You belong with me. 17
You belong with me. 17
それから、あたしと道明寺は一緒に布団に包まって、眠くなるまでいろんな話をしながら眠りについた。
道明寺が副社長になってから、こんなゆっくりしたお休みは初めてだねって言いながら。
翌朝、下半身に違和感はあるものの、これなら一緒に会社に行けると準備をしようとしたけど、スーツがないことに気が付いた。
どうしようかと相談したら、レディースのブランドスーツ一式と化粧品類を出してきて、昨日のうちに邸の使用人に持って来させたと言うから、有難く使わせてもらった。
西田さんが迎えに来て、あたしが一緒にいるのを見ると開口一番、至極真面目な顔で、
「公私混同はやめてください。」
と言われた。
ちゃんと秘書の仕事は今まで通りやるわよ!失礼だわ!
それに、それを言うなら公私混同を一番してたのは、おじさまと楓さんでは?!
息子の為に、人ひとり10年も監視し続けて、秘書にさせてるんだから!
道明寺財閥日本支社。
今日もエントランスの車寄せにリムジンが停まる。
副社長の出社に遭遇出来るのは運が良い。
いつも通り、副社長と第一秘書の西田さんが降りてくる。
しかし、今日はいつもと違う。第二秘書も一緒だ。初めてのことに社員たちは、ざわめいた。
何やら朝から随分と騒がしい。
「副社長、出社の時はいつもこうですか?」
あたしはいつも、道明寺より先に出社して準備をしている。一緒に出社というのは初めてのことだ。
「大体こんなもんだが、今日はいつもより少し騒がしいな。」
「ふぅん、何ででしょうね?」
「何でだろうな?それよりもお前、大丈夫か?」
少しだけ口角を上げて道明寺が聞いてくる。
出た。道明寺スタイル。何が大丈夫なのか、はっきり言ってよ!なにが大丈夫だって?
「何がでしょう?」
そう聞くと、道明寺が顔を寄せてきて、耳元で「体、キツくないか?」って、道明寺!
思わず道明寺の背中を音が出るほど強く叩いてしまった。
「いてぇな、そんな怒んなよ。」って笑いながら歩く道明寺とあたしを、呆れ顔で見ている西田さんがいた。
副社長の背中を叩く秘書に、それを笑って許している副社長。
あの副社長が笑ってる。
あの滅多に笑わないと言われる副社長が、秘書とはいえ女性に向かって笑いながら話しかけているという事実は、瞬く間に社員たちの間で広がった。
「牧野さん。」
秘書課の先輩社員で専務付きの高梨さん。
とても綺麗な人で、スタイル抜群、仕事も出来るとあって、社内で一番モテる女性だ。
午前中の小休憩にコーヒーでも飲もうと給湯室に来たら、声をかけられた。
「あなた、今朝エントランスホールで副社長に暴力を振るったんですって?どういう理由があったにせよ、秘書課の人間として恥ずべき行為だわ。」
高梨さんが道明寺に好意を持っているのは知っていた。というより、秘書課公然の事実だ。
前の女秘書がいなくなった時、次は高梨さんが副社長付きになるのだろうだと思われていたらしい。
なのに蓋を開けてみれば、いきなりNYから来た小娘だもん。目の敵にされるされる。
「すみません。」
事実はどうあれ、確かに良くない。素直に謝ったけれど。
「牧野さん、エントランスは会社の顔よ。取引先の方もいらっしゃるのに、そんなところで副社長になんてことを。あなたはNYからの異動だし、仕事だけは出来るようですけど、今回のことはどう責任を取るつもり?副社長付きは相応しくないと思いますけど。」
あー、責任取って副社長の秘書を辞めろってこと。結構、無理矢理じゃない?
「責任、ですか?」
「そうよ。副社長に暴力を振るい、社の入り口で評判を落とす行為をしたのよ?分かるでしょう?」
「それを決めるのは高梨、お前じゃねぇな。」
「副社長!」
いつの間にか道明寺が給湯室の入り口に立っていた。
給湯室は秘書室の隣にあるが、役員室とは反対側にある。つまり、わざわざ給湯室に来たってことになるけど、何しに来た?
「しかし副社長、牧野さんがしたことは、秘書課の人間の前に、道明寺財閥の社員としての自覚が足りないと思いますが!」
高梨さんが道明寺に訴える。
「責任な、責任なら牧野が取ってくれんだよな。」
ん?道明寺を叩いた責任だよね?
え、秘書辞めなきゃだめ?
「お前、昨日の夜に責任ならいくらでも取ってやるって俺に言っただろ。」
「ばか!それは違う話でしょ!」
思わず叫んで突っ込んだけど、言葉選びを間違えた。一昨日までの、冷静な牧野つくしはどこ行った!
「牧野さん!副社長に向かって馬鹿とは何事ですか!」
ですよね、流石に分かってます!
この流れを見ていた道明寺が笑ってる。
「ちょっと!あんたのせいでしょ!なに笑ってんのよ!」
「牧野さん!副社長にあんたって、先程からどういうつもりなの?!いくら2年間秘書をやっていたからって、副社長に対して言って良いことと悪いことがありますよ!」
あー、もうめんどくさい!全部こいつのせいじゃん!
「副社長!責任ってどう取ればいいですかね?!」
「つくしさん、大声を出して何事ですか。」
突然現れた楓さんに、高梨さんがびっくりして固まってる。
「楓社長、今日はどうされたんですか?NYにお帰りになられたかと思っていました。」
楓さんもなんで給湯室の前にいるの?ここ通らなくても役員室行けるよね?
「あなた達のことで総帥から伝言を預かってます。」
「おじさまから伝言ですか?」
そういえば、婚約の話はどうするのかな、なんて思ってたら、楓さんはあっさりと告げた。
「明日、婚約発表しますから。そのつもりで。」
明日?!
「随分と急な話だな。」
道明寺も明日と聞いて少し驚いている。
あたしもびっくりだ。
「早く孫の顔が見たいそうですよ。」
そんなことを楓さんは言うけれど、せっかち過ぎない?!そんなことで明日発表するの?!
「それは心配ねぇよ。な、牧野。」
ニコニコしながら道明寺が話すから、恥ずかしさのあまり、道明寺の腕を叩く。
「道明寺!楓さんの前でやめてよ!」
「なんだよ!誤魔化したってしょうがねぇだろ!昨日だって、」
「誤魔化すとかじゃなくて!デリカシーの問題!」
昨日だって、って何よ!何を言うつもりなの、この男!
「あの…、」
横から声が聞こえて、そちらに顔を向ければ高梨さん。
ここ、給湯室!こんなところで話すことじゃない!とんでもない話をしてるんじゃない?!聞いてたよね?!
「あなた、明日まで他言無用ですよ。秘書ならお分かりね?」
楓さんがいつものポーカーフェイスで高梨さんに向けて話すけど、なぜだか、いつもよりすごい圧力を感じる。
道明寺は平然としてるし、なにこれ。
「どういうことですか?牧野さんは、一体、「お分かりね?」
被せてきた!こわい!高梨さん逃げて!
「でも!牧野さんは、」
「高梨さん、戻りましょう!これから専務は会議じゃありませんでした?
副社長は決裁の書類が溜まってます。このあと会議もありますから、早く処理してください。」
さあさあと高梨さんの背中を押しながら、道明寺に声をかけ給湯室を離れる。
コーヒー飲みたかったのに!
でもあのままいたら、高梨さんクビになりかねない。
「つくしさん、あとで副社長室に来なさい。」と声をかけられたので、はーい!と返事をして急いで秘書室に戻ると、一言二言話していた楓さんと道明寺も役員室の方へと歩いて行ったのが見えた。
「牧野さん!あなた、一体なんなの?!社長を楓さんと呼んだり、副社長を呼び捨てにしたり!どういう関係なの?!まさか、副社長に秘書としての立場を使って色仕掛けでもして取り入ったのかしら?!」
人聞き悪いこと言わないでよ!もう、本当にめんどくさい!色仕掛けしようとしてたのは、あなたでしょ!
道明寺の前ではいつもよりボタン多く外したりして胸元開けてるの、知ってるから!
「すみません、楓社長に呼ばれてますので!」
そう言って、どうにか秘書室を抜け出したけど、一昨日から一気にいろんなことが起こりすぎて、わけが分からなくなりそう。
一昨日、道明寺の記憶が戻ったばかりなのに。
明日、婚約発表ってどういうこと?!
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