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Re: notitle 41
[No.166] 2023/04/27 (Thu) 18:00
Re: notitle 41
車に乗る前に見た、メガネを外したミドウさんの素顔。
その顔を見た瞬間に、なんで今まで自分は気が付かなかったのか、馬鹿にも程があると思った。
知っている名前だけでもと調べてみたら簡単だった。
道明寺 司と花沢類。
この二人でウェブ検索してみれば、まず出てきたのは「F4」という単語。
そこから辿れば辿るほどに、容易く出てくる情報。SNSが発達した今、余程のことでない限り、ある程度は情報として出てくる世界だ。
道明寺 司、花沢 類、美作あきら、西門総二郎。眉目秀麗で花のような男四人組で「F4」。
ここ半年の間に、やたら規格外なイケメンに遭遇するとは思ってたけど。なるほど、それとなくさり気なく見られていたのか。
この四人、幼い頃から素行は良くなかったらしい。学生時代は暴力行為が多かったようだけど、今はそれぞれ立場もあるみたいだし、目立たないように悪巧みしてるのか。それこそ、こんな大企業や名家の御曹司なんだから、金に物を言わせて握り潰した不祥事もありそうではある。
まさに金持ちの道楽と言えるだろうか。
だから素性も名前も仕事も言わない訳だ。
なによ、メールアドレスの桜餅って。
道明寺じゃすぐにバレるかもしれないから桜餅なわけ?
……ちょっと待って。
ミドウ、ジョウ?
そこから考えること数秒。
「ドウミョウジ」を並べ替えただけじゃない!
あたしも「マキノ ツクシ」を入れ替えただけだけど、今までニックネームにそこまで意識を持っていくことはなかった。
まぁでも初めに可能性として考えた金持ちの坊っちゃん説が当たるなんて、あたしの勘もなかなかじゃないなんて自分を少しでも慰めようとしたけど、そんなことで負の思考の連鎖を止めることは出来なかった。
この人たちは結婚願望のある女性をターゲットにして遊んでいて、今回たまたま結婚願望のないあたしに、いかにその気にさせるか反応を見て楽しんでいたとか?
きっとこういう人たちはもう親が結婚相手を決めていたりするんじゃないだろうか。政略結婚とか聞くし、そうなる前に遊んでおこう的な?
ん?
家族に結婚を強要されるっていうのはあながち間違いでもなくて、女嫌い云々はともかく、まだ遊んでいたくて結婚を阻止したかったってこと?
……結婚だけは絶対にしたくないけど、女遊びはしたい?
でもそれなら女嫌いの設定は面倒じゃないだろうか。
そんな設定にしなくても今まで女遊びをしてたなら、いくらあたしが結婚願望をもっていないからって、女嫌いなんてまわりくどいことをしなくても手練手管はありそうなものだけど。
それに結婚を阻止したいのに、ご両親ではなくお姉さんを出してくる理由もいまいち分からない。
う~~~ん?
それにしても花沢さんも一緒にいたのはびっくりした。
でも花沢さんがあの婚活アプリの責任者だ。そこからターゲットを探して遊んでたのなら公私混同甚だしいけど、金持ちの道楽に理由も意味も分かりたくないし、話を聞いたとしても理解出来ない気がする。
……まさか、進まで加担させられてるのだろうか。
いや、進はそんな悪いことが出来る子じゃない。身内の贔屓目とかじゃなく、あの子は弱気なことが多いけど、筋を通す芯のあるしっかりした子だし、隠し事も下手だからそれはないだろうと思う。
きっと進が花沢さんに「プティ・ボヌール」に行きたいと言ったことが発端なのかもしれない。
そしたらきっと、全てはあたしだ。
交換条件に行きたいなんて言わなければ済んだ話で、連れて行ってくれるという話を断れば良かったのだ。なのに滅多に入れないレストランに行けることに浮かれて、花沢さんに申し訳ないと思いつつも行ってしまった。
そこで花沢さんに目を付けられたのであれば、もう自業自得としか言いようがない。花沢さんもそんなことするような人には見えなかったけどな……。
あ、あたしは男の見る目のない女だった。
花沢さんはアプリの責任者だから「ミドウ ジョウ」のプロフィールだって、どうにでも出来るのだろう。
今まで何人の女性が騙されてきたのかなんて考えても今さらどうしようもないし、いま現在で言えば、あたしに結婚詐欺や金銭的な被害はないから何かをどこかに訴えることも出来ない。
お金持ちでイケメンな人たちのまわりには自ら声をかけなくても、きっと沢山の女の人が集まるはず。だからミドウさんの正体を知ってしまった今、こんなことをしているのは明らかな犯罪になるような結婚詐欺でも、お金が目的ってことでもなく、単純に人の気持ちを弄んで楽しんでいるようにしか見えないのだ。
半年もかけて随分凝った遊びをしてると思うけど、だからといって女性を騙すようなことをするなんて許せるものでもない。
いや、決めつけは良くないのは分かってる。
まだ本人から何も聞いてないし、何を聞かされたわけでもない。自分が悪いほう悪いほうへと考えてしまう癖があるのも分かってる。
でも「聞いても答えたくなければ答えなくていい」と自分から言ってしまっているから、それを持ち出されたらもう何も言えないし、それ以上は聞けない。
こわい。
ただ、ひたすらにこわいのだ。
好きになった人に騙されていたかもしれないということが、こわい。
これが、このあたしの想像が、本当に本当だったら。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
あの穏やかな空気も、気まずくない沈黙も、大きな温かい手も、香りも、お土産も、全部……、
全部、嘘、だったら?
風船のように大きく膨らんだ気持ちは、彼の元へ飛んで行かないようにと括り付けた紐を必死に引っ張っていたけど。
もういっそのこと、その手を離して空へと放してしまえば簡単なのに、半年かけて少しずつ膨らんだものを割れないように飛ばされないように大事に大切にしてきたものを、本人からきちんと話を聞かずに手放すことも出来なくて。
でも悪い方へと向かう思考を止めることも出来なくて、だんだんと萎んでしまいそうなこの膨らんだ気持ちも、最後はあの人のところへ飛んでいくことも出来ずに、へちゃりと形を失くして、また心の底に落ちていくのだろうか。
今まで見えないフリをして、心の奥の奥に押し込んで蓋をして、何重にも鍵をかけて、何かを誤魔化してきた。
それを深く深く、心の底の見えないところまで沈めてしまえるように、目に見えるものは全てそこに捨ててしまえれば良い。
そして、また鍵だけが増えていく。それはまるでパンドラの箱のように、あたしの中の汚いモノの成れの果てが詰まってる。
考えても考えても、どうしても楽観的な考えには至らなくて、それでも時間はみんな平等に流れていく。
ちょっと前までは楽しみだった二週間が、こんなに気の重いまま過ごす二週間になる日が来るとは思わなかった。
ミドウさんから食べたいとリクエストされたのはお好み焼きだった。
幼い頃にお姉さんに作ってもらって食べてから、好物になったって言ってた。あんな大財閥の御曹司の好物がお好み焼き。
もうどこからどこまでが本当で嘘なのか分からない。
こんな、半年かけて作ってきた信用も信頼も、根底から覆されるような、人間不信にもなりそうなことが起こるなんて。
そもそもに出会い方からして怪しかった。
その疑いの目を最後まで持っていないといけなかったのだ。
男を見る目がなくて、お人好しで、頼まれたら断れない。自分がそういう人間だと分かっていたはずなのに。
あれだけ恋なんてしない、結婚もしなくていいと思っていたのに、それが恋だと気付いたら坂道を転がるように落ちていって、止めることなんか出来なかった。
違う。
止めたく、なかった。
ミドウさんとならと、一瞬でも夢を見てしまったから。
馬鹿すぎて自分を嫌いになりそう。
誰かに話を聞いてほしい。
どうしたらいいのか、教えてほしい。
でも、こんなこと誰にも言えない。
巻き込めない。
あたしの将来を心配してくれた両親に、それを頼まれてどうにかしてやりたいと思ってくれただろう進に、そして話を聞いて応援してくれた優紀に。
言えるわけない。
これは、あたしの問題だ。
あたしが、一人の男に恋をして、終わりにしようとしている。
それだけの話なんだから。
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