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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 11

Re: notitle 11







姿見の前でくるりと回る。

変なところないよね。
白のざっくりニットに、紺色のタイトスカート。コートは黒にした。
靴も黒のショートブーツ。
アクセサリーはどうしようか悩んで、シンプルなネックレスとピアスを付けることにした。
肩より長い髪の毛は後ろで束ねてポニーテールに。

今日は本当にミドウさんは来るのかな。
お店を予約したと言っていたから、今日は絶対来てくれるはず。
もし来なくてもパンケーキだけは絶対に食べて帰る!

前回ドタキャンしたお詫びだからと予約をしてくれたけど、今日行く予定のお店は予約なしだと1時間以上は並ぶと話題の、美味しいパンケーキを出すカフェだった。
素材選びからこだわって作られたという、もっちりフワフワ厚めのパンケーキ。
生クリームは添える程度で、パンケーキ本来の味を楽しんで、と言うのがコンセプトらしい。
やだ、想像しただけで涎が出そう。


歩いて5分の最寄り駅から電車に揺られること10分。
待ち合わせの駅に着いて、駅ビル内の本屋さんへとエスカレーターに乗って向かう。

ミドウさんの今日の服装は、黒いコート、黒いセーターにジーンズ。
……どこにでもいそうな服装っぽいから、誰だか分からなくて落ち合えないとか有り得る。
待ち合わせ時間まであと少し。

本屋さんに着いて、まずメッセージ。

『着きました』

よし。
そのまま真っ直ぐガイドブックコーナーへ。
昨日発売の食べ歩き本が目に入ったから手に取り、ちょっとだけ立ち読み。


ハッと気が付くと、約束の時間を5分過ぎていた
ちょっとのつもりが夢中で読んでしまった。慌てて本を置いてスマホを取り出し、アプリを開く。
既読なし、メッセージもなし。
え、今日もまたキャンセルとかないよね……?

とりあえず探してみよう。
時間通りに来ていれば、本屋さんのどこかにはいるはず。
そう思って振り返ると、後ろに立っていた人とぶつかりそうになった。

「わ、ごめんなさい!」

思わず謝ってその人を見たら、とても背の高い人で。
デカ!こんな背が高い人、身近にはいないから少しびっくりした。
そういえば先月会った花沢さんも背が高かったな〜、なんてことをふと思い出したのは同じくらいの身長だったからだろうか。


「クシマさんですか」

その背の高い男の人が、そう言った声にちょっとドキッとした。
これがバリトンボイスと言うのだろうか。
低くて落ち着いていて、でもどこか甘さがあるような、そんな声。

「……はい。もしかしてミドウさん、ですか?」




本屋に着いて、「クシマ ツキノ」から聞いていた服装をしている人物を探していた。

フロア1階分はある広い本屋に明確な入り口などなく、エスカレーターを上がってきたところの近くには聞いていた服装の女はいなかった。
その場で立ち止まり、どうしようかと考える。

このまま「クシマ ツキノ」は見つからなかったことにしてバックレようかと思った。
でも、その時やはり頭の中に浮かんだのは悲しそうな顔をした姉で、踵を返そうとした足を踏み止まらせた。

姉ちゃんの為。
姉ちゃんの、為だ。


「クシマ ツキノ」は食べることが好きで、美味しいご飯屋さんを探すのが趣味だと書いてあった。
それならガイドブックか、暮らし・料理、グルメコーナーあたりにいるだろうか。

とりあえず案内板を見ながら探していると、ガイドブックコーナーのメイン通路に面した新刊が平積みされているところで真剣な顔をして立ち読みしている女が一人。

服装が、聞いていたのと同じだ。
たぶん彼女だろうと思うが、女に自分から声を掛けたことなどないから、どう声を掛けたら良いのか分からない。
どうしようかと考えながら、ゆっくりと近寄り彼女の近くに立ったら、彼女はハッとした様子で読んでいた本を戻すとスマホを取り出した。
そして急に動いて振り返るから、彼女とぶつかりそうになってしまった。


ちっさい。
彼女はヒールのあるショートブーツを履いているようだけど、それでも俺を見上げていた。
とりあえず確認はしなければと「クシマさんですか」と聞きながら彼女を観察する。

まぁ、あきらの言う通り、可愛いかも、しれない。
普段そんなにまじまじと女を見ることなどないし、見たとしてもいつもは白塗り能面の仮面顔にしか見えないはずなのに、この「クシマ ツキノ」の顔はそうではなかった。
それに、さっきぶつかりそうになった時も鼻がもげるような、臭い香水の匂いもしなかった。

俺の知っている女とは、何かが、違う?

それに、さっき可愛いかもとか思わなかったか、俺?!
そんな馬鹿な。

姉ちゃんの為にと思い込み過ぎて、何かのフィルターが掛かっているのかもしれない。
こんなの絶対に気のせいで、勘違いだ。



「あの……、」

「ミドウさんですか」と声を掛けたのに、反応しないどころか、だんまりで見つめてくるだけの男にどうしたものかと悩んでしまう。

「クシマさんですか」と声を掛けてきたし、見た目もプロフィールの写真と同じ人物に見えるから返事をしたのに。
というか、すごい眼鏡だなぁ。
こんな瓶底みたいな眼鏡がこの世に本当にあるのかと、まじまじと見てしまう。
髪の毛も、何だか鳥の巣みたい。

ずっと見上げてるのって意外と疲れるなと顔を下に向けると、目に入った彼の靴。
ジョン・ロブ?
着ている洋服と靴のチグハグ感すごい。
もう一度彼を見上げると、彼もまだあたしを見ていた。

何、この時間。

「あの!ミドウさんですか?」

さっきより少し大きめの声で声を掛ければ、彼はハッとした顔をしてコクンと頷いた。
女性が苦手と聞いてはいたが、ここまで口数少ないとは。
まぁ一人目に会ったおしゃべりな人よりは良いかもだけど。

「クシマ ツキノです。今日はよろしくお願いしますね」


にっこりと笑って自己紹介する彼女は第一印象は悪くなく、笑顔も媚びた感じではなくて、自然と溢れるような笑みだった。
いつもの俺ではなく、ダサい格好の俺だから見せる笑顔だろうか。

「こちらこそ、よろしく……」

え、めちゃくちゃダサくなかったか、今の俺!?
ダサい格好で尻窄みしたような声が出てしまった。母と姉以外で、こんな普通に女と話すことなんかほとんどないから、上手く言葉が出てこなかった。
女と話すことがあるとすれば仕事をする上で仕方なく取り繕う時くらいだ。

そうだ、取引先だ。
この女は取引先の人間だと思うことにしたんだった。

「先日は急にキャンセルして申し訳ない。無駄な時間を使わせた」

おっ?良いんじゃね?
普通に話せた。

「……いえ、急用なら仕方ありませんから、お気になさらないでください。それに今日はパンケーキのお店を予約してくださったんですよね?一度行ってみたかったので、嬉しいです!」

彼女はなぜか一瞬だけ訝しげな顔をしたが、すぐに笑顔に戻って返事をしてくれた。

「じゃあ、早速行きましょうか」

そう言って歩き出すと、彼女は横に並んで一緒に歩き始めた。
そして駅ビルを出たところまでは良かった。
だが、駅ビルを出て少し歩いて、ふと横を見ると彼女がいない。

あぁ?!
どこへ行った?!

横を歩いていると思ったのに、慌てて後ろを振り返ると少し遠くでぴょこぴょこと跳ねるように歩いている人間が一人。
彼女だ。
なんであんなに後ろを歩いてるんだ?
訝しげに思いつつも、彼女のところまで引き返す。

「ミドウさん、あの、もう少しゆっくり歩いてもらえますか?背の高い人って歩くのも早いんですね〜」

……そんなことがあるのか。
身長の違いでこんなに歩幅も変わるとは知らなかった。
俺が歩く時は周りが勝手に付いてくるから、他人の歩幅など気にしたこともなかった。

「……早かったか」

「はい、ちょっと早かったです。でもミドウさんは背が高いから離れちゃっても見つけやすいですね!」

ニコニコと話す彼女は随分とポジティブな思考の持ち主のようだ。
置いていかれたことに怒っても良いだろうに。

いや、でもこの調子で良いんじゃないのかと思い当たる。
素っ気なく適当に扱っていれば、次も会いたいなどと言ってこないだろうと思っていたんだから、丁度いい。
さっきよりはゆっくりだが、それでも彼女には少し早歩きくらいの速度で歩くことにした。

案の定、彼女は少し小走りに近い歩き方をしている気がする。歩くのに必死で話しかけてもこないし、都合が良い。
さすが俺、頭良いな。

だが、あっという間にパンケーキの店に着いてしまった。
横目でちらりと彼女を見ると少し息が上がっているようで、頬はほのかに赤らんでいるし、はぁはぁと口から漏れる息が白くなっては消えていく。
……ほんの少しだけ罪悪感。
いや、今日だけの女に罪悪感なんて感じる必要ないだろ!


しかし店外にまで漏れる、この甘い匂い。
本当にこの店の中に入るのか?!
寒空の下、店の外に並んでいるのは女が多いが、カップルで来ているのか数人の男もいることに少し安心する。
女ばかりの店内など堪えられない。
それでも店内に入るのを躊躇っていたら、彼女が「入りましょう!」と意気揚々といった感じで声を掛けてきた。

姉ちゃんの為、姉ちゃんの為。

小さくため息をついて、仕方なく店内へと足を踏み入れた。









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