、抑えていたはずの今までその心の底に溜めてきたものをいとも簡単に溢れさせ、それが涙になって頬を濡らした。















更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。


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