You belong with me. 13
You belong with me. 13
マンションに着いてからも、道明寺はダンマリだった。
このマンションは道明寺財閥日本支社から程近く、お邸よりも通勤には楽なようで、道明寺が好んで使っている。
あたしもマンションの場所は知っているけど、来るのはニ度目だ。一度目はエントランスまでだったけど。
タクシーを降りる際も、領収書を貰おうと運転手さんと話している間に、道明寺はあたしを待つことなく先に降りて行ってしまった。
自分の荷物も持たずに!
領収書を貰って荷物を抱え、慌てて後を追い掛ければ、指紋認証のオートロックを解除してまたしても一人で先に行ってしまう。
いいもん。一応、秘書だからね!
オートロック解除できる手続きしてるもん!と思ったら、片手に領収書と財布、片手に道明寺と自分の荷物で、指紋認証が出来ない!
認証パネルの脇で財布を仕舞ったり荷物を持ち直したりと、あたし一人こちゃこちゃしてる間も、道明寺は振り返ることなく一人でエレベーターに乗って行ってしまった。
なによ!何をそんなに怒ってるのよ!
怒り心頭でオートロックを解除し、もう一台のエレベーターに乗って道明寺の住む部屋がある最上階まで一気に行く。
もちろん部屋の鍵も持っているけど、今まで使ったことはなかった。
一度目に来た時は西田さんが対応出来ない緊急時用に、あたしの指紋をコンシェルジュさんが登録してスペアの鍵を預かったただけ。
エレベーターを降りると、玄関らしき扉が一つだけ。
わ〜!ペントハウスだ〜!なんて感動はない。NYの時は楓さん用のペントハウスがいくつかあったから、見慣れたものだ。
勝手に鍵を使って室内に入る。
「副社長、お部屋入りますね!」と一応断りを入れてから靴を脱いで廊下を歩き、リビングへ繋がると思われる扉を開く。
合ってた、リビング!広い!無駄に広い!
道明寺は何人座れるのか試してみたいくらい大きいソファに、一人デデーン!と不機嫌丸出しな顔で座っていた。
持ってきた道明寺の荷物をソファの脇に置いて、
「もう私は帰ります。お疲れさまでした。」
と言って踵を返す。
「おい!」
無視してやる。
「牧野!」
よし!
「何でしょうか、副社長。まだ何か?」
振り返って、つっけんどんに返せば、
「なんでおまえずっと怒ってんだよ!」と言われた。
そんなの、怒ってる理由なんて一つしかないじゃん。
昨日あんなに好きだって、もう一度好きになってって言って、愛してるまで言ったのに。
あれから、なんの反応も言葉もなく、いつも通り喧嘩腰の会話だから、やっぱり10年女は面倒くさいと思われてるのかと考えていたところだ。
そりゃ落ち込む。
あ、10年女は自分で言って落ち込む!やめよう!
今日の道明寺は、もう類がどうのこうの言わないし、仕事を辞めろとも言わないけど、微妙な距離を感じるのは、この10年で出来た想いの差であり、壁なんだろうと思う。
それだったらビジネスライクに接してるほうがまだ耐えられる。あたしの心が。
「何でだか知らないですけど、怒っているのは副社長ですよね。もう良いですか?会社戻って病院とタクシーの領収書を処理したいんですが。」
振り返って道明寺を睨みつけながら、暗に仕事を匂わせる。しかし、そんなのが通用するわけもなく。
「おまえ今日は休みだって昨日、西田に言われてただろ。」
「休みですけど、今朝、西田さんから連絡がありまして。副社長の退院手続きをするように言い付かりました。副社長を自宅まで送り届けましたので、今日は領収書の処理が終わったら自宅に帰ります。」
「10年恋人がいなかったのは本当か?」
もう本当に!いい加減にして!
「それではまた明日。失礼します。」
「待て!帰るな!」
「うるさいな!今まで恋人がいようがいなかろうが、あんたには関係ないでしょうが!仕事の話じゃないなら帰ります!」
怒り心頭を発するどころか、爆発しそう!
「関係あるだろ!俺はおまえと別れた記憶はねぇからな!」
やっぱりおかしいんじゃないの?
もう一度病院連れてく?
「おかしくねぇよ!病院にも行かねぇからな!」
「おっと、失礼しました。うっかり言葉に出してしまいましたね。」
秘書という仕事を始めてから気を付けていたのに、怒りのあまり昔の癖で思ったことが口から出てしまった。
別れたって、記憶がある、ないの問題じゃなくない?それを言ったら、
「副社長のほうがお盛んでしたよね!別れてないって言うなら、副社長にとやかく言われたくないです!」
「だから!誤解だとあれほど言ってんだろが!」
「誤解だとかどうでもいいです。私は!言葉がなくても、別れたと同義だと思ってましたけど?!」
そもそもにあれは付き合ってたの?付き合ってはいなかったよね?と冷静に10年前を思い返す自分がいる。
記憶を遡ってる間、それを遮るように鳴るバイブ音。
またあたしに電話!落ち着け!
「もしもし?!」
『お?!何をそんなに怒ってるんだ?』
ダメだ。全然落ち着いて話せてない!
「美作さん!どうしたの?」
『司の記憶が戻ったって?』
「そうなんです。類から聞いたの?」
すると、横から手が伸びて来て、またしても奪われてしまったスマホ。
「おい!あきら!牧野に電話すんじゃねぇ!」
「道明寺!返してよ!」
奪われてしまったスマホを取り返そうとするも、25cmの身長差に敵うはずもなく。
必死に道明寺の腕をグイグイと引っばってスマホを取り返す。
「なんで、あきらまでお前の番号知ってんだよ!」
「美作さんはプライベートでは友達なの!記憶のなかったあんたとは、ただの上司と部下なんだから知る必要ない!ごめん美作さん、道明寺が…」
あれ、電話切れてる!
「道明寺!本当にいい加減にしてよ!ここまで来たら、かかってくる前に言っとくけど、西門さんも知ってるからね!」
隣に立ってあたしを見下ろすコイツに目線も鋭く言ってやる。
「牧野、」
いきなりギュッと抱きしめられた。
あ、道明寺のコロン。
あたしの一番、好きな香り。
「俺は、仕事で結婚なんかしないからな。」
あ、泣きそう。
やっぱりダメなの?
「離して、」と道明寺との間に腕を入れて離れようとしてみるけど、さらに力を強めて抱きしめてくる。
「あの、離してください。」
「頼む、話を聞け。」
え、頼む?聞け?お願いなのか、命令なのか分からない。
「さっきから話をしてるじゃないですか。これ以上何の話を?それに、結婚しないなら総帥と楓社長に言ってくださいと、昨日もお話しましたけど。」
「結婚するって言ってるだろ。」
「でもさっき、しないって、言いました!」
「仕事ではしないって言ってんだろ!」
「ほら!しないって!言った!」
泣きそうなのを我慢してるけど、道明寺の洋服が霞んで見えるから、そろそろ涙がこぼれるのかも、なんて自分のことなのに、どこか他人事のように感じる。
「俺は、おまえとだから結婚する。」
ほら、こぼれた。
「…そんな、無理して言わなくて良いよ。仕事でしたほうが、あんたも楽でしょ?」
「本当におまえは頑固なのか、鈍感なのか…、どうすりゃ分かるんだ?」
「あのね、あんたがあたしと同じように10年前と同じ気持ちだなんて微塵も思ってないし、結婚するからって無理して好きとか言わなくて良いよ。あたしを嫌わないでいてくれれば、それで良いの。
今度こそ頑張って、あんたにあたしのこと好きになってもらうし。そこは勘違いしてないから大丈夫なんだけど。」
「そこだな。」
「そうでしょ?あたしは結婚してくれるなら仕事でも十分だよ。」
「そこは違うな。」
「は?違うって何がよ。あたしが言ってるのに何が違うのよ。」
「おまえさ、本当に俺のこと好きなの?」
疑われた。昨日よりショックかもしれない。
涙止まんない。
「そこを疑われたら、もうどうしようもないんだけど。」
「俺は、10年前と同じ気持ちだし、牧野が好きだから、結婚したいって言ってる。」
嘘だ。
「嘘じゃねぇよ。だから、なんでさっきからそこだけ疑うんだよ。」
「だって、記憶戻って初めて、言ったよ。10年前と同じ気持ち、好きって…」
嘘だよね?あたしの聞き間違い?
「うん?言ってなかったか?」
「言ってない…!昨日だって、地獄まで追いかけるとか、今日は別れたつもりはないとかは言ってたけど…!」
「言ってんじゃねぇか。」
「は?!あんたの思考回路どうなってんの?!やっぱりおかしい、のは10年前もか…。ちょっともう一回病院行きます?」
「マジでおまえ、いい加減に黙れ!」
そういうと、道明寺はあたしの口を塞いだ。
そういえば昔から道明寺はキスが上手かった。
道明寺は片手をあたしの背中に、もう片手は頭を後ろから押さえられていて逃げられない。
唇を合わせていただけだったのが、段々と深くなっていく。歯列をなぞられ、戸惑い逃げる舌を追いかけられる。
あ、求められてる。
そう思ったら、あたしも手を伸ばして道明寺の背中にしがみついていて。
何度も角度を変えて深くなっていくキスに、あたしの思考回路もボヤケてくる。
キスがこんなに気持ち良いこと、忘れてた。あたしも道明寺を知りたくて、求められれば応えたくなる。
唇を離して、道明寺を見ると、あの瞳。
あたしを好きだって言ってくれた、10年前に見た、あの。
道明寺、あたしのこと、好きなんだ。
そう思ったから。
今度はあたしからキスをした。
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