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花より男子の二 次 小 説。つかつくメインのオールCPです。

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Re: notitle 42

Re: notitle 42





ピンポン、とオートロックのチャイムが鳴る。

がんばれ、あたし。
大丈夫。いつもと同じで、会う場所が違うだけ。

そして、それが今日で終わるだけ。
何でもないふりをして、何も知らないふりをして。

がんばれ、あたし!



そして、玄関のチャイムが鳴る。
がんばれ。がんばれ、あたし。
あたしは、何も知らない。今まで会って話していたミドウさんしか知らない。
ミドウさんの本当の姿を知っていると、思わせたらいけない。

大丈夫。

あたしは、雑草のつくし、だから。





ミドウさんと一緒にお好み焼きを作った。
予め材料だけは揃えておいて、タネは同じだけど、ホットプレートで焼くときに全部違う具材を乗せて小さいお好み焼きをたくさん作って味比べして。
ミドウさんは自分で作ったことがないらしく、お好み焼きもお姉さんが作ってくれた時に食べたきりだと言う。
それで好物ってどういうことなの?と思うけど。

シーフード、チーズ、お餅、豚肉、じゃがいも、ツナ、納豆、たらこ。

始めは上手く返せなくて生地をぐちゃぐちゃにしてたミドウさんも、だんだん上手にひっくり返せるようになって、崩さずに返せた時は嬉しさのあまりハイタッチまでした。

たくさん焼いて、二人でたくさん食べて。
食べきれなかった分はラップに包んで作りおきで冷凍することにして、粗熱が取れるまでお皿に載せて台所に置いてある。

ホットプレートとボウルと、菜箸とフライ返しと、お皿と、いろいろと片付けて洗って拭いて仕舞う。
台所で器用にクルクル動くんだなとか、先の先まで考えて使って片付けて作るなんてすごいとか、なんだかいつもしている当たり前のことを褒められて、なんだかこそばゆい。


ミドウさんは家事を一切したことがないと言った。仕事が忙しくて家の中まで手が回らないから、定期的にハウスキーパーさんが来るらしい。だから、自分のことを自分でしっかりやってるクシマは偉いなって。
ミドウさんが家事を出来ないのは、仕事が忙しくて頻繁に出張に行ってるから仕方ないことなのに。
ご飯もほとんど外食で、家に調理器具は一切なく、あるのはコーヒーメーカーくらいだとか。

お好み焼きじゃなくて、コーヒーを好物にしたら?なんてクスクス笑いながら言ったら、それならミントタブレットも好物にするか、なんてまた笑いながら話す姿に、胸が締め付けられる。


ダイニングテーブルを片付けて拭いて、二つのグラスに冷蔵庫で冷やしておいた麦茶を注いでコースターの上に置く。
お好み焼きで少し油っぽくなった口の中を麦茶ですっきりさせたかったから、コーヒーは後にした。
麦茶を注いだばかりなのにグラスの表面はすぐに結露して、溢れた雫はコースターに吸い込まれていく。


「クーラー入れてたけど、ホットプレート使ってたからやっぱり少し暑いね。お好み焼きの匂いも篭ってるし、ちょっと窓開けるね」

ダイニングテーブルから離れてリビングのベランダに繋がる掃き出し窓を開ければ、室内のクーラーで冷やされた空気の代わりに外の暑い風がレースカーテンを揺らす。
そして、窓を開けた途端にその暑い風と一緒に、劈くように重なった蝉の声と車の音、遠くに聞こえる電車の音と、近くの公園や道路で遊ぶ子どもたちの声が雪崩のように吹き込んできた。

ああ、あたしの日常はこれだ。

不意にそんなことが頭を過ぎった。
特別なことは何もいらなくて、朝起きてご飯を食べて、働いて、お風呂に入って、寝る。

おはようと、いただきますと、いってきますと、ただいまと、ごちそうさまと、おやすみなさい。
そんなことで良い。

あたしを育ててくれた家族のように、愛した人と、こんな風に何でもない日常が特別で良い。
贅沢な暮らしがしたいとか、仕事で出世してとか、そんなことじゃなくて、ただ今のこの暮らしを、大事にしたい。

そして一緒に大事にしてくれる人と、愛し合いたい。


窓を開けてもダイニングに戻らず、ぼんやり外を眺めていたあたしの隣に、いつの間にかミドウさんがいた。
そんなあたしに何を声を掛けるわけでもなく彼は隣に立っていて、そしてしばらくしてポツリと一言呟いた。


「いつか、こんな何でもないような日常の中で、暮らしたい」


涙が、あふれそうになって、ミドウさんを見ることが出来なかった。

どこまでが本当で、どこまでが嘘?
今の言葉も、嘘なの?

信じたい。
信じられない。

好き、なのに、ミドウさんを信じられない自分が嫌だ。
あたしの彼に対する信頼や信用を失くすようなことをしているかもしれないミドウさんが、あたしの更なる混乱を生む。

でも、さっきまでの穏やかな雰囲気と、いつも通りの言葉の掛け合いと、部屋の片隅に並べられた沢山のお土産と、後で渡そうと思ってキッチンカウンターに置いてあるミントタブレットと、沈黙すら心地良いこの空間が、ミドウさんが、好きで、好きで、すたすらに愛おしい。

ざあっと強い風が吹いて、レースカーテンがハタハタと音をたてて揺れて、あたしの髪の毛を巻き上げた。


「……クシマ、髪の毛が」

あたしの口元に引っ掛かった髪の毛を取ろうと、ミドウさんの指先が頬に触れて、その手の熱さに思わず顔を上げてミドウさんを見た。

思ったより近くにミドウさんの体があって、でも外で会う時はヒールのある靴を履いていることが多いから、視線はいつもよりほんの少し遠いなって思った次の瞬間、その視線は目の前にいて、そして唇に柔らかいものが当たっていた。
でもそのさり気なさと不自然さを感じさせなかった行為に、猜疑心よりも、あたしの中の欲望が上回ってそれを拒否しなかった。


だって、ミドウさんに触れたい、触れて欲しいと思うほどに、やっぱり好きで……、もっとミドウさんに触れて欲しくて、離れそうになった唇を離したくなくて、咄嗟にミドウさんの両頬に手を当てて今度はあたしからキスをした。

そうすればミドウさんもあたしを離すことなく、そのまま受け入れてくれて、ああやっぱり女嫌いなんて嘘なんじゃないかと、でもそれが嘘なら、あたしを嫌がらないでくれるなら、少しでもミドウさんを感じたかった。

だって、もう今日を最後にするから。

唇の、その唇の熱さを少しでも分けてもらって、その熱さを、日常に紛れ込んだ非日常を、忘れたくない。


好きな人の、熱を……、夏の暑さと風の熱さで誤魔化して、ミドウさんの首筋に滲んだ汗を指で掬ったら、ベランダに置いてある室外機の音が大きく鳴った。
クーラーが設定温度に合わせようと稼働を強めたのか、外からの暑い風と室内から送られる冷たい風が、あたしとミドウさんに当たる。
暑い風と冷たい風に当たって、でもそれが混ざって温くなるわけでもなく、なんだかそれがあたしのチグハグとした心の中を表しているようだった。

いつの間にか唇は離れていて、閉じていた目を開けてミドウさんの目を見たら、熱が籠ったような視線を向けられていて、その視線はまるで、あたしのことを好きだと言わんばかりの熱を、持っているように見えた。

どこまでが嘘で、どこまでが本当かなんて、そんなのは些細なことだと、今までの、あたしが見ていたミドウさんが全てで、もしそれが全部嘘だとしても、今の、この瞬間のミドウさんは、あたしにとって本物だった。


ミドウさん。

好きで、好きで、大好きなミドウさん。

だから、今だけは、このままのミドウさんでいてほしい。

今日この部屋を出るまで、あたしだけのミドウさんでいてほしい。


熱と暑さに視線を逸らせば、ミドウさんの首筋の汗が、さっき掬ったのにまた少し滲んでいた。
いつものコロンと彼が混ざった香りに誘われて、それを纏わせるように首に指先を滑らせる。そして背伸びをして彼の首筋に顔を埋めて、抱きついてみた。
その瞬間にミドウさんはビクっと体を震わせたけど、体を離されることはなく、そしてゆっくりとミドウさんの腕が、あたしの背中に回された。

いま、この瞬間だけは、ミドウさんを信じる。

抱きついた時に震えた体を抱きしめながら、そう思った。


優しく抱きしめてくれる腕を、信じた。



これが最後だから、
きれいなままで、終わりにさせて。













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Re: ボルドー様

コメントありがとうございます!

なかなか更新が出来ず、お待たせして申し訳ありません。
更新もゆっくりなのに、お話もなかなか進まずに焦れったいところですが、ぼちぼち進んでいきますので笑

いろいろと言葉を詰め過ぎて読みにくくなってないかと不安でしたが、そう言っていただけて大変嬉しく思います。ありがとうございます!

更新がんばりますね~!

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