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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 40

Re: notitle 40







テーブルに顔を突っ伏したまま、なかなか顔を上げない彼女の肩を揺すりながら話しかけた。

「おい、まさかまた風邪がぶり返して熱があるんじゃないのか?大丈夫か?すげぇ顔が赤いぞ」

すると彼女はガバッと顔を上げるから、肩に置いていた手も自然と離れた。
風邪じゃないから大丈夫と、なんとも弱々しい声で話す彼女の顔は、まだ赤い。彼女はグラスに入ってるアイスカフェオレをストローで忙しなく動かして氷をカラカラと鳴らしている。
そのアイスカフェオレを飲もうとストローに近付けた彼女の唇に、つい視線が向いてしまった。
好きだと知った途端に、煩悩に塗れる俺の頭の中。

それを誤魔化そうとしたのもあるけど、本当に大丈夫なのかと、今度は彼女の額にぴたりと手を充てれば、彼女の言う通り熱はなさそうだった。
じゃあ何であんなに顔を赤くしていたのだろうか。
少しの距離だと思っていたけど、あの暑い中を歩かせたのが良くなかったか。もう一度首を傾げながら彼女の額から手を離すと、まだ彼女の顔は赤いままで、そしてその黒い瞳を更に大きく見開いて俺を見ていた。

「なんだ?どうした?」

「いや、あの、なんでそんなに普通に、私に触れるのかな、って思って……」

「うん?だって練習してただろ?」

「そ、それは、そうだけど!ちょっと前まで、手に触るのだっておっかなびっくりだったのに」

「クシマは俺の嫌がることはしないって信頼してるから大丈夫だ。もちろん俺もクシマの嫌がることはしない。俺はもうクシマに触られるのは嫌じゃないし、それに練習させてくれるくらいだからクシマも俺に触らるのは嫌じゃないんだよな?だからクシマが触るなと言わない限りは俺も遠慮なく触ることにした」

「私から触っても大丈夫なの……?」

「さっき手を繋いだのはクシマからだったろ?」

「……うん」

「もう大丈夫だから、気にしないで好きなだけ触って良いぞ」


そう言いながらニコニコと話すミドウさんに、やっぱりモヤモヤしたような、寂しいような気持ちが出てくる。
そこまで触れ合えるということは、もうすぐこの関係も終わるってことなんだよね?
お姉さんに会って、結婚話がなくなって、そしてあたしと会うのを終わりに出来そうだから、そんなにご機嫌なの……?
それが寂しいと思ってるのは、あたしだけ?

でもミドウさんはさっきから、あたしが看病してくれるなら風邪を引いてもいいとか、レストランよりあたしの作ったご飯が食べたいとか、遠慮なくあたしに触ることにしたから俺に触って良いとか、何のつもりなんだろう。
期間限定の、今だけの関係なのを分かってて言ってるんだよね?何でそんなありえない未来の話ばかりするんだろう?

ミドウさんが女とは付き合いたくない、結婚なんて絶対にしたくないって言った。だから、それを阻止する為に協力して、お姉さんに会って、おしまい。
そう、言ってたよね……?


なんだか急に、何かがいつもと違うような気がして、あたしの中でじわじわと広がる得体の知れない不安感と、疑問と、あとは怒り?

この人、何がしたいの?

ミドウさんは本当にいい人だと思ってるし、信頼もしてる。
女の人は嫌いって言って、本当に触るのも触られるのも嫌そうに見えてたから。
なのに、この変わり様はなんだろう?
お見舞いに来てくれてから今日までの二週間の間に、何かがあった?

いや、お見舞いに来てくれた時にはもう、いつもよりミドウさんから触れてくる回数は多かった。
その前は、あたしがキャンセルしたから、会わなかった一か月の間に何かが、あった……?


……それとも全て、初めから?

そうだ。この人は初めから怪しかったではないか。
だから、信頼関係を築く為に友人からならと始めたのに、次第に柔らかくなっていく雰囲気に、その怪しいと思ったことを忘れていた。

散りばめられたものを集めて考えれば、何もかもが、本当は、初めから全部嘘だったのではないかと……、

高級ホテルのお土産、日本各地に世界各国を飛び回ってて、高級外車を持てるような人がお友達。

やっぱり、冗談かと思っていた金持ちの御曹司説が本当で、あの胡散臭い友達とグルになって、結婚願望のある女の人を揶揄って騙して落としたらおしまい。みたいなことをゲーム感覚で、やってるとか……?

本当は全然女の人も苦手じゃなくて、結婚を阻止するなんて話も嘘で、そんな嘘の話に騙されて、体調が悪くなればお見舞いなんて優しさを見せて迂闊に部屋に上げて、お人好しな馬鹿な女だなって?

だからなの?
だからあんなに家族に結婚を迫られて困ってるって言ってたのに、半年経ってもそれ以降何も言わないし、お姉さんに会ってくれとも言わなければ、名前も仕事も、知らないまま。

聞かれても言いたくないことは言わなくていいと、初めに言ったのはあたし。
初めから騙して揶揄うつもりで、いつか怪しまれて何かを聞かれてもはぐらかして教えるつもりもなかったなら、そんな好都合な条件ないよね。

さっきまで浮かれて、恋人同士に見えたら良いななんて思って、実際に交際しているように見られてて、そんなことで学生みたいに若い子気取りで顔を赤くしたりして。
どうやってミドウさんに好きになってもらえるかなんて優紀と話して、いつもより少し女らしさを出したりなんかして。

あたしこそ、期間限定だって分かってて、こんなこと考えて、浮かれて、
……馬鹿みたいな、


ほら、馬鹿を見た。

余計なお節介で、手のかかる兄のお世話をしていると思えばなんて、軽く考えて。また同じことの繰り返し。
ミドウさんと結婚したいとか、そういうことじゃなかった。ただ、あの穏やかな空気と、忌憚無いやり取りと、日常に入り込んだミドウさんの香りと、手と。

一緒にいるだけで、良かった。

それがあまりに居心地が良くて、また勘違いした。
もう恋も結婚もしないと、そう思っていたのに、何度も何度も何度も、何度も!

進にも、優紀にも言われたのに、あたしを心配してくれてる大事な人の言葉を聞かずに、婚活アプリで知り合った人の話を鵜呑みにして。

そうだよね、あたしなんて平凡を絵に描いたような何の特徴もない、美人でもなくスタイルが良いわけでもない、際立って得意なこともない、ただぼんやりと何もない日常を過ごしてるだけの、男を見る目のない女だった。

でも、彼がどんな意図を持っていたとしても、差し入れを持ってお見舞いに来てくれたことは嬉しかった。
助けられたし、お礼をしたいのも本当。

まだ、本人に本当の話を聞いたわけじゃない。
どういうつもりなのって、聞いてからでも遅くはないのかもしれない。

でも、こわい。
それが本当だと言われたら、あたしはあたしじゃいられなくなりそうで。
さっき感じた得体の知れない不安と、この恐怖は何に対して感じているのか、自分でも分からない。
今まで知らなくても何も感じなかったのに、好きだと気付いてから知らないことに恐怖する。

それならもう、何も聞かずに知らないふりして、何も気付いてないふりをしたまま、最後に彼の希望通りに手料理を振る舞って、彼と過ごすその日を思い出にして、もう、この恋を、おしまいにする?

知るのも、知らないのも、同じくらいにこわい。
今ならまだ、間に合う、よね?

そう思ったらなんだか、すぅと頭の中がクリアになったような、でもどこかぼんやりしていて、ニコニコとあたしを見ているミドウさんとあたしの間に一枚のクリア板があるような、そんな感覚。
それはぼやけて歪んで、知っているはずのミドウさんが、目の前にいるはずのミドウさんが、見えなくなっていくような。

何が、どこまでが本当で、嘘なのか、分からない。

笑って誤魔化して、他愛ない話をして、そんなあたしを俯瞰しているような、そんなどこか他人事のように考えながらも表面はきっといつも通り、にこりと笑いながらミドウさんと話が出来ているはず。
いつも通り、お土産とミントタブレットを交換して、貰ったお土産に喜んで、はしゃいで。

そして二週間後に、うちでミドウさんにご飯を作る約束をして、いつも通り喫茶店の前で別れた。


それは、あたしの中にある女の勘なのか、彼に対して失くしかけている信頼のせいなのか。

いつもと違うことばかりの今日は、あたしもいつもと違っていた。
だからこれは偶然ではなく、必然だったのかもしれない。

そんなこと今までしたことなかったのに、この日はなぜか、こっそりミドウさんの後を付けた。
こんなことするべきじゃない、今すぐやめろと、頭のどこかで警鐘が鳴り響いている。それでもまだ心のどこかで、彼を好きだから最後まで信頼していたいと思うあたしの気持ちが、足を進めてしまった。


ミドウさんは喫茶店から少し離れたところにあるコインパーキングに入った。
そこには先日見た、あの赤いスポーツカー。そして、その車の中から三人の男が出てきた。

胡散臭いと思ったミドウさんの友人と、
二回目に会った時に喫茶店にいたイケメンと、
花沢さん。

彼らと笑いながら少し会話をしたあとに、ミドウさんはメガネを外して、当たり前のように運転席に乗り込み、他の三人を乗せて、そして去っていった。

なんで、こんな時ばかり女の勘は当たるのかな。


どこからが本当で、どこまでが嘘かなんて、知らないほうが、分からないままが良かったのか。

いずれ、馬鹿な女だなって正面から言われた時の為に心構えが出来る分、知って良かったのかもしれない。
それをいつ言われるのか分からないけど、やっぱり二週間後にミドウさんに会ったらそれでおしまいにしようと、さっき考えていたことを思い出して、そして、視界が歪んで、纏わりついて暑いはずの空気の中で、頬を伝う涙だけが冷たい。


天国から地獄、だ。














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